学園トーナメント 6
フリージア様と話したあと、メグの試合もシルヴィアと応援したが、まったく危なげない試合運びで相手を圧倒して勝利を飾っていた。そして、昼食を挟んで最初の試合が僕の出番だった。
「ダリア君頑張ってね!」
「ダリアなら何も問題ないでしょうが、油断しないように気をつけて下さいね!」
シルヴィアとメグから応援を受けて試合会場へと足を踏み入れる。遠目に見える対戦相手は、2年生のAクラスの男の人だ。腕には高価そうな腕輪型の魔道媒体を身に付け、こちらを見下すような嫌らしい笑みを浮かべている。
(たいした実力はなさそうだな・・・この人に負けてしまうと金ランクに泥を塗りそうだし、かといって、勝っても相手から恨みを買うんだろうな・・・)
ため息しかでない状況に嫌そうな表情になってしまうが、一応相手は貴族で目を凝らせば表情が見えないわけではないので、努めて無表情で相対する。
「金ランクか知らね~けど、どうせ何か不正して得た立場なんだろ!?俺が化けの皮剥がしてやるよ!」
対戦相手はまるで自分を鼓舞するような大声を上げて僕を威嚇してくる。この人とは何の接点もないのに、なぜか既に恨まれているような言われ方でもあった。
「はぁ~・・・」
「双方準備は良いな?お互い正々堂々全力を尽くすように・・・始め!!」
合図の直後、相手が動き出す。魔道媒体を付けている右手を掲げ、火魔法〈火の連矢〉を放ってくる。さすがに貴族だけあって第三位階も使えるようだ。僕は第二位階の水魔法〈水の矢〉を連続で放って迎撃する。
「何だあの小さい〈水の矢〉は!」
「あんなんじゃ防げないだろ!」
「だいたい、第三位階の魔法に第二位階で迎撃するなんて馬鹿じゃないか!」
周囲の観戦している生徒からヤジが飛んできた。相手の火魔法は大きく、僕の水魔法はその10分の1ほどの大きさしかないので、一見すると貧弱に見えてしまうのだろう。そもそも、かなり加減してもいるのであながちその評価も間違っているわけではない。ただ、少しだけ僕も計算外があったとすれば———
「あれっ?」
少しでも恨みを買わないように、接戦を演じて勝とうかと考えていたのだが、相手の魔法は圧縮も出来ていないただの〈火の連矢〉だったので、加減していても圧縮している僕の魔法に少しの抵抗もできずに消えていった。しかも、僕の魔法は相手の魔法を迎撃してもまったく勢いは衰えず、そのまま5つのオブジェを破壊してあっけなく勝利してしまった。
「・・・は?」
「えっ?あれってまさか圧縮してるのか?」
「・・・無理じゃね・・・」
試合の結果に周りがザワザワとし出してしまったので、さっさと握手を済ませてこの場から立ち去ろうと相手に近寄ると。
「ふ、不正だ!!こいつインチキして俺に勝ったんだ!」
突然相手が不正だと騒ぎだした。その言葉に周囲が騒然となってしまったが、僕としては身に覚えの無い言い掛かりなので、その様子を冷ややかな眼で眺めていた。
「せ、先生!あいつは不正しました!だからあいつの反則敗けで俺の勝ちです!裁定のやり直しを!」
「・・・なにか証拠があるのですか?」
「そ、そんなもの、平民なのに貴族の俺に勝てるわけ無いです!だから俺に勝ったことが証拠です!」
むちゃくちゃな理論を捲し立てて審判である先生に詰め寄っている。なにが彼をそこまでさせるのかは僕には分からないが、きっと僕に勝つことで得られるなにかが約束されているのだろう。
「残念ながら私が見る限り不正が行われた形跡はありません。従って勝敗も覆りません」
「ま、待ってください!あっ、やつは魔道媒体を持っていません!それが不正の証拠です!」
「媒体なしでも魔法は発動可能ですし、彼の魔法行使については全教師に通知が出ています。魔法媒体を使わないと」
「で、ですが・・・お、俺が負けるなんて・・・」
自分の主張をことごとく論破されていく相手は段々と声が尻すぼみになっていった。
「試合開始前に私は宣言したはずです、正々堂々と。潔く敗けを認め、握手を交わして退場なさい」
教師のその言葉に相手は苦虫を噛み潰したような表情で握手の手を差しのべてきた。僕は努めて笑顔でその手を取った。
(あ~、これは面倒なことになりそうな気がするよ・・・)
「・・・ありがとう・・・ございました」
「ありがとうございます」
握手の際に、相手は思いっきり力を込めて握り締めてきたようだが、僕にとってはさした痛みも感じずに笑顔で受け流す。それが一層相手の恨みを買ったようで、射殺さんばかりの勢いで睨み付けられてしまった。
(こんな試合をあと何回繰り返したら良いんだ・・・)
憂鬱な気分を顔に出さないように試合会場を後にした。メグ達のもとに戻ると、先程のやり取りを見ていたメグが労いの言葉を掛けてくれた。
「お疲れ様ですダリア!学園長の話からある程度不快な事が起こると予想していましたが、最初からこんな調子では先が思いやられますね・・・」
「そうですね。今回は教師の方が公平な方なので良かったですが、変な方に当たるとさらに問題がややこしくなるかもしれませんね」
「となると、上級貴族とは試合をしない方が良いですね」
「残念ながら試合相手を僕が決めることは出来ないですけど・・・」
これほど試合に勝っても嬉しくないことがあるだろうかという心境だった。そんな僕らのやり取りに、シルヴィアは僕の状況の詳細を知らないので、素直に勝利を祝ってくれた。また、相手の対応にも憤慨していた。
「ダリア君おめでとうございます!でも、相手の方は男らしくなかったですね。確かにこのトーナメントで勝つことは将来仕官を希望する方にとってのアピールの場にもなると思いますが、勝つことが全てではなく、その試合内容から見られる人間性でも判断されていると思うのですが・・・」
シルヴィアの言葉は正論で筋の通っている考え方だ。ただ、その言葉を直接言ったとしても相手が納得してくれるかというと疑問が残ってしまう。特に、貴族が相手となれば平民に対しては見下して当たり前というような風潮が存在しているので、どんな試合内容であれ、負けることそのものが許容できないのだろう。
「ありがとうシルヴィア。僕もまったくその通りだと思うんだけど、それがままならないのがこの国・・・この世界なんだろうね」
王国ではご覧の有り様で、公国では王女の友人という国賓みたいな扱いだったのでその実情は正直分からない。その他の国についても図書館の本の中のことでしか分からないが、やはり【才能】と【血筋】がものを言うようだ。その中でいくら平民が束になって主張したところで、しょせん大した才能も無い、平民の家系が何を言おうと貴族が考えを変えることはないだろう。
「ダリア、前にも言ったと思いますが、我が公国は実力のあるものであれば相応の待遇を得られる国です。是非覚えておいてくださいね!」
微笑みながら、だが、結構な圧でメグが僕の顔を覗き込みながら念を押してきた。
「わ、分かりました。覚えておきます」
今日はもう試合はなかったので、それからはみんな思い思いに鍛練をすることになった。・・・はずだったのだが、朝に別れたティアやマシューも合流して、結局みんなで試合での魔法の使い方などを議論したり、実際に魔法を放ってみるなどの練習に終始していた。僕は全ての属性魔法を極めているので、そこから感じるそれぞれの魔法の特性や相性、使い方なんかを助言していたら、結局最後は僕が先生みたいに授業をしているような感じになってしまった。みんな僕の話に感心しながら、しきりにメモをとって勉強するようになっていた。
それ自体は良いことなんだと思う。貴族と平民が仲良く話しているというのはこの国では奇異の目で見られるかもしれないが、僕としては貴族だ平民だで差別するのはおかしいと思っているからだ。ただ、それは僕個人の考え方なだけで、ほとんどの人々はそんな風に思っていないのだろう。その証拠に貴族達の僕らを見る目には蔑みの感情が、平民でさえ関り合いになりたくないと近づいてくることはない。
(結局、一般的な考え方としてはあの王子が普通なんだな・・・)
平民は貴族と話すのも慎むべしとでもいうような雰囲気に正直嫌気がさす。僕が気軽に貴族であるフリージア様やティアと話せているのは、金ランク冒険者だからということもあるかもしれない。ただ、何故これほどまでに平民を見下しているのかは分からないが、よく平民の反乱が起きないものだと思ってしまう。ただ、少し考えれば反乱が極めて困難なことに気づく。
(平民と貴族の才能の数の差は下手をすれば4倍以上ある。生まれた瞬間からそれほどまでに能力に格差があれば、例え反乱を起こしたとしても、なす術なく鎮圧されてしまうのがオチなのかもな・・・)
シルヴィアやマシューはそういった環境で生活してきたのだろう。だからこそ王子の対応にも疑問を感じることなく、頭を下げてやり過ごしていたんだろう。はたまた心の内では黒い感情が渦巻いていたのかは分からない。教会よりの考え方かもしれないが、同じ人間なのだから貴族や平民だからと差別することなく仲良く生活したら良いのにと考えてしまう。
(もしかしたらこんな考え方は、僕が特殊な環境で生活していたからというだけかも・・・)
物心付いた時にはほとんど外界と関わらず閉ざされた環境で生活し、師匠に拾われてからは森の中での閉ざされた生活。僕の人生のほとんどの時間は他人と関わることが極端に少なかったので、平民の生活の実情も知らないのだ。だから平民も貴族も仲良くすれば良いという思考になるのだろう。これがもし平民として生活し、貴族の理不尽に幼い頃から晒されてきていたとしたら一体僕はどんな考え方になっていただろう。
(たらればの事を考えてもしょうがないか。もう少し平民にとっても良い国になれば良いけど、そうでないなら・・・)
メグの言葉が思い起こされる。とはいえ、エルフしかいない公国で人間の僕は生き難いかもしれない。ならいっそこの国のあり方を変えてしまおうかという考えがふっと思い浮かぶ。
(いや、今の僕の目的は一つだ。それ以外のことは終わった後に考えればいいや)
そんなことを考えながらも、みんなに魔法の運用について僕なりの考えを伝えていった。




