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ミュータント ニンジャ レグホンズ

作者: 里野 ユウ



 家で飼っていたニワトリのつがいの話です。

一羽は明確にレグホンではありませんが、もう一羽はレグホンです……多分。


 まず雄鶏がよくあるパターンで、弟がひよこ釣りで釣り上げて家に来ました。

 どうせすぐに死んじゃうだろうけどと、ちょうどハムスターがでかいケージに引っ越しをしていたので、空いていたケージで室内飼いをすることとなりました。

 ちなみに、当初の世話係はもちろん連れてきた弟だったのですが、朝から夜まで家にいない奴がそんな事をする訳もなく、必然的に自分にメインの世話係が回ってきたのは、ちょっとした余談です。

 さてこの黄色い普通の雄ヒヨコ。当初の予想は外れ、弱ることもなく元気に育っていきました。

 家に来てしばらくの間は「ぴーちゃん」とか「ヒヨ」とか「コッコ」とか、各自好きな名前で呼ばれていましたが、とある事をきっかけに、あっという間に名前は統一されていきました。

 曰く、“(庭の)ヌシ”と。


 事件は(と言うほどの事でもない)、あるうららかな日の午後に起こりました。

 日光浴を兼ねて、家庭菜園でみみずでも取らせようと庭に放していた時のこと。自分が目を離しているスキに、彼は猫に襲われてしまったのです。

 先に言い訳になりますが、実家は役場にほど近い街中とはいえ人口一万に満たない小さな田舎町であり、猫もいるけどそれ以上に、放し飼いの鶏一族や、側溝に白蛇や、近くの川からはアイガモの親子が列をなして家の前を通っていくような所でして、それでも猫による被害とか聞いた事が無かったもので、油断していたのは否めません。

 ともかく、自分が花壇改めの家庭菜園で言いつけられた草むしりをしていると、背後で悲鳴のような鳴き声が上がりました。


 ……猫の鳴き声が。


 驚いて振り返ってみると、近所の首輪なし猫(多分飼い猫)の背中に喰いついたうちのコッコ(当時自分呼び)が、飛べない羽をバタつかせながら必死に猫の顔にケリを入れていました。

 実際には即座に猫に叩き落されたので、あまり長くその光景を見ていたわけではありませんが、印象としてはそんな態勢だったと思います。

 数メートルくらい転がされたコッコ(当時)でしたが、即座に起き上がると、すぐまた猫へと突進して行きました。

 驚いて逃げ出すこと脱兎のごとしな猫。脱猫。

 後には誇らしげに胸を反らせた(註:通常の立ち姿勢)、産毛から茶色っぽい羽に生え変わってきた若鶏の立派な姿が。

 ちなみに、あれこいつ白色レグホンじゃないんかい? という疑問が当時ありましたが、それは後への伏線の一つに過ぎなかったのでした。


 さて、この成功体験(?)がきっかけなのか、それとも生来の性格だったのか。

 その後の彼は、自分より巨大なものを見かけると誰彼構わず襲い掛かってくる狂犬ならぬ狂鶏と化しました。

 ハムスター用ケージでは入れなくなってきたので、庭に市販の犬小屋&木枠金網で鍵付き鳥小屋を作って、安全を確保してやっても。

 某動物のおいしゃさんの漫画版で「お嫁さんを迎えると大人しくなるらしい」という一節を見て、奥さんをお迎えしてあげても(ロードアイランドレッド系雑種、フリマでメスヒヨコ1200円で売ってたので来ていただいた)。

 彼は相も変わらず、庭に入る自分より大きなもの全てに襲い掛かっていきます。


 ちなみに奥さんは大人しくて、抱っこされても突つかず、人に撫でられても嫌がりもしない、可愛い普通の雌鶏でした。

 まあ、彼女も夫に影響されたのか、次第に普通のニワトリのイメージには無いだろう一面を露にしていくのですが。


 さて、時は経ち、半年もするとヤツらも立派に成鳥になるわけで……。


 ……こいつはレグホンだと言ったな? あれは嘘だ。


 いや、だって。

 確かに全身真っ白で、真っ赤な鶏冠にすっきりとしたシルエットで、見た目はどこからどう見ても白色レグホーン以外の何物でもないですよ。

 ただ、体高が一メートル近くなかったらね?

 普通に近寄ってきて突っつく嘴がベルトの高さって、それなんてニワトリ?

 玄関先に置いて飼料入れにしてた業務用の青いポリバケツに乗って、毎朝玄関を開けると攻撃してくるんですよ? 高さ的にちょうどの位置の、目を狙って。

 ちなみにそこから飛び掛かられると、普通にケリが頭に届きます。

 餌を出そうと屈もうもんなら、すごい勢いで背中に駆け上がってきて勝ち鬨を上げてきます(ちなみにこの時だけは何故か突ついてきません)。



 ――さて、いきなりですがここで閑話です。


 ニワトリ(のようなもの)マスターの自分が、皆さんに知っておいてほしい事があります。

 それはニワトリの攻撃モーションについてです。

 彼らは怒ると、首周りの毛羽をエリマキトカゲのように逆立て、翼を大きく広げて突進し、飛び掛かってケリを入れてきます。もしくは突いてきます。もしくは嘴で咬んできます。

 ですがそれは、ただ怒っているだけです。さして本気ではなく、じゃれてるようなものです。


 彼らが本気でこちらを狩りに来る時には、彼らは静かに横を向きます。

 一見そっぽを向いてフェイントでもかけているようにも見えますが、目が頭の横に付いている彼らの、実はこれが凝視の態勢なのです(多分)。

 そのまま、視界から目標を外さないよう、横向きに一歩ずつじりじりと近寄ってきて、ふと首を傾げると、次の瞬間に来ます。

 その攻撃はほとんどが嘴です。

 某動物のおいしゃさんでは「ペンチで掴んで捻る」と表現していましたが、実際のところは攻撃前から捻りを加えて首と身体全身を使って回転を加えながら突っ込んできますので、あれはそう……零式防衛術の中でも螺旋波紋の極意を体得している存在かと推測できます。

 肉を啄まれると、普通にその部分の皮がめくれますので、ご注意ください。服だと割と穴が開きます。

 家では自分と祖母が病院で処置してもらうレベルの被害に遭っています。


 ちなみに見た目は、モンスターをハントするゲームでのヴォルガノ巣さんが怒りモーションで首を左右に「んっ? んっ?」って振るかわいいアレとほぼ一緒です。

 ていうかあのモーション、初めて見て一発で「あ、こいつ怒ったぞ」って分かった位にニワトリです。

 自分はそれを見た瞬間に、ポリバケツの蓋を構える時のように、瞬時に盾を構えました。ガンランスなもんで。


 ――閑話休題。



 ええと、何の話でしたか。

 ああそうそう、家のニワトリ夫婦が、段々ニワトリ(?)になっていく話ですね。


 先ほど書きましたが「毎朝玄関を開けると攻撃してくる」という下り、何か違和感を覚えられた方も居ました事でしょう。

 ええ、だって、鶏小屋は木枠と金網で覆い、鍵まで付いているんですからね。

 なのになぜ朝一で攻撃されるのかと言いますと、もちろん彼が毎朝鳥小屋から脱出しているからです。

 当然、父と一緒に隙間や穴を探しました。あの巨体が出入りできる隙間=猫も入れる=夜に奥さん襲われちゃう!? ですから。


 で、当然のように隙間など見つからずでした。

 彼が何処から外に出ていたのかは、鳥小屋解体時の確認でも、結局判明しませんでした。

 ちなみに夫の半分にも満たない大きさの奥さんの方は、扉の鍵を開けるまで外に出ることはなく、毎朝きちんと鳥小屋の中にいました。表面上は。


 さて、奥さんは雌鶏、しかもロードアイランドレッド系統は採卵鶏でもありますので、当然卵をお産みになられます。雑種だけど。

 多分毎朝とは言わずとも、それなりに頻繁に産卵をしていたのは確実なのですが……あのね、鳥小屋の中に卵があったためしがねえんですけど。

 そして早朝の庭に、なぜか卵が落ちてるんですけど。

 本人(鶏)は鳥小屋の中でまだ寝ており、旦那の方は父のミニバンの上で相変わらず勝ち誇ってる。

 ……なんぞこの光景。


 産んだ卵を温めるそぶりは一切見せないし。

 かといって「アタシこいつの子を育てる気は無いの」ってほど夫婦仲が冷たい感じはしなかったし、夜は夏でも身を寄せ合って寝てるのをよく見たし。

 あの夫婦、何がしたかったんや……。


 そして次第に卵は、色々な所に産み落とされるようになっていきました。

 そりゃね、日中は扉開放しての放し飼いだから(主な活動範囲は向かいの草地駐車場と一軒向こう先の川まで)色んな場所に卵があったりするのも、分からなくはないですよ?

 でも作業小屋の、開いてない引き戸の中とか、高さ十センチくらいの道具棚の最奥にきれいに放射状に六個とか。

 いったいあなた、いつ、どうやって、ここまで入って産んでいったのですか?

 ていうかね、いつ産んだか分からない卵、怖くて食べられませんからね!? やめてよもう!

 しまいには朝、布団を干そうと二階のベランダに出たら茶色い卵が転がっていた時なんか、一瞬背筋が凍りましたよ?


 まあ、冷静になって考えられる今ならわかります。

 身体能力的には猫と同等、羽がある分機動力は猫より上なのかもしれないと思えば、普通に猫が上がってくる家の二階のベランダくらい、鶏も上がってきて当然なのかもしれないわけで。

 でも、その日も彼女は、朝に鳥小屋のカギを開けるまで中に居たんだよなあ。



 と、こんな感じに(ウチの家族を翻弄する)自由を謳歌していた我が家のレグホンズでしたが、寄る世間近所の波には耐えきれず(目の前に街灯があるからって、毎朝三時に鬨の声上げられてたらさすがにね?)、山の中で趣味で牛や鶏を飼ってる大叔父の家へ夫婦そろって引き取られて行きました。


 向こうでは普通に屋根に上るとか、他のニワトリもつられて屋根裏に卵産むようになったとか、日中天井からヘビが降ってきたとか、色々やらかしていたようですが、伝聞なので蛇足ですね。


 弟が社会人になる頃に「おう、あのデカいのおっ()んじまったぞ」と大叔父が言ってきました。八年くらいは生きていたようなので、大往生でしょう。

 奥さんの方はちまい他のに紛れて、とっくにどれがどれやら分からなくなってしまっていたそうでした。多分その頃はまだ元気だったのでしょう。


 数奇な運命をたどった我が家のニワトリ夫妻でしたが、皆さんの家のニワトリはどんな感じですか?

 ていうか、うちに居たの、ニワトリ……だよね?


 他の人もこんな感じのニワトリ生活を送っているよね?




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