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学園トーナメント 10

 決勝トーナメントは順調に進行していった。観客は、魔法の試合での観戦は生徒達がどんな策でもってオブジェを倒していくのかを楽しみ、武術や剣術の試合はその激しい戦いから、観戦している皆が興奮して激しい声援を送っていた。その声援の大きさは上級貴族や王子が出場している時は一際ひときわ大きかった。


 午前中の試合ではメグも順当に勝利していた。メグの戦い方は王道というか、攻撃に虚実がないという、力でねじ伏せてしまうやり方だった。たしかに、相手とは力量差があるのでそれで勝利できているが、僕の見立てではシャーロット様とメグにはそれほど明確な力量差がないと見ているので、同格の相手に対してどう戦うのかが注目だ。


 昼食の際にそんな話をメグにしようかなと思っていたのだが、当のメグとシルヴィアが僕を挟み込むように食事をするのだ。そのため、両腕には2人の柔らかい感触が常に感じられて、それをティアが複雑な表情で見ているという何とも言えない状況で、僕に午後の試合について話すような余裕がなかったのである。2人は僕と話す時には可愛らしい笑顔を向けているのだが、互いに話す時には少しその笑顔はぎこちなくなる。ティアもこの状況で僕とどう接したらいいのか、困っているようだった。



 そんな感じでお昼の時間が過ぎ、午後の試合が始まった。最初の試合は、僕と2年Aクラスの女生徒だ。相手は土魔法の使い手だったのだが、彼女は最初から僕との勝負を諦めているような表情をしていた。攻撃もシャーロット様と比べると積極性が欠けていて、僕は一応接戦を演じようとしていたのだが、先の戦いに比べてしまうと、段々と手加減が目立ってしまったので、 これでは逆に彼女から恨みを買いそうだと感じた為、早々に決着を着けることになった。



 そして武術コース、剣術コースと試合が終り、メグとシャーロット様の試合となった。


「何か対策は考えてる?」


 試合を待つ生徒用の天幕の前で、偶然出くわしたメグに作戦を聞いてみた。


「基本的には今まで通りと行きたいところですが、それでは難しいことは分かっていますので、私も少し策を(ろう)してみようと考えています」


 どうやらメグはシャーロット様との力量差を正確に理解しているようで、その言葉を聞いて少し安心した。何より相手は火と風の【才能】持ちということを考えれば、メグの風と光の【才能】は相性が悪い。火を風で迎撃するには、圧倒的な威力で火を拡散しないと、逆に火の勢いを増す結果となってしまうからだ。


「さすがメグだね!試合頑張ってね!」


「ありがとう!・・・でも、ダリアが私のちょっとしたお願いを聞いてくれるのなら、もっと頑張れそうな気がするんですが?」


メグはずいっと僕に近寄り、お願いを口にしてきた。


「お願い?僕に出来ることなら大丈夫だよ?」


「ふふふ、とっても簡単なことです。私は今とても緊張していますので、それを和らげるために抱き締めて、背中をポンポンとしながら励ましてください!」


メグは僕に小さな声で耳打ちしながら、お願いを口にした。


「えっ!?その・・・ここで?」


「はい!ここで!今は周りに誰もいませんから」


確かに周りには誰もいないが、すぐそこの天幕には試合相手のシャーロット様がいるはずだ。


(あっ、だから小声で耳打ちしてきたのかな?)


僕は少しの恥ずかしさもあったが、それでメグが頑張れるならと、彼女を抱き締めて回した腕で、背中をポンポンと優しく叩く。


「メグならきっと大丈夫だから、怪我をしないように気を付けて行って来てね」


僕は耳元で(ささや)きかけるようにメグに励ましの言葉を送った。すると彼女は顔を真っ赤にしながら僕から離れて、もじもじ下を向きながら感謝してくれた。


「あ、ありご・・・ありがとうダリア。これで頑張れます」


そう小声で言い残し、彼女は足早に天幕に入っていってしまった。




side マーガレット・フロストル


 精一杯勇気を出してお願いした抱擁を、彼はあっさりとしてくれた。もっと恥ずかしがったり、あたふたするかと思って期待したのに、逆に私の方がその場に居られないほど恥ずかしくなってしまった。


(やっぱり、まだ異性を好きになるということを分かっていないのですね・・・)


 彼は言った、女の人を好きになることが分からないと。その人並外れた実力から忘れそうになるが、彼はまだ16歳の子供。特に男の子は女の子より精神的な成長が遅いと聞いたことがあるので、それも致し方ないのでしょう。実際先程の抱擁も、彼の心臓はドキドキと早く鳴り響いていましたが、それは好きな女の子相手だからというよりも、単に異性に触ることに緊張していたという感じがしていた。


(でも、異性に触ることに緊張するということは、もう少しで彼が恋をするという気持ちを理解するはずです!)


 それは周りのみんなが理解しているのか、シルヴィアさんはあからさまにアピールしているし、それを見ているティアさんも今は彼を友人と認識していて、恋心に気づいていない様子だった。ただ、気づくのは時間の問題なのは私もシルヴィアさんも分かっている。だから、彼女が気付く前に彼が恋を理解し、私を選んでくれるように頑張っている。


(エルフの私が人間に恋するなんて・・・でも、彼の【才能】なら私と同じ時間を生きていける)


 彼の才能を調べた時に、彼に恋することは運命なんだと感じた。人間である彼とは私の長い人生のほんの一瞬しか一緒に居られないと思っていた。だが、彼の才能が私と一緒に同じ時間を(あゆ)めるものだと分かった時の喜びは、言葉では言い表せない。しかし、ライバルは多い。シルヴィアさんは女性としての武器を最大限使ってきている。私も別に小さいと言うわけではないと思うのですが、彼女と比べると劣ってしまうのは明白だった。


 ティアさんと彼は本当に仲の良い友達のように接している。その想いが恋にならないか心配でならない。しかも、彼は自分の身長の事を気にしていた。多分、女性より背の低いことには忌避感があるはずです。そう思うと、ティアさんは彼より背が低い分アドバンテージがある。逆にシルヴィアさんは少し高いくらいだ。私と彼は同じくらいだが、彼にしてみればどう思うだろうか。


(はぁ・・・ダメダメ!今は試合に集中しなきゃ!せっかく彼が私を抱き締めて、エールを送ってくれたんですもの!)


 私は自分の両ももを叩いて椅子から立ち上がり、試合に向けて気合いを入れた。それを試合相手のシャーロットさんがビックリしたような表情で見ていた。きっと、私の太ももを叩いた音に驚いたのだろう。王女としてはしたないところを見せてしまった。


「す、すみません。少し自分に気合いを入れようと思いまして」


「まぁ、そうでしたか。ちょっとビックリしてしまいました。初戦はダリア君に負けてしまったので、私も負けられませんの。お互い頑張りましょう?」


シャーロットさんはそう言って握手を求めてきた。彼女とは同じクラスとはいえ、そう親しくなく、昼食なども王子と一緒にしていたため、あまり話す機会がなかったのだが、淑女としての教養が備わっている立派な人物だと感じた。


「ええ、私も負けられませんから、お互い全力で頑張りましょう!」


 互いに微笑みながら握手を交わし、ちょうど試合開始の呼び出しがあったので、一緒に天幕を出た。




 試合開始準備が整い、メグとシャーロット様が会場へと出てきた。天幕内で何かあったのか、2人ともなんだかスッキリとした表情で臨んでいるように見えた。


互いに所定の位置に着き、開始の合図まで集中力を高めているようだ。そして、学園長の合図と共に2人共動き出す。


「〈火の連矢(ファイア・ハイアロー)〉!」


「〈風の大砲(エア・キャノン)〉!」


 シャーロット様は予想通りの火魔法、メグはシャーロット様と比べてワンテンポ遅かったが、風魔法だった。攻撃主体となれる魔法の才能は風魔法しかないメグには圧倒的に相性が悪いが、彼女はどうするのだろうと試合を見守った。すると、互いの魔法が衝突した瞬間、メグの風魔法が相手の火魔法を吹き散らかしていた。


(まだ不完全で(つたな)いけど、圧縮できてる)


 Sクラスの授業に顔を出した際には、何となく形になっていたがまだまだ圧縮と呼ぶには程遠い制御だった。しかし、今試合で披露した圧縮は、それと比べるとかなり上達していた。


(なるほど、今までは手の内を隠していたのか。相手も第三位階までしか使えないとなると、かなりメグが有利だな)


 シャーロット様もそれが分かっているようで、攻撃の手数を1つに集中して制御を高めることで、なんとか圧縮に対抗しようと模索しているが、さすがに難しいようだ。火と風の2種類の魔法を効果的に使い分けて攻撃しているが、メグの防御を突き崩せていない。次第に攻め手を欠いてきたシャーロット様にメグの攻撃が牙を剥き始め、僕が予想していたよりもずっと有利な試合展開でメグが勝利を飾った。


 観戦していた貴族達からは「さすが魔法大国の王女」と囁かれているが、中には「エルフごときが」とか、「力を見せつけて勝利に酔いしれている」とかの批判的な声もあった。ごく最近まで戦争していた相手なのだから、そういった感情があるのも仕方ないことかもしれないが、せめて大人としてその感情は心の中に仕舞っておいて欲しい。この試合はあくまでも学園の生徒の試合であって、国同士の戦いでも、政治的な争いでもなんでもないのだから。


(メグが戻ってきたらお祝いしなきゃな!)


 勝利のお祝いと、まだ完璧ではないが圧縮が習得出来ていることのお祝いをしようとメグを出迎えるため、生徒用の観客席から移動した。

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