フロストル公国 1
フロストル公国。オーガスト王国に隣接するその国の国土は王国の半分程で森や湖が多く、人口は約100万人と少ない。国民はエルフという長命種のみで構成されており、その特色として魔法の技術や知識を極めようとする者が多く、魔法理論や魔具が非常に発展していると言われている。
種族特性なのかほとんどの国民には魔法の才能が備わっており、才能も3つ以上持っているのが一般的らしい。さらに王国と違って剣術や武術の才能の方が貴重になっている。また、人口が少ないのは長命種ゆえなのか、異性に対する欲求というのが薄いらしく、長い人生の中で夫婦となっても1人か多くて2人の子供しかもうけない為、昔から人口は中々増えないらしい。
そんな話を道中の馬車の中でマーガレット様から教わった。ティアもそういった話には興味が有ったのか、頷きながら話を聞いているようだった。公国までは直線距離でおおよそ1000kmあり、普通の馬車であれば2週間ほどの日程が、スレイプニルを使えば2,3日で到着するという。魔獣であるスレイプニルをどうやって操っているのかは、スレイプニルの耳に付けられている特殊な魔具で操作しているらしく、公国では一般的なのだそうだ。馬車自体もかなりの速さで走行しているはずが、あまり揺れを感じないのは、フライトスーツの応用で少しだけ車体を浮かせているらしく、しかもその動力には魔法を貯蔵する技術を用いて御者がたまに魔力を補給するだけだという、さすがは魔法先進国の公国の馬車だった。
「とはいっても、さすがにここまでの装備の馬車は王族が使う物に限られています」
「それはそうですよね。結構なお金が掛かっていそうですから」
「ん、多分王国の王都にそこそこの屋敷が買える値段はしていそう」
「ふふふ、それでもこういった移動手段は経済活動を刺激するために不可欠ですから、研究する者も多くこうして発展したのでしょう」
確かに経済的には物の移動が早ければ早いほど発展していくだろうが、それは経済のみならず軍事にも言える事だろう。戦争において部隊の展開が早ければそれだけ有利な戦場を用意して戦えるという事だ。王国に対して10分の1の人口しかいない公国が互角に戦ってきた理由はこういう所にもあるのかもしれない。
「皆さんは公国でどんなものを見てみたいですか?」
マーガレット様が僕達の観光の希望を聞いてきた。
「そうですね、やっぱり魔具を扱っているお店ですとか、図書館にも行ってみたいですね!」
「ん、公国はどんな食べ物があるか興味津々」
ティアはどうも知識欲よりも食欲の方が勝っているようだった。
「分かりました。ではそういった場所にご案内していきましょう。ただ、魔具については国外持ち出し禁止の物は購入できませんし、図書館も禁書指定の物はお見せできませんがよろしいですか?」
「それは王国でも一緒ですからいいですよ」
「ありがとうございます。ティアさんの要望は問題ありませんし、公国に着けば歓迎のパーティーもありますので、存分に堪能してくださいね」
「ん、感謝!」
一日目は何事もなく時間が過ぎていった。2,3日の移動で到着するからなのか、野営の食事は豪華な物だった。さすが王族の食べる食事、ちゃんとデザートと食後の紅茶まで付いていた。夜間の警備には護衛の4人がローテーションするので、僕達は気にせず寝ていていいと言われて、まさに至れり尽くせりで申し訳なく思ってしまった。野営の時に棒のような魔具を地面に突き立てていたので気になって聞いてみると、魔獣が嫌がる匂いを周囲に撒くための物だと説明してくれた。風魔法を使って周囲に匂いを広げると、1時間ほどはその効果で魔獣は寄って来なくなるのだという。つまり、1時間毎に起動しないといけないのが難点なのだが、野盗などの盗賊だけを警戒すればいいので、今までの野営と比べれば格段に楽になったと言われた。ちなみにこれは公国で普通に購入できるらしく、公国に着いた時の買い物リストに入れておこうと思った。
そして2日目、場所は既に王国と公国の国境付近に来ており、明日早々には公国の首都『レイクウッド』に到着できる距離まで来ていた。今は昼食の為、食事の準備をしながらフリージア様やティアと談笑していると、空間認識で離れた場所にいる人々を認識した。僕の表情が変わったことに気付いたのか、フリージア様が聞いてきた。
「ダリア殿、どうかしましたか?」
「・・・フリージア様、この辺に村や集落はありますか?」
「・・・いえ、学園に行く時にも使った道ですが、この周辺には村などは無かったと記憶しています」
「そうですか、あちらの少し離れた場所に人が十数人程いるのですが、ただの商人とかであればいいのですが・・・」
僕は認識した方向に向かって指をさして、把握したことを伝えた。
「ん、もしくは盗賊の可能性もある」
「そうですね。護衛の1人に様子を見てこさせますので、皆さんは万が一に備えて下さい」
そう言ってフリージア様は護衛の人の所に向かって行った。少しすると話を聞いた護衛の一人が僕の示した方向へ足早に向かって行く。20分程で護衛が戻ってくると、20人規模の盗賊だという事が判明した。幸いにもこちらにはまだ気づいていないらしくどうするべきかの判断を聞きに戻って来たとのことだった。
「相手は盗賊と言えどもここはまだ王国の領土内です。我々では専守防衛に回るしかできませんね・・・」
フリージア様曰く、他国の領内でむやみに武力を行使すれば、それは外交問題に発展してしまう恐れがあるらしい。その為、相手が攻撃を仕掛けてきた際に自衛として仕方なく武力を行使したという建前が必要なのだという事だ。とはいえ相手は盗賊なのでそれでも先制攻撃はダメなのか確認する。
「・・・相手が盗賊でもですか?」
「我が国と王国の和平を望まない立場の者も居ますので・・・。盗賊に見せかけた国の騎士や、あるいは貴族の子弟などであった場合は休戦協定など吹き飛んでしまう外交問題に発展してしまいます」
政治の事について僕には良く分からないが、こちらから盗賊と思われる一団に手は出せないというのは理解できた。
「そうなると、移動中に仕掛けてこられるのは面倒ですね。出来ればこの休憩中に襲って来るなら返り討ちにしてスッキリするんですが・・・」
「もしくは見つからないようにやり過ごして、一気に公国の領土へ入ってしまうかですね」
そんな議論の中、盗賊と思われる一団に動きがあるのを認識した。
(集団から2人が離れた?もしかして斥候か?)
「フリージア様、盗賊と思われる一団に動きがあります」
「えっ?その、先程から疑問だったのですが、どうやって相手の動きを確認しているのですか?」
「う~ん、なんというか、師匠の鍛錬の成果ですかね?」
空間魔法は一般的な魔法体系ではないので、いつものように師匠の名を使って誤魔化す。
「ま、また、師匠ですか・・・一体どんな人物なのでしょう・・・?」
「ん、私も是非会ってみたい」
「師匠に聞いてみますね。それより、どう対処しますか?」
「相手の力量にもよりますが、10人程度であれば護衛4人で何とか出来るでしょう。ただ、20人となるとティアさんやダリア殿の力を借りねばなりません。皆さんを我が国に招く立場の私からすれば大変申し訳ないのですが・・・」
「そんなこと気にしないで下さい。襲って来るなら僕にとっても敵ですから。出来ればこちらは油断していると思わせて、向こうの本隊を誘い出して殲滅してしまいたいですね」
「ん、私も協力は惜しまない!」
「う~ん、ティアはあまり無理しないでね。勿論マーガレット様も。基本は僕と護衛の4人が先頭に立ちます。マーガレット様とティアは僕の合図があるまで後方で魔法の発動準備だけしておいてください」
「そ、それではダリア殿に負担が・・・武術も使えるとは言っても魔法が主体なのでしょう?」
「えっ?あ~、うん、大丈夫ですよ!これでも金ランクですから!護衛の方達も基本戦術はそれでよろしいですか?」
護衛の皆さんが首肯したのを確認して、早速作戦にとりかかる。といってもこちらは昼食の準備をしている姿を相手に見せて、油断していると見せかけて襲わせるだけなのだが。しばらくして、僕の認識では斥候の2人がこちらの様子を伺った後に足早に戻っていくのが分かった。そして、その10分後に20人程の一団がこちらに一直線に近付いて来ていた。
(二手に分けて挟み撃ちにするとか、包囲してくるかとも思ったのに、馬鹿正直に真正面からか。・・・護衛が4人だからと数で攻め立てるつもりなのかな?仮にも一国の王女の護衛なのだから、下手に兵力を分散しては不味いという判断かも・・・)
相手の作戦を色々考えながら自然とマーガレット様とティアを庇うような位置につき、相手の出方を待つ。すると、思ったよりも事態は簡単な方に動いた。




