都会は怖いところのようです
裏手に戻ればセレナさんの姿はなく、オーナーだけが相変わらず不機嫌そうにパイプを燻らせている。
違いと言えば、もう片方の手に紙と革袋を握っていることぐらいだろうか。
「セレナは下がらせたよ。あの子はあれでも仕事明けだからね。ほら、書類とお金だ。相変わらずギリギリのいい値をつけるね。腐っても三男坊ってことかね。」
「今日初めてお会いしたはずですが、この短い時間に名前だけでそこまで分かりましたか。俺、ルイーニの名は臨時で数年で受けただけなので、今育ててる後任が使えるようになったら次はしっかりと引き継ぎします。…書類とお金確かにいただきました。…あれ?お金、多くないすか?」
隣のお兄さんからギリッと噛み締めた音が聞こえて、今すぐここから逃げ去りたい危険センサーが働く。よく分からない腹の探り合いは私のいないところでしてもらいたい。
「ああ、多少色つけておいた。うちに1番先に売りに来てくれた礼とでも思ってくれ。」
「……この商売してて、他の店に売り買いの情報を話したりは
「もちろん口止めもあるがね……隣国の方が高く売れただろ。ケイトの黒髪。」
「‼︎…っ。王都に売られたいがケイト本人の希望だったんですよ。」
このくそババアとか小さな声で呟かないで。ホントお願い。
「手広くやるのはいいがね、足元すくわれてこっちに迷惑かけてくれなさんなよ。」
「…ご忠告ありがとうございます。ほら、ケイト。オーナーのとこに行け。」
「はい。オーナー、これからよろしくお願いします。」
オーナーの前に立ち、お辞儀をする。これからここで生きていく。どんな形であれ王都で生きていく覚悟はここに来るまでの道中にしてきた。
「ケイト、珍しい名前だね。あんたは私が買った。店の中で私の事はルシーダと呼びな。この店と同じ名だ。客や外に対してはオーナーと。後の細かい事は中の私の部屋で話す。ついてきな。」
言うだけ言って扉の中に向かうオーナーの背を追いかけるため、お兄さんの方を素早く振り向く。
「村からずっとありがとう。カイルさん。」
「ああ。これからもたまに様子を見に来たりはする。早くついて行け。」
苦笑いでシッシと手を払われる。急いで振り返ると扉奥のオーナーの後ろ姿は小さい。
私はお兄さんを振り返る余裕もなく、扉の中に入り、扉を閉めると小走りでオーナーを追いかけた。