複数の仮面
鍋がグツグツと煮だつ。固い白菜とネギを先に入れる。
段々と光は薄れ青い闇が顔をだす。
いくら春とはいえまだまだ寒い筈なのに、月陽は今そこまでの寒さは感じていなかった。
夕日をバックに夜桜が振り返る。逆光に照らされる彼女は綺麗だった。
「さ、食べよ」
「いただきます」
「いただきます」
月陽は野菜から手をつけ、それを見た夜桜は豚肉を月陽の小皿にポンポン入れる。
月陽は山盛りになった小皿をみて苦笑いを浮かべた。
夜桜はどこまでも楽しそうだ。
ふと、考える。
夜桜にとって沢山いる中の1人の私。
彼女の笑顔や、楽しそうな振る舞いはきっと私だけのものじゃない。
そう思うと、なんでだろう。胸が苦しくなった。
月陽はこの胸の痛みを誤魔化すように小皿の中身を急いで頬張った。
どこか不自然な月陽に気付きつつも、それを見ないふりして、夜桜は月陽に話を振る。
「音楽とかどんなん聞くの?」
すると月陽は薄らと笑い、「意外かもだけどボカロとか好きだな」
「いや、意外じゃないよ?貸してくれたシャツ、アニメのだったし、ボカロ好きそうだなーって思ってたよ」
月陽は見透かされてたことが恥ずかしくなり鍋を突く。
「そーゆう夜桜は?」
「フッフッフ、よくぞ聞いてくれた!」
「あ、めんどいやつだ……」
「ずっと真夜中でいいのに。とかヨルシカ」
「普通にミーハーじゃん。私も好きだけど」
同じものが好きってだけで周りに花が咲いたんじゃないかと言うほどの飛びっきりの笑顔を見せる夜桜に月陽はどこか救われた気になっていた。
いや、気じゃなくて、救われた。
これで何回目か、まだ友達として数日しか経っていないのに。
いつか来るだろうか。夜桜に対等だと思い、肩を並べ歩く日が。
きっと来るだろう。随分と遠い未来かもしれないけれど。
月陽は意味もなく同じ言葉を繰り返した。
「私も好きだよ」




