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7話 不死の魔女

「ズズ——————————————ン!! ドカッ! バキッ!バキッバキッバキッバキッバキッ!!」


「ドゴン! ドス!! バコ——————————————ン、ドス!ドス!ドス!ドス!ドス!」


 森の中に激しい騒音が響いていた。


 無数の閃光が走り、幾本もの巨木が倒れ、地面には巨大な生物の足跡が次々と付いていく。何かが戦っているようなのだが戦っている者たちの姿を見ることが出来ない。


 暫らくの間その状況が続いたが、倒れた木々の上で強烈な閃光が輝いた後、森が静寂を取り戻した。


 先程強烈な閃光が輝いた場所に目を移すと、そこには巨大な青いドラゴンと一人の少年が立っていた。


『レイ、腕を上げたな・・・はぁはぁはぁ。』


「ソラこそ腕を上げたな・・・はぁはぁはぁ。」


 二人共完全に肩で息をしている状態だった。


『今日はこれぐらいにしておいてやるよ・・・。』


「それは俺のセリフだよ・・・・。」


 レイがそう言った後、二人は同時に前のめりに倒れた。


 3年前に友達になってからレイとソラはお互いに力を高め合うために時々会っては模擬戦をしていたのだ。


 ただ、模擬戦とはいってもAランクの魔物でも巻き込まれたらあっという間に昇天してしまう程激しい模擬戦だった。


 レイはあお向けになると息を落ち着かせて話し始めた。


「俺さあ、明日で15才になるんだ。」


『そうか、もう15才か、じゃあ冒険者になるんだな。』


「ああ、そうだずっと憧れていたからな。」


『よかったな!レイ!』


「ありがとうソラ!。でもっ・・・。」


 レイは口ごもって浮かない顔をしていた。


『でもって何か気に入らないことでもあるのか?』


 レイはすこし躊躇いながら話始めた。


「冒険者になるにはギルドに登録して依頼を受けるんだけど、それには隣町で暮らさなければならなんいんだ。そうすると・・・。」


『そうするとって何だ?』


「そうすると、ソラとなかなか会えなくなってしまうんだ。」


『どのくらい?』


「今は週3日ここに来てるけど、良くて週1日かな。」


『週1日なら良いじゃあないか。会えなくなるわけじゃないんだから。』


「そうかな?」


『そうさ!冒険者の仕事頑張れよ!』


「ああ、頑張る!」



 レイはソラと別れると、二人の模擬戦に巻き込まれて成仏したライバードを掴み上げると家路についた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ジョニーいきなりどうしたんだい!?」


 エバの店にジョニーがひょっこりと顔を出したのだ。


「いや、まあ・・・ちょっと暇だったんでな。」


 ジョニーは妙に後ろめたそうな顔をして頭を掻いていた。


「暇って、あんた大学教授の仕事の方はどうしたんだい?」


「いや、その、まあ、なんだ・・・・・」


「なんだって、じっれったいね!はっきりしな!」


「や、辞めた・・・。」


「な、辞めたって!一体どうして?」


 エバは大きな目を更に大きくしていた。


「今度新しい学長が就任したんだけど、そいつが平民から男爵になった俺を毛嫌いしていてな、研究費を思いっきり削減してきたんだ。それで・・・。」


「それで?」


 エバは鋭い視線でジョニーを見つめた。


「それで・・・・・・喧嘩して大学辞めちまった。」


 少しの沈黙の後エバは大きく溜息をついた。


「はぁ―――、勿体ないね。」


「いや、でもなあ俺は成果をきっちり出してたんだよ!それにも関わらずあいつは俺が平民出だからって難癖付けてくるんだ!それで俺は・・・」


 エバはジョニーの言葉を遮った。 


「ん――――まぁ、分かったよ!いかにもあんたらしいね。」


 エバにはさっきまでの呆れた表情は無くなっていた。


「それで、これからどうするんだい?」


「まだ決めてないけど。蓄えはかなりあるから少し考えてみようと思う。」


「それなら暫らくはうちに居ればいいじゃないかい?」


「ああ、まあ、そうそうさせてもらうと助かる。」


 エバは店の前に臨時休業の看板を掛けるとジョニーと母屋の方に入って行った。


 あれ?店が閉まってるな。


「ただいまー!」


 かーちゃんの返事を聞いた後、俺は店の裏手に周り勝手口から中にはいってライバードを吊るして血抜きを始めた。


「レイ!でっかくなったな!」


 後ろからの声に振り向くと俺は嬉しくて思わず声を張り上げた。


「おっちゃん!」


「よう!元気していたか?」


 おっちゃんは右手で俺の肩を叩いた。おっちゃんも嬉しそうだ。


「ああ、俺はいつでも元気だ!まあ、それしか取り柄が無いしな。」


「剣の腕は上達したか?」


「ああ、俺頑張ったから!明日冒険者登録するんだ!」


「そうか、もう15になるのか!?じゃあ明日はお祝いだな!」


 俺はおっちゃんと一緒にかーちゃんのいる居間に入って行った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 朝、レイはいつもの様に日の出前に目を覚ますと、カーテンを開けて外の天気を見た。


 よし、いい天気だ。


 レイは着替えると、棚に飾ってあるおっちゃんから貰ったガラス玉を手に取った。


 これを持つと何となく元気が出てくるので習慣になっていたのだ。


  今日も頑張るぞ!そう呟いてからガラス玉を棚に戻したその時!


『やっと、見つけた!!』


 なに!? ソラの声に似てるけど何か禍々しい。


 俺は言い知れない感覚に素早く木刀を手に取り臨戦態勢に入ると


 ドン! 


 激しい衝撃音と共に天井が砕け散って落ちてきた。


 撒きあがった粉塵の中、赤い長い髪に切れ長の金色に光る瞳、肌は褐色でその肌を露わにした黒い布地の少ない服を着た女が現れた。


「これが欲しかったんだよ!」


 女は俺がいることを全く意に介さず俺の大事にしていたガラス玉を手に取って撫で始めた。


「お前何者だ!?」


 女は初めて俺の存在に気が付いたような顔をしながら言った。


「あ、ああ私かい?人に名を聴くときは先に名乗るのが礼儀じゃないかい?」


 勝手に人の家に入り込んでいるのに、図々しい奴だな。

 そう思いながらも思わずレイは名乗っていた。


「俺の名前はレイだ。」


「そうかい、私の名はエリス。私の事を『不死の魔女』と呼ぶ者もいるけどね。」


「不死の魔女だと・・・?いや何でも良い、それは俺のガラス玉だ!返せ!」


 女は一瞬目を見開くと呆れたような顔をして言った。


「あんた、私の通り名知らないの?そうだとしてもこれだけ魔力で威圧をしているのにビビらないんだね?」


「ああ、お前なんか知らないし、怖くも無い!」


「まあいいか。坊やの勇気に免じて命は取らないで置いてやるよ!でも、これは貰って行くからね。」


 エリスが右手を窓側にかざすと、窓が一瞬で外側に膨らみ壁ごと弾け飛んだ。


「ライトニングサークル!」


 窓から外に飛び出したエリスの足元に雷の様な輝きが無数に集まり直径2mぐらい円盤が出現した。


「じゃあね!」


 エリスは円盤に飛び乗りウインクをすると円盤はフワッと宙に浮き、高速で飛び去っていった。


「ま、まて!この野郎。」


 レイは部屋から飛び出すと全速力で女の飛び去った方に駆けだした。


 エリスは目の前の森を一気に飛び越えると草原の入口に降り立った。


 シュン!


 足元の円盤は光の帯が解けていくように消えてエリスは着地した。


「さて五月蠅い小僧もいないし、ゆっくり拝ませてもらいますか。」


 エリスは嬉しそうにガラス玉を見つめ始めた。


「これが『宝玉』か・・・手に入れるのに100年かかったよ・・・。」


 エリスがこの100年間を思い起こしてしみじみとしていると突然木々が倒れる音が響いて、目の前に折れた木々が多量に飛び散ってきた。


「俺のガラス玉を返せ――――――――!」


 折れた木々に交じって現れたのはレイだった。レイは森の木々を薙ぎ倒しながらエリスを追ってきたのだ!


 エリスはレイに向かって結界を展開したが・・・


 バッキ―――――――ン!


 レイが振り下ろした木刀が、まるでただの硝子を割る様に結界を破壊してしまったのだ。


 エリスは咄嗟に飛び退き、ライトニングサークルを展開したが、それも切り付けられた木刀で霧散させられてしまった!


「つ・・・な、何て小僧だい!ファイアアロー!」


 エリスの右手から無数の炎の矢が飛び出しレイに襲い掛かってきた。


 レイが炎の矢を木刀で切り裂いている間にエリスはレイから間合いを稼いでいた。


 エリスの眼には驚きと共に怒りが満ちていた。


「命は取らないと言ったけど止めた!!お前はここで殺してやるよ!」


「・・・・・・・・。」


 無言で突っ込んでくるレイに向かってエリスは両手を前に出し詠唱した。


「避けられるもんなら避けてみな!アイス・ブレット!!」


 エリス手から無数の氷の弾丸が放たれた。


 弾丸にレイは全く怯むことなく、体をのけぞらせたり最小限の左右の動かして弾丸を避けながらエリスに迫っていった。レイの姿は全て残像の様に揺れ動いており、気が付けばエリスの目前に迫っていた!


「こいつ化物か? エアー・ボム!!」

 

 エリスに迫った来たレイの目前で丸い小さな球体が出現して一気に拡大した!


「つ・・・・・。」


 レイは流石に避けることが出来ず球体に吹き飛ばされ森の中に突っ込んでいった。


「やっとやったかい!」


 エリスは大きなため息を吐くとその場にへたりこんだ。


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