4話 ジョニー
レイが初めてジョニーと会った時から半年くらいした後、またジョニーがレイの家にやってきた。季節はそろそろ春である。
「よう!エバ、レイ、元気にしてたか?」
「ジョニー久しぶりね。」
「おっちゃんも元気だったか?」
「ああ、こんなに元気だぞ!」
おっちゃんは右手を曲げて力こぶを作って俺に見せてくれた。
「これからアーシャ遺跡の調査なのかい?」
「ああそうだ。これから半年ほどこの村にお世話になるよ。」
「宿屋は決まってるのかい?」
「ああ、あそこの大きなリーズの木がある所にとりあえず1週間部屋をとってる。」
「そうかい、でも何カ月もかかるから宿代が馬鹿にならないだろう。うちの空いてる部屋を貸そうか?あんたがいるとレイも喜ぶし。」
ジョニーは少し考えた後、ほっぺたを人差し指で搔きながら言った。
「ああ、そうさせてもらえると非常に助かる。」
「何言ってるんだい!あんた最初からそのつもりだたんだろう?」
「はは、ばれてたか!」
「そりゃ1週間しか予約してないって言った時にピーンと来たよ!」
レイはなんかとても嬉しそうだった。
「ねえ、ねえ、ジョニーのおっちゃん、俺んちに泊まるの?」
レイはおっちゃんの話が聞きたかったのだ。
「ああ、宿屋は前金で払っているのでキャンセルできないから、一週間後からお世話になるよ。」
「やったー!」
レイは両手を挙げて喜んだ。
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一週間後ジョニーがレイの家にやった来た。
ジョニーが入る部屋は半分物置になっていたので、荷物を納屋に移して中をきっちり掃除されていた。
晩飯はレイが獲ってきたホーンラットの肉を煮込んだものとライバードの卵のスープだ。野生のライバードの卵を獲るのは命懸けなので、家畜として育てられているやつが生んだ卵を買ってきたものだ。家畜と言っても頻繁に卵を生むわけではないので非常に高価なものだ。今日はエバが奮発したのだ。
「「「カンパーイ!」」」
ジョニーとエバはエールで、レイはワイルドベリーの果実水だ。
レイはまずは滅多にありつけない卵スープを一口飲んだ。
うん、美味い!
ホーンラットの肉を煮込んだものも柔らかくなってて、美味しい!
「このホーンラットはエバが獲ってきたのか?」
「これは俺が獲ってきたんだよ!」
レイは自慢げに答えた。
「凄いな!レイはもう狩をやっているのか。」
「この子ったらカイの木刀をあげたら、すっかり夢中になっちゃてね。練習だって言って森の入口でホーンラットの狩を始めちゃったんだよ。」
エバは心配そうな顔でレイの頭を撫でていた。
「だって、練習する相手がいないんだもん。」
「剣の練習をする友達はいないのか?」
「俺、魔抜けだから友達いないし。この間までは友達じゃあないけどニルソン達が絡んできていたから練習になってたんだけど、最近は俺の顔を見ると逃げるようになっちゃったんだ。」
「そういうことか、それなら仕事の合間におじさんが相手になってやろうか?」
「本当!いいの!」
レイは嬉しくて椅子から立ち上がった。
「ジョニー良いのかい、仕事で来たんだろう?」
「毎日は無理だけど、俺の息抜きに丁度いいかな。」
「それなら良いけど。無理はしないでよ。」
「ああ、もちろん。」
「やったー!!」
レイはやっと剣を習えるので喜んで跳ねあがった。
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ジョニーが来てから2日後の夕方、レイとジョニーは近くの草原に来ていた。
「まずは、軽く打ち合ってみようか。」
「うん!よろしくお願いします。」
レイは木刀をジョニーは木剣を構えて対峙した。レイは片手で木剣を持っており本気は出していないようなのだが、レイはジョニーの威圧で動けなくなっていた。
やっぱ大人とニルソン達とじゃあ違うな――――!でも、これじゃあ意味が無いよな。
レイは勇気を出してジョニーに向かって大上段から切り付けた。
カーン! 当然だが、ジョニーの木剣がレイの木刀を受け止めていた。レイは木刀を引くと直ぐに横から切り付けたが、それも木剣で受け止められた。
レイはその後も攻撃を繰り返すが全て木剣で受け止められてしまった。
「ふむ、思っていたよりやるな。今度は俺からいくぞ。」
ジョニーは木剣をレイ切り付けた。
速っ!!ニルソンなんかとは比べ物にならない。
カーン!レイは辛うじて木刀でおっちゃんの木剣を受け止めることが出来た。
「ほう、これを止められるのか? よし、それなら。」
ジョニーの2撃目がレイ腹を狙って来た。さっきより速い!
カーン!今回も辛うじてレイは受けることが出来た。
あーヤバかった!
ジョニーは少し驚いたような顔をした後3撃目、4撃目と繰り出してきた。
どんどん速くなってるぞ!!
レイは死に物狂いで3撃目と4撃目を受け止めることが出来た。
ジョニーの攻撃は更に続くが、何故かレイは全て受けることが出来ていた。
ふぅー!
ジョニーが息を整えた後、真剣な顔つきになり木刀を両手で持った。
それから・・・ジョニーの連打が始まった!
右から、左から、斜めから、上から、縦横無尽にジョニーの木剣がレイに襲い掛かった!!
「やっ!おぁ!とっ!ほっ!、はっ!」
や、ヤバい、なんか俺おっちゃん怒らせたか?
レイは必死でジョニーの木剣を受け続けていた。
「・・・・はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、・・・。」
流石のジョニーも疲れたのか、かなり息が上がっている。
もう終わりかとレイ思った瞬間!!おっちゃんが猛然とダッシュして切りかかった来た!
「ジョニー!あんた何やってんの!? 」
エバの声はジョニーには届かなかった・・・。
「おわぁ―――――!」
レイはジョニーの強烈な一撃を木刀で受け止めたが、そのまま吹き飛ばされて後ろの木に思い切りぶち当たってしまった。
「ジョニー!あんたレイを殺す気かい!!」
「はっ!?」
「え?あ、しまった!やっちまったか?」
ジョニーは真っ青な顔をしてレイの方に走って行った。
「だ、大丈夫か?」
「ああ、ちょっとこぶが出来たけど大丈夫だ。」
「そうか、すまなかった。と、とりあえずこのポーションを飲んで。」
ジョニーに渡されたポーションを飲むとレイの頭のたんこぶがみるみるうちに治っていった。
「こらっ!」
エバんがジョニーの頭にゲンコツを落とした。
「痛ってー!なにするんだよ!エバ!」
ジョニーは両手で頭を押さえて涙目になっていた。
かーちゃん本気でぶったな・・・あれ痛いんだよな。
「そういうあんたこそ何やってるんだい!6才の子供に本気になって!」
「いやっ、レイが俺の攻撃を全て木剣で受け止めるもんで、ついカーっとなって・・・。」
「だからって本気になるかい?」
「いやぁ打ち込みは6才にしてはやるじゃあないか程度だったんだが、剣を見切る力は大人顔負けだったぞ。お前一体どんな訓練をレイにやらせたんだ?」
「いや、あたしゃあ何もやってないよ。この子が一人でやってただけだよ。」
「独学で・・・これか・・・・・・・・こいつあ鍛え甲斐がありそうだ。」
ジョニーは立ち上がると上機嫌になりレイ頭をわしゃわしゃと撫でていた。
「そうだ!晩飯が出来たんで呼びに来たんだよ。井戸で手を洗ってきな。」
かーちゃんにそう言われたら腹の虫が鳴きだした。
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ジョニーが来てから1カ月ぐらいした頃、ジョニーが不思議な模様が描かれた箱を持ってきた。その箱は金属で出来ているみたいで、鉄剣の様に輝いていた。
ジョニーはそれを机の上に置きルーペと言うやつで覗き込んでいた。
「これは、キルルティア文明の物じゃあないな・・・。」
なんか独り言を言っている。
「おっちゃん何だ?その『きるるてぃあ』って?」
「あ、ああレイか。お前この世界の歴史をエバに聞いてないのか?」
「かーちゃんは文字と計算とポーションの作り方は教えてくれたけど『れきし』って言うのは教えてくれなかったぞ。」
「そうか、じゃあ簡単に教えてやろう。」
「うん!」
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ジョニーの話は簡単に言うと次のようなことだった。
太古の昔ルティア文明という文明が栄えていて、それは魔法で栄えた文明で、人々は皆高い魔力を持っており、魔法を使って一瞬で世界の何処にでも行くことが出来たり、遠く空の果ての星の世界まで行くことが出来た伝えられているのだが、約2万年前のある時期から人々は一切魔法が使えなくなってしまったらしいのだ。
それから人々は長い年月をかけて魔法に頼らない文明、機械と言う道具を使うキルルティア文明を発展させたのだが、この文明も1000年程前に世界の二つの大国が争った終末戦争で滅んでしまった。
その戦争の後、文明を失い滅亡の危機に瀕した人々を救ったと言われているのが賢者アルマと言う女性だ。アルマはルティア文明の人々の様な強力な魔法を使うことが出来、生き残った人々に魔法の使い方を教えて人々を導いたのだ。
いくばくかでも魔法が使えるようになった人々は、戦争後の厳しい環境の中を生き延び、現在に至るまで文明を少しづつ復活させてきたのだ。
「おっちゃんさー、そのルティア文明って時には星の世界まで行けたっていうことはデスエリアが無かったんだよね?その時は空も青かったのかな?」
「賢者アルマの詩ではそう書かれているが、アルマが生まれる遥か前の話だし、その頃の記録が何も残っていないから何とも言えないな。」
「ふーんそうなんだ。でもそんな大昔に文明ってのがあったのが何故分かるんだ?」
「それはだな、キルルティア文明を調べているうちに分かったんだよ。キルルティア文明は文字を本じゃあなく機械の中に書き込んでたので、戦争で機械が使えなくなった今ではキルルティアの事を調べるのも大変なんだけど、それでもキルルティアが残した道具を蘇らせることが出来ないか皆が色々と調べた結果、キルルティア文明の事が少しづつ分かってきて、それらの中からキルルティア文明以前にルティア文明があったことが分かったんだよ。俺が見ているこの箱も書かれている文字からルティア文明の物で間違いないはずだ。」
「昔の事を調べるのって大変なんだね。ところで、その箱には何が入っているの?」
「ああ、この箱はな・・・。」
「この箱は!」
レイは目を輝かせながらジョニーが持つ箱を見ていた。
「この箱はなぁ・・・。」
「この箱は!!」
「この箱が開けられないんで悩んでいるんだ! ハハハっ」
おジョニーはバツが悪そうに頭を掻いていた。
「ここに合わせ面があるから開けられるはずなんだが、びくともしないんだな。うん!」
「おっちゃん、俺にも見せてよ。」
「ああ、いいけど丁寧に扱えよ。」
「うん!」
ジョニーから貸してもらった箱を持つとズシリと重みを感じた。
一体何で出来てるんだろう?
少しいじくりまわした後、レイがジョニーが言ってた合わせ面みたいな場所を触ると・・・。
カチリ!
「あっ!開いた。」
箱が真っ二つに割れて中からガラスみたいな玉が出てきた!
「えっ?レイ!今何をやったんだ?」
ジョニーは目をぱちくりさせていた。
「俺はただ、ここを触っただけだぞ。」
「たったそれだけで・・・・いや、そんな事よりこの玉は宝玉じゃあないか?」
ジョニーは玉を手に取ってまじまじと見始めた。
「これは・・・・。」
俺はおっちゃんのただならぬ雰囲気に固唾をのんで次の言葉を待った。
「これは・・・・・・・・。」
「それで、これは何なの?」
「これは・・・・・・・・・・・・ただのガラス玉にしか見えんな・・・・。」
レイは思わずこけそうになっていた。
「念のためエバに確認してもらおう。」
ジョニーは玉をもって店の方に歩いていった。エバは鑑定の魔法が使えるのだ。
暫らくすると、エバが「綺麗なガラス玉だねー。」と言う声とジョニーの大きなため息が聞こえてきた。
ジョニーは肩を落として食堂に戻ってきた。
「箱の方は調べる価値がありそうだが、このガラス玉は何とも言えんな。昔の装飾品か?確かに加工技術は大したもんだが・・・。」
ジョニーが一人でぶつぶつ言っているのでレイは聞いてみた。
「おっちゃん、その玉いらないなら俺にくれないか?」
ジョニーは少し考えた後に口を開いた。
「まあ、良いだろう。おそらくキルルティア文明人がルティア文明の箱にガラス玉を保管していたんだと思う。これだと使い道もないからレイに預けよう。大切に保管しておいてくれよ。」
レイはジョニーから玉を預かると満面の笑みを浮かべて言った。
「うん!大切にするよ!」
ジョニーはそれから半年ほどアーシャ遺跡を調査した後に王都の大学に帰って行った。




