1.フェンリル
私の身体にもふもふとした、暖かいものが当たっている。
高級なベッドの上で、ふわふわの布団にくるまっているような感覚。
あれ、私はライデンスノー家から追放されて、フェンリルの森に捨てられて、それで男の人が来たけど私は倒れて……
私はうとうとしていが、ガバッと起き上がる。
すると、私の目にはとんでもないものが映った。
2メートル、いや、3メートルもあるだろうか、そんな大きな白い狼が、私の隣で寝ていた。
一度も見たことがないけど、直感的に分かる。
フェンリルだ。
何で私はフェンリルと一緒に寝てたの?
倒れてからの流れが全く掴めない。
私は少し混乱し、バタバタしていると、隣で寝ていたフェンリルが起き上がる。
私は思わずしりもちをつくと、フェンリルは私の前に座る。
周りの木々が、フェンリルの大きさをより際立てる。
私の足の数センチ先に鋭く尖った大きな爪が、地面を抉って、透き通った綺麗な青い眼は真っ直ぐ私を見つめている。
怖い……
ねぇ、貴方は一体何を考えているの?
そんな心の声が聞こえたのだろうか。
フェンリルは白い長髪の男の人の姿に変わったのだ。
私が倒れる時にいた人だ。
「だい、じょうぶ?」
男の人の姿をしたフェンリルが、心許ない口調で私に話しかける。
私を心配してくれてるの?
『大丈夫じゃない』と言いたいけど、声が出ないので私は首を横にぶんぶん振る。
「たすけ、いる?」
今度は首を縦にぶんぶん振る。
「みず、のむ」
フェンリルは左側にある泉を指差す。
フェンリルに気を取られ過ぎていて、泉があることに気が付かなかった。
私は力を振り絞り、泉の前まで何とかたどり着く。
そして私は泉の水を飲む。
すると、その水は喉を潤すだけではなく、身体のあちこちにあった傷が綺麗に治り、気力が湧いてくる。
私は水をがふがぶ飲む。
もしかして、これは「癒しの泉」?
癒しの泉の水を飲むと簡単に治らない傷や、魔力が回復すると聞いたことがある。
癒しの泉はまだ世界で2箇所しか見つかっていない。
この森で見つかったと言う話は聞いたことがないので、これは未発見の癒しの泉ということになる。
「なぜ、もり、ひとり?」
私が水を飲んだことを確認すると、フェンリルが当然の疑問を投げ掛けてくる。
私はどう説明しようと考えていると、ある方法を思い付く。
私は近くにあった枝を手に取り、地面に絵を描く。
文字を書けば良い、と考えたけど私は会話の練習ばかりしていたので、ほとんど文字が書けない。
なので私は絵を描く。
大きな家を描き、怖い顔を大人を二人と子供を一人描く。
そして、少し離れた所に木に囲まれた髪の長い悲しんでる子供を描く。
貴族の家から嫌われて、森に捨てられた私を描いたつもりなんだけど……
この絵を見たフェンリルは、そっと私を抱きしめる。
「だい、じょうぶ」
「ひとり、ちがう」
私の言いたいことが伝わったのか、フェンリルはそう言う。
抱きしめながらその言葉を聞き、私は静かに泣きながら抱きしめ返した。
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