17話 激高
レイ達がドラゴンに追いかけられている3人の冒険者に出会った時から少し時間を遡る。
昨日レイに絡んでいた3人の冒険者がクレタ山に入ろうとしていた。
「おい、ベン!本当にクレタ山に入るのか?」
「なんだ、ケンは怖気づいたのか?」
「いや、ドラゴンみたいなモンスターに大怪我させられたってのはAランク冒険者って話じゃないか?流石に危なくないか?」
「そのモンスターが出たって言うのはクレタ山の外輪山の内側だろう。ここは外側で、そこから一番離れた場所なんだから大丈夫だって」
「ギルドがクレタ山全域を入山禁止にするなんて大げさなんだよ!」
「そうだ、ケン、怖いんなら俺達二人で行くぞ。」
もう一人の男ヨウキがケンを揶揄うように言った。
「いや、俺も行くって!」
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「どうだケン、来てよかっただろう?」
「ああ、確かにベンの言う通りだったよ!」
数日間入山が禁止されていたため、山の奥まで行かなくても魔物の数が多くなっているとベンは予想していたのだ。
「大気の塵よ我が元に集い力を与えよ! ”ライトニング”」
ケンの手から帯電した空気の矢が飛び出し、水牛型の魔物「クレージーホーン」に突き刺さった。小さな雷が魔物の全身に走ったと思うと魔物はその場にぐったりと倒れこんだ。
「やったぜ!」
ケンは嬉々として狩った魔物に近づいていくと、何故かその手前でフリーズしてしまった。ケンは顔は青を通り越して真っ白になっている。
「おい、ケン。どうしたんだ?」
ケンの異変に気が付いたにヨウキが声をかけると、ケンは一言も発することが出来ず、ぎこちなく右手を上げて指さした。
「なっ!?」
ケンが指差した先にはクレイジーホーンが横たわり、さらにその目と鼻の先には巨大な青いドラゴンの顔があったのだ!
『おい、バカやろう!AIなんで遮蔽装置を解除したんだ!?』
『アノ攻撃ハ竜騎兵ヘノ敵対行為ト見做シマス。コレカラ敵ヲ排除シマス。』
そう、ケンの攻撃は遮蔽装置で姿を隠していた竜騎兵の鼻先で炸裂したのだ。
『いや、あいつらはただ獲物を獲っていただけだろう!』
『・・・・・・』
『くそ、まただんまりかよ!』
そんな会話をしている間に彼等は我に返り全速力で逃げて行った。
『逃ガシマセン!』
AIは竜騎兵を浮上させると彼らを追い始めた。
『お前ら!全力で逃げろよ!』
竜騎兵の中に男の声が虚しく響いていた。
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3人の冒険者はクレタ山から下りて灌木の生えている草原地帯に出ると大声で叫んだ!
「「「うぁー!誰か助けてくれー!」」」
直ぐ上には青いドラゴンが浮かびこちらに向かってくる。
ドラゴンは右手を上げると、まるでゴキブリでも叩き潰すかのようにその手を振り下ろした!
ガキィ―――――ン!!
ドラゴンの手は男たちに届くことは無く、鈍い音共にはじき返された!
『ナンダト!?』
AIは男たちが潰されているはずの場所を見ると、そこには剣を持った少女が一人立っていた。
『マサカ、コノ人間ガ?・・・・・アノ武器ノ材質ハ、セルロース、ヘミセルロース・・・・木材ダト?』
『ははっ・・・木刀で竜騎兵の攻撃を跳ね返しただと?』
中尉は余りにバカげた状況にAIと共に呆然としていた。
「おいドラゴン!人間の言葉が話せるならこちらの言ってることも分かるんだろう?こいつ等が何をやったか知らないが、攻撃を止めてくれ!」
この少女は何を言っているんだ? なぜこちらが「言葉を話せること」が分かるんだ?
AIも中尉さらに困惑した。彼らが使っている言葉は【暗号化された通信】であり、人間に聞き取れるはずがないのだ。
この少女は一体何者だ?人間なのか?
中尉は恐る恐る少女に聞いていみた。
『君は私の声が聞こえるのか?』
「ああ。少し変な声だけど聞こえるぞ!ソラと同じ感じだな。」
『ソラ?そのソラというのも竜騎兵なの・『竜騎兵ノ攻撃ヲ跳ネ返シ、アマツサエ暗号化通信ヲ解読デキル人間ナド、本機ニトッテ最大ノ脅威ト判断スル!ヨッテ全力デコノ対象ヲ排除スル』
中尉の質問を遮ったAIは少女への攻撃を開始した。
竜騎兵は右手を横薙ぎに振り回して少女を叩き飛ばそうとした。
「おあっと!あぶねえなあ!」
少女は人とは思えない程の跳躍で右手の攻撃を躱したが、そこに真上から竜騎兵の左手が落ちてきた!
『ばかやろう!宙に飛んだら逃げられないだろう!!』
俺は少女を叩き潰しちまうのか!?
彼がそう思った刹那、少女は左手の下から後方に飛び出していた。
潰す対象を失った左腕は轟音と共に地面にめり込んだ!
『はっ?何が?』
彼が状況を理解する前に少女は左手に飛び乗り、そのまま腕の上を走って竜騎兵の頭部へと突進してきた。
『コイツ!』
少女の突飛な行動にAIは次の攻撃に移ることが出来なかった。
「人の話を聞かんか————い!」
少女は竜騎兵の鼻の上にある角に横薙ぎに切りかかったのだ!
『何を無茶な!木刀なんかでアダマンタイトが切れるわけないだ・・・・』
木刀は折れることなく角を横切って行ったのだ。
『いやっ、何が?』
なんと!目の前にある角に真横に線が入っている!!
『そんな、まさか?』
角は線の部分から少しづつずれて行きそのまま落下してしまった・・・。
少女は角の折れた鼻先に飛び乗ると木刀をこちらに向けて仁王立ちした。
「おまえ、この世界の人達を救った青いドラゴンじゃあないのか?そんなドラゴンがなんで人を殺そうとしてるんだ?」
『俺は人を殺したいなんて思ってなんかいない!この竜騎兵が狂ってしまい制御出来なくなっているんだ!』
「は?制御ってなんだ?」
そうだ、この中世のような世界の人間に言っても無理か・・・・それなら!
『俺の中には二人いて、もう一人が俺の言うことを聞かないで勝手に体を動かしているんだ!』
いや、これも無理があるな・・・。
『そうか、それじゃあそいつを眠らせればいいんだな?そいつは何処にいるんだ?』
へっ?何でこんな話を信じるんだ?
『ソンナコトハサセマセン!』
AIは鼻の上に乗った少女を右手で払い落そうとすると少女は竜騎兵の頭の上に駆けあがり攻撃を避けてしまった。
この少女ならAIの暴走を止められるかもしれない。
彼は一縷の望みを少女に託した。
『頼む!この竜騎兵の首の付け根の銀色の鱗の部分にその剣を突き刺してくれ!』
『私ヲ裏切ルノデスカ!!ヤハリ貴方ハ狂ッテイマス!』
少女は首を駆け降りていくと小さな銀色の鱗を見つけた。
「ここだな!」
少女が木刀を振り上げたその時、竜騎兵全体に凄い振動が起こり少女は竜騎兵から振り落とされてしまった。
『ソウ易々ト破壊サレルワケニハイキマセン!』
それから竜騎兵は少女に対して、尾や手足による物理攻撃を続けるが、少女の動きは早く竜騎兵の攻撃は当たることは無かった。
本来竜騎兵は対人用に造られたものではないため、こういった戦闘には不向きなのだが、
AIの学習による攻撃パターンの予測により少女が急所となる銀の鱗を攻撃するのを防いでいるのだ。
AIの学習能力の速さに彼は驚く一方で、AIの攻撃に彼は違和感を感じていた。こいつ何故過粒子砲を使わないんだ?
彼がそう思った時には大きな岩の前に少女は立っており、過粒子砲が充填される音が聞こえてきた。
そうか!こいつ過粒子砲からの逃げられない様に少女を誘導していたのか!
彼は大声で逃げろと叫んだが、それと同時に過粒子砲は拡散モードで放たれた!
拡散モードは威力は弱くなるが広範囲をカバーするため、少女に逃げ場はない!
過粒子砲の閃光が少女に襲い掛かった刹那に、過粒子砲は見えない何かに全て跳ね返されたのだ!
『リフレクションシールドニ遮蔽装置ダト?』
竜騎兵内にAIの驚きの声が響き渡った。
少女の前には小柄な竜騎兵が現れたのだ。
『識別番号1077、第34竜騎兵隊所属機、機体サイズカラリジェネヲシタト思ワレル。』
何?77だと?彼女は生き残っていたのか?リジェネをしているのだからかなりのダメージを負っていたのだろう。
「リジェネ」とは竜騎兵がパイロット含む機体に重大な損害が発生した時に機体ごとパイロットまでも再生するシステムである。損傷個所を機体の他の部分から持ってきて補うため、機体のサイズが小さくなるのだ、リジェネが完了し、元の機体にまで成長するには十二分にある基地内のエネルギーを使っても1年は時間を要し、その間は無防備となるため、本来なら基地内だけでしか行えわないのだ。
基地なんてどこにもないのだろう・・・。
彼は複雑な気持ちで77を見ていた。
『識別番号1077ノ両翼ガ切リトラレテイル。断面カラ目前ニイル人間ノ攻撃ニヨルモノト考エラレル。』
なんだと・・・?
「ソラじゃやないか!」
『レイ、大丈夫だった?』
「ああ、なんとかね。ブレスをはじき返してくれてありがとう。流石にあれを全て木刀で捌くのは難しかったからね。」
『はは、でもレイなら出来るよ。ところでこのメタルドラゴンはどうしたの?』
「世界を救った伝説のドラゴンらしいんだけど、体が勝手に暴れているから止めてほしいと頼まれたんだ。」
『手伝おうか?』
「本当か?あいつ意外とすばしっこいんで助かるよ!」
『それじゃあ、行くよ!』
「ああ!」
『え?あなた達、作戦を決めないの? いきなり行くよって、そんな無茶よ!』
アリスの忠告は無視され、レイ達は巨大なメタルドラゴンに立ち向かって行った。
『 識別番号1077本機ハ敵デハナイ!敵ハソノ人間ダ!』
1077はAIの言葉を無視して真っすぐ突進して来ると、直前で急旋回して尾で竜騎兵の頭部を思い切りひっぱたいたのだ。
AIは1077の尾を掴もうと右手を伸ばすが既に1077の姿は無かった。
『ナ!?』
左右を見回すが1077は見当たらない。
ズガーン!
竜騎兵はソラの尾で頭を思い切り叩かれて地面にのめりこませてしまった。
「ソラ!サンキュー!」
少女は既に銀色の鱗の傍に立ち木刀を突き刺すように銀色の鱗に振り下ろしていた。
キーン!
「痛ーっ」
木刀は突き刺さることも折れることも無かったため、振り下ろした力が全て手に戻って来てしまったのだ!
竜騎兵は再度体を震わせ少女を振り払った。
少女は一回転すると地面に着地し体勢を整えた。
「あそこは他より硬いんだな。」
『レイ、どうする?』
「少しイメージがずれていただけだから、もう一度やればいけると思う。」
『そうか、それならもう一回』
『 通告する!識別番号1077本機ニ逆ラウ事ハ軍規ニ反シテイル。直チニ戦闘行為ヲヤメナサイ!』
AIのやつ、戦況が不利だから1077を懐柔しようとしているのか?
それにしても1077のやつ凄く接近戦に慣れてるな。あの少女との連携も凄い。
少女と戦って翼を切り取られたと思っていたけど、あれは戦友って感じだな。
中尉がそんな事を考えていると、また前方から1077の姿が消えていた。
遮蔽装置? いや、後ろだ!
1077は竜騎兵の尾に自分の尾を巻き付けていた。
何をする気・・・「おあー!」
突然、急激な横Gと共に景色が真横に動いていった。
1077は3倍の質量の竜騎兵を尾で投げ飛ばしたのだ!
竜騎兵は数十m吹き飛ぶと真横になって止まった。
『レイ!今だ!』
1077の言葉よりも早く、少女は銀色の鱗に向かって突進していた。
「うりゃ————っ!」
少女の木刀は、まるで相手がスライムであるかのように銀色の鱗の中心に突き刺さった!