5話 別離
俺が12才になった年の秋、村の収穫祭で使うチトの実をアニーと二人で森に採りに行った。
森は秋真っ盛りで木々は赤や黄色に色づいており、チトの実の収穫に丁度良い季節になっていた。
森の奥には強い魔物がいるが、この辺りにはホーンラット位しかいない。それでも女の子一人では危ないので、俺が護衛としてついてきたのだ。
10才になった時から帯剣が許されているのだが、俺は振り慣れた木刀を持ってきていた。
「アニー、チトの木は何処にあるんだ?」
ホーンラットぐらいならいいが、余り森の奥に行くとフォレストウルフなんかが出てくるから厄介なのだ。
「もうすぐよ。この先に大きな石があるのは知ってるでしょう?あの石の近くにあるのよ。」
「ああ、あの石の所か。あんなところにチトの木があったっけ?」
アニーの言っている石は10才より小さい子供たちはそこから先の森の奥へは行ってはいけないと大人たちから言われている目印だ。
「もう、レイったら、毎日狩に行ってるのに気が付かなかったの?」
「まあ、獲物に夢中だからな。」
俺は石の所まで来ると辺りを見回したが、チトの木は見えない。
「何処にあるんだ?」
「こっちよ!」
アニーは道から外れて森の中に入って行った。
少し歩くとチトの木の巨木が見えてきた。
「こんな所にデカいチトの木があったんだ。」
「そうよ、お父さんと一緒に来た時に教えてもらったの。凄いでしょう!」
アニーは自慢げに胸をはってどや顔している・・・。
「よし、さっさと収穫して村に帰るぞ。」
俺がチトの木に登り真っ赤に実った大豆ぐらいの小さな実を採りはじめた。
「私も行くよー。」
アニーが木登りを始めようとしたその時草むらに黒い影が。
「アニー直ぐに木に登れ!」
「えっ?」
黒い影は一気にアニーとの距離を詰めてきた。
速い!
俺は咄嗟に木の枝からアニーと突進してくる黒い影の間に飛び降りた。
「ぐふっ!!」
黒い影はフォレストウルフで、その角が俺の腹に突き刺さったのだ。
俺はフォレストウルフの首に一撃を与えて致命傷を負わせたが、まだだ。フォレストウルフは一匹では行動しない。
俺は激痛に意識を持っていかれそうになりながらも木刀を構えて辺りを見回した。
3、4・・・7匹、囲まれた!
ラインウルフは一匹なら大したことは無いが、群れで襲ってくるから厄介なのだ。
右手側の一匹が俺に向かって襲い掛かってきると同時に左手のフォレストウルフがアニーに襲い掛かってきた。
俺はアニーを守るため迷わず左手のフォレストウルフに切りかかった。
「こんのやろ――――!!」
俺は木刀を横薙ぎに振りぬき左側のフォレストウルフを右手側のフォレストウルフに殴り飛ばした。
2匹のフォレストウルフは瀕死の状態でひくひくしている。
次ぎ、来る!
一!二!三!今度は人振りで三匹とも首を切り飛ばしてやった。この木刀は何故か気合の入れ方で強度が上がったり、鉄剣の様に物を切ることも出来るのだ。俺はこの事を魔物狩りの実践で覚えていた。
後2匹!
残りのフォレストウルフは俺から少し距離をおいたところでこちらを見ている。
俺は残りの2匹を睨みつけた。
一匹が鼻をフン!と動かすと同時に二匹とも森の奥に走り去っていった。
行ったか? 俺は気を抜かずに森の奥を睨んでいた。
良かったフォレストウルフの気配が消えた!
「ぐふっ!!」
俺は安心したとたんに口から大量の血を吐き出して倒れてしまった。
「レイ大丈夫!今ヒールで直すから!」
アニー俺を抱き起して腹にヒールをかけたが、傷口が大きすぎてヒールでは塞ぐことが出来なかった。
「ヒール!、ヒール!ヒール!・・・・」
アニーは何度も俺にヒールをかけてくれたがヒールではどうしようもなかった。
「おーいどうしたんだ。」
近くを通った狩人のロンさんが俺達に近づいてきた。
「レイが、フォレストウルフにに刺されちゃったの!」
ロンさんは俺の傷を見ると。
「うっ、こいつははらわたまでやられてるぞ、エクストラポーションでも無きゃあ無理だな。」
「そんな―。」
村にエクストラポーションなど無い。
俺はその時死を覚悟し、大量の出血で意識がもうろうとしてきて目を閉じた。
「レイ、お願い、死なないで、レイー!!もう一回ヒ―――――ル!!!」
アニーのヒールを詠唱する声が一段と高くなった・・・その時・・・。
アニーとレイの周りに金色の光が溢れ始めたのだ。
「これは一体・・・?」
ロンは何が起きたのか分からず光輝く二人をボーっと見ていた。
「え? 傷が!」
金色の光の中、レイの腹の傷が見る見る塞がっていった。
「ま、まさかこの光は『エクストラヒール』なのか?」
ロンは驚いてその場に座り込んでしまった。
「うっ、ん―――ん?」
なんか腹の痛みが引いている。
俺は目を開けると目の前に涙でぐしゃぐしゃになったアニーの顔が見えた。
「これってアニーが直してくれたんだね?」
「レイ、良かった!本当に良かったー!」
アニーは泣きながら俺に抱き着いてきた。
この時、俺はアニーが使った魔法『エクストラヒール』で命を救われたのだ。
村に戻った後、ロンさんが大騒ぎしたのでアニーのエクストラヒールの話で村中が大騒ぎになってしまった。
村長さんが領主様に連絡を入れると数日後には魔法の鑑定士がアニーの家にやって来た。
鑑定士が手に持った水晶の玉にアニーが手をのせると玉は直視できないくらいの輝きを放ち始めた。
「凄い!!こ、このお嬢さんの魔力はこの玉では測り切れません!」
鑑定士は驚愕の声を上げ、アニーの両親は抱き合って喜んでいたが、アニーは浮かない顔をしていた。
この鑑定の後アニー達一家の王都行きが決まった。
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アニーが王都に発つ日の朝、俺はいつものように薄暗いうちから起きて剣の稽古のため近くの森へ歩いていった。
「アニー?」
森の入口にアニーが立っていた。
「レイ・・・・少し話をしない?」
「あ、ああ構わない。」
俺達は近くにあった大きな石の上に並んで腰を下ろした。
「ねえレイ、覚えてる? 小さい頃あたしがニルソンに良くいじめられていたのを。」
「あ、ああ。」
「そう、あたしがニルソンにいじめられていると必ずレイが来てあたしをかばってくれたんだよね。」
「あ、ああ、そうだったな。」
「あたしね、それがとても嬉しかったんだ・・・・レイが私の騎士になってくれているみたいで・・・。」
アニーはそう言って俯くとそのまま黙ってしまった。
しばらくするとアニーは自嘲気味に話し始めた。
「あたしね、今日王都に行っちゃうんだ・・・ふふっ嘘みたいあたしが『聖女』だなんて・・・。」
「いや、アニーは立派な聖女だ!」
俺がアニーの言葉を否定するとアニーは語気を強めて言った。
「レイ分かっているの?、もうあたしはレイに守ってもらえないし・・・レイに会えないかもしれないんだよ!!」
顔を上げたアニーの眼には零れ落ちそうな涙が溜まっていた。
「ああ、分かっている。」
俺も泣き出したくなっていたが、何とか堪えていた。
「レ、レイ、本当に分かっているの!?」
アニーの目からは大粒の涙が零れ落ちていた。
俺は立ち上がって右手を強く握りアニーに向かって行った!
「ああ、分かっている。もう会えないなんてことは無い!俺は強い剣士になって王都に行ってアニーを守ってやる!」
「本当?レイ!」
「ああ、本当だ!俺はアニーを守るためにずっと訓練していたんだ。これからもっともっと訓練して強くなってアニーを、聖女様を守ってやる!」
アニーは立ち上がり俺に抱き着いてきた。
「レイ!約束だよ!」
震えているアニーを抱きしめて言った。
「ああ、約束だ。」
昇り始めた朝日が蒼い世界に色を付け始めていた・・・。




