カルタマキア 第4話 「予選開幕」
《──参加者の皆様の配置を確認しました。偏りは許容範囲内です。
それでは現時点をもちまして、カルタ・イヨルティ予選開始を宣言いたします》
森に入り、しばらく進んだところでシステムメッセージが流れた。
予選が開始されたとなれば、まずは戦う相手を探さなければならない。
最低でも8回は戦う必要がある。時間を無駄にするわけにはいかない。
そう考えて森を進もうとしたところ、背後から何者かに声をかけられた。
「──遊び半分でやってる異邦人にしちゃ、いい覚悟だが……。言うだけの実力がありゃいいがな」
「……つけていたのか。オレを」
「ああ。威勢のいい若者がいたんでな。さっきの天の声からすると、このくらいの尾行は偏りとして許容できる範囲内らしいな」
森の外でのカズアキのセリフの事だ。見られていたらしい。
振り返ると無精ひげを生やした中年の男が立っていた。
鋭い眼光は何もかもを見透かそうとしているようで、ただならない凄みのようなものが感じられる。
話していた内容からするとNPCのようだ。
プレイヤーと違って死亡したら終わりのNPCでありながら、命の危険があるカードゲーム大会に出場するとは、カズアキが言うのも何だがどうかしている。
しかし、それだけにその実力は侮れない。
本人が言うように、覚悟を持って大会に臨んでいると見るべきだ。
カズアキの目的は知名度だったため、大会の本来の優勝賞品についてはあまり気にしていなかったが、確か限定カードだっただろうか。
この大会で優勝する事でしか手に入れる事が出来ないという、このゲーム世界でたった1枚限りのオリジナルカードだ。
このカルタマキアはプレイヤーのみならず、現地のNPCにまで絶大な人気を誇るカードゲームである。
1枚限定の超希少カードともなれば、どれほどの値がつくことか想像もできない。
そういう、世に2つとない財宝を求めて危険を冒していると考えれば、NPCのこの男性が命をかけているとしてもわからないでもない。
一攫千金を求め、危険を覚悟で遺跡を探索するのと同じような感覚なのだ。
生活がかかっているという意味ではカズアキと変わらない。
「あんたも、覚悟を決めてこの大会に出場しているという事か」
「へっ。言うまでもねえこった。そうじゃない奴なんていねえだろうさ。とくに俺たち現地人はな」
どちらともなくデッキケースからデッキを抜き、ベルトにセットした。
その瞬間、ベルトが自動的に近くの対戦相手、この場合は中年の男をマッチングした。
直後に先攻・後攻が振り分けられる。先攻はカズアキではなかった。中年男の方だ。
「まずは俺からだな。ドロー!
──ふうん。悪くねえ手札だな。だが、まだ動くのは早い。
俺は無属性1MPを支払い、「嫌味なエルフ」をプレイしてターンエンドだ」
先攻のプレイヤーは攻撃できない。
まずは様子見ということだろう。堅実な相手だ。
「オレのターン! ドロー!
オレは手札から「スケルトン」、「ダスモデス」を場に出し……」
キャラクターカード:〈スケルトン〉
カテゴリ:〈アンデッド〉〈物理〉〈近接〉
コスト :〈闇0/2〉
能力値 :〈攻撃力1/防御力1〉
固有効果:〈なし〉
キャラクターカード:〈ダスモデス〉
カテゴリ:〈アンデッド〉〈魔法〉〈遠距離〉
コスト :〈闇0/1〉
能力値 :〈攻撃力0/防御力1〉
固有効果:〈なし〉
「スキルカード「生贄の儀式」を発動!」
「何!? MPがないのにスキルを発動だと!」
「この生贄の儀式は、自分の場のカードの持つ属性が全て同じ場合、コストを支払わずに発動できる!」
スキルカード:〈生贄の儀式〉
カテゴリ:〈儀式〉
コスト :〈無0/1〉
発動条件:〈自分のフィールドの全てのカードの属性が同じ場合、このスキルはコストなしで発動できる〉
固有効果:〈このターン、自分は自分のフィールドの全てのキャラクターを制限を無視して「昇華」できる〉
カズアキは場に出したばかりのスケルトンとダスモデスをダンプに送り、闇属性のMPを3発生させた。
「そして現れろ! 血に魅了されし堕落者よ! レッサー・ヴァンパイア!」
キャラクターカード:〈レッサー・ヴァンパイア〉
カテゴリ:〈アンデッド〉〈物理〉〈魔法〉〈近接〉〈遠距離〉
コスト :〈闇2/3〉
能力値 :〈攻撃力2/防御力2〉
固有効果:〈このキャラクターが戦闘で相手キャラクターを破壊した場合、自分の場に「スクワイアゾンビ」という名称のキャラクターシンボルを出す事が出来る。(シンボルは場にある限りカードとして扱い、場から離れた場合消滅する)。「スクワイアゾンビ」はカテゴリ〈アンデッド〉、能力値〈攻撃力1/防御力0〉、固有効果〈このカードは防御力が0になっても破壊されない〉、〈このカードはエンドフェイズに破壊される〉を持つ〉
「ふん、レッサー・ヴァンパイアか」
中年男は眉をひそめた。
レッサー・ヴァンパイアについて知っているようだ。
「バトルフェイズだ。レッサー・ヴァンパイアで攻撃!」
「チッ! 嫌味なエルフで迎撃だ」
レッサー・ヴァンパイアの攻撃で嫌味なエルフは破壊され、ダンプに送られた。
「この瞬間、レッサー・ヴァンパイアの固有効果発動! 嫌味なエルフを戦闘で破壊した事で、オレの場にスクワイアゾンビシンボルを出す! 血の盟約によって甦れ!」
カズアキのフィールドにスクワイアゾンビシンボルが出現した。
破壊された嫌味なエルフの姿を、白黒のみで表現したかのような不気味な姿だ。それがまるで生前のキャラクターのようにレッサー・ヴァンパイアの隣に立つ。
このような存在をキャラクターシンボルという。
キャラクターシンボルとは、カードで存在している訳ではないが便宜上キャラクターカードとして扱う、影のようなものである。
基本的には何の効果も持っていないが、スクワイアゾンビのようにシンボル発生のトリガーとなったカードによって特殊な効果を付与されている場合もある。
スクワイアゾンビは元々の防御力が0であり、自身に付与されている効果によって破壊を免れている。その代わりにエンドフェイズに自動的に破壊されてしまう。
なお、シンボルにはプレイコストが設定されていないため、昇華は出来ない。
「スクワイアゾンビで直接攻撃だ!」
「くっ!」
スクワイアゾンビの攻撃によって中年男のライフが1ポイント削られ、4ポイントになった。
「ターンエンドだ。おっさん、あんたのターンだ」
以前のデッキのままだったら、ここまで有利に戦況をすすめる事は出来なかっただろう。
スラムのみんな、そしてクワムラが託してくれた黄金の輝きが、カズアキに力を与えてくれたのだ。
「──ふっ。面白い。俺のターン!」
引いたカードを確認し、中年男はニヤリと笑った。
「俺は手札の「駆け出し軽戦士ハルカ」の固有効果を発動する!」
手札から直接固有効果の発動が出来るキャラクターカード。
カズアキが先日購入した追加パックから登場した、新しいレアカードだ。
キャラクターカード:〈駆け出し軽戦士ハルカ〉
カテゴリ:〈エルフ〉〈プレイヤー〉〈物理〉〈近接〉
コスト :〈風0/2〉
能力値 :〈攻撃力1/防御力1〉
固有効果:〈1MPを支払い、このカードを手札からダンプに送る事で、風属性MP1を発生させる事が出来る。この効果を使ったプレイヤーはこのターン、同名カードの固有効果を発動できない〉
固有効果:〈このカードは破壊された場合、ダンプには送られず、持ち主の手札に戻る〉
効果欄にコストとして単に「MPを支払う」とだけ書かれている場合、そのMPはどの属性のMPでも構わない。
駆け出し軽戦士ハルカの効果は、つまり手札から捨てる事で発生しているMPのうちひとつを風属性に変換できる効果であると言える。
「さらに続けて手札から、「駆け出し軽戦士くるみ」、「駆け出し軽戦士らんぷ」の固有効果も発動するぜ!」
キャラクターカード:〈駆け出し軽戦士くるみ〉
カテゴリ:〈エルフ〉〈プレイヤー〉〈物理〉〈近接〉
コスト :〈火0/2〉
能力値 :〈攻撃力1/防御力1〉
固有効果:〈1MPを支払い、このカードを手札からダンプに送る事で、火属性MP1を発生させる事が出来る。この効果を使ったプレイヤーはこのターン、同名カードの固有効果を発動できない〉
固有効果:〈このカードは破壊された場合、ダンプには送られず、持ち主の手札に戻る〉
キャラクターカード:〈駆け出し軽戦士らんぷ〉
カテゴリ:〈エルフ〉〈プレイヤー〉〈物理〉〈近接〉
コスト :〈氷0/2〉
能力値 :〈攻撃力1/防御力1〉
固有効果:〈1MPを支払い、このカードを手札からダンプに送る事で、氷属性MP1を発生させる事が出来る。この効果を使ったプレイヤーはこのターン、同名カードの固有効果を発動できない〉
固有効果:〈このカードは破壊された場合、ダンプには送られず、持ち主の手札に戻る〉
これら2体のキャラクターも同様の効果だ。ただ、属性はそれぞれ異なっている。
中年男はドローフェイズに発生した無属性の3MPを、手札3枚と引き換えに火属性、風属性、氷属性の1MPずつに変換したというわけだ。
「そして3属性のMPを捧げ──現れよ、神秘なる魔の申し子、「名無しのエルフさん」!」
キャラクターカード:〈名無しのエルフさん〉
カテゴリ:〈エルフ〉〈プレイヤー〉〈魔法〉〈遠距離〉
コスト :〈複3/3〉
能力値 :〈攻撃力3/防御力2〉
固有効果:〈1ターンに1度、任意の属性のMPを2得ることが出来る。この効果を発動したターン、このカードは攻撃に参加できない〉
固有効果:〈このカードは破壊された場合、ダンプには送られず、持ち主の手札に戻る〉
名無しのエルフさんのプレイコスト〈複3/3〉とは、指定コストである3MPを全て別々の属性で支払う必要があるという意味である。特に指定がない場合、この属性は何でも構わない。
中年男は火、風、氷のMPで支払ったということだ。
「そして名無しのエルフさんの固有効果を発動! 火属性MPを発生させるぜ! さらにそのMPを消費し、手札からスキルカード、フレイムランスを発動だ! 兄ちゃんのレッサー・ヴァンパイアの防御力をゼロにし、破壊する!
レッサー・ヴァンパイアは厄介なカードだが、戦闘を介さず破壊しちまえば怖くもなんともねえ!」
「くっ!」
都合、手札4枚ものリソースを使ってプレイしたレッサー・ヴァンパイアがたったの1ターンで破壊されてしまった。
「この効果を発動したターン、俺の名無しのエルフさんは攻撃できねえ。ターンエンドだ」
中年男は余裕の表情でエンド宣言をした。
「……オレのターン、ドロー……!」
引いたカードは「崩壊した王都」。スケールは大きいがアイテムカードだ。
コストは重い。しかしその効果は大きい。
「オレは無属性3MPを支払い、手札からアイテムカード、「崩壊した王都」を発動!」
「ほう! だが、全MPを支払ってアイテムカードをプレイしちまったら、兄ちゃんを守る盾は何も出せなくなるぜ!」
アイテムカード:〈崩壊した王都〉
カテゴリ:〈設置〉〈イベント〉
コスト :〈闇0/3〉
固有効果:〈自分ドローフェイズに発生する無属性MPのうち、3つまでを闇属性に変更できる〉
中年男の言う通り、アイテムを設置したところで、相手の攻撃を防ぐ手立てがないのは確かだ。
そしてMPも残っていない以上、防御のためのキャラクターカードをプレイすることも出来ない。
「……ターンエンドだ」
「ははは。俺のターン!
……おっと、運が良かったな兄ちゃん」
先のターン、中年男は手札を5枚も消費してしまっていた。
今のドローで手札は2枚。
その中に攻撃力2以上のキャラクターカードがなかったのだろう。
「俺は無属性MPを2支払い、「エルフの魔法使い」をプレイ!」
キャラクターカード:〈エルフの魔法使い〉
カテゴリ:〈エルフ〉〈魔法〉〈遠距離〉
コスト :〈風0/2〉
能力値 :〈攻撃力1/防御力1〉
固有効果:〈なし〉
「バトルだ! 名無しのエルフさんとエルフの魔法使いで兄ちゃんに攻撃!」
「ぐうっ!」
名無しのエルフさんの攻撃で3、エルフの魔法使いで1のLPが削られ、カズアキのライフは残り1ポイントだ。
まさに風前の灯火と言えるが、生きているだけ幸運である。
「ターンエンドだ。兄ちゃん、あんたの最後のターンだぜ」
中年男は不敵に笑う。
確かに、このターンで返せなければ、カズアキに次のターンは回ってこない。
「オレのターン、ドロー……!」
引いたカードに目をやった。
このカードは、あの時の謎の男が押し付けるようにカズアキに授けてくれたカードだ。
カズアキのもう1枚の切り札である。
前のターン、切り札を引くことを信じてアイテムを設置しておいた、その布石が無駄にならずに済んだ形だ。
「来たか!」
「なんだ? 何かいいカードでも……」
「オレは崩壊した王都の効果により、無属性マナを全て闇属性に変換する! そして変換された闇属性3MPを支払い、このカードをプレイする!
次元の壁を引き裂いて、現われろ! 最強の異邦人! 「暗黒騎士レア」!」
「何い!」
キャラクターカード:〈暗黒騎士レア〉
カテゴリ:〈プレイヤー〉〈???〉〈物理〉〈魔法〉〈近接〉〈遠距離〉
コスト :〈闇3/3〉
能力値 :〈攻撃力2/防御力3〉
固有効果:〈このカードがプレイされた時、自分の場の他のキャラクターを全て破壊する〉
固有効果:〈1ターンに1度、場のキャラクター1体の防御力を0にする事が出来る。(防御力が0以下になったキャラクターは破壊される)〉
固有効果:〈このカードが場にある限り、自分は自分メインフェイズ終了時、場のカテゴリ〈プレイヤー〉を持つカードを1枚選んで破壊する。この効果で破壊されたキャラクターのコントローラーは破壊されたキャラクターの本来の防御力分のダメージを受ける〉
固有効果:〈このカードは破壊された場合、ダンプには送られず、持ち主の手札に戻る〉
「暗黒騎士レアの固有効果発動! お前の場のエルフの魔法使いの防御力をゼロにする! ヘルフレイム!」
「ちっ! くそお!」
防御力が0になったエルフの魔法使いは破壊され、ダンプに送られた。
「そしてメインフェイズ終了時、暗黒騎士レアの、もうひとつの効果発動! 強制効果によって、場の〈プレイヤー〉を1枚破壊する! オレが選ぶのは当然名無しのエルフさんだ!」
暗黒騎士レアの固有効果を受け、名無しのエルフさんが破壊された。
「俺の名無しのエルフさんが! ちくしょお……!
だが、名無しのエルフさんは俺の手札に帰ってくる!」
「だが追加効果によるダメージは受けてもらう! くらえ! タイダルウェイブ!」
名無しのエルフさんの本来の防御力は2だ。よって2ダメージが中年男のライフを削る。
これで中年男の場はガラ空きだ。
たとえ手札にプレイヤーが戻っても、このターンに出来ることはない。
そして他にスキルカードを持っていたとしても、マナが無いため発動することは出来ない。
残りLPも2。これで終わりだ。
「バトルフェイズだ! 暗黒騎士レアで、中年男に直接攻撃! インビジブルスラッシュ!」
「ぐおおおっ!」
暗黒騎士レアの攻撃により、中年男のライフが0になり、マキアは終了した。
初戦はなんとかカズアキの勝ちだ。
「……負けちまったか。ポイント、持っていけ」
「ああ。ありがたく頂いていく」
予選第一戦だというのに想像以上に苦戦をしてしまった。
中年男のデッキが構築済みのものとはかけ離れていたせいだろう。
「今回のルールじゃ、1回までは負けても挽回出来る。初戦は様子見にそこそこ強そうな奴に挑んでみて、勝てりゃ余裕が出来るかな、ってくらいでふっかけてみたんだが……。どうやら兄ちゃんの実力はそこそこどころじゃなかったようだな」
「あんたもな。オレも運が悪ければ負けていた」
「へっ。この俺に勝ったんだ。予選敗退なんてのは勘弁してくれよ。つか、他の誰にも負けんじゃねえぞ」
「そのつもりだ」
「俺もまだ1ポイント残ってる。こいつを増やして、俺は必ず決勝に行く。決勝でまた会おうや」
「ああ。楽しみにしている」
中年男はデッキをしまい、ベルトを肩に掛けてカズアキに背を向けた。別の対戦相手を探しに行くようだ。
カズアキもその場で踵を返し、別の方向へ向かう。
「──じゃあな兄ちゃん。名前を聞きてえ所だが、そいつは決勝で会った時までお預けだ。ただひとつだけ言っとくと、中年男っていうのはやめてくれ。心に刺さる」
とりあえずここまで。
続きは来週末に上げられたら上げますが、どうだろう……。
正直、カードとかデッキ構成とか勝ち/負けパターンとかを考えるのに本編よりも時間がかかるので、どうなるかわからない感じです。
暗黒騎士レアについては、破壊効果は強制発動ですから、メインフェイズ終了時に他に〈プレイヤー〉カードがいない場合、自分自身を自動的に破壊します。そして3点のライフダメージを受けます。自分の場のキャラクターはプレイ時に全て破壊しますから、事実上相手に〈プレイヤー〉がいない場合はプレイできないようなものですね。




