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ハンスと話した次の日、
皇城に向かい、養女にしてくれる、
伯爵夫妻と会った。
「まあ、貴女がファビリアさんね!」
恰幅がいいと言うか、一言で言うと太った女性が、
私の手をぶんぶんと振る。
「これから頼むよ、私の娘」
こちらはどちらかというとひょろりとした紳士が、
やんわりと握手をしてくれた。
「改めて自己紹介を、私はトミー・ディールス、
こちらは妻のミランダだ」
「よろしくお願いします」
皇城で養女になる手続きをする。
貴族が養女を迎えるのは、
余程の時だけなので、官吏に少し不信がられた。
もちろん、官吏は第二皇子の呪いの事など知らされてないだろう。
ただ、皇帝に一筆書いてもらっていたので、
それを見せると一気に低姿勢になって、
あわあわしながら手続きをしてくれた。
「お・・お待たせ致しました!これで完了です」
何とか手続きを終え、第二皇子の元に向かおうとする。
「どこへ行くの?」
ミランダさんに問われ、当然という風に答える。
「第二皇子の部屋です」
「駄目よ!」
叫ぶように言われて驚く。
「ぼさぼさの髪!くたびれた服!
こんな格好で第二皇子の元へなんて向かわせる訳には
いかないわ!磨いて磨いて磨きまくらないと!!!」
何か嫌な予感がして、たじたじになったが、
トニーさんがやんわりと話してくれる。
「その姿では、皇帝一族に会うマナーに反する、
こちらで全て用意はしてあるから、
一度屋敷へ行こう」
確かに、領主と会うだけでも、
ドレスを着たり、髪を整えたり、いろいろ気を使った。
相手が、第二皇子となれば、
それなりのドレスコートが求められるのだろう。
ハンスの5日猶予があるという言葉を思い出す。
一日経ったので4日だが、まだ大丈夫だろう。
「今日準備して、明日には皇城に来たいのですが、
お願いできますか?」
「任せておいてくれ」
その言葉に伯爵家夫妻の言葉に従う事にした。
馬車に乗り、伯爵家に向かう。
真っ白なお屋敷は、確かに豪華だが、
どこかこじんまりしていて、
調度品も最近の物が多いように感じた。
ディールス家と言えば、
郵便事業を受け持っており、
お金持ちだが政治には関わっておらず、
歴史と権力はなかったはず。
お金持ちと聞いていて、
もっと派手な調度品を想像していたが、
夫婦は以外と堅実のようだ。
今日泊まる、ゲストルームに案内される。
一部屋にトイレ、お風呂までついていて、
快適そうな部屋だった。
小さな花柄であしらわれた壁紙が癒しで、
部屋全体を優しい雰囲気にしてくれている。
部屋の中央には天蓋付きの大きなベッドがあり、
白のリネンからは仄かな花の匂いがしてた。
夕食の時間になり、伯爵夫妻と食事を取る。
「あら、マナーは完璧なのね」
夫人に驚いた風に、でもどこか嬉しそうに言われる。
「領主とお話する機会がありましたので、
失礼のないよう一通りは学んでいます」
「料理の味はどうだい?」
トニーさんが気を使って話かけてくれる。
「とても美味しいです」
これは本心から答えた。
3種類のオードブルから始まって、
アントレ(肉料理)、デザートとどれも絶品だ。
領館では、あくまで貴族が食べる物
といった風な食事が出され、
独特な味にあまり楽しめなかったりする。
しかし、今日の料理は、
どこか庶民的な味付けで、
多分食事に困らないよう調理人の配慮だと思われる。
その気遣いに嬉しく思いながらも、夕飯を楽しんだ。
「それじゃ、食事が終わってゆっくりしたら、
これからが本番ね!」
その言葉にえ?となる。
皇城で養女の手続きをしてから、
あれドレスやあれ宝石だと、
さんざんお着替えして明日の準備をしてきた、
あれだけやってまだ足りないのだろうか?
「夜は肌を磨かないと!
エステに髪もつるつるにして!
ああ楽しいわ~」
私より、ミランダさんの方が絶対楽しんでいる。
これは耐えるしかないと、
これからのエステに身構える。
「そう言えば、ファビリアというのも平民の名前ね、
せっかく貴族になったのだがら、
名前も変えたら良かったわね」
「それはそうだな、今からでも遅くない、
明日手続きをしようか」
伯爵家夫妻は、あれエリザベートがいいかや、
グレイスがいいかなど、協議を始めてしまった。
どうやら私は名前まで変わるらしい。
ははは・・・と乾いた笑いしか出てこない。
まあ70%で死ぬんだ、どうとでもなれである。
その後、メイド達に、
さんざん肌を磨かれ、髪を手入れされ、
終わった時には深夜になっていた。
ベッドに倒れ込むと、
スプリングが効いていて、
人生ではじめてベッドマットが沈むという体験をした。
さすが伯爵家。
こうゆう所はお金をかけているのね。
しかし、ありがたいはずのスプリングの効いたベッドは、
慣れなくて逆に寝ずらく、
明日大丈夫かな?と不安がつのるばかりだった。