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10話 誰かいる


宇宙樹に向かうという話は、レイが満足に魔法が使えないことと、レイの体に体力が全く無いということから一旦棚上げになった。

 エバはとりあえず攻撃魔法を教えてくれると言っていたが、レイは痩せることと体力を付けることから始めることにした。魔法はそれからだ。

 それとレイの変貌だが、村の人達に知られたらえらいことになりそうなので、レイは隣町に冒険者として行ったことにしておき、従妹のレイアが店の手伝いに来ていることにしたのだ。



 昨日そう言った事を話し合った後就寝し、今朝起きてからレイはまた鏡を見て唖然としている。


「な、なんで顔が太ってるんだ? 髪も肩まで長くなっているし。なにより顔も手も色が白くなっているのはなんでだ?」


 レイは体を確認するため寝巻を脱いでみた。


 小太りでぶよぶよした体はそのままだったが、褐色だった体は隅々まで綺麗に白くなっている。


 ん?


 レイは腹の一部の色だけが褐色のままであることに気が付いた。よく見るとそこは綺麗な円を描いている。


 手で褐色の部分を擦ってみるとなんと色が落ちてしまった!


 何だこれ?


 褐色の部分をごしごしとタオルで擦って色を落としてみると不思議な文様が現れた。


「これは、魔法陣じゃないか?」


 更にタオルでそれを落とそうと擦り始めると魔法陣が光り出し、女の声が聞こえた。


『はぁ———————、やっと喋れる!』


「えっ?誰だ!?」


 周囲を見渡したが誰もいない。


『何処見ているの? ここよ!あなたのお腹の所よ!』


「・・・つ、この魔法陣か?」


『そう、この魔法陣に私の思念を残したのよ。』


「思念って、お前エリスだな!」


『へっ?』


「そうか、エリスか!早くかーちゃんにこの魔法陣の落とし方聞いてこないと。」


『違う!違うってば! エリスにそんなことしている暇なかったでしょう!私の話を聞いてよ!」


 レイはエバの所に駆けだそうとしたが、女の声がエリスと違うのことに気が付き、話を聞いてみることにした。


「じゃあ、お前は誰なんだ? あの、クロエっていう女性か?」


『それとも違うわ。私は貴方の前にあの不死の魔女に体を奪われた女なの!』

『あいつにマージをかけられた時、体を交換される前に私の思念を自分の体に残したのよ。』


「何でそんな事をしたんだ?」


『マージの術にかかってしまったら逃れられないのを知っていたから、少しでもあの女の邪魔をしてやりたいと思ったのよ。』


「それで邪魔はできたのか?」


『大声で話しかけて邪魔をすることぐらいしかで出来なかったわ。それも最初のうちだけで、直ぐに魔法陣を妨害する顔料を塗られて喋れなくなっちゃったし・・・・。』


「そうか、残念だったな。それで、これからどうするつもりなんだ?あの女はもういないぞ。俺の邪魔をするのか?」


『貴方の邪魔なんかしないわ!あの女は私の魔法陣が鬱陶しかったので、早く体を変えたがっていたの。そうすれば私は体ごと塵となってしまうわ・・・まさか貴方があの女に勝っちゃうなんて思ってもいなかったの・・・・これからどうしたらいいかなんて考えてもいなかったわ。』


 レイは話を聞いていて、この魔法陣の女が哀れに思えてきた。


「そこから外の世界は見えるのか?」


『え、ええ、貴方の視覚と聴覚を通してだけど、外の世界を感じることはできるわ。』


「そうか、それじゃあ俺の邪魔をしないのなら飽きるまでそこにいるといいよ。」


『いいの?』


「ああ。俺もお前もあの女の被害者だし。そうだ、俺の名はレイ!君の名は?」


『私の名は、ア、アリスよ!』


「そうか、アリス、これからよろしくな!」


『うん、よろしく!』


 アリスからホッとするような感覚がレイに伝わってきた。


「ところで、アリスはこんなに太っていたのか?」


 パンツ一丁の状態でレイは腹を叩いた。


「ちょっレイ待ってよ、服着てよ!恥ずかしいじゃない!」


 レイはぶつぶつ言いながらも床に落ちているが寝巻を拾って羽織った。


『えっとね。私がこの体を使っている時は、こんなに太っていなかったから!あの女に奪われて、あの女が暴飲暴食するからこんなになったのよ!」


「このぶよんぶよんはエリスのせいなのか?』


 レイは胸の肉を鷲掴みにして鬱陶しそうにした。


『ちょっと、止めなさい!人の胸掴むのは!』


「いや、今は俺の胸だし。」


 レイは胸を鷲掴みしながら、突然声を上げた。


「そうだ!マージの事を知っているなら教えてくれ。何で体が白くなって、俺の顔が太って髪の毛が伸びたんだ?」


『レイが胸を掴むのを止めたら教えてあげる・・・・・。』


 アリスの拗ねた言葉にレイは胸を掴むの止めた。


『この胸は元々この大きさでね、太ったのはお腹とかなの!』


「いや、その事じゃなくて。」


 レイはもう一度胸を鷲掴みした。


『わ、わかったから止めなさい!』


 レイが胸を掴むのを止めるとアリスは話始めた。


『マージが完成すると、体を支配するのは頭の方だけど、頭の見栄えは体に合わせて変わるのよ。貴方の顔をよく見てみなさい、太っただけでなく、ごつさが消えているでしょう?』


「ああ、確かに。でも体の色は褐色だったぞ。」


『それは、あの女が自分の好みで肌の色を変えていたからよ。私の体は透き通るような白だったの、あの女の術が切れたから元に戻っただけよ。」


「そうなんだ。髪も女の体に合わせて伸びたのか?」


『あなたねえ、女性は自分から髪を伸ばしている人が多いだけで、女性だから髪が伸びるなんて事は無いのよ!顔が体に合わせて急激に変化するのに体の代謝が活発になるから髪が伸びたの!』


「そうか、良く分からないけど、女性になったことと関係ないなら切っちまうか。」


『や、止めなさい!せっかく女らしくなったんだからそのままにしておきないさい!』


「そういうものか?」


『そういうものなの!』


 レイは不満だったが、髪はいつでも切れるので、とりあえずそのままにしておいた。


「レイ、起きたのかい?」


 店の方からかーちゃんの声が聞こえてきた。


「ああ、起きたぞ!」


「そうかい、服を買ってきてやったから着てみな」


『おかーさんに私の事は言わないでよ!』


「ああ、分かった。」


 レイは小声で返事をした。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「うん、まあ、こんなものかな?」


 レイに買ってきた服を着せてエバが満足そうに頷いた。


「もう少し痩せていればもっと見栄えが良いのに残念だね。でも、まあ女の子はいいねえ、服の着せ甲斐があるよ!ほんと!


 レイは白い丈の短いワンピースを着せられ、ワンピースの下には赤いスパッツを履かされていた。更に少しでも痩せて見える様にワンピースの上から革で出来た茶色いコルセットが付けさせられているのだ。


 これってスカートか? いや、下にズボン履いているから違うよな??

 レイは自分の格好を見てかなり恥ずかしくなり、顔が真っ赤になった。


『へへへ、レイちゃーん。』


 アリスが茶化すようにかけた言葉にレイは小声で反抗した。


「う、うるせー。」

 

「なんか言ったかい?」


「いや、何も・・・。」


『レイちゃーん!』


 レイの顔はずっと真っ赤だった。

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