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3話 父の形見

「レイ!どうしたんだい!その頭!?」


 家に入った俺を見るなりかーちゃんが血相を変えて駆け寄ってきた。


「いや、ちょっとニルソン達とやりあっちゃって・・・。」


 レイは頭の血を川の水で洗ってくるべきだったと後悔した。


「彼奴ら5人ぐらいつるんでいるだろう?あんなの相手にしたのかい?」


「ああ、初めは上手くやってたんだけど、木剣が折れちまって・・・。」


「木剣?・・・お前に木剣なんて買ってやった覚えは無いよ!」


「ああ、その木剣は俺が自分で作ったんだ。」


 レイは折れた手製の木剣をエバに見せた。


「いや、お前、これはリーズの木じゃないかい!普通木剣は硬いキールの木で作るんだよ!」


「そうなのか?じゃあ今度はキールの木を拾ってくるよ。」


「いや、そう言うことじゃなくて・・・。」


 エバは木剣をレイに与えなかった事を後悔した。


「そうだ!そんな事より、頭の傷を見せてみな!」


「ああ、これ?もう治ってるよ。」


「え?でもこの大量の血は?」


 エバは傷を確認するためレイの髪の毛をかき分けた。


「本当だ!傷が治ってる!?・・・お前店のポーション勝手に持って行ったんじゃないだろうね!?」


「かーちゃん酷いな、俺そんなことしないよ!これはアニーがヒールで直してくれたんだよ。」



「な、アニーだって!あの娘は聖属性魔法のヒールが使えるのかい!?」


「ああ、この前覚えたんだって。」


「そうかい、そいつは凄いね!・・・そうだ、この事は他の人に言うんじゃないよ!」


「ああ、分かってる。アニーにもそう言われたから。」


 エバはレイの頭に水をかけて血と泥を落としてやった。


「ほら、この水で目も洗っときな!」


 俺はかーちゃんに渡されたバケツの水で目を洗うとやっと前が普通に見えるようになった。


「じゃあ、かーちゃん俺ちょっと森に行ってくるから。」


「お前何しに行くんだい?」



「いや、今度はキールの木の枝を拾ってくるんだ。」


 エバはこめかみを右手で押えた後、諦めたように大きくため息を吐いた。



「はぁ――――ぁ! やっぱりあの人の子だね!」


「なんだ?父ちゃんのことか?」


「そうだよ!ちょっとついてきな!」


 レイエバについていくと、エバは納屋の奥から細長い箱を引っ張り出してきた。


「これは、お前の父さんが昔使っていた物だよ。」


 箱の中から、細長い木の棒が出てきた。


 長さは大人用の木剣と同じぐらいだが、刃に似せた部分は片側しかなく、木剣みたいに真っすぐではなく、刃の反対側に対して反っているのだ。


「かーちゃん、これって変な形をしているけど本当に木剣か?」


「これはな、木刀って言うんだよ。昔父さんが練習用に使っていたんだ。これをお前にやるよ。」


「な、本当か?かーちゃん!」


「ああ、本当だ。これなら木剣相手なら折れることは無いよ!」


「やったー!これで彼奴らに負けないぞ!」


 俺は飛び上がって喜んだ。


「レイ、分かっていると思うけど、決してお前から喧嘩を仕掛けるんじゃないよ!」


「うん!分かってるよ。」


「それとだね・・・・。」


 エバは少し躊躇うような顔をした後に話始めた。


「この木刀に魔力を込めるとね、オリハルコンの剣の様に魔法を使えるようになるんだよ。」


「何、本当!凄い。かーちゃん何で今までなんでこの木刀のこと黙ってたんだ?」


「それはね、木刀で魔法を使うということはオリハルコンの剣の数倍も難しいからだよ。」


「でも、出来るんだろ?」


「ああ、お前の父さんは出来たぞ。」


「それなら問題ない。俺頑張るから。」


 レイの父は剣士として身を立て、レイが小さい時に戦いに敗れて命を落としていた。レイにそんな人生を歩ませたくないと思っていたエバは敢えて木剣を与えなかったのだ。


 それでも、蛙の子は蛙、エバは少し嬉しかった。


「それじゃあ、かーちゃん。魔法の使い方を教えてよ。」


「ああ、剣での使い方は知らないけど、魔法を使う時のコツはおしえてやるよ。」


 レイはその時かなり有頂天になっていた。





 やっぱり簡単にはいかないよな。


 レイは家の手伝いの合間に毎日エバに教わったように木刀に魔力を込めるような気分になりながら縄で木に吊るした木片を相手にしていたが、木刀は一向に輝く気配はない。


 まあ、オリハルコンでも何年もかかるのだから仕方ないか。


 レイは来る日も来る日もひたすら木刀を振っていた。


 ある日、そろそろ家に戻ろうとしていると近くの灌木がガサガサと揺れた。


 ヤバい、ホーンラットだ!


 ホーンラットは角が生えたネズミ型の魔物で大型の犬ぐらいのサイズがある。すばしっこくて角で脇腹でも刺されたらひとたまりもない。


 逃げ損ねたレイは、仕方なく木刀を構えてホーンラットと対峙した。


 ホーンラットはじりじりとレイとの間合いを詰めると一気に突っ込んできた。


 

 レイは突進してくるホーンラットを辛うじて横に避けるとホーンラットは直ぐにUターンして再びレイに向かって突っ込んで行った。


 やばっ!


 レイは体を捩じりながらホーンラットを避けたが、ホーンラットはレイの左足のズボンを切り裂いた。



 レイが何とか体勢を立て直している間にホーンラットはレイに向かって牙を剥いてとびかかって行った!


 レイは無我夢中で木刀を振り回した!


 バキン!


 木刀が捉えたのはホーンラットの角だった」。


 ヤバい木刀を折っちまった!


 レイはドキッとして木刀を見ると何事も無かったように無傷だった。


 なんでや?・・・・おっと!


 レイは戦闘中だったことを思い出し、慌ててホーンラットの方を振り返ると、ホーンラットはふらふらと少し前進したかと思うとそのままドサっと地面に倒れてしまった。


「ん?」


 レイは地面に落ちていた尖ったものを見つけて拾い上げた。


「これは、ホーンラットの角?」


 そう折れたのはホーンラットの角の方だったのだ。


「この木刀すげー頑丈だな!」


 レイは初めてホーンラットを仕留めた事に感激していた。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ホーンラットを倒してから数日後、またニルソン達がアニーにちょっかいを出していた。


 レイは以前と同じ様にニルソン達とアニーの間に割って入っていった。


「また、お前か!」


「お前かって言われてもニルソンがアニーにいじわるするからじゃないか!」


「何を―――――!生意気なこと言いやがって!」


「ふん、お前本当に死にたいみたいだな!」


 ニルソンは銅け・・・・・いや、あれは鉄剣じゃね?


「どうだ!驚いたか、この間父ちゃんに買ってもらったんだ!」


 ニルソンはそう言うと前と同じように大上段から切りかかってきた。


 いくら頑丈な木刀でも鉄剣に適うわけない!レイは奴の左側に避けて奴の腹に木刀を叩き込んだ。


 ニルソンは呻き声をあげると胃の中の物を吐き出した。


「く、くそー!お前ら!この魔抜けをやっちまえ!」



 俺はまた取り囲まれてしまった。今度は5人だ。


「この野郎!」


 先日レイの頭を勝ち割った少年がレイに切りかかって行った。


 レイは木刀で木剣を受け止めると、他の4人が一斉にレイに向かって行った。


 レイは受け止めていた剣を弾くと木刀を片手に持ち替え体を回転させながら横薙ぎに振りぬいた!


 カキン!カキン!カキン!カキン!


 彼等の木刀は全て弾き飛ばされ丸腰になるや否や、レイは頭を勝ち割った少年の腹に木刀で思い切り突きをお見舞いしてやった。


「ゲぼっ、げぇ――――。」


 その少年は白目を剥いて後ろに倒れた。


 よっしゃー! 絶好調――――! 


 と思った瞬間レイの目の前に火の玉が飛んできた。ニルソンがファイアボールを打ったのだ!


「人に撃つか――――――!」


 レイは反射的に木刀をファイアボールに向かって振り下ろしていた。


 パッカ――――――――――ン!!


 ファイアボールは二つに割れて後ろに飛んでいった。


「「「「あっち―!」」」」


 二つに割れたファイアボールは俺を取り囲んでいた4人の所に炸裂し、奴らの服や髪が燃えていた。


「はぁ―――――――っ?お前、何て非常識なことをしやがるんだ!」


 ニルソンがレイがやったことに呆れていた


 非常識と言っても何が起きたんだがレイにも分からなかった。


 レイが取り囲んでいた奴らに気を取られている間にニルソンが間合いを詰めてレイに切りかかってきていた。


 「てめえ、そこまでだ―――――!」


 レイ反射的に木刀を前に出してしまった。


 鉄剣 対 木剣、木刀がもつはずがない!


 かーちゃん、ごめん!


 レイは自分が怪我をすることより木刀が折れてしまうことを心配していた。


 ガッキ――――――ン!


 何故か金属同士がぶち当たるような音が周囲に響き渡ったるとともにレイの手に衝撃が伝わってきた。


 何と木刀が鉄剣を受け止めていた。


「な、何だこの木剣は!?」


 ニルソンは目を丸くして驚いていた。


 レイは反撃のためニルソンの鉄剣を押し戻すと。


 パキ―――――ン!


 なんと、鉄剣の方が折れたのだ。


 ニルソンはさらに目を見開いて鉄剣の折れた部分を覗き込むように見た。


「なんだこれ!不良品か?」


 レイは茫然としているニルソンの脇腹に木刀を叩き込むとニルソンの体はくの字になって前のめりに倒れこんだ。


 なんか妙に上手くいったな。これは全てこの木刀のおかげだ。


 レイは木刀に感謝しながらアニーと家に向かって歩きだした。



 この日の後、ニルソン達はアニーに絡むのをやめた・・・が、今度はレイに絡むようになってしまった。


 レイは少し鬱陶しいと思っていたが、剣の練習にはなっていたようだ。


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