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2.これからよろしくね

 一通り泣いて、私は少し落ち着く。

 フェンリルは私が泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれていた。

 よくフェンリルは悪い魔物だ、と聞いていたけど、そんな感じには微塵も感じない。

 冷静に考えると、フェンリルと一緒にいて、目の前には癒しの泉があるって相当凄いことなんじゃ……

「なまえ、なに?」

 フェンリルは私にそう訪ねる。

 固有名詞ってどう伝えれば良いんだろう?

 

 あ、そうだ。


 私は先程絵を描いた枝を、また手に取る。

 私は横向きの人を描き、その背中に向けて矢印を描く。

 そして、その下に◯◯◯(せなか)と描き、一番初めの()に矢印を描く。

 

 次に、私は人を描いてその横に目盛りを描く。

 そして、その下に◯◯◯◯◯(しんちょう)と描き、一番初めの()に矢印を描く。

 

 最後に、大きな犬を描く。

 そして、その下に◯◯◯◯◯(ふぇんりる)と描き、一番最後の()に矢印を描く。

  

 ◯の下に描いた矢印の先に、◯◯◯(せしる)と描く。

 

 私は「せなか」「しんちょう」「ふぇんりる」の絵を描いた。

 絵に当てはまる言葉を◯に入れて、その矢印の所を順に読めば名前が分かる。

「……」

 フェンリルは私の絵を見て、黙り込む。

 一言も話さないので、何を考えているのかが分からない。

 私の周りにいた人も、こんな気持ちだったのかな……


 二分程経ったと思う。

「せしる?」

 フェンリルが私の名前を口に出したのだ。

 私はすかさず頭を縦にぶんぶん振る。

「せしる。わたし、ふぇんりる」  

「これから、よろしく」

 私はそれに応えるように、フェンリルを抱きしめる。

「はなれて」

 突然、フェンリルは私を突き放す。

 今までの行動が頭を駆け巡る。

 冷や汗が止まらない。

「ひと、すがた、つかれる」

 するとフェンリルは、元の大きさ白い狼の姿に戻った。

 私の行動が癇に障った訳じゃないのかな?

 改めて見ると凄く大きい。

 その気になれば、私のことを丸呑みするのも容易いだろう。


 んぬ!?

 フェンリルは私の着ている服の首元を咥えて、私を背中に乗せる。

 勢いが凄くて、頭がくらくらする。

「クゥン」

 フェンリルは心配そうに、私のことを見つめてくる。

 可愛い……

 私は『大丈夫』という気持ちを込めて、フェンリルに笑いかけながら、優しく撫でる。

 もふもふだぁ……!

「ウォンッ!」

 その気持ちが伝わったのかは分からないが、フェンリルは嬉しそうにしっぽを千切れんばかりに振る。 

 その勢いで、周りの木々が倒れそうなぐらい揺れている。

 流石、伝説の魔物フェンリル。


 ──掴まって


 私は無意識にフェンリルの毛を掴んでいた。 

 すると、フェンリルは走り出す。

 初めはゆっくりだったが、だんだんスピードが上がって今では馬の2倍のスピードはあるだろう。

 風圧で飛んでいきそうになるけど、毛を掴んでいたお陰でその場に留まる。

 さっきの『掴まって』って、フェンリルが私に伝えたものなのかな?

 言葉にもならず、感覚的に伝わってきた不思議な感覚を思い出す。

 まぁ、考え込んでも別に意味なんてないし、今は今の状況を楽しもう。

 ふと空を見上げると、どんよりとした曇り空が一転、爽やかな風の吹く快晴となっていた。

 

 

 

                 

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