カルタマキア 第2話 「情けは人の為ならず」
「先行は貰うぜ! 俺のターン! ドロー!」
野盗がドローし、手札が6枚になった。
このゲームの開始時の初手は5枚、そして先攻プレイヤーもドローがある。
同時にターンプレイヤーである野盗に無属性MPが3、発生した。
ドローフェイズには、カードのドローとこの無属性MPの発生が行われる。
どちらも強制効果だ。
基本的にこのとき発生した無属性のMPをやりくりしてカードをプレイし、フェイズを進めていく事になる。このMPはターンの終わりに消滅してしまうため、出来るだけ使い切るのが望ましい。
ドローフェイズが終わればメインフェイズである。
このメインフェイズではキャラクターカードやアイテムカードのプレイを行なう事が出来る。
カードのプレイとはカードを使用する事を言う。このとき必要であればコストも支払う。キャラクターカードやアイテムカードで言えば、手札などからフィールドに出す事を指す。
「俺は「ゴブリンソルジャー」をプレイ!
ゴブリンソルジャーのプレイコストは〈火0/2〉!
無属性2MPを消費して場に出すぜ! さらに無属性1MPを消費してアイテム「ゴブリンの篝火」をプレイ!
ターンエンドだ!」
キャラクターカード:〈ゴブリンソルジャー〉
カテゴリ:〈ゴブリン〉〈物理〉〈近接〉
コスト :〈火0/2〉
能力値 :〈攻撃力1/防御力1〉
固有効果:〈なし〉
アイテムカード:〈ゴブリンの篝火〉
カテゴリ:〈設置〉
コスト :〈火0/1〉
固有効果:〈自分ドローフェイズに発生する無属性MPのうち、1つまでを火属性に変更できる〉
ゴブリンソルジャーのプレイコストの〈火0/2〉というのは、プレイするためには合計で2MPが必要であり、そのうち0MPが火属性でなければならないという意味である。この場合なら単に無属性のMPを2消費すればプレイ可能だ。
属性MPが必要ないにも関わらず「火」と記載されているのは、このカード自体の属性を表してもいるからだ。
つまりゴブリンソルジャーは火属性キャラクターだが、プレイコストには属性は必要ないカードだということである。
先攻の第一ターンはバトルフェイズがない。
メインフェイズにやるべきことを全て終えたらエンドフェイズになる。
そして前述の通り、エンドフェイズにはこのターンに発生したすべてのMPが自動的に消滅する。
「ゴブリンソルジャー……。攻撃力、防御力ともに1の最下級のキャラクターカードか。篝火を場に出したということは、火属性のデッキ……」
篝火のような設置カテゴリのアイテムカードは、プレイ後何らかの効果で除去されるまで場に残り続け、永続的に効果を発揮する。
次ターンから永続的に、この野盗のドローフェイズで発生するMPは火属性1、無属性2になるという事である。
「オレのターン──ドロー!」
カズアキの引いたカードはキャラクターカード「陽気な獣人」。コモンカードである。
「……オレは無属性1MPを支払い、「陽気な獣人」をプレイ。さらに無属性1MPを支払い「嫌味なエルフ」を、無属性1MPを支払い「根暗なドワーフ」をプレイする」
キャラクターカード:〈陽気な獣人〉
カテゴリ:〈獣人〉〈物理〉〈近接〉
コスト :〈雷0/1〉
能力値 :〈攻撃力0/防御力1〉
固有効果:〈なし〉
キャラクターカード:〈嫌味なエルフ〉
カテゴリ:〈エルフ〉〈魔法〉〈近接〉
コスト :〈風0/1〉
能力値 :〈攻撃力0/防御力1〉
固有効果:〈なし〉
キャラクターカード:〈根暗なドワーフ〉
カテゴリ:〈ドワーフ〉〈魔法〉〈近接〉
コスト :〈地0/1〉
能力値 :〈攻撃力0/防御力1〉
固有効果:〈なし〉
「なんだぁ、そのゴミカードどもは! 効果もない! 攻撃力もゼロ! そんなゴミキャラクターが何枚集まったところで無駄だぜ!」
「……ターンエンドだ」
「ははは! こりゃ、食糧はいただきだな! 俺のターン! ドロー!
……へへへ。こりゃあいいぜ。俺はゴブリンソルジャーを「昇華」し火属性MPをさらに2発生させるぜ! 火属性2MP、無属性1MPを支払い、手札から「駆け出し魔法戦士ウェイン」をプレイだ!」
キャラクターカード:〈駆け出し魔法戦士ウェイン〉
カテゴリ:〈ヒューマン〉〈プレイヤー〉〈魔法〉〈物理〉〈近接〉〈遠距離〉
コスト :〈火2/3〉
能力値 :〈攻撃力2/防御力1〉
固有効果:〈1ターンに1度、相手の場のキャラクターカード1枚の防御力を2まで下げる事が出来る。(防御力が0以下になったキャラクターは破壊される)〉
固有効果:〈このカードは破壊された場合、ダンプには送られず、持ち主の手札に戻る〉
野盗が行なった「昇華」という行動は、自分のフィールドのキャラクターカードを「ダンプ」と呼ばれる使用済みカード置き場に送ることで、そのカードをプレイするのに支払ったコスト分のMPを、そのカードの属性で発生させる事が出来るルールだ。
例えば今のゴブリンソルジャーで言えば、〈火0/2〉というコストであるため、昇華すれば火属性のMPを2、発生させる事が出来る。
ただしいつでも出来るというわけではなく、この行動はそのキャラクターカードがプレイされたターンには行えない。
「そして駆け出し魔法戦士ウェインの固有効果を発動! くらえ、ブレイズランス! てめえの場の陽気な獣人を焼き払うぜ!」
「くっ!」
陽気な獣人の防御力は1しかない。ウェインの固有効果で防御力を2下げられると0を下回ってしまう。
ルール的にマイナスの数値は存在しないためゼロ未満は無意味だが、この場合重要なのは0になってしまうことだ。
陽気な獣人は断末魔の叫び声を上げ、破壊された。破壊されたカードはルール上、即座にダンプに送られる。
「さらに火属性1MP、無属性1MPを支払い、手札からスキルカード「フレアアロー」を発動だ! このスキルは相手の場のキャラクターを2体まで選択し、その防御力を合計で2まで下げる事が出来る! 俺が選ぶのは嫌味なエルフと根暗なドワーフだ! そして当然、防御力がゼロになったキャラクターは破壊だ!」
スキルカード:〈フレアアロー〉
カテゴリ:〈魔法〉
コスト :〈火1/2〉
発動条件:〈なし〉
固有効果:〈相手フィールドに存在するキャラクターカードを2枚まで選択し、その防御力を合わせて2まで下げる。(この効果によって防御力が0になったキャラクターは破壊される)〉
「ひゃーっはっはあ! これでてめえの場はガラ空きだあ! バトルフェイズだ!
駆け出し魔法戦士ウェインで攻撃!」
「ぐう!」
カズアキはLPに2ポイントのダメージを受けた。駆け出し魔法戦士ウェインの攻撃力が2だからだ。
せめて1体でも迎撃に出られるキャラクターが残っていればダメージを受けずに済んだのだが、残念ながらすべてのキャラクターは破壊されてしまっていた。
これでカズアキの残りライフは3ポイントだ。ライフが0になれば当然カズアキの負けだ。良くない流れである。
「ふひひひ! ターンエンドだ! 食糧の準備をしておきな!」
「お、おいカズアキ! 大丈夫なのかよ!」
「心配するなクワムラ。オレのターン、ドロー……」
「くっくくく。何のカードを引いたか知らねえが、そこらで拾ったようなゴミカードじゃあ俺様のキャラクターは倒せねえぜ! 貧乏人は知らねえだろうから教えてやるよ! カテゴリ〈プレイヤー〉を持つキャラクターはなあ、破壊されてもダンプには送られず、手札に戻るってぇ共通効果を持っている! つまり、テメエが頑張って俺のウェインを倒せたとしても、いずれまた場に現れるってわけだ!」
言われずとも知っている。
だからこそ、プレイヤーをモデルにしたカードは全てレアカード以上のレアリティなのだ。そしてそれはつまり、カズアキはカテゴリ〈プレイヤー〉を持つキャラクターを1枚も持っていないという事でもある。
「……オレは「ヒューマンの傭兵」を無属性2MPを支払いプレイ」
キャラクターカード:〈ヒューマンの傭兵〉
カテゴリ:〈ヒューマン〉〈物理〉〈近接〉
コスト :〈火0/2〉
能力値 :〈攻撃力1/防御力1〉
固有効果:〈なし〉
「さらに無属性1MPを支払い「臆病な野うさぎ」をプレイ」
キャラクターカード:〈臆病な野うさぎ〉
カテゴリ:〈魔獣〉〈物理〉〈近接〉
コスト :〈地0/1〉
能力値 :〈攻撃力1/防御力1〉
固有効果:〈このキャラクターは攻撃できない〉
「バトルフェイズだ。ヒューマンの傭兵で攻撃!」
「ちっ! 小癪な真似しやがって! ガードはしねえ。ライフに通すぜ」
野盗はウェインを迎撃には出さなかった。
ウェインの防御力は1であるため、ヒューマンの傭兵に殴られれば破壊されてしまう。ヒューマンの傭兵も破壊されてしまうことになるが、ウェインは固有効果に貫通系の能力を持っていないため、その攻撃力が防御力を上回っても意味はない。
「……臆病な野うさぎは自身の効果により攻撃できない。ターンエンドだ」
野盗のライフを1ポイントだけ減らし、カズアキはターンを終了させた。
「ひひひ、俺のターン! ドロー! へへ、来たぜ来たぜ。俺は火属性1MP、無属性2MPを支払い、「駆け出し盾戦士ギノレガメッシュ」をプレイ!」
キャラクターカード:〈駆け出し盾戦士ギノレガメッシュ〉
カテゴリ:〈ヒューマン〉〈プレイヤー〉〈物理〉〈近接〉
コスト :〈火1/3〉
能力値 :〈攻撃力1/防御力2〉
固有効果:〈1ターンに1度、自分フィールドのキャラクターカードが効果の対象として選ばれた場合、その対象をこのカードに移し替えることができる〉
固有効果:〈このカードは破壊された場合、ダンプには送られず、持ち主の手札に戻る〉
「そしてウェインの効果を発動! てめえのヒューマンの傭兵を破壊だ! ブレイズランス!」
「くっ……」
「バトルだぁ! ギノレガメッシュで攻撃!」
「……迎撃はしない」
「ならライフダメージを受けな!」
カズアキのライフがさらに削られ、残り2ポイントになる。
「ぐう……」
ウェインの防御力は1しか無いため、野うさぎで迎撃すれば相討ちで破壊してやることが出来る。
ウェインで攻撃してくるようならそうしたのだが、ギノレガメッシュ相手では一方的に破壊されるだけになる。野うさぎが居なくなってしまえばウェインが攻撃をしてくるだろうし、ここは迎撃に出ずにウェインに睨みを利かせておいた方がいい。
「……ちっ。邪魔な野うさぎだぜ。次のターン、ウェインの効果で破壊してやる。ターンエンドだ」
今、カズアキの手札は2枚しかない。
どちらもコスト2のキャラクターカードであるため、1ターンに1枚ずつしか場に出すことが出来ない。ウェインの魔法の前ではたった1枚の壁など無いも同然だ。
この後運良くコスト1のキャラクターカードを引いたとしても、急場をしのぐ盾にしかならないだろう。野うさぎ共々破壊され、そう遠くない未来、カズアキのライフは削り切られる事になる。
それがわかっているらしい野盗は、忌々しげにエンド宣言をしながらもニヤニヤ顔だ。
「……オレの、ターン……」
デッキに指を添えるが、なかなか引くことができない。
引いたカードによってはここでバトルは終了だ。
「どうしたどうしたあ! サレンダーしてもいいんだぜ!」
投了などしない。
たとえ負けるとわかっていても、最後まで諦めずに戦う。
それがカードに魅入られし者、カードマスターの宿命だ。
「──ドロー!」
意を決してカードを引いた。
「これは──このカードは……!」
「無駄無駄ぁ! とっととターンを進めやがれ!」
情けは人の為ならず。
クワムラのその言葉がカズアキの脳裏をよぎった。
たしかにその通りだ。
あの男に渡したジャガイモが今、形を変えてカズアキたちを救うことになる。
「──オレは、MPを全て支払い、手札からスキルカード「第七災厄降臨」を発動する!」
「な、なにい! 何だそのカードは……!」
「このカードは、相手フィールド上にカテゴリ〈プレイヤー〉を持つキャラクターが存在する場合にのみ、自分の全てのMPを支払ってプレイできる! お互いのフィールド、手札のカードを全て破壊する!」
「ば、ばかな……! 俺のウェインが、ギノレガメッシュが……」
ウェインとギノレガメッシュが断末魔を上げ、そのイメージが光になって消えていく。
カズアキの手札も同様だ。残っていた2枚の手札、「盗賊の見張り」、「街の衛兵」がダンプに飲み込まれた。
「……だが! ウェインもギノレガメッシュも〈プレイヤー〉だ! 破壊された場合、ダンプには送られずに俺の手札に戻ってくるぜ!」
「そんな事はわかっている。──だが、お前のターンはもう来ない!」
「なにい!?」
「第七災厄降臨の効果はまだ終わってはいない! 全てを破壊した後、自分のダンプのキャラクターカードを任意の枚数、自分の場に出すことが出来る! この効果によって場に出されたキャラクターはカテゴリが全て〈アンデッド〉に置き換わり、効果も無効にされ、さらにエンドフェイズに破壊される!」
「な、何だその効果は……」
「俺はダンプより、この4体のキャラクターを選ぶ!
美しき災いにより偽りの生を受け、死霊となって甦れ! ヒューマンの傭兵、臆病な野うさぎ、盗賊の見張り、街の衛兵!」
「ば、馬鹿な!」
「バトルだ! ヒューマンの傭兵、臆病な野うさぎ、盗賊の見張り、街の衛兵で、野盗を攻撃!」
傭兵の剣が、野うさぎの体当たりが、盗賊のナイフが、衛兵の槍が、野盗のライフを貫いた。
「ぐ、ぐわあああああ──……」
*
「……1人目は片付けた。次はどいつだ」
「──ちっ! お、覚えてやがれ!」
野盗たちはほうほうの体で逃げて行った。なんとか撃退できたようだ。
「っぶねー! ヒヤヒヤさせんなよな! あんな切り札があんなら……」
「いや、運が良かった。あの2人には感謝しないとな」
「あの2人……? あ、まさかそのカード……」
「ああ……」
スキルカード:〈第七災厄降臨〉
カテゴリ:〈災厄〉〈イベント〉
コスト :〈全MP〉
発動条件:〈このカードは、相手フィールドにカテゴリ〈プレイヤー〉を持つキャラクターが存在している場合のみ、自分メインフェイズの最初にプレイできる〉
固有効果:〈お互いのフィールド、及び手札のカードを全て破壊する。その後自分のダンプから、このカードの発動時に支払ったコスト以下の合計コストを持つ、任意の枚数のキャラクターカードを選び、自分フィールドに出す。この効果でフィールドに出されたキャラクターはカテゴリの全てが〈アンデッド〉に置き換わり、固有効果が無効になり、エンドフェイズに破壊される〉
続かない。
ライフ5ポイントだと少なすぎるので、実際には10とかがバランス的に丁度いいかな。長くなるので半分にしました。
スキルカードは相手ターンでも手札から発動出来ますが、コストが必要な場合は自分のキャラクターを昇華するなどして強引に支払う必要があります。
その際の優先権とかについてはまだ細かく設定してません。
カテゴリ〈災厄〉を持つカードはデッキに合計で○枚まで、とか。
〈プレイヤー〉は同名カードは場に複数存在出来ない、とか。




