12話 ニルソン
元ガキ大将のニルソン、久しぶりの登場です。
村の近くの森の中をニルソンとその腰ぎんちゃくが、村に向かった歩いていた。狩りからの帰りなのか腰には数匹のドリルモールをぶら下げている。
「アニーが王都に行ってから、目の保養が無くなっちまったな。」
「そうでやんすね。ど田舎なんで、垢ぬけた女はいないっすね~。あのアニーは特別でやんしたね。まあ、聖女やんしたし。」
「王都に行けばあの位の女はいっぱいいるんだろうな。」
「そうでやんすね~。」
とりとめもない話を二人でしていると突然腰ぎんちゃくを声を上げた。
「あ、そういえば最近魔女の薬屋で可愛い娘が手伝いしてるって噂ですぜ。」
「魔女の薬屋ってあのレイって鬱陶しい野郎の家じゃあないか。俺はどうも彼奴が苦手だな。アニーの時もさんざん俺様の邪魔をしていたし。」
ニルソンの脳裏にアニーにちょっかい出してはレイに反撃を受けてきた歴史が浮かんで不機嫌な顔になった。
「ええ、そうでやんすけど、レイのやつは冒険者になるため隣町に行ったって話ですぜ。」
ニルソンは思わず口角を上げた。
「そうか!それで最近見ないのか!」
「そう、奴の代わりに店の手伝いで従妹が来てるって話でやんす。」
「それで、どのくらい可愛いんだ?」
「噂じゃあ、来た当初は白豚みたいだったらしいんすけど、最近は痩せてかなりの上玉になったらしいでやんすよ。」
「よし!魔女の薬屋に行くぞ!」
ニルソン達はレイの家に向かって歩きだした。
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「あ―こんなことしてたら体が鈍るよー!」
レイは一人で店番をしていた。
『そんな事を言いながら何持てるのよ!』
レイは両手にダンベルを持ってカウンターの後ろに立っていた。
「少しでも運動しようと思ってね」
『私の体を筋肉ムキムキにしないでよ!』
「今は俺の体だって。お、お客が来たぞ」
カラン、カラン ドアに付いた鐘の音と共に店に二人の男が入って来た。
ゲッ ニルソンじゃあないか!こいつ今まで一度も来たことないのに。どういう風の吹き回しだ?
「いらっしゃいませー!」
そうは言うもののレイはエバに教わった営業スマイルをしていた。
ニルソン達は店の商品などは見ずに一直線にカウンターに向かって来た。
「ねえ、彼女ー。名前何て言うの?」
「はっ?お・・・私ですか?」
ニルソンの甘ったるい言葉にレイは全身の毛穴が逆立っていた。
「そう、他に誰もいないでしょ?」
「わ、私の名前はレイ・・アですよ。」
「そうか、レイカちゃんか、良い名だね。俺はニルソンていうんだ。」
「あっしの名前は・・・ふごふごふご・・・。」
ニルソンは腰ぎんちゃくの口を押えて、あっちに行ってろと店を追い出した。
「ねえレイアちゃん、店番が終わったら俺と遊びに行かないか?」
「いえ、結構です!」
レイは速攻で答えた。自分をナンパしようとしているニルソンの態度に虫唾が走っていたのだ。
「そんなぁつれないな~。角の茶店で何でも奢ってやるからさ。」
「今、お腹すいてません!」
レイアに取りつく島が無いためニルソンは話題を変えてみた。
「おれさぁ 今、Dランクの冒険者なんだぜ。」
Dランク冒険者と言う言葉が気になりレイは見向きもしなかったニルソンの方に目を向けた。ニルソンはレイより2才年上なので2年でGランクからDランクまでランクアップしたことになるのだ、聞いた話では1年で1ランクアップ出来れば良い方なのでニルソンはかなり早くランクアップしたことになる。冒険者を目指していたレイにとっては気になる話題だった。
「Dランクなんて凄いね。」
よし、食いついた! 手ごたえを感じたニルソンは得意げに話を始めた。
「そうさ、俺はギルドに入った年なんか1年で2ランクアップしたんだぜ、サクメ町のギルドでは出世頭なんだ!」
「へぇーっ結構頑張ってるね、ところで冒険者ってどんなことするの?」
レイは冒険者はモンスターを倒したりしているということを漠然と知ってはいたが、具体的にどの様な事をしているのか知らなかったのだ。それでニルソンのやっていることに興味深々であった。
ニルソンは勿体ぶる様に話始めた。
「まあ、待て慌てるなって!」
「冒険者ってのは、G~Aまでのランクがあってだな、Gランクではメインは比較的安全な場所に生えている薬草とかの採取だな。」
「Gランクでは魔物の討伐はしないの?」
「Gランクの魔物の討伐依頼は二人以上という条件付きだけどホーンラットの討伐依頼の対象になるかな。」
ホーンラット?それ俺が6才の頃から狩ってるぞ。まあ、Gだから仕方ないか?
レイはGランクの余りのレベルの低さに少しがっかりしていた。
「じゃあ、Fランクは?」
「Fランクは少し珍しい薬草採取と、単独でのホーンラットの討伐、二人以上ならキラースライムの討伐が許可されているかな。」
キラースライムって、核をひと突きするだけで簡単じゃん!Fランクもしょぼい・・・・。
そのひと突きをするのが難しいのだが森の奥まで入り込んで狩をしていたレイの基準がかなりずれているのだ・・・。
「それじゃあEランクは?」
「Eランクはホーンラット、キラースライムそれとブラックラビットの討伐がメインかな。ああ、もちろん薬草採取もOKだよ。討伐ついでに採取してくる場合も結構あるんだ。」
しょぼい、しょぼすぎる・・・・・。
「それから、ここからが俺様のDランクの仕事だぜ。」
レイアはDランクを聞きたいという気持ちが失せて目を点にしていた。
「ここから依頼の対象範囲が凄く広くなるんだ。」
ニルソンのこの言葉にちょっと気を取り直してレイは聞き始めた。
「討伐対象の魔物が、ホーンラット、キラースライム、ブラックラビット、ジャイアントホッパー、イエロースカンク、それにこのドリルモールさ!」
ニルソンは自慢げに腰に下げていたドリルモールを持ち上げてレイアに見せた。
「どうだ!今日狩ってきたんだ、凄いだろう!」
レイは余りのしょぼさに思わず口走ってしまった。
「それ狩るの簡単じゃない?」
「な、お前!それはどうい意味だ!?」
自分の成果にケチをつけられたニルソンはレイアに食って掛かった。
「いや、ケチをつけるつもりはないんだけど、ドリルモールって地面を木剣でぶっ叩くと驚いて少し地面が盛り上がるから、それを逃さず突き刺せば簡単に取れる・・じゃない。」
「地面の微かな変化を見つけるのが難しいんだろう!」
ニルソンの言っていることは至極最もなのだが、レイの基準が完全にずれているのである。
「ん――――まあ、そう・・・ね。冒険者について教えてくれてありがとう。勉強になった・・・わ。」
「それじゃあ、俺と付き合ってくれるな。」
「え?何でそうなるの? 冒険者の事を話したら付き合うなんて言ってない・・・わよ。」
「お、お前! 人が下手に出てやってるのに。」
ニルソンが切れて顔を真っ赤にしていた。
「いや、でも冒険者の事を話したら付き合うなんて貴方の思い込み・・・でしょ!」
そう、冒険者の事を教えてくれとは行ったが、そうしたら付き合うなんて言った記憶は微塵もない。
「な、何だと――――!」
ニルソンはカウンター越しにレイの胸倉を掴もうと手を伸ばすと同時にレイは持っていたバーベルを放してニルソンの手を掴んだ。
ズズ―――――ン!
ニルソンが店の床にぶち当たる音とバーベルが落ちる音がほぼ同時に店内に響き渡った!
「おまえ、一体な・・・・。」
いきなりぶっ倒されたニルソンは目を丸くしながらレイアを見ていた。
「わ、私はね、私より強い男じゃないと付き合う気はないの!分かったらさっさっと帰って!」
ニルソンは、覚えていろ!という捨て台詞を残して店から出ていった。
『「私より強い男じゃないと付き合う気はないの!」・・・・とうとう女性としての自覚に目覚めたわね。レイアちゃーん!』
アリスに茶化されレイは真っ赤になった。
「し、仕方無いだろう。そうでも言わなきゃあいついつまでも付き纏うだろう。」
「・・・・昔アニーって言う娘にやっていたみたいに。」
『そ、そうなんだ。』
レイの口調に何かを感じたのかアリスはそれ以上茶化すのを止めた。
一瞬の沈黙の後、ドアに取りつけられた鐘の音と共にエバが店に入って来た。
「レイ・・・ア、何かあったのかい?ニルソンが慌てて店から出てきたけど。」
「か・・・おばさん、おかえりなさい。あいつが俺・・・私の事を口説いてくるんで、鬱陶しかったから、思わず投げ飛ばしてやったんだ。」
「へぇーあんた口説かれるようになったんだ?」
エバはいたずらっ子の顔でレイの顔を覗き込こむとレイは顔を赤くして黙ってしまった。
「確かに、あんた最近痩せたんで大分見栄えが良くなったよ。何より私似なんだから、もてて当り前さ!」
「エバ、お前それを自分で言うか?」
エバの後ろからひょっこりとジョニーが顔を出した。
「それよりレイ・・ア、良くこんな狭い店内でニルソンを投げ飛ばせたな?」
「そうね、棚の品物は何も落ちてないのに、床にはニルソンが倒れた跡がくっきり残ってるわね。どんな投げ方をしたの?」
「実は、よく覚えていないんだ。ニルソンの手を掴んだと思ったら奴が急に宙に浮いて床にぶち当たったんだ。」
「無意識にやったってのか?」
「・・・・そう言うことになるかな。」
「それって不死の魔女から吸収した能力かね~?」
「「吸収した能力?」」
レイとジョニーは同時にエバの方を見た。
「マージは魔力や生命力だけでなくてその人が持つ能力も吸収するって話だよ。あの女が過去に吸収した人に特殊な体術を持った人もいたのかもしれないね。」
「そ、そうなんだすげー!」
レイは自分の手を見ながら目を輝かせていた。
「でも強すぎる力は災いを招くって言うから、力が使えるようになっても無暗に使うんじゃあないよ!」
「分かってるよ・・・・そうか!そんな力があるなら、そろそろ宇宙樹の所に行ってみたいんだけど・・・。」
エバは暫らく思案した後、口を開いた。
「そうだね、大分体力も付いたみたいだし。」
「それなら行っても良いんだな!」
「一つ条件がある。」
「条件って何?」
「木剣同士の勝負でそこの大男を倒せたら行ってもいいよ。」
エバが指さした方にはジョニーがいた。
「え!俺?」
ジョニーは驚いて思わず自分の顔を指さした。
「ああ、そうさね。そうだ、ジョニー。あんた宇宙樹の所に行きたいからって手え抜くんじゃないよ!こんな女の子に剣で負けたら恥だからね!!」
「ああ、分かってるさ! レイ・・アはそれでいいのか?」
「ああ、いいよ。まだ完全じゃないけど以前の感覚が少し戻って来たから。」
「よし、それじゃあ向こうの空き地に行くぞ!」
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初めは結構善戦していたのだが・・・結果として負けてしまったのだ・・・ジョニーは。
木剣で打ち合ううちに昔の感を取り戻しつつあるレイにジョニーが勝てる筈が無かったのだ。
男だった頃のレイは、幼生とは言えメタルドラゴンと対等以上に戦える力を持っていたのだ、冒険者で言えばSランクに該当するだろう。まだ完全に戻ったとは言えないまでもAランクの上位剣士並みの動きのレイに対してジョニーは魔法を主体として戦う剣士のため、剣技自体はBランク程度なのだ。
「く、くそ!まさか本当に負けるとは思ってもいなかった・・・。」
ジョニーはよろけながら木刀を杖に立ち上がった。
「いや、私もレイが勝つとは思ってなかったよ・・・・。あ、そうだジョニーこれを。」
ジョニーはエバに渡されたポーションを飲んで復活していた。
「かーちゃん、俺宇宙樹の所に行って良いんだな?」
「ああ、行ってきな!」
エバの言葉にレイは拳を握りしめて叫んだ。
「よっし!行くぞー宇宙樹、待ってろよ―――――!」