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次の日皇城に向かう日だ。
朝からメイド達が張り切り、
昨日サラサラにした髪を更に解かし、
複雑な編み込みをしていく。
ドレスはミランダさんが選んだ、
薄めのグリーンのドレスだ。
所々リボンがあしらわれているものの、
ドレスの色も相まって落ち着いた印象を与える。
しかし、スカートはタック付きで、
高級品である事を示していた。
宝石はドレスに合わせて大きな四角のエメラルドを、
小さなダイヤがぐるりと縁取っているネックレス。
その豪華さに嬉しいより、
肩が凝りそうと思ったのは夫人には秘密だ。
皇城へ向かい、まず昨日養女の手続きをした窓口へ向かう。
昨日の官吏がいて、昨日の事を覚えていたらしく、
丁寧に対応された。
「この子の名前を変えたいの」
「え?名前の変更ですか?」
狼狽える官吏に。
「ええそうよ」
と強気の婦人。
結局。
私の名前は『ジュリエッタ・ディールス』となった。
うーん、元の名前の跡形もないと思うが、
ジュリエッタは薬草の発展に貢献した人の名前だ。
偉大な国に貢献した人と同じ名前というのは、
意外に悪くないと思う。
「じゃ、ジュリエッタ頑張って!」
そう言って夫人が官吏が迎えに来た事を知って、
励ましてくれる。
呪いを解く事は聞いていても、
死ぬ可能性が高い事までは聞いていないのだろう、
明るい表情で、どこか誇らしげだ。
「今度、手作りのアップルパイを作るわ、
貴族のご婦人にも人気なの」
「それは楽しみです」
そう言って、婦人と別れる。
迎えに来た官吏は、表情が強張っていて、
とても話ができそうな雰囲気ではない、
だまって、官吏の後をついていく。
いくつの階段を登って、
いくつ曲がり角を曲がったか、
もう分からなくなったぐらいの頃、
「ここです」
とぶっきらぼうに官吏が言った。
「ありがとうございます」
私がそう言うと、「では」とだけ言い残して、
恐い所から慌てて去るように、
速足でどこかへ行ってしまった。
本当にここが第二皇子の部屋なのか、
少し不安になったが、
ライオンや月桂樹の細かい彫刻が施された大きな扉に、
そうかもしれないと思う。
「おや、ここでどうしたのですか?」
後ろからいきなり声を掛けられてびっくりする。
「あ・・・」
何か言わないとと思うが、
怪しまれたらどうしようと思うと、声が出ない。
その男性は優し気な表情を崩さず、
首を少し傾げている。
「この部屋の人に・・・」
それだけ言うと。
「第二皇子に?」
と驚いた顔をされた。
そして、困った顔をして。
「第二皇子は現在お会いできません」
と告げられ、戸惑う。
まあ、呪いがかけられているのだ、
会えないと言うのが普通だろう。
「あの、私は呪いを解く為に・・・」
「え?貴方が?」
優し気な男性はまじまじと私を見る。
伯爵家のメイド渾身のドレスとメイクだ、
れっきとした貴族令嬢に見えるはずだが・・・
普段は落ち着いて、動じる事がほとんどないのに、
皇城、しかも皇子のプライベートスペース、
たった一人、それらが相まって、
冷静な判断ができているか、不安になってくる。
とにかく第二皇子に会わせてもらえないと、
話にならない・・・
そう考えて、皇帝の書類があった事を思い出す。
「これを」
そう言って、皇帝の書類を渡す。
「確かに、間違いなさそうですね、
しかし、こんな可愛いご令嬢が?」
驚かれたが、これはメイドの仕業です!
と思う事にする。
「ちょっと待って下さい」
そう言って、第二皇子がいると思われる、
大きな扉に入っていった。
しばらくして、その男性は出てきたが、
「無駄足になるかもしれません」
と困惑の表情を浮かべている。
「無駄足?」
「第二皇子は呪いを移すのに反対なのです」
「説得します、中に入れてもらえませんか?」
少し迷った素振りを見せたが、
分かりましたと、第二皇子がいる扉を私に開いてくれた。