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学園トーナメント 15

 改革派閥の先陣部隊と言っていた人達を一掃いっそうすると、〈大地の牢壁(グランド・プリズン)〉で隔離していた王子を解放した。


「ぐっ、な、何が?・・・っ!?貴様よくも私を閉じ込めお・・・って・・・」


 解放した王子の姿は少し服が焦げていた。きっと、内部から火魔法を使って脱出を試みようとしたのだろうが、逆に自分を焼く結果となってしまったようだった。


解放されて、目が合った僕に対しては、閉じ込められたと思って憤慨してた王子も、周りの状況を認識すると言葉の勢いが(しぼ)んでいった。


「・・・こ、これは・・・ま、まさかお前がやったのか?」


「そうですよ」


「こんな短時間で、こんな・・・」


 王子は周囲に広がる屍の山を見ながら、僕に視線を戻した。すると、その目には僕に対する恐怖が宿っているように見えた。それはおそらく、自分では敵わないと感じた革命派閥の軍勢相手に、単独で一掃してしまった僕に対して、どう対応しようか決めかねているようにも見えた。


「こんな状況ですから試合も中止でしょう。では、僕はこれで失礼しますね」


 襲撃が始まった当初から、生徒のみんなは教師先導のもと避難しているのが見えたので大丈夫だとは思うが、念の為にみんなの無事を確認しておきたかったのだ。


(この場所の連中以外にも居たら厄介だな。空間認識も敵味方の判別が出来る訳じゃないからな・・・)


 ティアが今日学園に来ていないことは幸いしたが、サジウスが僕の友人という言葉に反応したことから少し心配だった。とはいっても、平民であるマシューやシルヴィアをどうこうするとは思えない。他国の王女であるメグに至っては手を出そうものなら、また戦争の引き金になってしまうので、内乱に加えて戦争しようものならこの国を滅ぼす結果になりそうだ。


「ま、待て!お前は何なんだ?何がしたい?」


 この場を離れようとした僕に王子が()(ただ)してきた。何と言われても普通の人だと思っているのだが、何がしたいかは言えない。


「ただの平民ですよ。別に何がしたいとも思ってませんよ」


振り返りながらそう言う僕に、さらに王子は言葉を重ねる。


「な、ならば私の為にその力を振るわぬか?私の側近になれば栄達は思うがままだぞ!」


 とてもさっきまで僕を殺そうとしたり、盾にしようとした者の態度とは思えなかった。僕の実力を見て取り入れたいと考えを変えたのだろう。怯えたような口調で提案してきた。


「いえ、僕は別に栄達に興味ないですから」


「な、なら女か?フリージアは無理だが、侯爵令嬢のシャーロットはどうだ?なかなか美人だぞ!私の側室にしようと思っていたが、なんなら君にあげるぞ!」


 王子は僕を取り込もうと必死なのか、呼び方も段々変わってきた。ただ、人を物か何かと思っているような表現は気に入らない。貴族の考え方は僕には分からないが、人の想いがそこになければ意味がないと僕は考えている。


(シャーロット様が王子を好きなのかは分からないが、そこにはどんな形であれ彼女の想いがあるはずだ。それを本人の想いを無視して物のように扱われるのは嫌だなぁ)


「いえ、僕は女性に興味は今のところないですから」


「・・・!?そ、そうか、なら男が良いのか?そんな顔してるからな。私に任せれば幾らでも用意できるぞ」


 女性に興味がないと言ったことが、どういうわけか王子の中で僕が男の方が好きという解釈になったようだ。この外見から男から変な目で見られたことは多々あるが、そんな趣味は毛頭ない。


「いや、結構です。とにかく友人が心配なんで失礼しますね」


「お、おい!」


僕を呼び止めようとする王子の声があったが、さっさとこの場を立ち去った。



 空間認識でとりあえず人がたくさん集まっている所に足を運ぶ。Sクラスのケイティ先生を見つけたのでメグについて聞くと、さすがに他国の要人だけあって学園長が早々に避難させたとのことだった。残念ながらマシューやシルヴィアについては分からないと言われてしまった。


 しばらく周辺を捜索していると、人が閑散としている場所にうつ伏せに横たわる女性を見つけた。血溜(ちだ)まりが出来ているようで、その女性の生死は不明だ。


近寄って仰向けにすると、驚くことに『風の調』のツヴァイさんだった。触れた身体は冷たくなってきているが、まだ脈はあるようだ。とはいえ、顔は蒼白で既に虫の息だ。腹部に致命傷と思われるほどの裂傷があり、このままではあと数分で息絶えてしまうだろう。


「一体なぜツヴァイさんが?」


 疑問はあったが、治せば何か分かるだろうと彼女を膝枕をするようにして、第五位階光魔法〈完全回復(フル・キュア)〉を掛けた。見る間に傷は癒えて顔色も少しづつ良くなっているが、失った血が戻るわけではないのでしばらく安静が必要だ。



「・・・うっ、わ、私は・・・」


 ツヴァイさんは意識を取り戻したようで、まだ身体を起こせないようだが、自分の腹部を擦って傷を確認しているようだった。


「ツヴァイさん?僕です、分かりますか?」


未だ意識が混濁しているような虚ろな目で、声を掛けた僕を見つめる。


「・・・っ!?ダ、ダリア様?わ、私は死んだはずでは?」


「致命傷を受けていましたが、もう治しましたので大丈夫ですよ。何があったか聞いても大丈夫ですか?」


「あれは致命傷だった・・・それを治すのは第五位階でないと・・・」


ツヴァイさんはぶつぶつと自分にあったことを思い出すように呟き、考えをまとめているようだ。


「あの、状況を聞いてもいいですか?」


そう時間があるわけでもないので、少し急かすようになってしまうが、彼女からの報告を促す。


「あっ、すみません!うっ・・・」


身体を起こそうとするが、血を失っているためにまた僕の膝に倒れてしまう。


「そのままで構いませんので、お願いします」


「す、すみません!こんな体制で恐縮ですが、実は・・・」


ツヴァイさんの報告に僕は驚きを隠せなかった。



 監視・護衛対象としてシルヴィアに付いていたツヴァイさんは、今回の反乱を危惧していたが平民であるマシューやシルヴィアには無関係と思っていたという。それは実際僕もそう思っているので、別に彼女が浅慮(せんりょ)な訳ではないだろう。


しかし、今回の襲撃と同時に別働隊と思われる改革派閥の数人が、シルヴィアを目的として強襲してきたらしい。シルヴィアはしきりに平民であることを主張して、関係ないと叫んでいたが、彼らは取り合わずに彼女を拘束しようとしたという。


 護衛でもあるツヴァイさんは、彼女を守ろうと介入したのだが、別働隊にも手練れがおり、多勢に無勢もあって守りきれなかったということだ。


「ほ、本当に申し訳ありません!依頼を遂行出来ずに、逆に助けられるような不様を・・・」


彼女は僕の膝の上から申し訳無さそうに、悔しさを滲ませる声で謝罪してくれた。


「いえ、ツヴァイさんのせいでは無いです。僕も驚いていますから。なぜシルヴィアが狙われたのかわかりませんか?」


「・・・申し訳ありません。私では検討がつきません。オーナーなら何か情報が集まっているかもしれませんが・・・」


これから闇雲にシルヴィアを探しても雲を掴むようなものだとは分かっているので、とにかく今は情報が欲しい。


(空間認識が個人の識別まで出来ればすぐ見つけられるのに・・・)



 今までは何の苦もなくこれたことが、その必要性の認識を妨げていたようで、悔しさが込み上げてくる。すると、僕達がいる場所に誰かが走ってくるのが認識できた。


「ツヴァイ!大丈夫!?」


それは、最初に『風の調』に行った時に見た、もう一人の店員さんだった。


「うっ、姉さん。ゴメン、ミスっちゃった・・・」


ツヴァイさんの傍らに膝をついて心配そうに見つめる店員さんに、彼女は気丈に振る舞うような笑顔を見せた。


「もう、あんた頑張り過ぎるのよ!敵わないと分かれば情報だけでも持ち帰れって言われてるでしょ!死んだら何にもならないでしょ!」


余程ツヴァイさんが心配なのだろう、涙を流しながら説教をしている。


「そうだね、今回は依頼人のダリア様に助けられちゃった」


彼女は努めて明るく、イタズラをした子供のようなバツの悪い顔をした。


「・・・ダリア様、この度は依頼を遂行できなかったこと、誠に申し訳ありません!さらに、妹のツヴァイを救ってくださりありがとうございます!」


店員さんは、僕の目を見ながら謝罪してきた。


「いえ、手紙を貰っていながら僕も迂闊でした。出来ればローガンさんに情報を買いに行きたいのですが、可能ですか?」


「勿論です!このまま向かいますか?」


「・・・さすがに何も言わずに居なくなるのは不味いので、一度学園長に伝えてから向かいます」


「分かりました。では私達は先に行っております。まだ残党が居るかもしれませんので、お気を付けて!」


 そう言うと店員さんは、僕の膝で休んでいるツヴァイさんを肩に担ぐように、ひょいと持ち上げた。その時ツヴァイさんと目が合うと、彼女は物寂しそうな表情をしていたが、直ぐに真剣な表情になった。


「こ、今回はご迷惑をお掛けしました。いずれ何らかの形でお返しします!」


「では、失礼いたします」


彼女達の後ろ姿を見つめながら、学園長室へと急いだ。


「シルヴィア・・・無事でいてよ」

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