学園生活 9
実地訓練当日。時刻は午前9時。既に僕らは大森林入り口へと来ている。一月ぶりに来たからか、何となく懐かしい。
入り口前の広場に僕らBクラスは整列し、先生から護衛してもらう冒険者の紹介をしてもらっている。護衛は全員銀ランクで、チラホラと協会で見た顔も混じっていた。学園が依頼した護衛は12人で、一班に2人づつ付く事になる。今日はこの入り口を起点として半径3㎞圏内の表層も表層で、出現する魔獣は下級しかいない比較的安全な場所なので2人の護衛で充分だろう。今回の訓練の合格最低基準は一班で5匹の魔獣もしくは動物の討伐を行えば終了となる。ちなみに、時間に余裕が出来た場合は、食肉となる魔獣や動物を狩って冒険者協会に持ち込んで、小金を稼ぐことも出来る。ただ、第一位階の魔法では魔獣や動物を殺す様な威力は無いので、基本的に止めは冒険者がすることになっている。だからこそ護衛の冒険者は全員が接近戦タイプの人達だ。
今回の訓練で生徒は、得意魔法を魔獣等にとにかく当てることが求められる。ゴブリン程度の最下級魔獣なら例え第一位階の魔法でも相手の足を止めることが出来るので、その隙に護衛の冒険者が接近して討伐していくという事だ。ちなみに、光魔法や闇魔法の才能の生徒は、ケガをした生徒の回復や使い魔を召還しての索敵、戦闘中に目くらましを行うなどの役割になっている。
この訓練によって、安全な場所での練習では得られない実戦での経験がより早く魔法の位階を上げることになるので、例年1月も続ければほとんどの生徒は第二位階に到達できるらしい。
(で、訓練中にイレギュラーが起こったら僕の出番と言うわけか・・・)
僕については、よほど強い魔獣や多すぎる群れがなければ出番がないくらいの見回りなので、先生からは昼食用にオークを一匹討伐して解体しておいてくれと言われたくらいだ。そんな感じでこの訓練についてぼんやりと考えていると、ようやく全体への話が終わったのかエヴァ先生が締めの言葉を言っていた。
「よし、説明は以上だ!昨日までの授業で習ったことを忘れず落ち着いて行動するように!この後装備を確認し、大森林に入ってもらう。12時には一度この入り口まで戻ってくるように。では、解散!」
みんなが自分の魔道媒体や、ローブの下に着けている学園支給の皮鎧の具合などを確認して、護衛に付いてくれた冒険者の人と挨拶を交わしていた。僕は最初は見回りというより、食料の確保をしておこうと考えていた。なぜなら緊急事態が起こって信号弾が発射されたとしても、本気の速度で移動すれば20秒もあれば今日の行動範囲なら端から端まで移動できる。さすがに護衛もいる中こんな表層で20秒足らずで全滅するようなことは有り得ないし、下手に対峙せずに逃げに徹していればその位の時間稼ぎは出来るはずだ。
そんな考えもあってまずはオークかファング・ボアを探しに移動しようとしたときにエヴァ先生から声を掛けられた。
「ダリア!」
「はい。何でしょうか?」
「学園長からお前の実力は聞いているし、さっきの冒険者達からもお前の噂や話は聞いている」
「はぁ、そ、それで何か?」
どんな噂なのか気になるところだが、話の先を促した。
「生徒の獲物を狩りつくしたりはするなよ!」
「・・・。そっちの心配ですか!?」
「ん?それはそうだろ。聞いた話じゃ、毎回討伐から帰ると荷物入れのリュックをパンパンにして素材を持ち帰っていたそうじゃないか。周りの冒険者からあきれ顔で見られていたらしいぞ」
視線は感じていたが、そんな感情がこもっていたことなど知らなかったので、もしかしたらマナーとして魔獣の狩り過ぎはいけない事だったのだろうか?
「ふっ、そんな心配そうな顔するな!みんな嫉妬や羨望の眼差しだったらしいし、冒険者であるならお金を稼ぐのは当然だろうしな」
「あ、ありがとうございます」
どうやら僕の表情からエヴァ先生はフォローしてくれているようだ。
「お前が将来何をしたいかは分からんが、その力の使い方は間違えるなよ」
そう言い残すとエヴァ先生は入り口付近に仮設したテントへと去って行った。もしかしたら先生もあの3人から勧誘があったのに色よい返事をしなかった僕が何をしようとしているのか気になっているのかもしれない。
(・・・そんな大それた事をしようとも考えてないんだけどな・・・)
僕の目的はたった一つ、実の親への復讐だ。今はどういう形での復讐が最もいいのかの見聞を広めているに過ぎない。とはいえ、復讐を成した後の事も考えていかなければならないのも事実だ。師匠から教えられたこの力があれば冒険者としてもやっていけるだろうし、ティアの家に仕官して安泰な人生を送ったり、エルフの国に行って全く違う世界を見ることも良いかもしれない。ただ今はそこまで考える気はないので、復讐の後の事はゆっくり考えていこうとこの時思っていた。
午前中は特に何事もなく時間が過ぎて行った。僕は予定通り表層の少し奥まで入って行って2m級のオークを見つけてさっさと討伐し、入り口で解体をしていた。周囲にいるポーターの羨ましそうな視線を受けながらもテキパキ解体し、約100㎏位の肉を切り分けておいた。内臓を捨てようとすると周囲にいたポーターが、要らないなら欲しいと言われたので快く譲った。僕にはあのグニグニとした噛み切れない触感は受け入れられなかったのだ。
切り分けた肉は班ごとに塊を渡して調理するようにするらしい。今日は初日という事もあって食材や調理器具はこちらが準備するという事だが、今後は徐々に必要な道具や装備、討伐から解体まで出来るようにするという事だ。ちなみに装備や道具は自己負担なので、こういった訓練の時に多くの魔獣を討伐して素材を換金して少しずつお金を貯めていくものらしい。先生の話ではBクラスの生徒の卒業後の進路は半数が冒険者になるという事らしいので、生きるための手段を教えるための訓練も兼ねているという。今後は第二位階まで使用できるようになれば、剣術・武術のBクラスの生徒と合同で班を作り魔獣の討伐をしていくという事らしい。その中で将来の冒険者パーティーも自然と出来ていくとのことだ。
剣術・武術クラスとの合同の際には僕はどうしたものかと聞くと、基本は今日のように全体の護衛で、人数の都合上班員が少なければそこに入って欲しいということだった。そもそもBクラスで冒険者登録をしている者は銅ランクしかおらず、金ランクの僕とではつり合いが取れない。ようはチームの皆が僕におんぶに抱っこの状態になってしまい、それでは僕が居なくなっては生きていく手段を無くしてしまうことになる。僕が将来冒険者を続けることを選んで、チームの一員に誰かを選びたいならそれでもいいと言われた。
そして12時、討伐に向かっていたクラスの皆も一旦戻ってきていたが、その表情は一様に疲れ切っていた。見たところ魔力欠乏というわけではないが、おそらくこの一カ月魔力制御の訓練や座学ばかりして体力強化等のトレーニングはしていないので、そういった体力的な問題と、どこから魔獣が来るとも分からない大森林であるという精神的疲労が合わさった結果という事だろう。配給される食材を受け取りに来たマシューやシルヴィアも足取り重く浮かない顔をしていた。その疲れ切った顔に正直声を掛け難いほどだった。
みんなが辺りに散らばって、冒険者から食事の料理方法を教わっているので、僕も自分の食事を作ることにした。その辺から木を拾ってきて、土魔法で竈の様な形にして火魔法で火を準備すると、熱した鉄板に獣脂を延ばし、そこに3cmの厚さにしたオークのステーキを塩と香辛料をまぶして焼いていく。ジュージューと肉汁と香辛料が混ざって食欲をそそる香りを周囲に広げていると、呆れた顔をしたエヴァ先生がやって来た。
「ダリア・・・こんなところで良い香りをさせるなんて、お前それでも冒険者か?」
「えっ!?なにか不味かったですか?」
「当たり前だ!匂いにつられた獣や魔獣がやってくるだろうが!基本は匂いの少ない鍋物にして食べるんだ!」
「あ~、なるほど!僕はいつも依頼は昼前には終わって、昼食は王都内に戻って食べていたので知りませんでした。普通はそうなんですね。でも、臭いに釣られて魔獣が来れば探す手間も省けていいんじゃないですか?」
そんな僕の言葉にエヴァ先生は天を仰ぐような仕草でさらに呆れ声になってしまった。ちなみに僕が生活していた森では何故か生活拠点に魔獣が来ないので索敵してやっと魔獣を見つけていた記憶があるのだが、どうしてだったのだろう。
「・・・それはお前ほどの実力があればそうだろうな・・・。だが、周りの冒険者はそうではない。お前の呼び寄せてしまった魔獣に襲われたらどうするんだ?」
「・・・そうですね、周りの事は考えていませんでした。すみません」
指摘されたことを素直に認めてエヴァ先生に謝罪した。
「まったく、罰としてそのステーキは半分私がもらうからな!美味しく仕上げろよ!」
「・・・は、はい・・・」
もしかしてそれが目的だったのではないのかと、疑いの眼差しを向けてしまったが、「そんなわけないだろう!」と語気を強めに否定された。ちなみに出来上がったステーキは脂が程よく乗っていて、香辛料のおかげか臭みもなく、とても美味しかった。
異変が起こったのは昼食後の休憩も終わり、午後の討伐に皆が出発して少し経った頃だった。見回りの為表層付近をウロウロとしていると『ピュー』という音と共に空に閃光がほとばしる。
「あれは信号弾。強い魔獣でも現れたか?」
少し離れた所から信号弾の光が見えたので、その場所に急行しようとする。しかし、矢継ぎ早に2カ所も別の場所から信号弾が上がった。
「なに!?3カ所同時だと!何が起こってるんだ?」
班は全部で6班あるのに、その内の半分からの救難信号などよほどの事だろう。移動の速度は自重せずに取り急ぎ僕のいる場所から一番近場に急行した。




