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優し気な男性に促されて部屋に入る。
「レオナルド様、呪いを解いてくれるというご令嬢ですよ」
「不要だ!クラウス」
どうやら優し気な男性の名前はクラウスというらしい。
レオナルド様と呼ばれて返事をした男性、
彼が第二皇子で間違いないだろう。
ソファに苦し気に横たわっている、
体には複雑な魔術文字がいくつも纏わりつき、
呪いを受けているのは確実だった。
今まで、不安でパニック気味だったのが、
死にそうな人を目の前にして、
一気に冷静になり、頭が冴えていく。
ハンスの話では呪いは三重。
レオナルド様に纏わりつく呪いを、
どの種類が見極めていく。
1つ目・・・・2つ目・・・・・・・
そうやって解析している所だった。
レオナルド皇子が叫ぶ。
「言葉も発せず、身動きも取れないでいるではないか!
元々呪いを移すのは反対だったが、
こんな可憐で美しいご令嬢に呪いを移すなど、
断じて認める訳にはいかない!」
あら、可憐で美しいだなんて。
内心かなり嬉しくなる。
普段はぼさぼさの髪で、書類とにらめっこ。
普段着は平民と変わらない地味な服。
美しいとはどちらかというと真逆にいたからな。
逞しいとか、殺しても死ななそうとは言われたが。
険しい顔を崩さないレオナルド皇子をじっと見る。
こんなに褒めてもらえれば、ますます
死なせる訳にはいかないわね。
3つ目・・・・・
呪いの種類が全て判明する。
さて、後は呪いを移して・・・と。
「では、呪いを移します」
そうゆう私をじろりとレオナルド皇子が見る。
「聞いていなか・・・」
叫ぶ皇子の唇を強引に奪う。
自分に魔術を展開して、一気に呪いを移す。
どくん、と心臓が跳ねる感じがした。
嫌としか言えない感じ、
これは呪いを受けた時必ず感じるものだ、
どうやら上手くいったらしい。
呆然としている皇子を後目に、
一気に呪いの解呪を始める。
手が自分に纏わりつく魔術文字を、
複雑に組み合わせ、どんどん解いていく。
「さて、終わりましたよ」
そう言った時、私の周りにあった魔術文字は、
全て消え失せていた。
「は?」
皇子はどうやら、起こった事を理解できていないようだった。
クラウスも隣で呆然としている。
「だから、解呪終わりました」
「ああ・・・」
「では、これで失礼します」
そこで、皇子ははっとなったようだった。
「ちょっと待て!そんなに簡単に解呪できるものなのか?」
「いや?3重だったので、それなりに苦労しましたよ」
そう言うが、まったく信じていないようだった。
そうだな・・・と考えて、
「ルービックキューブ用意できますか?」
そう言うと、クラウスが、
「20分もあれば」
というので、でわお願いします。
と言う。
「ではそれまで、少し疲れたので、休んでよろしいでしょうか」
そう言うと、今まで皇子が寝そべっていたソファー
の向かい側が勧められ、ありがたく座る。
クラウスがメイドを呼び、
お菓子や紅茶などが用意される。
正直、疲れているのは、解呪のせいではなく、
昨日慣れないベッドで寝たせいなんだけどね、
と思いつつお菓子を頬張る。
「美味しい!」
さすが王宮のお菓子、
めったに口にはできないであろう、絶品の味だ。
領主館でもお菓子が出されるが、
正直ここまでではない、レベルが違う。
「料理人を良く褒めておいて下さいね」
その言葉にクラウスが嬉しそうに頭を下げる。
あああ~大変だった思いが一気に報われる~
生きてて良かった。
「呪いを移すと、死ぬと聞いていたのだが」
レオナルド皇子がポツンと言う。
「ハンス、ああ上司からは70%で死ぬと言われてました、
ただ、幸い知っている呪いだったので、
成功率は50%ぐらでしたね」
50・・・と皇子が呟く。
正直呪いは解析した段階で、
100%解く事ができる自信はあった。
ただ、呪いを自分に受けていると、
痛みや幻覚、様々な肉体、精神的苦痛が襲う、
その苦痛に耐えきれない可能性があったので、
50%だと告げる。
あきた顔をしている皇子に微笑む。
実際呪いを受け、その苦痛を知っているだけに、
信じられないのだろう。
その時、コンコンと音がして、
ルービックキューブが届けられる。
「ああ、届きましたね」
「それがどうかしたのだ?」
私は適当に動かし、面をばらばらにする。
「面を揃えてみてください」
レオナルド皇子にルービックキューブを渡す。
真面目にカチカチと動かす皇子を見て、
ふと告げる。
「制限時間は30分です」
「30分?」
皇子は焦って真剣にキューブを動かす。
そして30分が経ったとき、4面が揃っていた。
「4面しかできなかったな」
「今までご経験は?」
「いや、こうゆう玩具があるのは知っていたが、
実際やったのは始めてだ」
「始めてなら上出来です」
そう言われて、皇子は嬉しそうだった。
「では、これをバラバラにします」
せっかく苦労して面を揃えたのに、
あっさり崩されたので、皇子ががっかりといった表情をする。
意外を感情が表に出やすく、分かりやすい人だ。
私の中で好感度が上がる。
私がある程度バラバラにしてからクラウスに渡す。
「もう少し回して下さい」
「バラバラにすれば良いのですね」
「ええ、お願いします」
クラウスがルービックキューブをいじっている間、
またお菓子を摘まむ。
皇子を助けたら、褒賞がもらえるはず、
お菓子とか駄目だろうかと思っていると、
「はい」
とキューブが渡される。
そのルービックキューブは色が見事にバラバラになっており、
それを皇子に見せる。
「いいですか?」
皇子は頷く。
それを私は胸元に持ってくると、
ぐるりとキューブを見て、一気にマスを動かす。
カチャカチャカチャカチャ
と恐ろしく早いスピードで面を回していく。
「はい、できました」
3分も経ったか経たないかの時間で、
ルービックキューブは全ての面が揃っていた。
大きく目を見開く皇子とクラウス。
「要はこうゆう事です、
ルービックキューブと知恵の輪2つが、
複雑に絡まっていた、後は解くだけです」
私からルービックキューブを受け取り、
まじまじと眺める皇子。
「目の前でされても、まだ信じられないな」
「まあ、魔術の場合基礎理論がありますから、
それを知っているかどうかで、
攻略のスピードが全然違います、後は訓練ですね」
「訓練・・・・」
「素人なら、一生かかっても解けませんよ」
どやぁという風に付け加える。
「皇帝陛下直々の指名がある程の方という事ですね」
クラウスの言葉にレオナルド皇子がはっとなる。
「遅くなったが、心から感謝する。
私にできる事があれば何でも言って欲しい」
そして、その言葉に、
「では、私の住む部屋のベッドのマットは、
固めでお願いします!」
といい、安眠を手に入れたのだった。