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6話 ソラ

 アニーが王都に旅立ってから半年ぐらいした頃、レイは訓練を兼ねて毎日魔物の狩りに励んでいた。


 森は木々の芽吹で、むわっとした独特の匂いを放っている。


 レイが魔物の気配を探っていると突然頭上から微かに不思議な音が聞こえた。


 クォン!


 レイが霞んだ緑の空を見上げると、空に何か違和感があるのを感じた。


 何だあれ?


 空の違和感は徐々に高度を下げて森の奥に移動しているようだった。レイは違和感が落ちていく方に向かって走り出した。


 ライバードじゃあないな。食える魔物ならいいだけど。


 違和感を追いかけていると、木々の上の方がざざっと揺れるのが見えた。


 あそこか?森の奥の開けた所だ。


レイはそこまで駆けて行こうとすると妙な威圧を感じた。


 なんだか俺にこっちに来るなと言っているような・・・でもそんな事は気にしていられない。美味い魔物だったら勿体ない!


 レイは威圧を無視して空き地の近づき、近くに木の陰に隠れて様子を伺った。


 確かに何も見えないのだけど間違いなく何かがいる。


 レイはそう確信して空き地を観察していると変な声が聞こえてきた。


『なんであいつは近づけるんだ?』


 な!魔物じゃないのか?いや、でもこの声どっから聞こえてくるんだ?


 声は耳から聞こえるというより頭に響く感じだった。


 いや、それより俺がいることばれてんな!


 それなら隠れている意味が無い。


 レイは隠れるのを止めて空き地に近づいていった。


『いや、こいつ変だぞ!!何で威圧を放っているのに近づいてくるんだ???こっちは怪我をしてるんだから近づいてくるな!!』


 また喋っている。姿を消しているのが無意味だろう???


 レイは不思議に思いながらもそこにいる誰かに話しかけた。


「おい、隠れていないで出て来いよ!怪我してるんだろう?」


『な!?なんで怪我しているのがばれたんだ???』


「何言ってるんだお前?さっき自分で怪我したって言ってただろう!」


『いや、なっ―――――!?お前僕の声が聞こえるのか???』



「普通・・・・いや、ちょっと変わっているけど聞こえるぞ。」


『ほんとうか!?』


「ああ、本当だ。」


『僕の声が聞こえる人間なんて初めてだよ!』


 ん?人間? 何か引っかかるなとレイが思っていたら、突如目の前に巨大な輝く物体が出現した。


なんとレイ目の前には巨大な金属光沢に輝く青いドラゴンがいるのだ!!!


「・・・・・・・・・。」


 レイはさすがに驚いて声が詰まったしまった。

 


『あっ、やっぱり怖かったかな――・・・・。』


 

「かっ、かっ、かっ、カッコイイ―――――――――――!!!」

 

『え!?』


 俺は思わずメタルドラゴンに駆け寄り触り始めた。


「す、凄い!本当に金属で出来てるんだ!」


「すっげー綺麗だな!青色なんだけど見る角度で紫に見えたり虹色に見えたりするんだ!」


 ドラゴンはレイが舐めるように触りまくるのを身動きできず呆然としていた。


 少しするとドラゴンは我に返って恐る恐るレイに声をかけてきた。


『君は僕が怖くないのかい?』


「ん? 格好いいとは思うけど怖くなんてないぞ。」


『そうか、そうなんだ!!今まで会った人間は、僕を見ると逃げ出すか攻撃を仕掛けてくるんだ。僕は人間を襲う気なんかないのに・・・・話しかけても通じないし・・・君は変わってるんだね!』


「ん、ああ俺は『魔抜け』だから変わっていると言えば変わっているぞ。』


『そうなん・・・・・・つ!!』


 メタルドラゴンは急に苦しみ始めた。


「おい!お前どうしたんだ?具合が悪いのか?」


『さ、さっき両方の翼の先端を間違ってデスエリアに入れちゃったんだ・・・・そこから体が死に始めてるんだ・・・』


 デスエリアに体の一部を入れるだけでもそこから組織の壊死が体を浸食していき、最後には死んでしまうのだ。


「おい、翼なら切り落とせばいいだろう?死んじゃうよりいいんじゃないか!」


『僕の体はアダマイト合金だから切り落とすことはできないんだ。」


「アダマイト合金か・・・。」


 アダマイト合金はオリハルコンより硬い合金だ。

 

 レイは目の前で知り合ったばかりのメタルドラゴンがなす術も無く命を失おうとしているのにどうしようもない苛立ちを覚えた。


「お、俺に・・・こいつでお前の翼を切らせてくれ!」


『な、なんだって!?』


 俺は何の確証もないが、俺の木刀で何とかなるような気がしたのだ。


『それってオリハルコンでも、鉄剣ですらないただの木だろう!?』


「ああ、そうだ。でもこいつは俺が願えば鉄剣でも切れるんだ!」


 メタルドラゴンは少しの間目を閉じてから口を開いた。


『木刀が折れるかもしれないけどいいのか?』


「ああ、分かってる。」


『そうか、それなら試してくれ。』


 メタルドラゴンは体を伏せるようにして翼に剣が届きやすいようにしてやってレイの方を見て言った。


『百年前に両親と死に分かれてから同族を探し回ったんだけど誰とも会えなかった。人間や他の獣に話しかけても話は通じなかった・・・最後に・・・君に会えてよかった、本当に!』


 メタルドラゴンはゆっくりと目を閉じた。


 レイは居合抜きのような体勢で木刀を構え気合を入れ始めた・・・・レイの気合が頂点に達したその時、恐ろしい程の瞬発力でレイはメタルドラゴンの翼に向かうと一瞬蒼い閃光が走った!


 レイはメタルドラゴンの反対側に着地していたが、翼はまだ付いたままだった・・・。


 やっぱり駄目だったか。メタルドラゴンがそう思ったその時、両翼は付け根付近から滑る様に落ちていった。


『え!?え?えっ――――――――!!』


『な、な、なんで木刀でアダマイトが切れたりするの――――――!!』


「うん、上手くいったな。」


『そんな!なんでそんな落ち着いてられるの????』


「何となく切れると思ってたから。」


『は、ははは、まあいっか!助かった・・・・・痛ーい!!』


「あ、ごめん!やっぱ痛いよね。ちょっと待って今ポーションかけてやるから。」


 俺が翼の切り口にポーションをかけてやると痛みが引いたようでメタルドラゴンは苦しまなくなった。


「やっぱり人間用のポーションじゃあ翼は元に戻らないんだな。」


 俺が残念そうに言うとメタルドラゴンは首を横に振った。


『痛みが無くなっただけでも助かったよ。僕の体の中は生身だから痛みは取れるけど金属の外皮の損傷は直るのが遅いんだ。羽だと生えてくるのに数年くらいかかるかな。』


「そんなにかかるんだ。でも戻るなら良かったな!」


『うん!生き延びられただけでめっけもんだよ。』


「ところで、君はこれからどうするんだ?」


『暫らく飛べないから・・・・この辺を住み家にしようかな?』


「そうか!それなら俺の友達になってくれないか?」


 メタルドラゴンはすこし考えた後に躊躇いながら答えた。


『いいけど、メタルドラゴンが友達で良いのか?』


 彼は人間にとって畏怖の対象となるメタルドラゴンと友達になりたがる人間がいるとは思えなかったのだ。


「いや、全然!何か問題でもあるのか?」


『へっ?』


 メタルドラゴンはレイの回答に思わず大笑いをしていた。


「ん?俺なんか面白いこと言ったか?」


『ははははっ・・・はっ、いや、やっぱり君は変わってるんだな!分かった友達になろう。』


「そうか、良かった!俺はレイって言うんだ!君は?」


『んーっと僕は名前というのは無いんだ。僕たちメタルドラゴンは人間みたいに名前を付ける習慣が無いんだよ。』


「そうなんだ。でも友達になるんだっらメタルドラゴンって長いから呼びにくいよね。」


『なんなら、君が好きにつけてくれればいいよ。』


「そうか?俺が付けていいのか?」


『ああ。』


「メタルドラゴンだから、略して「メゴン」、いや、それなんか変だな・・・それなら「メル」いや、これも変か?いっそ「メラゴン」もっと変か?・・・・・・

 

 首を傾げならが小声でぶつぶつ言っているレイの案を聞きながらメタルドラゴンはすこし不安になっていた。


「よし、良い名前を思いついた!!」


 良い笑顔をしているレイを見てメタルドラゴンの不安は頂点に達した。


「「ソラ」ってどうかな?」


『「ソラ」ってあの「空」?』


 メタルドラゴンは上を指さした。


「そうあの「空」!」


『なんで?』


 別に変な名前ではないけど、なんで「空」なのかメタルドラゴンは凄く気になった。


「君の体が空みたいに青いからさ!」


『青い?いや空は緑だろう?』


「俺の夢の中では青いんだ。」


『夢? ま、まあいいか。「ソラ」気に入ったよ!』


「そうか!?じゃあ今日からお前は「ソラ」な!」



『ああ、僕は「ソラ」だ!よろしくね!』



「ああ、よろしく!」


 レイは右手の拳をソラは人差し指を出してコツンと当ててお互いに笑っていた。


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