プロローグ
ああ、麗しの故郷よ
うら若き乙女よ
さようなら
我らはゆく
祖国のために
ああ、愛しい国よ
愛する父母よ
さようなら
我らはゆく
帝国のために
ああ、懐かしき故郷よ
恋する乙女よ
こんにちは
我らはもどった
勝利と共に
紳士淑女諸君は転生というものを信じているだろうか?
よくある話した。
死んだら違う世界に飛ばされていたとか、違う人になっていたとか、神がスキルを授けたとか、勇者になったとか……まあ一度は誰もが夢見る《都合のよい第二の人生》だ。
現実はそんな都合よくはない。
その生まれた世界が異世界だとしよう。
魔法も魔族もいる世界?
ああ、そうだとも。魔法はあるし、魔族もいる。
それでスキルが与えられていて勇者になってハーレムパーティー組んで魔王を討伐する?
それともそのスキルを使ってチートしまくる?裏から世界を牛耳る?自分だけの国を作る?知識チートで成り上がり?最強の力を自由に使って異世界無双する?
甘ったれるな。
スキル?そんな物はない。
勇者なんていない。魔王もいない。神から与えられたスキルなどの類いなんて存在しない。世界を裏から牛耳る?そんなことこっちから願い下げだ。自分だけの国を作る?凡人に出来るわけないだろ。知識チート?そんな知識持ってない。最強の力で異世界無双する?そんなものできるわけないだろ。
こんな世界で出来るわけないだろう。
剣も魔法も銃も科学も魔族もいる闇鍋がごとくぶち込まれたこんな世界で。
まあ……俺はまだマシな方だろう。
比較的まともで国力があり国内の諸民族多種族が纏まっている国家に生まれ、その国家でも高い地位の一族に生を享けた。
それだけで普通なら喜ぶだろう。
紳士淑女諸君が想像する《普通の異世界転生》なら。
生を享けたからには、生きなければならない。どう生きるか?
普通の家庭に生まれたならいろんな職種を選択できたろう。
だが俺は出来ない。
選ぶ選択権なんて無いからだ。男子として生まれた瞬間から決まっていた。
普通の家庭で生まれたのなら恋愛もある程度出来るだろう。
俺はそんなこと出来ない。
出来ればいいのだがそんな権利は俺にない。最初から無い。
普通の家庭なら休日を家族や友人、自分の趣味などに使うだろう。
俺には休日など無いに等しい。
俺も欲しいさ、自由に過ごせる時間。でも無いんだ。ほぼ常に誰かが近くにいる。
えっ?なんでそんな生活をしないといけないか?嫌ならやめてしまえ?
馬鹿なのか?
この世界で衣食住が保証されているだけでもすごいことなんだぞ。
俺はそれが毎日保証されているし暖かいベッドでも寝れる。
欲しい物があれば、父上に頼めば与えられる。それどころか貴族たちから過剰に贈り物が届く。何でも来るぞ。物だけじゃ無く人間も送られてくる。
『是非、殿下に!』
そう言って薄気味悪く笑いながら渡してくる。
いや、まあ……中には本当に善意で送ってくれる方もいるけど……
俺はあんたらが期待することは出来ないというのに。
……話しがずれたな。
俺はこの地位と身分を捨てることは出来ない。
もちろん、衣食住とベッドを失うのが惜しい……無論それ以外にも理由がある。
俺がこの地位と身分をしてれば間違いなく国家の中枢が面倒くさくなる。だから俺は父上と兄の目の届く範囲にいなければならない。そうしないと貴族たちが暴走する。確実に、絶対暴走して碌でもないことになる。
次に俺はこの国が好きだ。
人間だけでは無く多種族を受け入れ、文化を尊重し互いが互いを種族の垣根を超えて支え合っている臣民が好きだ。だから守らなければならない。この美しい国と心優しき臣民たちを外敵から守らなければならない。だから俺はこの地位と身分を捨てない。
最後に、俺は普通に死にたい。
妻や子供たち孫たち囲まれながら死にたい。よくは覚えていないが前世で碌でもない死に方をしたことだけは確かだ。だから普通に幸せに死にたい。大往生と言われるぐらいには長生きしてから死にたい。好きに生きられないなら、死ぬときぐらい自由に死にたい。何かを成した後に看取られながら死ぬ。これを叶えるためにも俺はこの地位と身分は捨てない。
俺は……いや私は、アイガーグロス帝国第二皇子皇位継承順位第二位マサヒト・ユリウス・ペーネミュンデ・フォン・アイガーは、皇族として生まれたからにはその責任を果たす。
我が帝国と臣民に仇なす全てを鏖殺する。
―――結局は、人間だろうがエルフだろうがドワーフだろうが獣人だろうが人狼だろうがオークだろうが吸血鬼だろうが変わりないのだ。同族同士でさえ分かり合えず殺し合い憎しみ合うのだから、人も魔族も獣も何にも変わらない。等しく戦場ではただの塵になるのだから―――
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