できた。
望んだものを自分の手で。
月陽はそれを出来たことが嬉しかった。
自分一人では辿り着けなかった場所。
1人では何も出来ない。当たり前だ。そのことをしれたいい機会だったのかもしれない。
淹れたての珈琲は湯気を立て、真っ黒ではなくどこか透き通った色。
「あ、カップ忘れたあ」
夜桜は項垂れるように落ち込んでいる。
(こいつ私の部屋を私物化しようとしてないか)
月陽は一抹の不安を抱えながらも、夜桜の分のカップ、(とは言ってもマグカップだが)を用意するため立ち上がる。
その時夜桜の事は一瞥もしない月陽だった。
マグカップを2つ持ってきて、珈琲を注ぐ。
まずは1口、口につける。
(……熱すぎてわからん)
少し冷ますことにした。
夜桜は熱々のそれを口に含み、驚いたように目を張った。
夜桜は何も言わず、月陽が何かを言うのを待っているようだ。
ふーふーして、少しだけ冷めた珈琲を飲む。
奇しくもさっきの夜桜と同じリアクションを取ってしまう月陽。
「あ、美味し」
珈琲なのに苦いだけじゃない。舌の横を刺激する爽やかな酸味。そして、
「あまい?」
「うん。甘味をよく引き出せた!月陽、大成功だね」
そう言って心からの祝福をくれる夜桜に気恥しくなって、だけど嬉しくて視界が滲む。
「美味しいよ。……ありがとう」
最後の言葉は静かに呟かれ、珈琲の香りと混ざりあって消えていった。
「どういたしまして」
夜桜は月陽の言葉ごと嗜むようにして珈琲を口にした。




