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兵の風と鐘の音にさらわれた少年  作者: 炭酸水
第一部 兵の風の中で
32/58

第32話 静寂の中の提案

ランデル

年齢: 30歳

所属:斥候部隊副隊長

性格:冷静沈着・現実主義・公平

特徴:言葉少なく理性的。罠や地形、索敵に長け、判断力に優れる。訓練では感情ではなく「生存」を基準に指導を行う。命令は短く的確で、行動に無駄がない。


森の空気はまだ冷たく、足元の土は一日の訓練でわずかに荒れていた。

斜面の上では風が通り抜け、落ち葉を巻き上げる。

六人がゆっくりと戻り、列を整えると、森はまた静寂を取り戻した。


ランデルが腕を組み、全員を見回す。

「――全員戻ったな」


ひと呼吸置いて、彼は低い声で言った。

「さて、まとめといくか」


***


最初に、ランデルの視線がレナードに向く。

「一番優れていたのはお前だ。目と感覚が噛み合っている。全体読む目を持っている」

レナードは静かにうなずいた。

その瞳には満足よりも、次を見据えた光が宿っていた。


次にオズワルを見る。

「お前も悪くない。動きが理屈に裏打ちされていた。迷いが少ない。仕掛けと解除、両方を理解している」

オズワルは小さく息を吐く。反省を伴った息だった。


続いて、ロランを見やる。

「お前は視界の取り方がいい。だが二人に比べるとまだ動きが早い。見えているのに焦ってる」


ロランは小さく息を吐き、静かに答えた。

「……わかっています。今回は狩人として判断してしまいました。次こそ対人の意識を強く持ちます」


ランデルは頷く。

「狩人は罠を近くに設置しない。お前は狩人としての罠の設置と、対人の設置の違いに苦戦したようだな」

ロランはうなずき、地面を見つめながら拳を握った。


***


ランデルの視線がエドリックに移る。

「お前は……俺の思考を読もうとしたな。罠を見破るというより、仕掛けた人間を読もうとした。悪くない。だがまだ見抜くには至っていない」

エドリックは黙ってうなずいた。

目を伏せながらも、奥底に静かな火が灯っている。


そのあと、トマとダリルに視線を向ける。

「お前ら二人は現状では全然だめだ。完璧になれとは言わんが、もう少し鍛えるべきだ」

トマは唇を噛み、ダリルは苦笑を浮かべた。

だが、ランデルの声は責めるものではなく、淡々とした現実を告げるだけだった。


「焦るな。積み重ねれば感覚は育つ。大事なのは、目と手の両方を信じることだ」


その言葉に、六人の背筋が同時に伸びた。


***


森に短い沈黙が落ちた。

それぞれが自分の中で何かを思い返している。


レナードは、自分の中で動きの再現をしていた。まだ掴み切れない気配の境界を考える。

オズワルは網のように広がる罠の線を思い出し、流れを読むことを意識していた。

ロランは狩人としての自分と、兵としての自分の違いを噛み締める。

エドリックは頭の中でランデルの思考をなぞり、次は先回りしてみせると心に決めた。

トマは自分の視界の狭さを痛感し、ダリルは自身が罠を作成したときの感触を思い出していた。


風が木々の間を抜け、枝が微かに鳴る。

訓練の余韻がまだ森に漂っていた。


***


ランデルは深く息を吸い、ガレスに向き直る。

「ガレス、提案がある。」


ガレスが眉を上げた。

「小隊の隊長であるお前に言うのは気が引けるが……もしこいつらを奇襲部隊として組ませるならの話だ」


ガレスは腕を組み直し、ゆっくりとうなずく。

「言ってみろ」


ランデルはわずかに笑い、言葉を継いだ。

「森の中での戦闘に関しては、俺はお前に一歩も二歩も劣る。だから構わない」


「……そう言ってくれるなら話が早いな」


二人の間に、短くも重い沈黙が流れた。

森の奥から吹き抜けた風が、落ち葉をそっと舞い上げる。


やがて、ランデルが口を開いた。


「もし、この六人で奇襲任務をあたえるのであれば――隊をまとめるのは、あいつだな」


彼の視線の先にはレナードが立っていた。

「リーダーに向いている。罠を見破る力が高く、周囲をよく見ている。隊長の仕事は敵を倒すことじゃない。仲間を生き残らせることだ。それができるのはあいつだ」


短く言い切り、次にオズワルを見た。

「副隊長は、そっちの男がいい。罠を仕掛けるのも見抜くのも水準以上だ。冷静だし、判断も早い」


少し間を置き、低く付け加える。

「それに、近接戦しかできないというのも理由の一つだ。遠距離攻撃は神経を使う。特に奇襲作戦中の森の中では、平地よりも集中が必要になる。指揮を執る者が、余計な負担を抱えるのは危険だ」


ランデルの声は淡々としていたが、その内容には経験に裏打ちされた現実味があった。


次に彼はダリル、ロラン、エドリックの三人に目を移す。

「この三人は、遠距離・中距離の攻撃ができる。それぞれ得意分野が違うが、共通して言えるのは狙うことに強い。隊全体を意識するより、攻撃に専念させたほうがいい」


三人は静かに頷いた。

それぞれの顔には、少しの誇りと、責任の重さが入り混じっていた。


最後にトマへと視線を移す。

「お前は、罠の扱いも見破りもまだまだだ。だが、手斧と短槍の扱いは手慣れていた。狭い空間での近距離戦を高めていった方がいい。体の使い方は悪くない」


トマは少し驚いたように顔を上げたが、すぐに小さくうなずいた。


ランデルは一度全体を見回し、思い出したように口を開いた。

「そういえば――この隊には斥候のミロがいるな?」


ガレスがうなずく。

「ああ。今は斥候任務で外れているが、正式にはここの所属だ」


「……なるほど」

ランデルの口調にわずかな満足が混じった。

「あいつは斥候としてかなり優秀だ。足も速く、森の中での移動もこなせるようになってきている。カイからも高い評価を聞いている」


エドリックは内心で目を見開いた。

(ミロがそんなに……?)

訓練仲間として接してきたが、そこまでの評価を受けているとは思っていなかった。


ランデルは言葉を続ける。

「もしミロを含めた七人で行動するなら、索敵と罠の見破りはあいつに集中させろ。そうすればこの隊は、奇襲部隊においても砦の中でも上位に入る部隊になる」


そこで一度、少し間を置いてから言葉を低くした。

「ただし――あいつは戦闘能力が低い。ここにいる六人よりも確実に落ちる。

それと、決断力が低い。指示を受ければ問題なくこなすが、自分が指示をする側には向いていない。それが欠点だ」


一瞬、誰も口を開かなかった。

風が通り抜け、枝葉がざわりと鳴る。


ガレスは腕を組んだまま、しばらく考えるように視線を落とした。

やがて、静かに口を開く。

「……理解した。合理的だな」


ランデルは顎を引き、短くうなずいた。

「そうだ。役割を重ねず、全員が自分の得意を最大限に生かす。それが一番の近道だ」


***


ランデルは全員を見渡し、腕を組み直した。

「……以上だ。隊を動かすなら、俺ならそう配置する」


ガレスは静かにその言葉を聞き、少しの間考えてからうなずいた。

「なるほど。参考にする」


短いやり取りだったが、その一言に信頼が滲んでいた。

ランデルは軽く顎を引き、短く息を吐く。

森の光がわずかに傾き、訓練の終わりを告げるように静かに揺れていた。


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