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絶望による死 1

「羨ましいなぁ、みんなちゃんとした仕事して」


そう言いながらスーツの袖をまくる。

深夜3時の寝静まった住宅街にひっそりと紛れ込むような外観のアパートに用事があった。道路に面した駐車場に車は止まっておらず1.2階全てに光が灯っていない。死んでいるような不気味なアパート。


「は?してますよね、ちゃんとした仕事。ていうか今からするんですけど」


突然何を言い出すのかと言いたげなぶっきらぼうな声が目の前から聞こえる。頭ひとつ小さな少女がその声通りの顰めっ面で立っていた。

名前を天使琴音(アマツカコトネ)ここ一年一緒に相棒として組んでいる一つ年下の後輩だ。

俺を凛と澄んだ大粒の青い瞳でキッと睨んでいる。

青みがかった腰まで届く長い黒髪や真っ白い透明感のある肌。

俺より年下のはずがしっかりとした性格や社会人のようなシンプルながら整えられたメイクなんかが後輩という感じを思わせない。

そんな後輩に俺は声を大きくし手を広げて反論した。


()()なんかちゃんとしてねぇだろ!」


夜の住宅街、シンと静まり返った中でその声はよく響いていく。


「しています!何を消そうが、何人消そうが、それが非人道的であろうがこの世界には必要な仕事です!」


そう言って俺にビシッと指を差した。俺と同じような真っ黒いシャツに真っ黒いスラックスをしているにも関わらずその動作だけですらっとした足や無駄のないシャープなスタイルの良さがわかる。

そんな抜群のスタイルから繰り出される指差しは頭ひとつ小さいとはいえ威圧感があった。


「ていうかそんな事考えて遅刻したんですか!?小学校も行ってないくせに!」


「あぁ!?それは今、関係ねぇだろうが!」


顔を歪め苦し紛れの反論をする。


「幼稚園すら卒業してないなんて面接の時、学歴どう言えばいいんですか!最終学歴赤ちゃん卒業ですかね!それすら先輩は怪しいですがね!」


「うううううぅ!うおーーー!!!」


そう叫んでアパートへ駆け出す。二階の廊下を支えている柱を駆け廊下の手すりを掴み、あとは懸垂でちょいっと上がり目的の部屋の扉へたどり着いた。

部屋の鍵はある。数日前に大規模な襲撃で管理会社から取り上げた。あの後あの会社はどうなるのか。神様とやらが今まで払ったお布施分損害を補填してくれたのだろうか。なんて残酷な想像しながら俺は扉を開けた。


(…慎重に)


中では蠢く何かの気配があり俺は静かに息を吐き出し猫が扉の隙間を抜けるみたくするりと部屋へ入っていった。


「先輩はいつも先行しすぎなんですよ!」


中のものが片付いたアパートの一室に不貞腐れた顔でコトネがやってきた。


「で、ありました?その()()()()()()()とやらは」


今回、俺たちが言われた仕事はこれを回収、又はそれに繋がる情報収集とその回収で起こる不測の事態への対処。その対処の仕方は問われない。


「うわっ」


現にこうして部屋には縛りあげられずっとグウウと唸りを上げる不気味な生物がいる。

頭は犬のようで体はカラスのような黒い羽毛に覆われて羽が生え二足歩行の四つ足、肥大化した前足の爪一つ一つが鎌のようになったこの世の生物ではない奇怪な姿。

コトネは未だ慣れていないようで小さく声を上げている。俺も初めて見た時は思わず尻餅をついて逃げ出したものだ。

今はすっかり慣れてしまっているが。


「無かった。というか情報が古過ぎる。ここにあったがとっくに取られているみたいだ」


俺は首を横に降りながら仰々しい金ピカの祭壇の上に何かがあったであろう空っぽの箱に目をやった。

恐らくその中に入っていたであろうものが不死身の聖骸布と呼ばれている遺物だ。

曰く、それをつけた者は生き続ける意志がある限り神の力で蘇る、らしい。まさに不死身。なおかつ詳しくは知らないが宗教的な面から見ても価値が非常に高いらしい。こちらは専門ではないのでさっぱりだがどうやらそのせいで数千年前から色々な人の手に渡っていたらしく最近、大司教の隠れ家からここに運び出され保存、誰かに受け渡しされる予定まで掴んだが少し遅かったようだ。


「じゃあ振り出しに戻ったって感じですかね」


そう言ってコトネは目を落としため息をつく。


「いや」


俺は未だ唸りを上げる低級の()()を見つめた。

その後、部屋から出て電話をかける。仕事終わりの報告と…


「…つまり、あの邪神を置いていった人が買い手って事ですか?」


俺の電話を横で聞いていたコトネが興味からか聞いてきたので俺の予想を説明した。ふむとあごに手を添えて考えてだしたかと思えばすぐにこの返事が出てくる。流石、優秀なだけあって理解が早い。


「まぁ売り手がなんらかの理由、まぁ取引場所の防衛用に置いていった可能性もあるにはあるけど」


俺の中ではほぼその線はない。あの邪神には引っかかる点が何個かあったからだ。


「とりあえずあの邪神の取り引きが最近なかったか。それと最近聖遺物の収集をし出したでかい企業は無いかを神父に探してもらうよう電話した」


「…なるほど。じゃあゼロに戻った訳ではないんですね」


ふむ、とまた思案顔で下を向く。

コトネはなぜか今回の仕事は他の仕事に比べ積極的だ。まぁ他の仕事もしっかりとこなしてくれるし、今回は何せ物が物だ。やる気が高くなるのも頷けるが貴重な品を扱う事は何回かあったので少し違和感を感じていた。

そういえばもし入手に成功すれば俺がこの十年以上こなしてきた仕事の中で一番価値が高いものになるな。


(まぁ、今回の物は入手した人の物にはならずさすがに上の管理に入るのだろうけど)


「先輩これから時間ありますよね?」


ぽけーっと考え事をしていた俺にコトネはグゥーっと腕を上に伸びをしながらそんな事を聞いてきた。

もちろん時間はある。学校も無いし友達もいないので。…はぁ。


「まぁね」


「じゃ引き継ぎ終わったら朝ごはん食べに行きましょ」


最近はどちらかが仕事終わり何かに誘う事が増えた。

断るわけがないみたいなゆったりとした気の抜けた表情で言ってくるので少し意地悪をしてしまう。


「また()()()きか?」


「ひどっ!今回はちゃんと財布持ってますから!」


ツーンと下唇を尖らし拗ねた様子で素直に答える。そんな様子に軽く頬が緩んだ。


「じゃあ奢らなくていいか」


「今、財布捨てました」


「おい!」


そんな馬鹿な事を言っていたら引き継ぎの社員さんたちを乗せた車がやってきた。

まぁ正確にいえば社員では無い。俺の所属する宗教の信者さんがボランティアでやっている。


「信仰心ってのは凄まじい物だな」


ゾロゾロと10名近い人だかりが歩いてくるのを見て尊敬に近い念と共にポツリと思った事が口から出た。

こんな時間にまで無給で働いているし


「おー今回のブツは流石にうちのエースが出るか」

「ジャックくん久しぶりー偉いねぇこんな時間から。あっコトネちゃんも居たの!おはようー」

「おはよう御座いますジャックさん、コトネさん」


老若男女皆、笑顔だ。宗教は人を救う…あれは意外と真実なのかもしれない。

ここで働く人たちと話してその過去を知るとそう思える。


「「おはよう御座います」」


俺とコトネも挨拶を返し軽く言葉を交わしながらみんなとは反対方向へ向かう。


「なんだか信仰心無い私たちが寂しくなっちゃいますよね。皆さんと話していると」


しばらく歩いていると隣のコトネが本当に寂しそうな表情しながらそんな事を言ってきた。

俺は頷く。


「ついつい入信しちゃいそうだ」


「まぁ私たちも実質、信者ですね」


「給料は貰ってるけど同じように働いているしな」

 

二人は顔を向き合わせ小さな声で笑った。

そこからコンビニで朝ごはんとコトネは昼用のご飯も買って(コトネはこれから高校がある)公園で食べることにする。

俺はブランコに腰掛けおにぎりを頬張った。隣でキィと音を鳴らしてコトネも弁当を開く。

ひんやりとしたご飯の中から少ししょっぱい鮭の身が顔を出す。誰かのスコップが砂場に刺さったままの公園に白み出した空の明かりが満ちていく。仕事の終わりがもうすぐだ。


「本当、どこ行っても宗教、宗教、宗教だな」


軽くおにぎりを食べ終わり雑談ついでにそんな事を言ってみる。

就職では第一に信じている宗教を聞かれるらしいし政治家は全員神父だし今や企業はほぼ宗教とどっぷりだ。

ついにコンビニのコラボ商品で神様モチーフが出て驚いたのを思い出す。それはもう侮辱行為じゃないかと思わなくもない。いいのか神様が140円のお菓子の付属で売られて。


「仕方ないですよ。ずっと命の危機と隣り合わせ、みんな何か信じたくもなりますよ」


「信じたとて救ってくれる訳じゃないだろ」


この仕事を続けているとそう思う時が多々ある。

そんなつまらない真面目な返しに少しだけ悲しそうな顔をしてから


「そういう次元の話じゃないんですよ、きっと」


少し肌寒い秋口。コトネは明け方の空を見上げながら答える。


「そっかぁ〜賢いなぁ〜コトネちゃんは」


俺がそういうと目を細めてジロリと睨まれた。

先輩が真面目な返しをしたから乗ったのにみたいな、責めている目だった。

少し黙る俺に小さな声で


「…先輩は怖くないんですか?」


一瞬、そもそも考える事自体がおかしい事だったが意味が分からず考えた。

結果、怖くない訳がなかった。さっきの邪神ですら爪でちょこんと触られただけで死ぬかもしれない。邪神と違って人はとても脆い事をよく知っている。


「ちょー怖がってる」


「そうは見えません」


そう言ってコトネはじっと言葉の中から真実を探るような表情を浮かべていた。がその見つめてくる瞳の奥にコトネ自身気が付いているのかは分からないが何か違う言葉を求めるような目をしているようにも見えてくる。

その言葉が何か分からなかったが分かったとしても口に出さないと思うので俺はそこについて深く考えるのをやめた。


「怖がったら負けちゃうからね」


「…でも」


「後ろの後輩にビビってる所見られたくないし、そもそもこれお仕事だし俺のやる事、いや…出来る事がこれしか無いから」


俺は力のない笑みを浮かべながらそう言った。

本当に情けないことに。俺にはコトネと違い勉強も出来なければ友達もいない。

あるのはこの危険な仕事だけだから。

少しコトネはそこから黙っていた。俺の答えを考えているらしい。

別に神様やら偉人やらの言葉じゃない。考える間でもなくそのままの意味だ。


「…私だって」


コトネは迷うような顔つきを浮かべそこで言い淀んだ。


「私だって強いぞって?」


「…違います」


ため息の後に否定された。

じゃあ、と言葉の続きが気になったが


ーーーPrrrrrr


こういう事がよく起こる世界だ。ゆっくり喋れる時間は少ない。ただでさえコトネとは仕事の時しか会わないのだから。

まぁ見方を変えれば話を切り上げるにはちょうどよかった。これからコトネは着替えて学校へ行かなくてはならない。

そう考えながら俺は反射的に駆け出していた。


「コトネは学校遅れるなよ!せっかく行ってんだ!」


「はーい」


どこか不服そうにそう言った。少しコトネは仕事が好き過ぎるな、そんな事を考えながら神父からの電話をとった。


「ここか」


そう言って俺はオートロックこそないもののしっかりとした作りの閑静なマンションを見上げた。

信者の住むマンションで邪神らしきものがいるので対処をしてほしいと電話あり近くにいそうな俺に神父が電話をしたらしい。

元は白かったであろう壁が今は少し汚れて灰色混じりになってはいるが置きっぱなしのゴミ袋やタバコの吸い殻が散らばっているなどという典型的な邪神が出そうなよくないマンションという感じはパッと見では見当たらない。


「こっそりやった邪神崇拝で暴れ出したかねぇ」


とりあえずマンショで邪神が現れるというのは誰にとっても迷惑な話だが、やけに静かなマンションだった。普通、邪神が出ると規模にもよるがエレベーターはごったがえし階段で怪我人が出るくらい大騒ぎになるものだ。


不気味なほど静かな廊下に靴音がゆっくりと鳴る。

ひとまず連絡をくれた人たちと合流し軽く事情を聞いて退避してもらった。もしかすると意外と大人しい邪神なのかもしれない。


(ふむ、じゃあ騒ぎになる前にさっさと片付けてしまおう)


「うわぁぁぁぁあ!!!」


L字廊下の反対側でちょうど扉を開けて運悪く邪神と鉢合わせてしまったらしい住人が叫んでいる。


(しまったな)


こちらへ向かって走り出した住人。俺も走りながら住人の後ろで黒い塊がゆっくりとだが動いているのを確認する。通路の腰壁よりも低いので全容は見えないが背はかなり小さいようだ。


「静かに。イスラフェルズ教会、終末通達部隊のジャックです」


「たった助けてくれぇ、改宗する!改宗するから!」


汗を垂らし息も絶え絶えながら足元にすがりつき懇願される。一応証明書も出そうかとポケットに手をかけた所だったがどうやら必要なさそうだ。

あと別に改宗されても嬉しくはない。勝手にどうぞ、と言った具合だが住人はそれも判断できないほど混乱している。


(まぁ、無理もないか)


その邪神は角を曲がりのっそりとこちらを向いた。アゲハの幼虫のような姿に側面から取ってつけたようなムカデの足が生えている。カサカサと器用に沢山の足が蠢いておりスーツの下でゾワリと鳥肌がたった。

爛々と光る幼虫の邪神と目が合う。それはアゲハの幼虫であれば目のような模様の所でパチクリと瞬きをした。かと思えばから頭が四つに裂けびっしりと小さな牙の生えた真っ赤な口内を見せつけ首を小さく左右に振っている。獲物を見つけ無邪気に喜んでいるみたいだ。

イカれている。生命に対する冒涜のようなその見て呉れも慣れてしまえばそれだけの感想だ。


「大丈夫ですから静かに下がってエレベーターから一階へ」


が、住人は浅くなった呼吸を繰り返すばかりで反応しない。

あまりの姿に心が壊れたようだ。俺が名乗ったばっかりに安心して気が抜けていたのかもしれないしはっきりと邪神の姿を見過ぎたのかもしない。

心へ強い衝撃がかかり複雑骨折を起こしまともに感情の制御が出来なくなった状態になっている。


俺はすぐに走り出す。素早く退治しあの住人を病院へ送らなければ!

が、そうはさせないと幼虫の邪神も興奮した様子で頭を上げて動きだす。


(…早い!)


その体でどうしてそんな瞬発力が出せるのか分からないが飛び掛かられた。間一髪で躱したついでに幼虫の邪神を蹴り飛ばす。ムニッと柔らかい生々しい感触が足に伝わってくる。


(びくともしない…か)


そんな俺を無視し崩れ落ちたままの姿勢の住人目掛け進んでいく。

住人は抵抗をする素振りなく濁った瞳で空を見つめたままだ。


「あっそ」


なら、と助走をつけて壁を蹴り重力と共に俺の拳を脳天にお見舞いした。衝撃で邪神の頭が広がる。ブヨっとした柔らかい皮膚の上から確かに筋肉質の硬いものへ衝撃が届いた感覚があった。

流石にそこまでされると邪神も頭にきたのか噛みつこうと頭を振るう。牙は躱したものの弾力ある頭が当たり…


「ヤッベ」


瞬間、青い晴れやかな空が見えた。捻った体が悲鳴を上げるがそれ以上になんとか腰壁を掴めた安心感と遅れてた冷や汗がやってくる。

先ほど部屋で見かけた低級の邪神よりもさらに弱いはずが信仰(エサ)をもらったばっかりなのかやけに強い。


「まぁこれで終わりだけど」


体を捻って飛び上がり住人と邪神の間に立ち塞がるよう着地した。ようやく脅威を理解したのか幼虫の邪神は直ぐに飛び掛かってくる。俺はどっしりと相対したまま立ち塞がり赤い口に拳を叩き込んだ。ぬらぬらと光る纏わりつくような唾液、それを切り裂く。肌よりは硬かった口内の壁を貫き破り先ほど触った筋肉質な邪神の核を勢いままに貫いた。

核はやけに生々しい本当に心臓のようで生き物を殺している実感が強く湧きオエッと少し顔が歪む。

邪神がピタッと動きを止めその後、大きな体躯の節々からサラサラと塵のような物質へと変わっていき空気へと溶けていく。元からそこには何もなかったかのように次第に無に変わる。


俺はそんないつもの事に見入っている場合ではなく急いで住人を担ぎエレベーターに乗せて救急車を呼んだ。


「…すいません。ありがとうございました」


住人は担架の上で救急隊員に話しかけられる中、虚な目で俺に頭を下げていた。

暗い絶望の目だった。あの住人の心には深く幼虫の邪神が刻み込まれ当分の間ヤツが心を荒らすだろう。夢の中、静かな海に突如顔を出す恐怖は俺もよく知っている。信仰心は叩き折られ、今はすがるものが無くなっている状態にそれはきっと堪える筈だ。


「強く心を保ってくれ」


これからの事を思うと俺は自然とそう口に出していた。

しばらく救急車を見送ったままの状態で立っていると自然と瞼が落ちてきた。ここ最近は不死身の聖骸布の件でプレッシャーからかあまりちゃんと眠っていなかった反動がやってきたようだ。

うつらうつらと何とか立ちながら仕事終わりの電話をかける為、ポケットに手を入れスマホを引き出す。


ーーーフヴゥゥゥゥ…


瞬間、瞼が弾け眼球が貪欲に光を貪った。

それでもたった一瞬ヤツを見ただけだったのにスマホが地面に落ちる。拾うために屈んで伸ばした手も足も情けないくらいガタガタと震えている。

いつだってヤツは突然現れて俺の中をかき乱し心の平穏をめちゃくちゃにするだけしておいて帰っていく。

黒山羊頭の邪神。爛々と輝いた黄色の目を思い出すだけで歯が自分の意思に背いてカチカチと踊り出す。五月蝿いくらいの心臓の音と浅くなる呼吸の中、どうにかスマホを拾おうとしていた手をもう片方の手でぎゅっと覆った。膝をつき地面に顔を伏せていつの間にか俺は祈るような姿をしていた。

大丈夫だ。大丈夫。何の根拠もない言葉を心の中で繰り返し唱える。


「きゃあああああああ!!!!」


「誰かっ!誰かぁ!」


遠くでそんな声が聞こえてくる。日常茶飯事だ。

俺は下を向いて小さく息を吐く。


「神よ!神よ!救給え!」


眠たい。しんどい。危ない。他に沢山のやる事がある。

きっと誰か勇気と信仰心溢れる聖者が助けているはずだ。

そんな思いがどくどくと弱い所から溢れてくる。

けど体は勝手に走り出していた。目を開ける。

誰か…じゃない。俺だ。神頼みなんかしない。俺が今行けば助けられるかもしれない。

そう思いながら邪神と対峙して言う。


「落ち着いて下さい。イスラフェルズ教会、終末通達部隊のジャックです」


黒いスーツの背中に描かれた白い羽の少年は腕まくりをしながらそう言った。

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