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戦争介入 31

 砂漠の一つを農地化して、ジャンヌさんと話し合った翌日、僕は『神人』衣装に身を包み、王国の騎士団の陣営を訪れてアレックスさんから話を聞いていた。そこでは、フリージアの懸念が現実になろうとしている状況だった。


「つまり、騎士団としてはこれ以上の戦争継続の意思はないが、王国上層部はそれを認めず、今すぐにでも戦争を再開せよということ?」


アレックスさんから聞いた話の確認も込めて、要点を纏めて聞き返した。


「仰る通りです。『神人』殿の能力や王国の問題点の解決手段の提供、その確認も一部出来ていると伝えたのですが、聞き入れられませんでした」


「そこで、騎士団としても無用な争いによって犠牲者を出すことは如何(いかが)なものかと抗議し、膠着状態になっております」


アレックスさんの話に補足してくれたのは、土下座騎士ことダグラスさんだ。彼はアレックスさんのお目付け役のような立場なのか、よく一緒に行動しているようだ。


「解決手段の確認ということは、偵察した森や草原で魔獣の亡骸が確認できた?」


「ええ、およそ半日の捜索で確認できた魔獣の死骸は2000以上。半数近くは獣に食い荒らされており損壊が激しかったのですが、残りはお聞きした通り、首を鋭利な刃の様なものでスッパリと切断されておりました」


「それだけで神人の(げん)を100%信頼できるというのは大袈裟な報告になってしまいますので、信じるに足る確証ありと、第一騎士団【剣聖】アレックスと、私、第三騎士団団長ダグラスの連名をもって伝えました。しかし・・・」


「王国上層部はそれを一顧だにしなかったと・・・」


「頭の痛いことです。ごく一部の特権階級の私利私欲の為に、現場は奔走(ほんそう)させられます」


実際にダグラスさんは、頭を抱えながらそう吐き出す。その姿は、今までにも色々と苦労することがあったのだろうということを思わせた。


「そういえば、アレックスさんは軍務卿の地位の打診がきているとか?その席からであれば、多少は変えていけるんじゃないかな?」


昨日シャーロットからもたらされた話をアレックスさんに振ってみた。


「さすがお耳が早いですね。確かにそうですが、私がその席に座っていくら声を上げようとも、本質的には何も変わらないでしょう。実際、先の軍務卿は成り上がり者で、過去に命令系統の改革を行おうとしたらしいのですが、宰相や他の貴族連中から反発が酷く断念したらしいです」


力無くそう話すアレックスさんを見て、国の考え方を変えるのは相当に難しいことだと改めて思いしらされた。例え、その組織のトップだったとしても、他の組織の合意を得なければ改革など遠い夢という事のようだ。


「なるほど、王国の状況は分かったよ。僕も少し動いてるから、くれぐれもクーデターのような変な気は起こさないでね」


「こちらも善処致しますが、『神人』殿が動くというなら平和的な方法でお願いできませんか?」


 ダグラスさんが切実な表情で僕に懇願してくる。王国の騎士団に対して、そんなに暴力的な手段で交渉をしたような記憶はないのだが、何をそんなに彼は恐れているんだろうかと疑問に思ってしまう。そんな僕の首をかしげている僕に、ピンと来ていないと思ったのか、ダグラスさんが説明してくれる。


「『神人』殿、お忘れかもしれませんが、王城で数十人のダイヤランク冒険者と近衛騎士を殺しておいでですので、そのような事は出来るだけ控えて欲しいという意図でございます」


そう言われて、思い出す。特段記憶に残るような事でもなかったし、何なら宰相が使った兵器の方が印象に残っているほどだ。とはいえ、あの時僕はダリア・タンジーとしてあの場にいたはずなので、『神人』としては誰も殺していないはずだった。


(やっぱり僕の正体はある程度バレているか・・・)


それでも、自分がダリア・タンジーだということは明かさず、あくまで『神人』として言葉を伝える。


「別に死者を出すようなことは考えてないよ。ただ、金銭欲や権力欲に取り憑かれた人間を諦めさせるにはどうしたら良いかな?」


「難しいですな・・・。一番はそれに変わる代替案の提示ですが、当然それは金銭や権力ということになってしまいます」


「最も簡単な交渉は、武力による威圧でしょう!抗おうと考える気すら起こせないような」


アレックスさんの言葉には、どこか実感が籠っているような説得力を感じた。


「話して分かってくれれば良いんだけどね・・・」


「それで変わるのなら、王国には派閥など出来なかったでしょう。互いに譲れぬものがあるからお互いに主張をぶつけ合う。それが国同士となれば戦争になる。住む環境や文化、考え方、それらが少しでも違ってしまえば争いは始まるものです・・・」



 その後しばらく言葉を交わしてから、屋敷へと戻った。



 屋敷へ戻ると、みんなと王国の現状について共有し、対応策を考えたが、やはりそう簡単に良い策は出なかった。


「懸念した通りですが、思った以上に王国上層部は、戦争需要での利権が絡んでいそうですね」


フリージアが肩を落としながら、王国の対応に落胆を隠せないようだった。


「それは王国だけということではなく、ある程度どこの国でもそうだと思いますよ?もちろん公国でも戦争の利権に絡んだ動きが全く無いということはないでしょう」


フリージアを気遣ってか、メグが自分の国を貶すような物言いでみんなに語りかける。


「もちろん、引き際の見極めはしっかりと行い、見誤ったのなら責任は取らないといけませんが」


メグは利権に目が眩むのではなく、しっかりと判断を行い、結果、判断が誤ったのならその判断を下したものが責任を取るべきだと主張する。その彼女の余裕が感じられる表情から、公国の対策が上手くいっているのだろうと感じさせた。


「そうすると、【剣聖】のアレックスさんの言うような方法が一番効果的ということですか?」


対応策に行き詰まりを見せていたので、シルヴィアが僕が伝えたアレックスさんの提案の有効性を確認してきた。


「出来れば最初は穏やかに話そうと思うけど、ダメだった場合はそれも検討しておくよ」


 アレックスさんの話を聞くに、王国には僕の実力はきちんと伝わっているはずなのに、それでも上層部は戦争の中止はありえないという。実際にその目で見ていないからそう判断したのかとも一瞬考えたが、宰相や国王は僕の力を実際その目で見ているはずだ。そう考えると、ここまで強硬に戦争を継続する意図が分からない。


(何かもっと戦争を継続しなければならない、重要な事情でもあるのか?)


そこまで深読みしてしまうと、もはやなにも分からないが、そういう事情があるかもしれないという(てい)で動こうとは思った。


「後は、シャーロットさんの件ですね」


これ以上話し合っても王国の対処法で良い案は出ないと考えたのか、フリージアは話題を変えた。


「お母様に少し聞いてみましたが、やはり亡命を認めるのは難しいということです・・・」


 申し訳なさそうにメグがそう口にした。この場にシャーロットとアシュリーちゃんはいない。せっかく再会出来たということで、2人に自由な時間をあげたいという事と、アシュリーちゃんにはあまり関わらせたくない話題だったので、今は2人を遠ざけるようになってしまっている。


「どこかの廃村を住めるようにしようかとも考えたけど、僕が国の領土を占領するみたいになっちゃうから、それも難しいよね・・・」


 以前考えた案だったが、いくら捨てられた村とは言っても、やはり王国ないしは公国の領土を使うとなると、どちらの国であったとしても良い顔はされないだろう。そういった場合、国土の不法占有を大義名分として糾弾される可能性もある。武力によらず、言論で排除されてしまうということだ。


「いっそどこかに、どの国のものでもない場所があれば良いんですけどね・・・」


何気なくシルヴィアが放ったその言葉に、僕は思い付いたとばかりに大きな声を上げる。


「それだ!!どの国にも属していないような島なら誰も文句は無いよね!?」


「島ですか?それはまぁ、大陸からある程度離れていれば問題ないでしょうが、そんなに都合良く住むのに適した島が見つかるでしょうか?」


僕の考えにメグが問題提起してくる。人間が生活していく上で必要なことは3つある。衣・食・住だ。着替えなどは僕が運べばなんとでもなるし、住む家も土魔法の応用で手軽に建てられる。食料については砂漠を農地化出来たのだから不可能ではないだろう。さらにその島に動物か魔獣でも住み着いていれば尚良い。それに・・・


「最悪見つからなくても、土魔法で住みやすく変えちゃえば良いし、問題ないよ」


「・・・すごい発想ですね。さすがダリア」


「そこまで出来るなら、もうその島は『島』というより『国』になってしまいますね」


「あっ、良いですね!それならダリア国って名前にしますか?」


メグは僕の言葉に呆気にとられたようになり、フリージアは難しい顔をしながら、もはやそれは国ではないかと言ってくる。対してシルヴィアは、楽しそうに国の名前を決めていた。


「いや、さすがに国を作ろうとは思ってないよ」


「さすがに国という言葉を掲げてしまうと、周辺国家が黙っていません。あくまで隠れ住むという事を忘れないで下さい」


難しい顔をしていたフリージアがそう付け加えた。どこの国にも属していない絶海の孤島だったとしても、国際上勝手に国を建国するのは周辺国の反発を招くばかりか、それこそ戦争の火種になるという。


「すみません。私、考えも無しに・・・」


フリージアの言葉にシュンとなったシルヴィアが謝っていた。


「とにかく、僕の方で手頃な島を探してみるよ。一段落ついたらシャーロット達に移ってもらおう」


 これでシャーロット達のことは一時的に解決はしそうだった。一時的にというのは、やはりたった二人で生活していくのはあまりに寂しいと思うので、もっと良い方法がないかは、継続して考えていこうと思ったからだ。



 そして翌日、僕は久しぶりに王国を訪れるのだった。

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