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訳あり商品はなんとか売れたようです

お兄さんから目をそらして上を見上げてみればよく晴れたいい天気だ。

まだ昼には早いであろう朝だが、レンガ造りの建物の木窓からは、終わった〜、おやすみなさい〜といった一日を終える声が聞こえ漏れる。

こちらのお店は今日の営業が終わったばかりのようだ。


そんな現実逃避も扉の開く音で現実に戻される。


「…ケイトってのはあんたかい?フードよけて顔見せな。」


出てきたのは銀髪をキツくお団子に纏めた初老の女性だ。姿勢も綺麗に、パイプを咥えて機嫌は最悪そうだ。隣にはまだ困り顔のセレナさんもいる。


素早くお兄さんはフードをはたき落とした。ついでに私の頭も軽く叩かれたのはきっと気のせいではない。


「ふん。もういいよ。しっかりフードを被ってな。で、お前さんはルイーニの後任になった子だったかい?」


「はい。初めてお目にかかります。本名はカイル、前任の人買いルイーニより名前を継いでます。」


「ああ。引き継ぎの時はバタバタしたようだね。私がここのオーナーだ。これからも頼むよ。…で、その子についてだが、あんたのとこの売り方は一括だったね?」


たっぷり顔を見つめられてフードを被ったら、もう用無しですか。そうですか。

ボケっとしていたら、セレナさんが私の横に来てそっと飴をくれた。

話がちょっと長いかもだからって。

え?天使ですか?仕事明けなんですよね?

お辞儀をして飴を舐める。許可はもらわない。だってこの夏の暑さなら握ってたら溶ける。


「そうですね。うちは一括です。定期的に集金とかは大変なんで。」


「一括なら買った後は私のものってことでいいね。なら、その子私が買うよ。」


「よかったー!助かります!では、いつもどおり金額は書類のここに書いてあります。あとはサインを。その間にケイト、表の荷馬車から荷物を持ってくるぞ。あ、お前、いつの間に餌付けされてやがる。こっちはヒヤヒヤしてたのに。ほら、行くぞ。」


どうやら一転、売れたらしい私は慌ててお兄さんの後をついて行く。







表の荷馬車に着けば、私は荷馬車から荷物を取り出すが、片手で持てるほどの包み一つだ。

お兄さんも私の荷物を知ってるんだから、私が一緒の必要はあったのかと首を傾げながら荷馬車から降りれば、お兄さんにグッと腕を掴まれる。


「売っておいてこんなこと言いたくないが、時間もないし忠告だけしておく。買い渋ってた店がオーナーへの顔見せだけで意見を変えた。しかも、買い渋ってた理由も言わず、聞かせず、あの婆さんは『私が』買うと言った。俺は一括払いで人売りをしている以上、売った後の扱いに口は出せない。ちゃんとあの婆さんから話を聞いて、この店での自分の立ち位置を理解しておけ。」


早口に捲し立てられて、思わずお兄さんと見つめ合ってしまう。場所が場所だけに誤解を招きかねない。


「お兄さんありがとう。心配してくれて。後は…うん、なんとかやってみる。オーナーさん、悪い人じゃないとは思うんだ。だから戻ろう?」


ニコリと笑ってお兄さんの手をとる。心配は嬉しい。でも、私は売られた。戻るべきはこの目の前の店だし、私の言った言葉も本心だ。


「…飴舐めながら言われても説得力がねぇよ‼︎…あと、名前、カイルで良い。お前と年もそんなに違わないし、俺はお前の兄貴じゃない。…いいな?」


取った手の反対側の片手で顔を挟んで潰される。どんどん力の入るその手に慌て頷けばパッと手が離れる。


「ふはっ。ぶっさいくだ。よし。戻るぞ。」


さっきは見た目が良いとか言ってたくせに。

まあ、お兄さんの黒紫の束ねた髪の隙間から見える浅黒く焼けた肌でも、耳と首が赤くなっていたのが分かったから何も言わないであげよう。



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