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8話 禁術

 時間は少し遡りエリスがレイの家の壁を破壊した頃。


「何だい今の音は!?」


 エバが寝巻のままレイの部屋に駆けこんでくると、部屋の屋根が崩れ落ち窓と壁がなくなっていた。


「なっ?」


 エバが呆然としているとジョニーも欠伸をしながらレイの部屋にやってきた。


「朝っぱらから何や・・・・。」


 部屋の惨状を見てジョニーは一気に目を覚ました。


「こいつは・・・一体どうしたんだ!?」


「ジョニー!レイがいないんだよ!」


「あいつがやったんじゃあ・・・ないよな?」


「いくらバカでもこんな事しないよ!・・・・つ、あの子はそんなバカじゃあないし!」

 

「じゃあ一体誰が?」


「「・・・・・つ。」」


「ジョニー今の魔力の高まり感じたかい?」


「ああとんでもない魔力だ、嫌でも感じたぜ!あいつは魔抜けだったよな?」


「ええ!」


「てぇ―ことは、こいつをやったのはその魔力の持ち主ってことか?」


「森の方よ!」


「おぅ!行くぞエバ!」


「「ライトニング・サークル!」」


 二人の足元にはエリスと同じ輝く円盤が現れ、二人ともそれに乗って森の方に飛び去って行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「そのガラス玉は俺の物だ――――――――!」


「な、生きてたのかい!」


 森の中からレイが飛び出してきて宝玉を愛でていたエリスに向かって走ってきた。


「いい加減くたばっちまいな! ナハト・スネーク!!」 


 エリスが右手を開いてレイに向けると8匹の炎の蛇が現れレイに襲い掛かっていった。


 炎の蛇はうねる様に四方八方からレイに襲いかかっていく。


 レイは襲い掛かてくる炎の蛇を木刀で切り裂いたが、蛇は一瞬で元に戻り再び襲い掛かってきた。


「ちょっと面倒だな。」


 炎の蛇を切り裂けないと判断したレイは蛇を避け始めた。

 

レイは腕立て伏せの様に体を地面すれすれまで近づけて2匹の蛇を躱すと、そこに3匹の蛇が同時に襲いかかってきた!


 レイは両手を押し出し地面から飛び上がって3匹の蛇を交わしたが、宙に浮いたレイを今度は別の4匹の蛇が掛かってきた!


「ははは!いいざまだね!」


 エリスはレイが蛇に苦戦している様を見て高笑いしだした。


 空中に飛び上がったレイは身動きがとれず4匹の蛇の餌食になろうとしていた。


「ふん!」

 

 宙に浮いたレイは木刀を超高速で水平に繰り出すと、蛇たちはその風圧で軌道を変えさせられ、レイを避けるように通り過ぎて行った。


「なっ!」


 想定外の出来事にエリスが目を丸くしていると、レイは着地するとエリスに向かって突進してきた。


 当然8匹の蛇を連れて・・・。


「ちょ、まった!こっち来るな!」


 エリスの言葉にお構いなしにレイはエリスに突っ込んでいき、直前で真横に飛び退いた。

 

「おぁ——————————————————!」


 8匹の炎の蛇は向きを変えることが出来ずにそのまま、結界を張ることが出来きずにいるエリスに突っ込んだのだ!


 ボン!  8匹の炎の蛇はエリスのところで爆ぜた!


 エリスの上にきのこ雲の様な形をした煙が立ち上った後、煙が辺りに霧散すると、そこには真っ黒になったエリスがいた。


「よ、よくも私をこんな目に会わせてくれたわね—————————!」


「もう手段は選ばないよ!!ナハト・スネーク!」


 再びエリスの右手から8匹の炎の蛇が放たれた!


 8匹の炎の蛇はレイに襲い掛かっていくが、さっきと同じ様にレイは全ての蛇を交わしていく・・・・が、蛇の動きはさっきとは違いレイは思うように動けないでいた。蛇達はレイを襲うのではなく、レイの動きを押えていたのだ。


「よし!良いだろう!」


 エリスが開いていた右手をぐっと握るとボシュンと言う音と共に炎の蛇が消滅した。


「何!」


 エリスは困惑しているレイを見てやりと笑った!



「マ—————————ジ!!」


 エリスの詠唱と共にレイとエリス、二人の足元に魔法陣が現れ輝きだした。


「う、動けない!」


 レイは魔法陣から抜け出そうとしたが体を動かすことが出来なかったのだ。


「この魔法にかかったらもう逃げられないよ!」


「何!」


 レイは諦めずに動こうともがいていた。


「ふふ、この体は少々おしゃべりだったんでね。丁度良かったよ。お前は妙な能力を持っているみたいだし、その力は私が有効利用してあげるよ!」


 エリスが言い終わると同時にそれぞれの魔法陣から赤い光が立ち上った。赤い光は漆黒の黒い靄のようなものがうごめく様に混ざり禍々しい様相を呈していた。

 光はうごめく様に二人を包み込んでいき、やがて二人の姿が見えなくなった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「おいエバ、あの禍々しい光の柱は?」


「ええ、魔力の主はあそこね。」


 二人は二つの光の柱の近くに降り立った。


「この光の柱はいったい・・・?」


「見て、ジョニー!」


 ジョニーはエバが指さした方を見ると、柱の一部が膨らみもう一つの柱の方に伸びだした。

 

「あの魔法は一体何なんだ!?」


 見たことない魔法にジョニーは困惑した。


「あれは、禁術『マージ』よ!」


 横に伸びた光の柱は見る見るうちにもう一つの柱に繋がり、さらに禍々しく輝きだした!


「まさか・・・あの中にレイがいるのか?」


「おそらく・・・でももう止められない!」


 エバは絶望的な顔をしていた。


「どういうことなんだ!?」


 ジョニーの質問にエバは無言だった。


 暫らくして辺り一面が見えなくなるほどの輝きを放った後一瞬で光の柱は消え去った。


 そこにはレイ?とエリス?が立っていた。



 くっ・・・・・やっと光が消えたか。あいつは何処だ?


 強烈な光のせいでまだ目が良く見えなかったが、前方にはエリスらしき人影が見えてきた。


 こいつ・・・・・。へ? あいつ女じゃあなかったのか?


 レイの前にいる人物の顔はエリスと名乗った小太り女のものなのだが、体は一回り大きくなっており、がっしりとした男のものだった。何故か俺と同じ木刀を持っている。


「お、お前何者だ!」


「ははは、何が起こったのか分からないのかい? 自分の体を良く見てごらん!」


「俺の体?」


 レイは下を向くと、大切なガラス玉を持つ手が映った。


「やった、取り返した・・・つ。」


 なんと!ガラス玉を持つ手は褐色で、爪は長く、黒く塗られているのだ。


「な、なんだこの手は?」


「ほら、もっと下を見てごらん!」


 レイがさらに下を見ると、少ない黒い布で隠された褐色の膨らんだ巨大な胸が見えてきた。


「何?こ、こ、こ、こ、これは女の胸!?」


「はは、やっと気が付いたのかい?とろい奴だね!あんたの体と私の体を入れ替えたのさ!」


「なっ!何だと———!俺の体を返せ——————————————————!!」


 レイがエリスに駆け寄ろうとすると再び体が動かないことに気が付いた。


「私が使った魔法『マージ』はこれで終わりじゃあないんだよ!」


 エリスがそう言い終わるとレイの体から光の粒子が浮き出し、エリスの方に向かって流れていった。


「何だ、この光は?」


「ふふっ、それはあんたの魔力と・・・命だよ!」


 エリスはそう言うと困惑しているレイを見て高笑いをしていた。


「くそ、やっぱりこうなるのかい!」


 二人の様子を見ていたエバが吐き捨てるように言った。


「どういうことだ、あれがレイなのか?あの光の粒子はなんだ?」


 ジョニー何が何だか分からずエバに尋ねた。


「『マージ』は首から下の体を入れ替える魔法なのよ!」


「なんだって!」


「それだけじゃない、入れ替えた後魔力の強い者の方に全ての魔力と生命力・・・・あの光の粒子はレイの命なんだよ!」


「それじゃあレイは?」


「レイは、レイは・・・。」


 エバは泣きそうな気持ち振り払うかのように首を振り、エリスに向かって走り出し両手を挙げて叫んだ!


「シャイニング・スピア!」


 エバの手に光り輝くスピアが出現した。


 エバはそれをエリスに向かって投げつけた。シャイニング・スピア はエバが使える最上級の攻撃魔法だったが、スピアはエリスの目前で見えない壁に阻まれ霧散してしまたった。


「ほう、あんたらはこいつの知り合いかい?そんなことをしても無駄だよ『マージ』が終わるまでは超ー強力な結界で保護されるんだからね。知らないのかい?」


「知ってるよ!だからって息子がみすみす殺されるのを見てられるかってんだよ!」


 エバはエリスの言葉を無視して光のスピアを撃ち続けた。これがエバが使える最強の魔法なのだ。


「息子?あんた彼奴の母親かい?ああ、ごめんよ今は”娘”だね? 心配しなくていいよ、これが終わったらあんたらも一緒に始末してあげるから。」


 エリスは高笑いをした。


「俺もやるぞ!」


 ジョニーがファイア・アローを放とうとしたその時、背後に膨大な魔力の高まりを感じ、振り返ると景色にひびが入ったように見えた。


「エバ!そこから逃げろ!」


 危険を察知したジョニーはエバを抱えてエリスから遠ざかると、空間のひび割れから強烈な光線がエリスに向かって放たれた。


 カッ!!!


 一瞬辺りが真っ白に成る程の威力であったが、エリスは健在だった。


「あ、焦った————————————————!何だい今のは?」


 エリスが光が放たれた方を見るとそこには青いドラゴンが立っていた。


「な、メタルドラゴンだと!? ・・・まだ幼生か?」


 そこに現れたメタルドラゴンはエリスが知っている成体より二回りほど小さかったのだ。


「だ、大丈夫、あの位のブレスなら。ちょっと焦ったけどな。」


「そ、ソラ・・・。」


 レイの顔からは生気が抜け、小太りだった体は老婆の様に痩せてほそり、声を出すのもままならない状態になっていた。」


「お前、メタルドラゴンに知り合いがいるのかい?」


『レイ!今助けるから!』


 ソラはエリスに向かってブレスを吐いたり、尻尾による強烈な一撃を繰り出すが、エリスに届くことは無かった。


 く、くそ、どうしようもないのか・・・。


 絶望からレイの瞳から光が消えかけようとしていた時・・・。


『まさか・・・こんなことで・・・。』


 レイの頭の中にソラと似たような声が響いた。でもソラの声じゃあない。


「だ、誰だ?」


 レイが擦れた声で呟くと、レイの持っていた宝玉が突然輝きだしレイは金色の光の球体に包まれた。


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