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学園生活 8


 side エリック・バスクード


 ここは国立魔道武術学園の寮5階。上級貴族しかいないこの階のある部屋の主は怒りに身を震わせていた。


「クソがっ!!この私に恥をかかせおって、あの平民が!」


怒声を上げながら広めの部屋を闊歩かっぽする。隣人に迷惑が掛かりそうな声量だが、ここは上級貴族向けの部屋だけあって壁の厚さは充分で、声が漏れ聞こえる心配はしなくてもいい。元より彼はそんな心配などこれっぽっちもしてはいないが。


「しかも、あの化け物エルフばばあが余計な事を言いよって・・・」


あの女曰く私は手加減をされていたのだということ。もっと言えば掌の上で遊ばされていたというようなあのエルフ婆の発言のせいで、私が相手の力量も見抜けぬ愚か者というレッテルを周囲に貼られてしまった可能性すらある。


「ぐぐぐ、許さんぞ!あのエルフ婆も、あの平民も!」


 ただ、怒りの声を挙げたは良いものの、自分にはどうすれば彼らを見返せるかの算段はまるでない。平民であれば適当な不敬罪をでっち上げて処刑することも出来るかもしれないが、あの聖女と言われるフリージアと親しげにしていることから、確固たる証拠無く処刑しようとしても彼女に立ち塞がれては、下手をするとこちらがでっち上げの処罰を行ったとして問責されかねない。エルフ婆に至っては他国の王女であり外交問題にも発展してしまう。そんなことになれば、私の名声は地に落ちる。いや、それだけではなく、伯爵家の地位に泥を塗る行為になってしまう。


「最悪を考えれば私は廃嫡され、弟に爵位が継承されてしまう。絶対に下手は打てない・・・」


頭のなかでシュミレーションする内容はどれも完璧な策ではなく、どうしても破綻が想像できてしまう。向こう側に他国の王女と聖女、更には三大侯爵家のティアが居ることが大問題なのだ。


「ティアもティアだ!あんな平民ごときと親しげに話おって!」


 この学園での私の目的は、より条件の良い縁談相手を見つけることだ。その為に宰相閣下の娘であるティアに目を付けていた。正妻にすることが出来れば、実家の爵位を継ぐ以上の栄達も夢ではない。だからこそ彼女にアピールするために力を見せようと平民相手にあんな勝負までしたというのに、完全に裏目に出てしまった。


「何とかしなければ!この恥辱をすすぎ、ティアを我が妻とするのだ!」


自分の野心を口に出してみるものの、今のところ良い策は思い付かない。そんな焦燥感しょうそうかんに駆られていると、扉をノックする音が聞こえる。


(・・・誰だ?)


誰かが訪ねてくる心当たりもないので、疑問に思いながらも扉を開けるが、そこには誰もいなかった。


(なんだ?まさか、この私に対して嫌がらせではないだろうな!?・・・んっ?)


怒りが湧いて来た時にふと床に落ちている手紙に気づいた。


「これは・・・?」


拾い上げ、中に書かれた文を読むと、私は口の端を吊り上げる。


「ふっ、なるほど。面白いではないか」


私の呟きは誰にも聞かれること無く消えていった。




 わずか1日だけだったが、不安の種を残した気もするSクラスのサポート役も終わり、Bクラスでの日常に戻って行った。圧縮を教えた際に、なぜ僕をサポート役として呼んだのかマーガレット様に聞いてみると、『あなたの能力は周囲に認められるべきものだ!』と力説されてしまった。他国の王女である彼女の100%善意と思われる言葉に言い返すことが出来なくなってしまったので、苦笑いしながら『ありがとうございます』と返すので精一杯だった。一応報告として学園長にその日の状況を伝え、勝負を吹っかけてきた貴族への懸念を伝えたのだが、しばらくは様子を見るという事で終わってしまった。


 そして、学園に入学して1月が過ぎる頃には、ここでの生活や授業にもだいぶ慣れてきていた。しかし、残念ながら友人と胸を張って言えるのはクラスの中でもマシューとシルヴィアだけだった。どうもSクラスでのサポート役の際にある貴族から目を付けられているという噂が出回ってしまい、貴族への仕官を希望しているクラスの皆は僕と一緒に居ることでその貴族や、その貴族と懇意にしている貴族からの不興を買うのではないかと恐れたために、遠巻きに僕を見るだけになってしまっているのだ。


 更に、ロキシード侯爵の娘から仕官の誘いや、聖女たるフリージア様から聖騎士への誘い、更にはエルフ王女のマーガレット様から公国へ仕官しないかとの誘いもあったらしいとの噂はこのBクラスだけでなく学園中に広まっていった。その為、僕に近付いて顔を繋いでもらおうという考えよりも、嫉妬の感情の方が先に立ってしまったようで、友人作りをより困難にさせてしまっていると言える。


「たった一日Sクラスに顔を出しただけでまさかこんな状況になるなんて・・・絶対に今後面倒なことが起こりそうだ・・・」


「まぁ、しょうがないだろ。そもそも金ランクのダリアの実力は分かってるけど、理解は出来ても納得は出来ないんだろ?」


「そ、そうですね。みんなダリア君を羨ましがっているんですけど、声を掛けられている相手が相手ですから・・・」


 授業の終わった夕食。僕はいつもの3人で食堂のテーブルについている。僕を取り巻く状況について2人は慰めの言葉を伝えてくれてはいるが、この状況になって3週間近くが経ち、僕は既に諦めモードだ。そもそもこの学園、いや、この王国でもトップクラスの権力者の子供と、公国では名実ともにトップの権力者の娘に誘われているのだ、羨望よりも嫉妬や人によっては憎しみの視線まで向けられてしまうのもしょうがないのかもしれない。しかも、火消しの為に「今はどこにも仕官することを考えていないです」と弁明すると火に油を注いだようになってしまった。子供だからなのか感情のコントロールが上手くない人はそれがより顕著に感じられる。


「まぁ、本格的に勧誘されるのは来年からになるし、それまでには収まっているだろ?その時にはダリアに顔を繋いでもらうためにわんさか群がってくるかもしれないな」


あまりあけすけに利用されるような状況では、さすがの僕も友人は欲しくないのだが、起こっても無いことを今悩んでいてもしょうがないのでその件については来年の自分に頑張ってもらう事にする。


「変な騒動に巻き込まれることにはなりたくないな・・・。それより、来週からの実地訓練は大丈夫そうか?」


「う、ま、まぁ頑張るしかないだろ・・・」


「そ、そうですね。今の私たちに出来るだけの事をするしかないですから・・・」


 実地訓練というのは実際に大森林に出向き表層の低級魔獣を討伐することだ。しかも冒険者協会に依頼を出して少数の護衛を付けて行う。未だクラスの大半は第一位階しか使えないのだが、練習で魔法を使うよりも実戦で魔法を使用したほうが早く成長し、第二位階へと至れるからこその実地訓練だ。


「僕は護衛の方に割り振られちゃったからあまり手助けは出来ないかもしれないけど、頑張ってね!」


今回は4人一組のチームを組んで臨むのだが、25人のクラスでは一人余ってしまう計算だった。しかしながら、先生からはあらかじめ僕はBクラス全体の護衛のために見回る事になると言われていたので、今回の訓練には学生側としては参加しない。


「は、はい!確かにダリア君が護衛として見回ってくれるなら安心ですね!」


「なにせ金ランクだからなぁ・・・冒険者の事は良く分からないけど、一流ってことなんだろ?」


「一応そうらしいね。仕官先で誰かにあごで命令されるよりは、自由な冒険者も良いと思うんだけどなぁ」


「ははっ、そりゃ、そんだけ実力がある奴じゃないと言えない言葉だぜ!」


「・・・ゴメン、深く考えて言った訳じゃ無いんだけど・・・」


僕の言葉は取り方によっては嫌みに聞こえてしまうので、それに気付き謝罪した。


「気にすんな!実際事実だし、俺にはダリアがやってた鍛練をやれるような気概もないしな・・・」


「わ、私も気にしませんし、努力があってこそその力を手にしたのだと思いますから」


彼らには魔力制御の鍛練やその他の比較的簡単な鍛練を話したことがあるのだが、一様に顔を青くして無理と言われてしまった。


「ありがとう。今日も大森林の魔獣について勉強して覚えたと思うけど、ゴブリンやオークの群れに遭遇したら直ぐに信号弾を上げてくれよ」


 基本的にゴブリンやオークは2、3匹で行動しているが、稀に20~30匹の集団で行動する時もあるので、いくら護衛がいても今の彼らには荷が重すぎる。更に面倒なのが、これらの魔獣は数が激減すると人間の女性を拐って子供を生ませるという習性があるらしく、先のスタンピードでの討伐で数を減らしている為、女の子は注意するようにと先生が言っていた。


「そん時は直ぐ助けてくれよ!」


「お、お願いします!」


「あぁ、任せてくれ!」

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