14話 ガーディアンズ シルバー
ジョニーとレイは早朝村に家を出発して、今は隣町のクレタに向かって歩いていた。
ニルソンが冒険者をやっているサクメ町は領都の方に近いがクレタは村から王都に向かう通り道に位置しているのだ。まずはクレタ町で冒険者登録を行わないと身分証が無いのでレイは領の境界を越えることすらできないのだ。
『レイったらお母さんが、あんなに心配して色々と荷物を持たせてくれたのに、あのそっけない態度は何よ!』
「いや、あれはかーちゃんが勝手に準備したやつだから!」
エバはレイの為に大量の女物の服を準備し、それらを入れるバックパックタイプのマジックバックまで準備してくれたのだ。
「服なんて着替えと合わせて2着あれば十分じゃないか。」
『いや、あんた女の子がそれじゃあ駄目でしょう!』
「服より食料入れた方がいいだろう?」
「おい、レイさっきから何を独り言を言ってるんだ?」
レイは小声でアリスと話をしていたのだが、アリスの声はジョニーには聞こえないのでレイが独り言を言っているように見えたのだ。
「あ、いや、まあ、ははは?」
『独り言言ってる変人~!』
「ええい、うるさい!」
「レイ!お前大丈夫か?熱でもあるんじゃないか?」
「・・・・・分かった!もういい、おっちゃんに全部説明するから。」
『いや、ちょっと待ってよ!』
「いや、これからおっちゃんとずっと旅をするんだから、隠しておくのも無理があるよ。」
レイはそう言うと革のコルセットを外し上着をめくりあげた。
「おい!レイ止めろ!こんな所で服を脱ぐんじゃない!」
辺りに人の気配はないが、レイの裸を見たとエバに知られたら〇されるんじゃないかとジョニーは焦り無意味にも両手を前に出してレイの体を隠そうとしていた。
「ほら、おっちゃん見て!この魔法陣を!」
魔法陣?それを聞いたジョニーは恐る恐るレイの指さすお腹に目をやった。
「これは、確かに魔法陣だが、これとお前の独り言とどう繋がりがあるんだ?」
ジョニーはレイのワンピース捲りあげて腹に描かれた魔法陣をまじまじと見つめたその時。
「おっちゃん!!」
レイは咄嗟に木刀を構えたが、その男は既にジョニーの真横に立ちオリハルコンの剣を突き立てていた。
切っ先がジョニーの首元で青白く輝いてる。
「君、こんなうら若い女性に真昼間から何をしているんだ?いや昼間じゃなくてもダメだけどね!」
男は銀色の大きめのカウボーイハットの鍔をあげてにやりとジョニーを見つめたが目が全く笑っていない。
「いや、まってくれ!俺は全くやましいことはしていないって。」
ジョニーは両手を肩ぐらいまで上げて降参のポーズをとっていた。
「じゃあ、何で服を脱がそうとしているんだ?」
男はレイがジョニーに襲われているものと思ったのだ。
「いや、これはこの子が勝手にだな・・・。」
「この子が勝手にだと?私には貴方が服を捲りあげている様に見えませんけど? ん?」
「おい、レイこのお方に説明してやってくれないか?」
男はレイの方を見て気が付いた。
「ほう、凄いな私の動きを察知して剣を構えることが出来るなんて、大した娘だ。」
レイは木刀を構えたまま硬直したように動けないでいた。
(そんなバカな!何であんな直前までこの男に気が付かなかったんだ?さっきまで全く人気が無かったのに!)
レイは森の中での訓練で魔物の動きを一瞬で察知できるようになっていたのに、この男が目前に来るまで察知できなかったことに愕然として動けなかったのだ。
「おい、レイ!」
レイは2度目のジョニーの呼びかけに我に返った。
レイはこの男に恐怖すら感じていたが、やっとのことで声を出した。
「お、お前一体どこから来たんだ?」
「私かね?あの丘のサボテンの辺りからだよ。」
男が差した方向を見るとサボテンはおよそ300mくらい離れている。この男はこの距離を察知されずに一瞬で移動してきたのだ。
「瞬間移動か?」
ジョニーの言葉に男は首を横に振った。
「結果は似たようなものだけど、別の魔法さ。「駿速」という人の動きを何倍にも速くすることが出来るやつね。」
「確かに、そんな魔法を使う魔剣士がいることを聞いたことがあるぞ。ところで、そろそろ剣を納めてくれないか?」
「いや、まだあんたの強姦疑惑は晴れていないのですよね?」
男がぐっと剣に力を入れるとジョニーの首から血が細い線を描きながら流れ出た。
「ちょっと待ってくれよ。そこのおじさん!そのおっちゃんはジョニーって言う俺の知り合いで、別に俺を襲おうとしていたわけじゃあないんだ!」
「君、この男に脅されてそう言ってるんじゃないでしょうね?」
「そんなことは無いって!俺が腹の傷を見てもらおうと勝手に服を脱いだんだよ!」
「それに、俺の方がこのおっちゃんより強いのに襲われるわけないじゃん!」
男ははっと目を見開くと笑い出した。
「はは、確かに貴方のいうとおりですね!私の登場に貴方は反応出来たのに。このおやじは全く反応出来なかったですからね。」
「そう、でも木剣では無理がありませんか?」
「な、何故鞘から抜いてもいないうちに木剣だと分かるんだ?」
そうレイは木刀を鞘に入れたままだったのだ。この鞘は木刀を納めるのに便利ということでエバが買ってくれたものだ。
「そうですね、まあ色々とありますが鞘の動きの軽さや貴方の力の入れ具合といったところでしょうか?」
「木刀で練習するのも良いですが、貴方なら良い剣士になれそうですから、せめて鉄剣、お金を貯めたらオリハルコンの魔剣を買うといいですよ。」
「ああ、それとそこ君ね、勘違いしてすまなかった。私の名はガーディアンズ・シルバー、以後お見知りおきを。」
男はそう言うとさっと剣を鞘に納め、カウボーイハットの鍔を掴んでポーズを決めた。
「それでは、またいずこで!」
男はレイにむかてウインクすると丘の方から駆けてきた馬に飛び乗りクレタ町の方へ去っていった。
呆然として取り残されたレイとジョニーの前を彼はと共に砂塵が吹きぬけて行った。
「「『・・・・・・。』」」
「あいつは一体何だったんだ? ねえ、おっちゃん。」
「ガ、ガーディアンズだって!」
「なに、おっちゃん!ガーディアンズって何なんだ?」
「・・・・・・。」
レイの言葉にジョニーは答えず、ただ呆然としていた。
『まあ、仕方ないわね。私が教えてあげるわ。』
アリスが自慢げに話し始めた。
『ガーディアンズって言うのは、この世界の均衡を保つために集まった魔剣士集団の事よ。』
「世界の均衡を保つって?」
『オリハルコンの魔剣の能力は知ってるわよね?』
「ああ、もちろん。魔抜けでも魔法を使うことが出来るって事だろう?」
『それもあるけど、もう一つ能力があるのよ。このもう一つの能力があるから魔抜け以外の人でも魔剣を使いたがる人が多いのよ。』
「もう一つの特徴って?」
『それは、魔力や魔法を倒した相手から奪い取ることができるという能力よ!』
『相手倒すか相手の魔剣を折るかすることで相手の魔剣の持っていた能力を奪い取れるの!これは魔女や魔物に対しても言えるわ。』
「凄い能力だな!でも、それと世界の均衡を保つことって何が関係しているの?」
『分かんない分かんないかなー。』
じらすようなアリスの口ぶりにレイは苛立った。
「分かんないから聞いているんだろう!」
『いい、ある一人の強い魔剣士がいるとするわよね。その魔剣士が自分より弱い相手をひたすら倒していったとしたらどうなる?』
「そりゃあ、いずれ最強の魔剣士になるじゃない。」
『そう、そんな魔剣士がゴロゴロいたらそいつらが好き勝手して国家なんて機能しなくなっちゃうわよね?』
『ガーディアンズは最強の魔剣士が集まった正義と平和を重んじる超国家集団ななの!彼らは強力な魔剣士が現れたらまずその魔剣士にガーディアンズに加入するように説得し、それに従わない場合はその魔剣士を倒してしまうの。』
「そうか、そう言うことか!凄いな、まるで正義の味方だね!」
レイは目を輝かせた。
『ええ、そうよ!彼らは最強の集団であるにも拘らず世界征服などをするわけではなく常に世界の平和のために活動しているの!』
「でも、なんかあのシルバーってちょっと変わってるね。」
『それは、私も否定しないわ。なんか凄くキザね!』
『ところで、そろそろジョニーおじさんを起こさなくていい?』
ジョニーはまだ固まったままだった。