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chapter3 召喚されて30分でスキル解明

 重量というのは武器である。

 大抵の格闘技に体重制が導入されていることからもわかる通り。軽くて小さい奴が重くて大きい奴に勝てるような奇跡はそうそう起きない。

 例えば体重20㎏の幼稚園児と、60㎏の高校生がいた場合。仮に幼稚園児が空手や柔道を習っていたとしても、素人の高校生には絶対に勝てないだろう。


 俺の剣術の師匠曰く、

「戦いの本質は殺す(勝つ)殺され(負け)るかのどちらかしかない。負けるとわかっている戦いは極力避け、いざ戦うとなれば勝つことが絶対条件じゃ。そして、戦いにおいて重要なのは三つ。すなわち、力と技と武器じゃ。このうち力は生まれつきの要素が強く、技には長い訓練が必要になる。そうなると手っ取り早く強くなるには、より強力な武器を持つのが一番ということじゃな」

 ということで、現代日本ではかなーーり違法な武器とかも習得させられた俺だけど、今回は『力・技・武器』のいずれもが不利な状況にあった。


「ぶもおおおっ!!」

 瀬尾さんに逃げられたのが納得いかないのか、やっぱり巨乳に対する怨みつらみの言葉がカンに触っていたのか、再び瀬尾さん目掛けて大斧を上段から唐竹割の要領で振り下ろす牛。


「危ないっ。瀬尾さんは右に跳んで! 俺は左へ回る!」

 さっきから牛の動きを見た限り、利き手は右手のようだ。であるなら、右手の外側が死角に当たるはず。

 そうアタリをつけて牛の左手側に跳んだ瞬間、瀬尾さんも腰のバネにモノをいわせて跳んだ――俺と同じ方向へ。

「なっ――右って言ったじゃんか!?」

「だから右側に跳んだでしょう!!」

「牛から見て右側って意味だよ!」

「だったら主語を明確にしなさいよ!」

 お互いに廊下で出合い頭に進行方向を譲り合って、お互いに廊下を左右に塞ぐ事故が、まさかこの命がかかわる場面で起きるとは思わなかった。


 とはいえもともとの足腰のバネが違うため――剣術も基本は足腰のバネだけど、使う筋肉が違うんだろう――瀬尾さんに巻き込まれて、予定の場所からかなり離れた通路の壁までもつれあいながら倒れた。


「あたたたた……」

「――って、やばい! 悪い、ちょっと避けて!」

 壁にぶつけた個所を押さえる瀬尾さん。彼女と壁の間に挟まれた形になった俺のほうがダメージは大きいけど、咄嗟に受け身はとれたようだ。剣も離していない。

 起き上がりかけたところで、牛が振り返って大斧を真っ直ぐに突きの要領で、瀬尾さんと俺をまとめてモズの速贄(はやにえ)みたいにしようと繰り出したのを目にして、慌てて両手で瀬尾さんの脇の下あたりに手を差し込んで抱えて横にズラした。


「きゃっ! ど、どこに触っているのよ!?」

「どこって……ああ、胸か?」


 マジで胸だったのか、いまの? しみじみと両手の感触を確認したいのを我慢して、即座に脇に置いていた鉄剣を構えて牛の刺突を迎え撃つ。

 無論、この剣で超重量級の牛の巨大武器を受け止められるわけがない。

 だが、むかし師匠が実際に目の前でやって見せてくれた技――

『突きは手で取れる』

 軌道が比較的読みやすい突きなら、軌道を逸らせば両手で白刃取りができる……はず。

 とはいえ、逸らすためには一撃は受けねばならない。


「このナマクラのスキル『硬化(微増)+2』に賭けるしかないか。せめてもうちょっとマシだったらな……」

 そうぼやいた瞬間、勝手に手持ちの錆びた剣に関する鑑定のステータスウインドウが開いた。


・銘:無

・属性:無

・物理攻撃力:6(4)

・物理防御力:8(6)+2

・魔法攻撃力:0

・魔法防御力:0

・スキル:『硬化(微増)』←{スキル変質(逆転)。スキル変動(1ランク上下)。スキル複成(コピー)(ランダム)}


 はあ!? と思ったが、ほとんど本能のままに俺は『スキル効果変動』の1ランクアップを選択していた。

 結果――。


・銘:無

・属性:無

・物理攻撃力:6(4)

・物理防御力:8(6)+4

・魔法攻撃力:0

・魔法防御力:0

・スキル:『硬化(小)』


 と、もともとの剣の強度に加えて、スキル発動時に防御力が10になることがわかった。

 これなら、もしかして!?

 僅かな希望に託して、目前まで迫っていた巨斧を剣で弾く――!


 薄暗いトンネル内に火花が散った。

 剣は……ギリギリ折れない。だが、重い! 剣自体の重さと牛の重量を前に、技で逸らすどころの重さでなかった。

 師匠~っ、圧倒的な質量の前には技は無力です!


「し、死ぬ~~っ!」

 と思った瞬間、

「この乳――じゃなくて、牛の化け物が!!」

 横合いから三角跳びの要領で、壁を蹴った瀬尾さんの素人同然の跳び蹴り――でありながら、『速度増幅』『空間把握』スキルの後押しもあって――一撃で牛の巨体をぐらつかせた。

 牛がたたらを踏んだお陰で勢いを減じた巨斧を逸らすことに成功した俺は、真剣白刃取りの感じで巨斧を両手で挟んで掴むと同時に、『防錆』『自動修復(小)』のスキルを複成(コピー)して、結果得られた『自動修復(小)』のスキルを俺の鉄剣に張り付け、同時に牛の持つオリジナルの『自動修復(小)』を『自動修復(微増)』へとレベルダウンさせる。

 そのついでに残ったMPをすべて使って、牛の腕に触って、スキル変質(逆転)をイチかバチか全力でかけた結果、


・NAME:斬首牛

・JOB:《穢穴(アビス)》中層のボス

・Lv35

・HP:????

・MP:???

・筋力:???

・知力:10

・敏捷:22 

・スキル:『痛覚最大』『猪突猛進』『威圧の咆哮』『常時満腹』


 というわけのわからん状態になったのだった。


「ぶもおおおおお?」

 自分の変化が理解できないのだろう混乱する牛。ついでにさっきまでの餓鬼のように涎を垂れ流して、血走った目から、どこか満ち足りた表情に変わったのは、『常時満腹』のお陰だろう。


 なんかもう俺たちのことなんてどうでもいい表情で、フラフラと歩きだしたわけだけど、無論、これを見逃す俺たち(特に巨乳絶対殺すマンの瀬尾さん)じゃない。

 俺が無造作に、背中を向けた牛に切りかけたところ、

「ぶもおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!?!」

 大した傷じゃないのに涙目で飛び上がる牛。『痛覚最大』の効果だろう。


 こうなりゃこっちのもんである。

 かつてない痛みに怯える牛を前に、修羅の表情になった瀬尾さんがそのあたりにあった石を持って迫り、俺も退路をふさぐ形で剣を構える。


 そうして、一時間後――。

 息絶えた牛を前に、俺たちはやり遂げた笑みを交わすのだった。

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