学園生活 3
学園長達と話していたため教室に行くのが少し遅くなったが、校舎の廊下に表示されている案内板を頼りにBクラスへと急ぐ。
(結局講堂に掲示されていたボードを見ることなくクラスが分かっちゃったから、誰がクラスメイトかも分からないな・・・)
そんなことを考えたが、そもそも名前を見ても同年の知り合いのいない僕にとってはどうでもいい事だったと気づき、フリージア様と一緒で僕も友達がいない事に少しの悲しみを覚えた。
(今まで冒険者としても単独行動だったからな・・・この学園で友達が出来ると良いな!)
前向きな気分で教室の扉を開けると多数の視線が飛び込んできた。その視線に苦笑いをしながらも室内を見渡すと、すり鉢状になっている教室は2人掛けの机が横に3列で並んで、全部で30人ほどが座れる広さになっていた。机には名前が書かれたプレートが置かれており、僕の席は後方の誰も座っていない列の席だった。僕が最後だとすると25人がこのBクラスの人数という事になる。残念なことに隣に座る人はいないので、何となくクラスから浮いた場所に座ることになってしまった。
席について後ろから見るとクラスメイトの男女比率は4対6で若干女の子が多い位だった。学園長の話ではBクラスは全員平民のはずなので、身分的には友達になりやすいと思うのだが、既にみんな知り合いがいるのか近くの人とお喋りをしている。漏れ聞こえて来る内容から、親が衛兵の魔法師部隊に所属しているという事で、小さい頃からの顔見知りや同じ立場の人達らしい。
(こういう時って何を話題に話し掛けるんだろうか・・・)
誰からも声を掛けられることがないので自分から話題を作って話し掛けようか思案していると、教師が入ってきた。年の頃は30代できつい目つきが印象的な黒髪の女性だ。すると皆は一斉に立ち上がり教師に向かって一礼したので、僕もそれに倣う。
「座りなさい!私はこのBクラスを担当するエヴァ・マイヤーズです。今から学園での事、今後の学習・実習についての説明をします。よく聞き、分からないことがあれば質問するように。ではまず———
エヴァ先生の話では、授業は朝9時から夕方4時まで。休みは7日に一度の休息日や夏季休暇があるらしい。まず最初の一月は魔力制御の基礎と第二位階魔法までの知識の学習などが中心となる。その後は大森林での下級魔獣討伐などの実習により位階を上げる鍛練があるということだ。卒業までの目標は第三位階になることで、それ以上の位階となれば騎士団への就職や貴族への士官も叶うらしい。
生活における注意点は、まずこの学園には4つの校舎があり、魔術校舎・剣武術校舎・生産校舎・研究校舎がそれぞれある。4つの校舎の中心には巨大な寮があり、一階は食堂となっているが、身分毎に座る場所が違うので気を付けるようにとのことだ。更に寮も2、3階が平民用、4階が下級貴族、5階が上級貴族用とのことだ。ちなみに寮の部屋は平民は2人1部屋で、貴族は個室らしい。朝食は7時、昼食は12時、夕食は18時で門限は20時まで。食事は基本は無料だが、貴族用の豪勢な食事は自腹でということだ。
(フリージア様が成績の上位10人は個室っていってたけど、そもそも貴族の人数と才能を考えれば、個室は全て貴族行きだったって事か・・・)
一通りの説明が終わり、壇上の教師が質問があるかと投げ掛けると、一人の学生が挙手をした。
「お聞きしますが、ルームメイトはどのように決めるのですか?」
「既にこちらで決めている。隣に座る者がルームメイトだ」
教師の言葉にクラス中が隣を見合っていた。当然男女別になっているが、僕には隣が居なかったのでどうしたものかと思っていると―――
「タンジーは人数の都合上一人だ。彼の事で何か思う者もいるかもしれんが、せっかく身近に金ランクが居るんだ、よく学ぶといい」
そう言うもクラスの視線は微妙な感情が込められているようだった。
(畏怖・・・というか、得体のしれないものに向ける感情に近いかな)
面倒を嫌うものであれば僕には近づかないだろう。下手に貴族以上の能力があれば、どこかの貴族に突っかかってこられそうだし、近くにいるとその巻き添えになるかもしれない。ただ、聖女や他国の王女とも面識があるので、その2人と接触したくて近付いてくることはあるかもしれない。
(まぁ、2人を紹介してくれって言われても無理だろうけど・・・)
さっきまでの友達を作ろうと意気込んでいた気分から一転して、友達なんて出来るのかと心配になる。
「本日は以上だ!昼は食堂で、その後は各自の部屋へ行って荷物を整頓しておけ!荷物は既に各部屋へ運び込まれている。明日は身体測定や健康診断をして、明後日から本格的な授業になる。ちなみに机に置いてある名前が入ったプレートは学生証だ。学園内では常に身に付けておけ!再発行には金がかかるから無くすなよ!」
説明を終えた教師が出ていくと皆は学生証を持ち食堂へと行くようだ。ほとんどがルームメイトと話ながら異動しているので中々話し掛け難い雰囲気だった。そんな中、教室に2人だけクラスメイトが残っていた。一人は黒髪の男の子で周りをキョロキョロして、もう一人は桃色のボブカットの女の子で同じようにキョロキョロしながらも席を立とうとはしていない。
(この子達は知り合いがいないのかも。席も近いし、せっかくだから声を掛けてみよう!)
この子達は僕の前の席で隣あった机に座っているので、声も掛けやすかった。
「ねぇねぇ、君たちは食堂に行かないの?」
僕がそう声を掛けると、2人ともビクッと驚いたように振り返ってきた。
「あ、あの、えっと・・・」
女の子の方は人見知りなのか、中々言葉が出てこないようだった。
「いや、知り合いもいないからどうしようと考えていて・・・」
男の子の方は普通に話してくれたが、やはり知り合いがいなかったということだった。
「そっか、僕も知り合いがいないから一緒だね!良かったら一緒に食堂に行こうよ!僕はダリア・タンジー。君達の名前は?」
「・・・俺はマシュー・ライナー」
「・・・わ、私はシルヴィア・ルイーズです」
「よろしく!マシュー、シルヴィア!」
「「よ、よろしく・・・」」
とりあえず、2人には拒絶されていないようなので食堂に3人で行くことになった。
食堂に着くと入り口からして貴族用と平民用が分かれており、中に入るとかなり広々とした食堂に大勢が長机に座って食事をとっていた。メニューは日替りランチか銀貨2枚で貴族向けのランチという事だったが、みんな一様にお金のかからない日替りを選んでいるようだった。
ご多分に漏れず僕らも日替りを選んだ。注文の際に学生証の提示を求められたので、無くさないように気を付けないとタダ飯が食べられなくなってしまう。ランチを受け取り、トレーを持ちながら空いている席に座った。日替りのサンドイッチを口にしながらお互いに軽く自己紹介をした。
「僕はどこの領地か分からないんだけど、山奥に師匠と一緒に住んでいて、師匠が見識を広めてこいって事で去年から冒険者をしてるんだ!2人は?」
「えっと、俺はボーデン伯爵領で衣服店をしてる家の三男だ。何故か土魔法の才能があってここに来たんだ」
「あ、あの、私はマリーゴールド侯爵領で雑貨店をしている家の三女です。わ、私も何故か闇魔法の才能があってここに来ました」
本来才能は遺伝によるところが大きいので、平民でなおかつ家族にも魔法の才能がない彼らは、どういう訳か魔法の才能を授かってしまった人ということらしい。
(たしか、そういう人を能無しの家系の生まれとして、ノアって呼ばれるんだったっけ?)
「ちなみに2人はどの程度魔法が出来るの?」
「俺は第一位階だよ。貴族みたいに家庭教師も居ないし、家族は誰も魔法の才能を持ってないから」
「わ、私もです。ただ才能があるからって魔法コースになれただけで・・・」
「そうか・・・一応僕は冒険者で金ランクだから、困った事があったら頼りにしてね!」
「・・・な、何で俺達なんかに?言っておくが金なんて無いぞ!」
何故か2人には疑いの目を向けられてしまっている。僕は何かおかしいことを言っているのだろうか?
「別にお金なんていらないよ!だって僕、友達が欲しいだけだから!」
「「・・・・・・・」」
「・・・?何か僕おかしなこと言った?」
「・・・いや、だってお前金ランクだろ?しかも聖女様や他国の王女とも面識あるってことだし、そっちを頼れば有力貴族と繋がり作って仕官だって出来る!別に俺達と友達にならなくても・・・」
「???仕官することがそんなに大事なの?」
「は?当たり前だろ!俺達平民の家業を継げない者にとってみれば仕官すれば安泰な生活が待っているんだぜ!あとは衛兵になるか、最悪冒険者でいつ死ぬとも分からない危険な依頼をこなす生活になるんだ。みんな必死でツテを探して3年間のうちに仕官先を見つけるのが目標だよ!」
「わ、私もそう思います。み、みんな友達を作るんじゃなくて、将来の生活の為にこの学園に来ていますから」
そう2人に言われて思い出すと、冒険者はよほどの実力者でもなければ、その日の生活もままならない職業だ。それを考えれば安定した就職先を見つけたいと言う彼らの言葉はあまりにも正論だった。
(そう言えば最初に自己紹介も無かったなぁ。この学園に来た心構えが僕とはまるで違うんだ・・・)
友達が出来るといいなと思っていた僕と彼らは考えが全く違うのだ。何か企んでいるのではと疑いの目を向けられるのも仕方ない事かもしれない。
「そうか、でも友達が欲しいのは本当だし、魔法の事で教えて欲しい事があれば言ってね!」
「な、なんで?ライバルを増やすことになるんだぞ?」
「別に僕は貴族に仕官するつもりは無いよ。将来の事もまだ何も考えてないなぁ・・・」
「はぁ?そんなわけないだろ!」
「だって僕、貴族にあんまり良いイメージ無いしね。そんな人の元で働くなら、気ままに冒険者で生きていた方が良いなぁ」
そんな僕の言葉に2人は目が点になってしまった。どうやったら信じてもらえるのか思案していると、食堂の入り口付近が騒がしくなった。入り口を振り返ると、取り巻きを引き連れたエルフ王女が足早に近付いてきていた。
「失礼、今よろしいかしら?」
「「マ、マーガレット殿下!!」」
マシューとシルヴィアは驚き、慌てて立ち上がって一礼した。僕も彼らを見習って一礼して、「はい」と答えた。
「ではダリア殿、こちらに来てくれますか?」
そう言って彼女は踵を返した。付いて行くために空になったトレーを持って席を立ち、2人に告げる。
「じゃあ2人とも友達の件考えておいて!」




