15話 伝説
誤字報告ありがとうございます。
本当に久しぶりに連載を再開します。
『ランディ!マナの補給を頼む!』
「了解しました中尉!リフレッシュヒールはしなくても大丈夫ですか?」
『やりたいところだが時間が無い!南西側に敵に侵入を許してしまった。マナの補給だけで出撃する!』
「了解しました!」
円筒形のドック内に浮いている青い巨大な金属の機体にマナ補給用のチューブが接続されると機体は青く輝き始めた。
昨日の奇襲攻撃を皮きりに戦闘状態が続き、彼の休息時間がほとんどなくなっていた。
『ランディ、クレーターキャノンの完成はまだか?』
「出来たとは聞いていませんね・・・まあ、出来ていても最重要機密なので唯のメカニックの私なんかじゃあ情報の入手は出来ませんがね。」
クレーターキャノンとは、彼らの陣営が開発していた新兵器で、完成すれば現状を打破できると期待されている兵器である。ただ、機密事項のため上層部にしか詳細な情報は知らされていない。
『マナの補給が完了した。出るぞ!』
「中尉!ご武運を!」
青い機体はチューブが外れると一瞬その姿が揺らぎ、円形のドックから消え去ってしまった。
『くそっ!あいつ等もうこんな所まで・・・。』
眼下の居住地区には至る所に火の手が上がっていた。
この数かけ月の間は戦況は硬直状態にあり、中立地帯での小競り合い続いていたのだが、昨日敵対する陣営が奇襲攻撃を仕掛けてきたのをきっかけに戦火が至る所に拡がっていた。
((戦闘中の空挺部隊に告ぐ!遂に最終決戦の時が来た、これから示す空域から速やかに退避しなさい!!))
中尉の頭の中に基地からの通信の声と共に指定された空域の地図が浮かびあがった。
バカヤロー!こんな広大な空域からどうやって退避しろって言うんだ!!
基地からの通信が指定してきた空域は当たり一面を覆い尽くし退避場所などほとんどないのだ。
彼は基地のある方向を振り返ると、山だったところが割れ、そこに巨大な過粒子砲が出現していた。過粒子砲は一つではなく、数十機にも及んでいる。
あれがクレータキャノンか!
(最後通告です!空挺部隊は直ぐに退避しなさい。)
過粒子砲の砲口が赤く輝きだした。
あそこだ!
中尉は機体を川沿いの窪地まで移動させることで危険空域から離脱しようと試みたが、
機体が窪地にたどり着く直前にその声は響いた。
(発射)
『くそったれ!』
中尉が乗る青い機体のすぐ脇で爆発が起き、機体はその爆風で窪地まで飛ばされ窪地に突き刺さった!間を置かず過粒子砲の赤い光が彼の機体の直ぐ近くをかすめていった!
中尉は意図的に近距離で機雷を暴発させることで機体を過粒子砲の軸線から外したのだ。
市街地に侵入していた敵国の竜騎兵は全て閃光を放って消え去って行った。
これで戦いが終わるのか・・・。
中尉は、過粒子砲の赤い光の帯を見ながら呟いた。
彼が生まれた時には既に敵国との戦闘状態が100年以上も続いていた。全ての国民は戦闘員であり、人工授精により生まれ、親を知らずに育ち、戦地へと赴いていったのだ。
そんな世界で育った彼であるが嫌な思い出ばかりじゃなかった。戦友とバカをやった思い出だってあるのだ・・・・ただ、そんな奴らももういない。
そんな思いに耽っていると、3次元レーダーに映る過粒子砲の光跡に違和感を覚えた。
過粒子砲が中立地帯で消えているだと!
過粒子砲が消えた地点は中立地帯で半円形を描いている。
シールドでもあるのか?
3次元レーダーの解像度を見ると過粒子砲は何かの障壁に当たって消えているのだ。さらに、その反対側には敵陣営から放たれた過粒子砲の光跡が全く同じ様に消えていて、二つの消えた箇所を合わせると綺麗な円を描いている。
奴らも過粒子砲を使ったのか?ここに一体何があるんだ?
この円形の内側を見るとすり鉢状に凹んでいる・・・まるでクレーターの様に。
クレーターだと?
中尉がそれに気づいた時、膨大な荷電粒子により大気を震わせていた過粒子砲の砲撃が止まり辺りが静寂に包まれた。
少し経ってクレーターの中央にわずかなエネルギー反応が確認された。
一体何が始まるんだ?
中尉は目視で確認するため機体を浮上させた。
クレーターの中心付近を拡大してみるとボゥッと淡い青い光が出現している。
あれは何だ?
機体の戦闘補助AIは警告音と共に叫び始めた。。
『危険、計算デハ、アノサイコエネルギーハ1分後ニハ3兆倍ニ増加スル見込ミ、直チニコノ空域ヲ離レルコトヲ推奨』
サイコエネルギーだと?・・・まさかあれを”デスエリア”に放つつもりか!?
デスエリアは通常兵器の攻撃は何もなかったかのように通過させるが、サイコエネルギーだけは通過させないのだ。
過粒子砲の膨大なエネルギーをサイコエネルギーに変換してデスエリアを破壊するつもりなのか?
デスエリアを破壊できればよいが、出来なければ・・・・・・この世界が崩壊する!!
『何考えてんだ!!』
中尉はAIの警告を無視してクレーターに突進した。
サイコエネルギーは既にクレーターの全体を覆っている。
『くそったれ—――――――――!!』
機体の全武装がクレーターの中心を向かって放たれた!
その直後、彼の機体は真っ白な光の闇に包まれた。
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『・・・じゃあ、ジョニーは王都の東街の運河の前のコーヒショップに行ったことがあるんだ!』
『ああ、俺は王都の全てのコーヒショップに行った事があるんだぞ!あの店は俺の中では王都で1、2の美味さだな。」
『そうよねー、あそこのコーヒは本当に美味しかったわね!』
『あの芳醇な香りと心地よい苦み最高だな。」
「そうよね!・・・・」
レイがアリスの存在をジョニーに説明した後、アリスがレイを介して念話で会話をすればジョニーもアリスと話せるんじゃないかと言ったので試してみたら、なんとアリスとジョニーが会話できるようになったのだ。
それからずっと二人で王都の話をしており、レイの頭の中に二人の会話はずっと響いていた。
レイも会話に入れたらよかったのだが、王都の会話なので加わることが出来ないレイは仏頂面をしていた。
「も―――――!!二人共、俺の頭の中で会話するのはやめてくれ!」
レイは王都のことは知らないので会話に入れず、頭の中で二人でガンガン話をしているので五月蠅くて仕方なかったのだ。
『もう、せっかくレイ以外の人と話が出来たんだから、少しぐらい良いじゃない』
「いや、五月蠅すぎてかなわないから暫らく黙っててよ!」
『ぶ―――――っ!!レイのケチ!』
「レイ、悪かった。コーヒの話になるとつい夢中になっちまうんだ。」
「ところでさ、俺を介さないで念話で話せないのか?」
『それはねー。試してみたんだけど無理っぽいのよ。』
「何で?」
『私はレイに寄生しているようなものだから私には魔法が使えないの。この念話はレイの魔力を使ってるのでレイを介さないと誰とも話せないのよ。』
「うぇー鬱陶しいなぁー。」
『ごめん、これからは少し自重するから、許して!』
「まぁ自重するって言うなら我慢するよ。」
『そう!ありがとう!!』
アリスの言葉の調子から満面の笑みの可愛い女の子をレイは想像したのだが、その笑みを見ることが出来ないのがちょっと残念だった。
「お、クレタの町が見えてきたぞ!」
ジョニーが指さす方を見ると遠くに石の防壁で囲まれた町が見えてきた。
町の背後には鬱蒼と木々が茂る山が迫っている。
「あれ?クレタには壁があるんだ!」
「まあ、あの町の直ぐ近くにあるクレタ山脈は円の形に山々が連なっていて、その山中、特に山脈に囲まれたすり鉢状の窪地に沢山の魔物が住んでいるんだ。すり鉢状の地形の中央付近にある湖には世界を救った巨大な青いドラゴンが眠っているという伝説もあるくらいだからな。」
青いドラゴン?それってソラの仲間かな?レイがそんなことを考えているとアリスが
『ねえ、何でそんな危ない所に町を作ったの?』
「あの町は元々山にいる魔物の素材を収集するために集まった冒険者達が作り上げ村が発展して町になったんだ。」
『虎穴に入らずんば虎子を得ずってことね。』
「その通り、だからあの町には名うての冒険者が大勢集まってくるんだ。」
「そうか、なんか腕が鳴るな~!早く冒険者登録するぞー!!」
レイは右腕をぐるぐる回して意気込んでいた。
「まあ、そうは言っても、レイはGランクからだから魔物の討伐依頼は受けられんぞ。」
「え? ああそうかニルソンも言ってたな最初は薬草採取だって・・・。」
ジョニーはあからさまに落ち込むレイの肩を叩いて言った。
「まあ、そんなに落ち込むなって!俺にいい考えがあるから。」
「いい考えって何なんだ?」
「それは、冒険者登録してからのお楽しみだ!」
「勿体ぶらないで教えてくれよー!」
ジョニーはレイなら絶対大丈夫だと言ってレイには教えてくれなかった。
クレタ町の入口に到着すると門番から身分証を出すように言われた。
おっちゃんが身分証を提示すると、門番は急に背筋を伸ばして敬礼した。
「まあ、そんなに畏まらなくっていいから。そうだ、連れは俺の知り合いの娘なんだが、まだ身分証を持ってないんだ。俺が保証人になるから通してもらっていいかな?」
「はい、大丈夫であります!」
俺は門番に軽く頭を下げると門をくぐって町に入って行った。
町の中にはいかにも冒険者といった風体の人達で溢れかえっており、ある者は大剣を背負い、またある者は魔法使いが使う杖を携えたりしている。
流石冒険者の街!!
レイは興奮して思わず辺りをきょろきょろと見渡していた。
『レイ、田舎者丸出しだからやめなさいって!』
「いや、でも、これ見たら興奮するだろう!」
「よう可愛いねぇちゃん、何か探し物かい?」
ふと気が付くとレイを取り囲むように3人の男が立っていた。
「いや、探し物をしているんじゃない。ギルドに行こうとしてるんだ。」
「へーつそれは奇遇だな、俺達はこれからギルドに行くところなんだ。一緒に行かないか?」
レイは3人を頭の上から足元まで見つめた後に素っ気なく言った。
「いや、止めておく。」
レイがその場を去ろうとするとその男は声を荒げて
「おい、まてよ。人の好意を無視する気か!」
男はレイの肩を掴もうと手を伸ばすが、その手は空を切り、勢い余った男はそのまま道に倒れてしまった。
「こ、このやろう!」
男は立ち上がると拳を握りしめてレイに突進していくと、今度はその拳が厳つい腕に止められてしまった。
「もうその辺にしないか?」
男が厳つい腕の持ち主を見ると、にこやかに笑っているように見えるが、目にはとんでもない殺気を宿していた。
それを見た男は恐怖で声を上げることすら出来なかった・・・・こ、こんな奴Aランク冒険者でも見たことねえぞ・・・・。
その様子を見ていた、男の仲間も男を助けることも逃げ出すことも出来ずにその場で固まっていた。
この張り詰めた空気は・・レイの声で一気に緩んだ。
「おっちゃん早くギルドに行こうよ!」
「ああ、そうだな。そうだ、お前ら、女の子にはもう少し優しくしないとモテないぞ!」
ジョニーは男たちに手をひらひらさせながらレイと共にその場を去っていった。
「「「はぁ~」」」
男たちは安堵でその場にへたりこんでしまった。
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「おっちゃんさー、さっき何であいつの拳を止めたんだ?あんな拳当たりっこないぞ!」
「あれはなあ、お前を助けたんじゃなくてあいつ等を助けたんだ。」
『そっちかい!』レイの中でアリスが突っ込みを入れていた。
不服そうなレイにジョニーは答えた。
「あのまま放っておいたら、あいつ等はお前に殴りかかって来ただろうな、そうしたらお前はどうする?」
「当然反撃するさ!」
「お前が反撃したらあいつらはどうなると思う?」
「3対1だから俺がやられてたかもしれな「『絶対にない!』」」
二人の剣幕にレイは思わず後ずさりしてしまった。
「いや、でも・・・。」
「・・・お前は本当に自分の実力を理解していないな・・・まあ、対人戦を殆どやったことが無いんだからしょうがないか・・・・。」
「いいかレイ、メタルドラゴンのソラと対等に戦えるお前があいつ等の様なDランク程度の冒険者とやりあったらどうなるか分かるか?」
「あいつらは3人だし、俺の方が負けるかな?」
「いや、だから・・・・こう言ったら分かるか?」「メタルドラゴンを倒せるのはSランクの冒険者パーティぐらいの力量が必要なんだよ。」
「いや、そんなことは無「『ある!』」
レイは2度目の同時否定に凄く不服そうだった。
「まあ、低ランク冒険者の実力なんてそんなもんだ。だからレイ!お前は普通の人間に対して絶対に本気を出すなよ!!」
レイは渋々頷いてジョニーとギルドに向かって行った。
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「だから何で昇格試験が受けられないんだ!」
ギルドの受付嬢に対してジョニーが声を荒げていた。
レイがGランク冒険者の登録を完了した後に、ジョニーがレイに昇格試験を受けさせたいとギルドの受付嬢に言うと、「そんな暇はありません!」とツッケンドンに言われたためジョニーが怒りだしたのだ。
「冒険者には昇級試験を受ける権利があるだろう!」
なおも食い下がるジョニーに対して受付嬢はGでも見るような目で冷たく言い放った。
「いくら権利があっても昇級試験をしてくれる上級冒険者が皆で払っていていないんですよ!それに昇級試験でランクを上げたって魔物のいるクレタ山は立ち入り禁止になっているので無意味です!」
「な、立ち入り禁止だと?なんかヤバい魔物でも出たのか?」
「ええ、先日からドラゴンらしき魔物の目撃情報が絶えず、昨日はその魔物を倒そうとして半死になって戻ってきたAランク冒険者がいるんですよ!上級冒険者はその魔物を特定するために皆クレタ山の探索中なんです!お分かりになったら駄々をこねるのはやめてください!」
おっちゃんがバツが悪そうに受付嬢に頭を下げると、受付嬢はにっこりと笑い
「分かっていただけましたね?こちらのお嬢さんにはGランクの定番”薬草採集”なんていかがですか?薬草なら山に入らなくても南の森で採取できますから。」
「レイカ・・・どうする?」
「お・・・ワタシせっかく冒険者になったんだから、仕事をしてみたいんだ。薬草採取をやってみるよ。」
どうぞ!言わんばかりに受付嬢が両手で指示した壁には沢山の依頼の紙が張り付けてあった。
レイはその中から知っている薬草の依頼を1枚剥ぎ取り受付嬢の所に持っていった。
「この依頼をお願いします。」
受付嬢はレイが持っていった依頼の紙に目を通すと少し難しそうな顔をした。
「この依頼は確かにGランクだけど、サクマ草の採集は少し難易度が高いわよ。期日までに間に合わないとペナルティで銀貨1枚支払わなければならないわよ。初心者だとカワイ草の方がお勧めだけど、大丈夫?」
「うん、何度かとったことがあるから大丈夫だと思う。」
「そうですか。それなら。」
受付嬢はギルドの控えとレイが渡した紙の両方にハンコを押すとレイに元の紙を渡した。
「期日は5日後になりますから、それまでにお願いしますね。」
受付嬢は頑張ってね!と笑顔でレイを送り出してくれた。ジョニーに対する態度とはえらい違いである。
ギルドを出ると既に日は沈みかけており、道には人々の影が長く伸びている。
クレタの街並みの向こうには夕陽に赤く染まったクレタ山が聳えていた。
それを見たレイはジョニーが昼間に言っていたことを思い出した。
「おっちゃん、クレタ山に伝わっている青いドラゴンの伝説について教えてくれない?」
「なんだ、いきなり。」
「クレタ山を見ていたら急に気になったんだ。」
『それ!私も聞きたいわ。』
「ああ、いいだろう。」
ジョニーは宿までの道程で伝説の話をしてくれた。
「それは1000年前の終末戦争の時の話だ。」
「世界を分かつ長い戦乱、人々は争いの理由さえ忘れかけていた。争い合う二つの国は残されし最後の力で、神の光を相手に放った。奇しくも同じ時に放たれた神の光は轟音と共に世界を赤く染め、敵国に向かって行った。これで戦争が終わるのかと人々は安堵の想いで赤い光を見つめていたが、どちら光も敵国に届くことは無く、クレタ山の峰々に消え去った。静寂に包まれたクレタの山の奥底より悪魔の光が現る。それはこの世を破壊する光。悪魔の光は見る見る膨らみ。人々は成す術も無くそれを見ていた。そこに1匹の青いドラゴンが現れ、持てる全ての力を使い悪魔の光を止めたのだ。しかるに地上に漏れ出た悪魔の光だけでも強大な力を持っていた。光は急激に膨らみ、青いドラゴンを飲み込みこの世界の全てを飲み込んだ。」「数日の時を経て光は消え去ったが、青いドラゴンも地上の文明も全て消え失せていた。それでも人々は消え去ることは無かった。青いドラゴンにより人々は救われたのだ。」
「ふーん、青いドラゴンって、ソラのご先祖様かな?」
「青いドラゴンはメタルドラゴンであったいう話もあるから、そうかもしれないな。」
レイが頷いているとアリスが、
『ねえ、その伝説を伝えた人の名は何て言うの?』
「ああ、確か『ランディ』という人物だ、生き残った人々のリーダーだったらしい。」
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夕暮れのクレタ町の外壁の外、門を出入りする人々を眺めているドラゴンが一人。
ドラゴンが目と鼻の先にいるのに人々は平然と門を出入りしていた。そう、ドラゴンは姿を完全に遮蔽しているのだ。
『レイ達はこの門の先にいるんだよな~。』
ドラゴン=ソラは大きくため息を吐いた。ソラはユグドラシルまで行くと言っていたレイの事が心配になり、居ても立ってもいられず後をつけてきてしまったのだ。
城壁を飛び越えれば街の中に入ることはできるのだが、街に入ってしまうと人々に気が付かれる可能性が高いのだ。見えないとはいえ巨体が道を塞いだりしていれば嫌でも気が付かれるだろう。
『仕方ない、レイが出てくるまでその辺で寝て待とう。』
ソラは門から少し離れた場所に座ると猫の様に丸くなって寝始めた。