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chapter6 起きて15分で現地人と邂逅

 安全地帯に戻った俺は、瀬尾さんに見つけてきた物を見せ、ついでに上層へ上がれるっぽいスロープの話をした。


「俺としては安全マージンを確保するためにも、このまま下に行かずに、おそらくは多少なりとも安全な上層へ行ったほうがいいと思うんだけど?」

「そうね。いまのところふたりともレベル13だし、あの牛がレベル35だったのよね? なら最低でもまともに戦って勝てるくらいにならないと、ここから下はキツイでしょうからね」


【解:斬首牛の討伐推奨レベルは、ふたりの場合Lv25以上です。】


 なるほど、よく勝てたな俺たち。たまたまスキルが噛み合ったお陰だろうけど、これが手が届かない場所から攻撃するような相手だったら、文字通り手も足も出ずにお陀仏だったことだろう。


「なら、しばらく上層の魔物を狩って、目標としてはレベル25前後を目指すってことで……まあ、その頃にはまた牛も復活しているだろうけど」

「くくくくくっ、愉しみね。今度こそ実力であの牛のでっかい胸を蹴り破ってみせるわ!」

 

 なんだろう。瀬尾さん暗黒面に落ちて、手段と目的が入れ替わっているような……。


 そんなわけで今後の方針を決めた俺たち。

 話が一区切りついたところで、昼夜の感覚がない《穢穴(アビス)》内だけど、眠気を覚えたのでお互いのスマホを見ると、すでに日付が変わる時間になっていた。

「……まあ当然電話は通じないし、充電が切れたら時計代わりにもならないけどな」

 スマホをしまいながら俺が独り言ちると、

【解・時間に関しては質問を受ければ回答します。】


 おお、『賢者(ナビゲーター)』さんパネェっすね。


 ともあれ、いまが真夜中と知って、なおさら疲労と眠気を意識した俺たちは、ステータスを回復させるのと心身の休憩を兼ねて、このままこの安全地帯で横になって雑魚寝をすることにした。

 念のために俺が出入り口の近くで、下層へのスロープを挟んで瀬尾さんが眠る形に決める。


 陸上部のアイドルと同じ部屋(というか通路だが)で眠るなど、公認ファンクラブの連中に知られたら闇討ちされそうだが、この異常な状況で不純なリビドーが湧くほど俺も勇者ではない。つーか、『危機探知』が発展した『予知(最大五分前)』を持ち、なおかつすぐに手の届く場所に魔牛の斧を置いて寝ている彼女に手を出そうとか、怖くてできるわきゃない。


 そんなわけで疲れもあって、制服の上着を下に敷いて(直接床に寝ると熱を取られて逆に消耗する)、ごろりと横になっただけだが、疲れていたせいかふたりともすぐに眠りに落ちた。

 で、なんとなく朝になった気がしたので、ほぼ同時に目を覚ました俺たち。


【解・現在、午前7時25分です】


「ん~、6時間くらいは寝たか……」

「うう、なんか体がボキボキする~。あと寝起きだからこっち見ちゃダメよ」

「はいはい」


 水瓶(汲んでも汲んでもいつも満杯になっている)で顔を洗った瀬尾さんが身支度を整え、寝ている間に解いていたポニーテールをヘアゴムで縛っている間に、手持ち無沙汰な俺は剣を鞘ごとベルトに差して、上着を羽織った。


「あー、一応、上に通じているスロープの様子を見てくるわ」

 女の身支度は時間が掛かるもんと相場が決まっているからな。

「了解。その間に食事の支度をしておくわね」


 ま、食事といっても俺が見つけていた携帯食を齧るだけなんだけど、とにかく硬くて昨晩は瀬尾さんが斧で叩き割って、水につけてふやかしてどうにか食べられたって感じだったから、今朝も同じことをするつもりなんだろう。


(『牛革の収納バッグ』は、このまま瀬尾さんが持っていた方がよさそうだな。そういえば、上からのスロープって、この階層と同じでボスを倒したら現れるもんなんかな?)


【解:通常の階層間のスロープは常時開放されています。普段閉鎖されているのは、特定のボスモンスターがいる階層のみです。】


「なら、消えてなくなるってことはないわけか」

 ひとまず安心してスロープのある位置まで散歩がてら歩いてきた俺の耳に、

『きゃ――きゃああああああああああああっ!!』

 狭い場所を反響している女の子の悲鳴と、何かがズルズルと滑り落ちてくる音が聞こえてきた。


「おい、まさか……!?」

 嫌な予感を覚えて小走りにスロープの下まで行くのと同時に、

「ひやああああああああああああああああっっっ!?!」

 無防備にウオータースライダーを滑り落ちてくる感じで、スロープの穴から女の子がひとり落ちてきた。


「――おっと」

 若干立ち位置を修正して、落ちてきた女の子を受け止める俺。

 女の子とはいえ人ひとり受け止めるとかかなり無茶だが、ステータスが上がっているお陰で、猫の仔を受け止めるくらいの衝撃で無事にお姫様抱っこをすることに成功した。

 その直後に、木でできた粗末な杖みたいなのがついでに落ちてきたが、これは躱す。


「おい、大丈夫か?」

 と、とりあえず腕の中の女の子に声をかけるも、

「Caída~aaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!!」

 目を閉じて顔に両手を当てて、現地語でまだ悲鳴を上げて聞いてやしない。

「Axúdeme~~~~~~~~~~~ッ!!!」

「……あー、マズったね。俺も翻訳スキルを複写しておけばよかった」

 どうしたもんかと考え込みながら、腕の中の少女を観察する。


 見た感じは俺たちと同じくらいの年齢だろうか? 色白で華奢な体つきをして――特に胸に関しては、残念ながら瀬尾さんと互角(ため)を張れるほどの大草原である――染めてるわけではないだろうに、地球人にはあり得ない藍色の長い髪を緩い三つ編みにした少女……まず間違いなく現地人だ。

 着ているのは麻でできた粗末な貫頭衣みたいな衣装で、足元は動物の皮を袋状にしただけの靴(?)。貫頭衣は細い腰のとこで荒縄で縛っているが、丈が短いのでミニのワンピースみたいにも見える。


「Morreeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeeee!」

「あー、いい加減、落ちるのをやめてくれないか?」

 揺すりながら、とりあえず瀬尾さんのいるところへ連れて行こうかと思ったところで、少女が、

「――え、二ホン語……?」

 思いがけずに日本語を喋ると、驚いた様子で顔から手を放し、恐る恐る目を見開いて俺の顔を覗き見た。


 彼女も『翻訳』スキルを持っているのかと安堵しながら、いまさらながら『鑑定』してみようとした矢先、

「――わ~お♪」

 それどころではない。あらわになった少女の美貌に思わず見とれてしまった。


 瀬尾さんも美少女だが、こっちの彼女はベクトルの違う美少女である。

 繊細なガラス細工のような顔立ち。男の庇護欲を掻き立てる柔らかな造形。深窓の令嬢とか、可憐な淑女という形容詞がこれほど似合う女の子はいないだろう。

 期せずしてお姫様抱っこをできた俺は役得だな、おい! とニヤケそうになる表情を引き締めて、

「あー、俺は上北直輝――ガイアース(こっち)ではどうなのかは知らんけど、『上北』が姓で、『直輝』が名前だ。えーと、俺の言葉はわかるよな?」

 自己紹介しながら、密かに『鑑定』してみる。


・名前:フローリス=クライフ

・年齢:16歳

・Lv10

・HP:33(32)

・MP:61(61)

・筋力:28(28)

・知力:46(46)

・敏捷:22(22) 

・スキル:『傾国傾城(けいこくけいせい)』『水属性魔術(初級)』『火属性魔術(初級)』『魔力回復(小)』『翻訳』


(『傾国傾城(けいこくけいせい)』ってなんだ???)

【解・男性を惹きつけ、場合によっては理性を失わせるスキルです。非常に珍しく、歴史上でも百年に一度現れるかどうかの伝説級スキルに指定されています】


「――わ~お」

 思わず先ほどとは別な意味で驚嘆の声が漏れる。

 そんな俺を怪訝な目で見てから、

「え、えっと、ボクはフローリス。フローリス=クライフ。フローリスが名前で、クライフが姓です」

 おずおずと自己紹介をしてくれるフローリス。

 この見た目でボクっ子か。どっちかっていうと瀬尾さんのほうがイメージに合ってそうだけど。


「あの、ナオキ……君。ボクを助けてくれたんだよね? あ、ありがとう……けど、ちょっと恥ずかしいから下ろしてくれる……かな?」

 恥ずかしがって頬を染めているフローリスの(はかな)げな仕草に、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けつつ、不承不承……未練たらたらに俺は彼女をゆっくりと床に下ろした。


「ふう。改めて感謝するよ、ナオキ君。ところで――」

 何か聞きかけたフローリスの視線が、俺の腰に差してある剣に止まったかと思うと、こぼれんほどに大きく見開かれる。

「その剣は!? 間違いない。ティルザが持っていた剣だ! 君、ティルザを知っているのかい?!」


 次の瞬間、必死の面持ちで俺に縋りついてきた。

だが、○○○だ!

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