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兵の風と鐘の音にさらわれた少年  作者: 炭酸水
第一部 兵の風の中で
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第38話 沈黙の前線

夕日が沈み、森の端がゆっくりと闇に沈んでいく。

昼のぬくもりは消え、冷えた空気が肌を刺した。

それぞれ配置や盗賊の位置の確認を終えた七人は、夕方に分かれた場所へと再び集まっていた。


廃村の方角には、かすかな明かりが揺れている。

家々の外では篝木が、夜を照らしていた、炎が夜気の中で静かに唸っていた。

赤い光が古びた壁を照らし、黒い影を長く伸ばす。


この村を見張っていた味方の斥候は、任務を終えたらしく砦へ戻っていった。

「次に来るのは一週間後だ」と短く告げ、闇に溶けるように姿を消した。

残されたのは、七人だけ。


ロランが矢筒を確かめながら言う。

「廃村を狙う位置は決まった。風がほとんどない今夜なら、村の半分は射程に入る。見張りが表に出てくれば、十分に届く」

弓弦を指で軽く弾くと、張り詰めた音が夜気を震わせた。


ダリルが頷く。

「俺もいい場所を見つけた。ロランと近いがな。だがスリングは弓より射程が短い。確実に仕留められるのは二十メートル以内だ。範囲内の盗賊を倒したら、俺もレナードたちと一緒に突っ込む」

腰の革袋には滑らかな石が数個。短刀と剣を腰に装備し、革ベルトをきつく締め直す。金具の鳴る音が夜の静寂をわずかに裂いた。


トマは手斧を手に取り、低く言う。

「作戦に異論はない。寝てる盗賊はこいつで仕留める」

月明かりに刃が鈍く光る。手斧を二本、腰にしっかりと装着していた。


森の奥では虫の声が途絶え、遠くの木々が夜風にざわめく。

七人の呼吸だけが、闇の中でゆっくりと重なっていった。


エドリックは仲間たちの表情を見渡す。

全員がそれぞれの役割を理解し、余計な言葉を交わさない。

その沈黙の中で、ミロが地図を小さく折り畳み、静かに報告を始めた。


「見張りの主な位置と人数は確認した。今、廃村にいるのは十八人。外に出ている見張りが四人──うち二人がこちら側と反対側をそれぞれ見張っている。歩き回って警戒しているのが四人で、二人組で行動している。残りは家の中だ。門近くの家に三人、隣に三人、少し離れた二軒に二人ずつ。そんなところだ」


レナードは地図を押さえ、静かに頷く。

「なるほど。数は想定より多いが、ばらけているな。攻めるなら、あそこからか?」と指先で廃村の入口を示す。


本来、洞窟との道を抑えるのは自分とオズワルの役目だった。

だが今は、全員が一堂に会し、地図の上に視線を落としている。

その静けさの中で、誰もが夜の気配を感じ取っていた。


一瞬の間を置き、オズワルが地図の向こうから口を開いた。

その声は低く、落ち着いていたが、どこか決意を含んでいる。


「なあ。元々は俺とエドリックが洞窟側を見張る予定だったが、提案がある」

レナードが鋭く視線を向ける。「なんだ?」


「さっき斥候にも確認したが、夜に洞窟から盗賊が出てくることはなかったらしい。ならば、ただ見張るより──三方向から同時に仕掛けるのはどうだ?」


一瞬、空気が変わった。

ミロがわずかに眉を上げ、地図に目を戻す。

「三方向というと?」


「遠距離の射撃班、廃村正面の突入班、洞窟側からの側面突入。外の連中をすぐ制圧できれば、家の中にいる盗賊は俺たちに気づかない。場合によっては、数分で廃村を制圧できる」

オズワルの声は落ち着いていたが、どこか熱を帯びていた。


レナードは深く息を吸い、地図に視線を落とす。

「早期制圧の利点は大きい。洞窟からの援軍がないなら、同時攻勢で混乱を拡大できる。だが奇襲が露見した瞬間、数の不利が命取りになる」


オズワルはそれに反論するように、言葉を重ねた。

「確かに奇襲が露見した瞬間にこちらが不利になる。だが、それはどの作戦を選んでも起こり得る。ならばリスクを受け入れてでも、早期に決着をつけるべきだ。手早く終わらせれば、犠牲も最小で済む」


皆の顔に、夜へ踏み込む覚悟と不安が交錯する。


オズワルが視線を巡らせ、さらに続ける。

「配置をこう変えよう。ロランは遠距離に専念してくれ。射線を抑え、必要なら援護射撃だ。そして念のため洞窟側から援軍が来ていないかの確認も頼む」


「ダリルはロランと一緒で、最初の一撃で正面の見張りを落としたら即座にレナードとトマに合流し、突入を手伝え。正面組は近接が主だが、中距離はスリングで補える。場合によってはレナードとトマも投擲はできるしな」


「俺とエドリックは洞窟側から側面を詰める。エドリックも短槍は使えるが、今回は投擲で中距離を援護してくれ。もしミロをこちらに回してくれるなら、短弓で援護してもらい、中距離で戦える者が二人になって、制圧力が高まるはずだ」


場に少し沈黙が流れる。誰もすぐには口を開かなかった。

それぞれが、今の作戦の意味と自分の役割を頭の中で反芻している。

エドリックは仲間たちの顔を一つずつ確かめた。

ミロは考えを整理するように目を伏せ、トマは手斧の柄を静かに撫でている。

ダリルは何かを測るように空を見上げ、ロランは矢羽根を親指で確かめていた。

そしてオズワルだけが、わずかに顎を引いてレナードの次の言葉を待っている。


ミロがゆっくり頷く。

「確かに、そっちの方が効率的だ。廃村の制圧が早ければ、洞窟の連中にも全員で対応できる」


トマが手斧を確かめながら笑った。

「理にかなってるね。俺とレナードは近距離専門だが、手斧投擲はできる。中距離なら急所を狙える。ダリルのスリングも、距離が詰まれば命中率と威力が跳ね上がる」


ダリルも続けた。

「そうだな。そんなに離れていなきゃ、確実に一撃で仕留められる」


エドリックは口元を引き締める。

「中距離なら投げナイフで要所を狙える。外しても、近距離最強のオズワルがいれば後は任せていい」


オズワルはにやりと笑い、短く答えた。

「ああ、任せろ。緊張感がない盗賊ぐらいじゃ問題ねえ。声も上げさせずに潰してやる」


ロランが笑みを浮かべながら言う。

「オズワルの提案に不満はない。狙う位置から洞窟側も確認できる。丁寧に盗賊が明かりをつけているからな」


レナードは静かに地図から目を離し、ゆっくりと顔を上げた。

その眼差しには、すでに迷いはなかった。


「よし。――案を採用する前に細部を詰める。

合図のタイミング、洞窟側の状況、そして射撃の順序を確認する。

エドリックはオズワルと洞窟側を最終確認。

ロラン、ダリル、ミロは射程を基に奇襲の順を決めろ。

トマは俺と装備の最終確認だ。各自状況を確認したら再度集まれ」

短い沈黙のあと、全員が無言のまま頷いた。


篝火がぱちりと音を立て、赤い火の粉が闇に舞う。

冷たい風が頬を撫で、空気がさらに張りつめていく。


エドリックは息を静かに整えた。

――夜はまだ、沈黙している。


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