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chapter7 空前絶後の神スキル

 取り乱したフローリスを(なだ)めすかして、とりあえず彼女を連れて安全地帯へ戻ることにした。

 多少は落ち着いたところで、何か察するものがあったのか、粛々と足元に落ちていた杖を拾って、大人しく俯き加減に俺に付いてくるフローリス。


 十分後――。

「えーと、いうことで上層から降りてきたフローリス=クライフちゃんです」

「――『ちゃん』? あ、えーと、初めまして。元宮廷魔術師見習いのフローリス……です」


 呼び方が馴れ馴れしすぎたのか、一瞬怪訝な表情を浮かべたフローリスだが、すぐに威儀を正して、朝食の準備をしていた瀬尾さんに向かって、ぺこりと頭を下げた。

 気のせいかキラキラとした粒子が髪からこぼれる。

 なんつーか、態度の一から十までが、なんか初々しくて砂糖細工でできているかのように可愛らしいんだよな、この()。さすがは伝説級の魅力スキルの持ち主である。まさに魔性の魅力というか……。

 スンハスンハ……ああ、なんか動くたびにスゲーいい匂いがする。


 遠い地球にいる父さん母さん。今日も息子は朝から元気です!


「元宮廷魔術師見習い? それって結構なエリートなんじゃ……」

 フローリスの自己紹介に怪訝な表情を浮かべた瀬尾さんだが、その視線が彼女の胸元――まったく出っ張りのない断崖絶壁――へと向けられ、

「ああ……」

 一瞬で疑問が氷解した上に、なんらかのシンパシーを感じたらしい。同じ傷を負った同士、あるいは同じ十字架を背負った咎人(とがびと)のような、心底不憫そうな眼差しを向けるのだった。


「そう、貴女も大変だったわね。本当(ほんっとー)に、この国の連中はゲスばっかりだわ。だけど大丈夫、私たちは何があっても貴女の味方よ! そうでしょう、上北君っ!?」

「ウン、ソーダネ」

 もの凄い勢いで彼女の境遇に憤慨するとともに、初対面とは思えないウエルカムな態度で――もともと愛想はいいが、こっちに世界に来てから初めて見る朗らかな笑顔で――胸襟を開いて、フローリスを歓迎するついでに二枚貫きで俺も道連れにする瀬尾さん。

 逆らうと即座に斧で切られそうだったので、俺は超速で同意した。


【告・スキル『下僕(したっぱ)』を取得しました。これにより、今後は上位者と認めた相手との間で『疑似念話』が通じるようになります。】


 ……このスキルは、あとで『翻訳』スキルで上書きしておこう。

 いっとくが素人は下手な玄人よりも怖いんだよ。セオリーを無視するから!


 で、とりあえず三人で車座になって、お互いの情報を突き合わせることにする。

 もっとも、こっちは――。

『勝手にクラスごと召喚された』

『なんか理不尽な理由でここ《穢穴(アビス)》へ強制転移させられた』

『どうにかこうにか中ボスの牛を倒して、一息ついているところ』

 ……という、三点のセンテンスで終わった薄っぺらい情報だったけど。


 もっともそう思ったのは俺と瀬尾さんだけで、

「『斬首牛』がいたの!? この階層に! それをふたりで倒すなんて、さすがは異世界人だねっ」

 この世界の人間で、なおかつ元宮廷魔術師見習いという知識人でもあるフローリスは度肝を抜かされた様子で息を飲んだ。

 そして、『斬首牛』という単語をもう一度口に出し、ガックリと消沈した様子で、

「……だったら、やっぱりティルザたちみんなはダメだったんだ――」

 細い肩を落として、項垂(うなだ)れるのだった。


「そのティルザってのは仲間だったのか?」

「……うん。といっても知り合ったのは皆一リューブ……10日前だけど」

 手を握って肩に手をやって励ましたいのを我慢して――瀬尾さんが斧を(ry――聞いた俺に、小さく頷いて答えてくれたフローリス。


 そうしてポツポツ話してくれた内容を整理すると――。

「つまり異世界から召喚するには、それに合った代償が必要で、今回は俺たちの大量召喚のために、五十人ほどの〝罪人(生贄)”が選ばれて、この《穢穴(アビス)》に放り込まれた……って、わけか」

「うん。魔術でいう『等価交換の原則』だね。基本的に霊力の強い巫女なら可能な儀式らしいけど、人倫にもとる外道な儀式として、どの都市国家(ポリス)でも、禁忌・邪教の類いとされているんだ。けど、実際にはこの通りさ」


 まあ、国際条約で禁止されていても、ABC兵器の開発なんざ、どこの国でもこっそりやってますからなぁ。


「でも、わざわざ異世界から人間を召喚する意味ってあるの?」

 確かに。フローリスのスキルやステータスを見た限り、そうそうこの世界の人間も侮れないと思うんだけど?

 口に出した瀬尾さんのもっともな疑問に、

「あるよ。ボクなんて10年修行をして、天才だとか秀才とか言われたけど、Lv10で頭打ち……それなのに、異世界人である君たちは、もうLv13で、しかもふたりきりで『斬首牛』を倒したなんて、普通じゃ考えられないよ! 僕たちなんて10層にいた階層ボスの『高等猪頭鬼(ハイオーク)』を突破するのに、20人からの犠牲を出したんだよ」


 ちなみに『高等猪頭鬼(ハイオーク)』はブタみたいな顔をした身長2メートル、体重250㎏を越える巨漢で、通常の猪頭鬼(オーク)に比べて遥かに狡猾だとか。あと例によって女に見境のない色魔だそうで、下層に行くにつれて普通にエンカウントするそうである。


「なんだ、邪悪な巨乳じゃないのか。――だったら別に戻って倒すほどじゃないか。仮に出会ったらチ○コ切り落とすくらいで……」

 何やら瀬尾さんが恐ろし気なことを囁いているが、聞こえないふりをしてフローリスとの話を続ける俺。


「つまり異世界人を拉致する目的ってのは、《穢穴(アビス)》を攻略させるためなのか? 普通に産業や農業を発展させた方が安定的だと思うけど」

 そう思えるのは安全な地球にいた者の常識だそうで、そもそもこの世界において人間は自然界のヒエラルキーにおいては下から数えた方が早いくらいの弱者だそうだ。

「それをひっくり返せるのは、スキルと《穢穴(アビス)》からしかとれないミスリルやオリハルコン、アダマンタイトなどの金属と、どんな怪我でも一発で治る下は下級治癒薬(ローポーション)から、上は死者さえも復活できる万能薬(エリクサー)など。これをどれだけ持っているかが国力の差といっても過言ではないんだ」


 もっともそういう希少な鉱物や薬品を採取できるのは、生まれつき強力なスキルを持っている一握りの強者だけだけれどね、と続けるフローリス。


「日常スキルならともかく、戦闘に使えそうな希少なスキルは生まれつき太陽神から授かるもの……と神殿が言う通り生来の素質に左右されるからね。実際、その剣の持ち主だったティルザは、冒険者として10年修行をしたけど、剣スキルの一つも得られなかったそうだし」

「「!?!」」

 そんなフローリスの説明の途中で、思わず目を合わせる俺と瀬尾さん。

 さきほどフローリスに説明した牛を倒した下りでは、スキルの詳細についてはボカシて、「ふたりとも戦闘スキル持ってたからどうにかなった」と、ふわふわした説明で終わらせたんだけれど、いまの話が本当だったら、俺のスキルは本来はあり得ないことをしている、常識外規格外ってことなのでは……?


【解・これまでに確認された事例のない超希少スキル。一般的に『伝説級スキル』を凌駕した、『神スキル』と呼ばれるものです。】


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