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冒険者生活 22

 夕刻、スタンビート討伐作戦はほぼ終わりを見せていた。散発的に魔獣との戦闘はあるものの、ここがそもそも魔獣の住む大森林であることを考えれば普通の事だった。


今は手の空いた騎士達と冒険者達が討伐した魔獣の素材回収の為に亡骸を集めている。この冒険者達は王子がドラゴンを討伐して戦況が好転した後、王都に伝令を走らせて、残りの掃討戦と素材回収の為に依頼を出したということになっている。元々後方に待機していて速すぎる冒険者の到着だったが、王子はさして気付かないようだった。


 結果として、魔獣8000の内約半数を討伐、こちらの被害は騎士・衛兵合わせて300名弱がその命を散らしてしまった。騎士や衛兵の中には同僚を失ったことで悲しみに暮れる者もいたが、大半は今回の勝利に歓喜していた。

それは、そもそもが達成困難な作戦の上に始まった事にも関わらず、結果として成功を収めたことで王都を守ることが出来たからだろう。そして、彼ら自身の自信に繋がり、何より報酬にも繋がるからだろうと僕は勝手に想像して歓声を上げる彼らを見ていた。


「これで僕の仕事も終わったかな」


 作戦はほぼ終了し、治癒師達は先んじて帰路に着いている。僕が受けた依頼は治癒師の護衛という事を考えればもう帰っても良いかなと考えていた。そんな事を考えていると、フリージア様が来た。


「ダリア君、お疲れ様です!今回は本当によくやって下さいました!」


「いえ、結果として上手くいって良かったです。それに本当に頑張ったのは騎士の方達でしょう。結構な犠牲も出てますし」


「そうですね、彼らの魂に神の祝福があらんことを・・・」


僕の言葉に彼女は沈痛な面持ちで祈りを捧げた。


「ですが、貴方の活躍もまた事実。公には出来ませんが、貴方の成したことは英雄と言われるに相応しい働きです」


「あ、ありがとうございます」


こうして話していると彼女が本当に14歳で僕と同じ歳なのか疑ってしまうほど大人びている。元々の性格なのか、あるいはそういう環境で否応なくなのか。子供っぽい王子と見比べると余計際立って感じてしまう。


「では後日報酬の事もありますのでまた神殿にお越しください。お疲れさまでした」


彼女はそう言うと一礼して、聖騎士達と共に騎士や冒険者に声を掛けながら去っていった。




 それから数日後、僕は報酬の受け取りのためにまた神殿を訪れていた。案内された部屋には枢機卿とフリージア様に加えて、ギルさんともう一人見知らぬ人物が座っていた。


「お待たせしたようですみません」


「いや、時間通りだ。我々は別件があって少し早かっただけだよ」


遅れてはいないと分かっていたが、目上に対するマナーとして待たせた事を謝罪しておいた。その謝罪に代表してギルさんが答えてくれ、そのまま席を勧められたので、彼らの対面へと座った。


「まずは初めましてだな。私はオーガスト王国軍務卿カーク・フォルスだ!此度の件における貴殿の活躍、誠に見事であった」


口火を切ったのは、カーク・フォルスと名乗った軍務卿だった。厳つい顔をした初老のようだか、その肉体は筋骨隆々としており、今なお現役の騎士のような出で立ちだ。


「初めまして、ダリア・タンジーと申します。ご尊顔を拝することが出来まして恐悦至極に存じます」


「うむ、今日は公式の場ではない。それ程かしこまる必要はないぞ」


「ありがとうございます。しかし、本日はこれほどの方々がお集まりとは・・・一体何があったんですか?」


さすがに国の重鎮たる軍務卿と枢機卿に、冒険者協会の会頭が一同に揃うなど余程の事なのではないかと勘繰ってしまう。


「身構えてしまうのは分かるが、まずはこれが依頼の報酬だ」


そう言うと軍務卿は小袋と羊皮紙を渡してくれた。


「今回は軍務卿の私と枢機卿の合同依頼ということで、大金貨100枚とその羊皮紙は大図書館地下書庫への許可証だ」


「大金貨100枚もですか!?・・・ありがとうございます!」


「本来退竜者となれば爵位と勲章を貰えるほどの功績だが、今回は事情が事情だからな、お金でしか報いれん。それにワイバーンの素材を売ればこの数倍の値が付くのだが、今回はあまり公にお金を動かせずこれが限界なのだ。すまんな!」


「いえ、勿体無いお言葉に感謝のしようもありません」


さすがに軍務のトップを預かる人物から謝罪の言葉があると思わなかったので、慌てて止める。正直それほどの偉業を成したとは思っていないし、ここで下手な態度を取って印象を下げることも避けたかった。


「ふむ、やはり枢機卿やギル殿の言う様にこの年齢にして礼儀はしっかりしているのだな」


「ふっ、言った通りでしょう?彼はフリージア様のように大人びていると」


ギルさんが何故か自慢するような口調で軍務卿にどや顔をしている。こんな軽口が叩けるという事は、2人は親しい仲なのかもしれない。そこに枢機卿が本題を話し始めた。


「さて、前置きはその辺で本題に入りましょう。今回この3人がいるのは少々問題が発生してしまったからなのだ」


「問題ですか?」


「うむ、君が瀕死にまで追い込んだワイバーンだが、当然誰がそこまでしたのかという疑問が出てきてしまっている」


「まぁ、王子殿下はそこの所まったく気にしておりませんがね。作戦が上手くいったという事に舞い上がっていてそこまで気が回っておりませんよ」


軍務卿がやれやれと言った感じで王子について話してくれた。とはいえ他の人、とりわけワイバーンが落下した場にいた騎士達にとってみたら疑問が残るのは当然の事だと言われて気付いた。


「ワイバーンより上位の存在にやられたという事にできませんか?」


一縷いちるの願いを込めて聞いてみたのだが、軍務卿から否定的な返答をされてしまった。


「それは難しい。ワイバーンに残った傷は明らかに魔獣の爪や牙などではなく、鋭利な刃物によるもの・・・つまり斬撃だ。さらに現在解体中のワイバーンだが、その鱗が硬すぎて王家所有の魔剣ぐらいでないと解体も出来ておらんのだ。そして一番問題なのは、王子チームの騎士の一人がワイバーン落下地点の上空に何者かがいたと私に報告してきたことだ」


どうやら王子たちのチームを探すために高度を下げていたことで見つかってしまっていたらしい。戦闘についてはかなり上空だったので気付かれてはいないと思うが、さすがプラチナランク相当の騎士の実力という事だろう。とは言え、結果として作戦は成功し王子も気にしていないのならばいいのではないのかと思う。


「浅学で申し訳ないのですが、そんなに問題なのですか?」


「いいかいダリア君、今回の事で謎の人物は王家が持つ魔剣に匹敵する武器と、ドラゴンを討伐しうる実力を有しているということだ。これが王国の騎士であるなら何も心配はいらないが、謎の人物だという事が問題なんだよ」


ギルさんが真剣な面持ちで説明してくれたが、謎の人物は僕の事なので別に大丈夫なんじゃないかと、中々理解できずにいた。そんな僕の内心を見抜いているのか、さらに分かりやすく説明してくれた。


「つまり、その人物が王国に敵対する勢力だった場合、全力で排除する必要があるという事だ」


「いや、僕は別に王国に敵対する意思はありませんよ?」


「現状では謎の人物になっているために、それを証明する手立てがないんだ。とは言っても君がやったと公言すれば今度は殿下の功績が半減してしまう・・・実に面倒な状況なんだよ」


王国としては謎の人物を放置することが出来ず、かといって真実を公言すれば王子が討伐したわけではないということで、王子が欲していた功績が半減するというまさにあちらを立てればこちらが立たずという状況だった。


「ではどうしましょうか?」


僕がそう言うと枢機卿が少し身を乗り出してきた。


「そこでだ、今回は特例中の特例として君の肩書を時間を遡って≪特務騎士とくむきし≫という新たな役割を与えられていたという事にする」


「特務騎士ですか?」


「今回のような非常時に際して、王家・軍・教会・冒険者協会の4つの権力から独立した存在として、4組織の合議によって全会一致の承認により超法規的な動きが出来る特殊騎士という事だ」


「・・・なんだか回りくどすぎて分かり難いですね」


「実は今回の君への依頼については王子以下騎士団を除いて、国王・軍・教会・冒険者協会それぞれのトップは承認していることだ」


「・・・それでは王子の評価は今回の事で上がらないという事ですか?」


枢機卿に変わってギルさんが内幕の一端を話してくれた。


「今回の事は簡単に表現するなら権力闘争の一環と、王位継承を気にするあまり武功をたてようと暴走してしまった殿下の行動が巻き起こした騒動でね・・・」


「ギル殿、口が過ぎるぞ!」


軍務卿からの指摘にギルさんは肩を竦めるだけだった。それほど今回の事は不満に思っていたのだろう。


「つまり、王子に功績を上げさせたい派閥とは別に王都を守るための折衷案せっちゅうあんが今回の秘密裏の行動だったのですか?」


「そういうことだね。王族の面子を傷付けずに王都の安全を守る必要があったんだ。誰にも知られなければドラゴンの傷は適当な理由をつけてそれで終わったけど、見られた以上不安が広がる前に手を打つ必要があるんだ」


ギルさんの説明に続いて軍務卿が口を開く。


「そこで、君には正体不明の特務騎士として我々からの要請の元に動いていたという筋書きを作った。もちろん君の正体は口外せずに、元々そんな隠密機関があったという事にしてだ」


つまり謎の人物というのはそのままに、その人物は王国に害する者などではなく、王国の為に働いていた人物としてしまうらしい。ただその論法だと―――


「それでは王子は信頼されていなかったという事になってしまいませんか?」


「もちろんこの事を公言するのではない。そういう噂を流して、最終的には有耶無耶にしてしまう手筈だ。その噂を殿下が耳にすれば君の思った通り信頼されていなかったと気付くだろう。だがその事で我々は殿下に成長して貰いたいとも考えているのだ」


さすがは権力のある人物たちが集まっているだけはある。一応の筋書きを作って最後は力技でねじ伏せてしまうという事らしい。しかも、王子の成長を促すためのものでもあったらしい。


「でしたら僕が心配することは無さそうですか?」


「そうだね、せいぜい今回の報酬で散財し過ぎないようにすることかな!どうやって稼いだか勘繰られるかもしれないからね」


「分かりました。でもその位の事なら内幕を僕に言わなくても良かったのではありませんか?」


「これは我々がダリア君を信頼している証しと思ってもらっていい。今後はある程度の便宜もその肩書があれば秘密裏に図れる。君の活躍に期待しているぞ」


最後に枢機卿が場を締めて終わった。

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