10.『以心伝心』
『あの、一つ聞きたいんですけど』
『はい?』
私の能力もスキルのことも分かってもうお腹一杯だけど、私はこれも聞きたいと思う。
『今しているこの脳内会話?みたいなのって、どうやってしているんですか?』
これさえ出来れば私最大のコンプレックスである、“会話”を克服出来る……!
『これは私のスキル、『以心伝心』なの。だから完璧に再現するのは難しいかもね』
『……そうですか』
……良いんだ。欲張り過ぎだよ、私。能力やスキルのことが分かっただけで十分だよ。
でも、期待し過ぎたからか、少し悲しい。
『しかし、完璧に再現するのは難しいとは言え、少しだけなら似たようなことが出来ますよ』
『本当ですか!?』
私の心境を察したかのように、メラさんは私に希望を見せてくれる。
『ええ、このようにして言葉を交わすことは出来ませんが、伝えたいことを感覚として相手に伝えることなら、何とか出来ると思いますよ。魔力の消耗は激しいと思いますけどね。これはフェンリルにも教えたことがありますので、身に覚えにあったりしませんか?』
それを聞いて私はある出来事を思い出す。
そう、私がフェンリルと出会った日のことだ。
フェンリルの背中に乗った時の、あの言葉にもならず、感覚として伝わったあれだ。
あれはフェンリルが、メラさんのスキルを真似したものだったんだ。
『……あっ』
『ど、どうしたんですか?』
メラさんが何かに気付いたのか、急に顔つきになり、何かを思考し始める。
私は少し不安になったけど、メラさんの表情は、困っていたり、恐怖している表情じゃない。『もしかしたら』と、希望や興味のような好奇心を持った、無邪気な子供のような表情だ。
暫くして、思考がまとまったのか、メラさんは『これはあくまで私の憶測でしかありませんが』と、徐に話し出す。
『セシルさんのスキルは、『模倣』。関係が深ければ深い程、よりその者に近い能力を得ることが出来る。つまり、私と親交を深めれば、私のスキルの『以心伝心』をより真似出来事かもしれません』
言われてみれば、そうだ。
私は長く一緒に暮らしてきたフェンリルと、ほぼ同等の力を持っている。
そしてその域に達したのは、一緒に暮らし始めてから約二年程の頃だった。
ならメラさんも同じくらい一緒に時間を共にすれば、私はメラさんの能力を使えるかもしれない。なら……!
『その表情からして、考えは同じようですね。しかし、残念ながら私は人間としての居場所がありますので、一緒に暮らすことは出来ません』
そっか、なら、仕方ないよね。なにせメラさんは不死鳥の従者だもんね。
『その代わりに、一週間に一度、ここに来ましょう。貴女と一緒にも過ごせますし、数ヶ月に一度程度だったフェンリルへの人化の魔法の指導の機会も増え、良いこと尽くめでしょう』
『そ、それはそうなんですけど、メラさんは大丈夫なんですか?』
私にとっては美味しい話だけど、メラさんには一つもメリットが無い。
『心配ご無用です。一週間に一度、不死鳥、フェニックス様の元へ報告に参っていたので、そのついでに来るだけですから』
その言葉は、真実か、それとも私を安心させるための詭弁かは分からないけど、メラさんの言葉に甘えよう。
『なら、お願いします!』
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