chapter33 待ち待ってた! 混沌蜚蠊大帝の最終進化
3/6 タイトルを変更しました。
何か他の方の作品を読んだら『顰蹙』という漢字自体を使うのを躊躇って、『ひんしゅく』と平仮名で書かれていたので、いっそのことタイトルごと変えることにしました。
ラウルス法治国に属する《城塞都市》アクィラは、いま戦乱のただなかにあった。
隣接するモエニア王国――もとをただせばアクィラの宗主国(と言ってもこの世界における国とは、すなわち城壁に囲まれた都市国家とその集合体のことであるが)であった斜陽国家――からの離反に対する粛清という大義名分による侵略である。
無論、点在する都市国家間の移動は多大な労力と、人間という極めて脆弱で狩りやすい餌が集団で《城塞都市》から出てきて徘徊するとあって、周辺のモンスターがこぞって集まって襲ってくるという危険を伴うため、兵站も満足に維持できない。
これらの要因により少数精鋭のゲリラ戦と短期決戦になるため、大抵の場合は守る側が籠城を決め込めば勝ち……というか痛み分けという形で、互いのメンツを誇示するのが目的であり、戦争とは名ばかりで勝敗が付かずに有耶無耶になるのが常であり、様式美であった。
今回の戦いはその常識を覆す明確な決着がついた――ついてしまった。
それも戦争開始直後、半刻(15分)ほどでアクィラという都市そのものと住人、財産を含めたすべてが地図上から消えるという形で。
対するモエニア王国側の被害は僅か二名。異世界から召喚された〝勇者”の犠牲という、ほとんど無傷と言っていい完全勝利であった。
◇
「事実上の敗北に、貴重な勇者様の犬死ですね」
まとめられた報告書を執務机に放り投げて、モエニア王国第二王女アルセリアは苦々しい顔で深々とため息をついた。
たわわな胸がそのはずみにこぼれんばかりに上下する。
到底臣下の前では見せられないあけすけな姿だが、ここはアルセリア王女の私室であり、周囲にいるのも彼女の腹心たる侍女と護衛ばかり。そして目の前の女騎士はかしずいて床に目を落としたままなので、その無作法に眉をひそめる者はいない……というのは彼女も理解してのことである。
「はい。占領すべき都市国家も人民も消失した以上、今回の出征にかかった軍事費、物資、何よりも今後アクィラという防壁がひとつ喪われたことで、そちら方面からのモンスターの密度と圧力が強まることが懸念されますので、最低でも防壁の強化と防衛部隊の増強など、継続的に諸経費が計上されるでしょう。概算資料はこちらに――」
此度の遠征軍を率いたアリエン・アリエンツォ将軍の補佐につけていた女性将校(Eカップと胸はやや控え目ながら怜悧な頭脳を持った才媛である)が提出した書類を侍女が受けて、アルセリア王女へと一礼をしながら手渡した。
軽く内容を流し読みしたアルセリア王女は、辟易した様子で資料の束をテーブルの上に半ば放り投げる。
「《黒獄》の勇者シュンイチ・コマツザキが、都市国家の内部で大破壊魔術を使用。それにより随伴していた勇者《ゴーレムマスター》ハルミ・ニカイドウと《幻惑》イクオ・サイトウの二名が巻き込まれて死亡か。なにを考えている!?」
「物見からの報告では、遠距離からの攻撃が頬を掠めたことで錯乱したシュンイチ・コマツザキが、最大火力で周囲を焼き尽くしたとのことです」
「……幼年学校の子供ですね、まるで」
「しょせんは暴力に耐性がない世界の人間が、分不相応な力を得ただけですから」
その言葉にアルセリア王女はもうひとつの頭の痛い問題を思い出して、盛大にため息をついた。
「おまけに妊娠中の女勇者たちは、アレを寄こせ、コレをしろとやりたい放題。我々王族ですら限られたリソースをやり繰りしているというのに、異世界人には節制という概念はないのですか?」
この世界において人間は弱者である。知恵とスキルによって、辛うじて生存を許されているのが実情なのである。その限られたリソースを湯水のごとく浪費し、あまつさえ数少ない生存圏を消滅させるとは……。
「――せめてまともな交渉ができる明敏な頭脳と、勇者たちを統率できるリーダーがいればよかったのですが」
そう嘆息したアルセリア王女の脳裏に、脈絡もなく召喚直後に《穢穴》に放逐した一組の男女(忌まわしい名のスキルを持った男子と、見るもおぞましい平坦な胸をした女子)の姿が浮かび上がった。
「……まさか。この私が誤った判断をした……? 一番重要な人材を真っ先に切り捨ててしまった――と?」
あり得ないと思う一方で、巫女としての彼女の勘が指先に刺さった棘のような疼きを発する。
「……とっくに野たれ死んでいるでしょう。いずれにせよ今あるものをどう使うかが今後の課題ですわね」
その懸念を無理やり振り払い、アルセリア王女は今後について思いを馳せるのだった。
◇ ◆ ◇ ◆
・NAME:大魔導霊王
・JOB:《穢穴》の真のボス
・Lv99
・HP:27,800(/27,800)
・MP:39,611(/40,666)
・筋力:2,830
・知力:241
・敏捷:1,705
・スキル:『死霊魔術(超)』『鑑定』『呪文短縮』『性魔術(大)』『対闇魔術完全耐性』『対聖魔術耐性(特大)』『物理防御(大)』『属性魔術耐性(大)』『再生』『全死霊召喚』『滅死の暗黒』(※防御無効で相手のHPの35%に特殊ダメージを与え、吸収した50%のHPを自分のものとする)『即死の雲』(※25%の確率で相手を即死させる)『魔聖玉障』(※聖属性魔属性魔術を反射する)
ダンジョンの大ボスを凌駕する裏ボスへと進化した元神官長(巨乳好き)の死霊王が、俺たちの前でけばけばしい衣装に早着替えしたかと思うと、高笑いを放った。
即座に『預言者』がその能力値を読み取ったが、その内容とスキルの内訳を知って、俺は躊躇いなく精神的に白旗を上げた。
勝てん! こんなもんゲームでいったらパーティのレベルをカンストさせて、最強装備に身を包んで、高レベルのアミュレットやポーションをありったけ使い捨てして、五周目くらいでようやく勝てるかどうか……といった相手だろう。
現在の俺たちでは、どうあっても斃せる筋道がまったく見えない。
仮に破れかぶれで俺の必殺技『グロリアス・ブレード』を放ったとしても、一発で削れるHPは2000くらい。
これにスキル『正義漢』(善良な目的でLvが高い者と戦う際に、すべてのステータスが15%増幅される)と、『主人公補正』(このスキルを持った者が、自分よりLvが高い者と戦う際に、すべてのステータスが30%増幅される。※小数点以下切り捨て)が全力で発動したところで、2000×15%×30%=2990と、いいとこHPの1/9削れるかどうかで、なおかつMPの2/3を消費するのだから、まったくもって無駄な足掻きと言うしかない。
なすすべない俺たちの目前では、凄い勢いで異次元の戦いが繰り広げられていた。
無限に再生される大魔導霊王の『死せる戦士団』と、怒涛のように増殖する皇帝魔蜚蠊の『分身無限遍在』。
広間を埋め尽くすどころか一部小山と化している、死人とゴキブリの削り合いという悪夢のような光景を前にして、『預言者』が難しい顔で現状を分析するのだった。
「いまのところ互角でやんすが、やはりレベル差もあってこのまま消耗戦を継続していたら、皇帝魔蜚蠊の方が不利ですね」
「「「「「ああ……うん。味方のゴキブリよりも、まだしも敵の死人の方がマシだわ」」」」」
期せずして俺たち(瀬尾さんを除く)の本音がこぼれる。
「まあこのペースだと二時間ほどで勝負はつくでやんす」
付け加えられた『預言者』からのタイムリミット――ゴキブリが全滅して、俺たちもバルナバス大神官の大魔導霊王に始末される(死んだ後の死体がどうなるかは知らん)未来を――告げられ、
「よし、こうなったら俺も覚悟を決めた」
取り乱してもどうしようもない。一周回って悟りの境地に達した俺は、しがみつく形で周りを取り囲んでいる女の子たちを改めて両手で抱きしめた。
「残り時間で思い残すことのないように、さっさと処女と童貞を捨てようぜ!」
「「「「「ええええええええええええええっ!?!?」」」」
「あー、嫌か?」
人間危機的状況だと種の保存本能が働いて、生殖行為に走ると聞いていたのだが、それは都市伝説だったのだろうか?
そんな俺の懸念をさておき、フローリス、ユリア、リーフェ、シーラがお互いに顔を見合わせて、モジモジと恥じらう。
「ま、まあ私ならいつでも旦那様とねんごろになるのはどんとこいだ」
ユリアが率先していそいそと鎧を脱ぎだし、
「そ、それならボクも。あ、あの痛くしないでね……」
フローリスが上着に手をかけ、
「え、フローリスも参加するの!? 『ネコ』『タチ』『リバ』、どっちの方面で?!」
リーフェが素っ頓狂な声を張り上げ、
「……そんなもの、言うまでもないかと」
大地の神に純潔を捨てる祈りを捧げながらシーラがしみじみと慨嘆する。
「ちょっとと、ちょっと! 彼女の目の前で堂々と浮気するんじゃないわよっ!!」
皇帝魔蜚蠊に抱きかかえられながら、激昂した瀬尾さんが怒鳴りまくって俺の方へ掴みかからんとするも、しっかりと確保されていて身動きもままならない。
「とは言われても、俺の中のかつての恋人は、ゴキブリの伴侶と化してすでに存在しないも同然だしなぁ……」
どういう順番でいくか「「「「最初はグー!」」」」と、下着姿でジャンケンによる真剣勝負を行っている少女たち(ひとり男の娘あり)を横目に、俺はゴキブリに捕まった瀬尾さんに赤裸々な胸の内を伝えた。
もれなく巨大ゴキブリが付いてくる恋人とかないわ~~~。
「キィー、薄情者ーーーっ!!! ゴキブリッ! あの最低男をなんとかしなさい!!」
トチ狂った瀬尾さんの命令を受けた皇帝魔蜚蠊は、向かい来る『死せる戦士団』とその背後に控える大魔導霊王と俺を見比べ、いかんともしがたい雰囲気で懊悩し、そうして煩悶した挙句、全身を震わせ――刹那、全体に亀裂が走ったかと思うと、
「おおおおおっ、レベルがカンストしたでやんす! 皇帝魔蜚蠊の最終進化形態が来るっすよ!!」
『預言者』の期待を込めた声に応えるようにして、ボロボロと剥がれた外殻の下から黄金の光を放ちつつ、
「♪黄金虫は金持ちだ~♪」
『預言者』の鼻歌が終わる前に、さらに巨大に禍々しくも同時に神聖な力を放つゴキブリの最終進化形態が降臨したのだった。
・NAME:護鬼佛理天
・JOB:異世界で信奉されるゴキブリの神
・Lv120
・HP:105,989(/105,989)
・MP:65,989(/65,989)
・筋力:5,989
・知力:205
・敏捷:55,989
・スキル:『混沌魔術』『超加速』『超耐性』『ゴキブリ拳法(三億年無敗)』『環境適応(超)』『無限再生』『無限分身』『隠身(大)』『飛翔(大)』『悪食(超)』『疫病作成』『疫病散布』
「どこの世界の馬鹿だ!? 護鬼佛理天信仰するなんて!!」
『預言者』が教えてくれたゴキブリのステータスを前にして、俺は思わずそう言わずにはいられなかった。
護鬼佛理天は実在します。
当然、そんなものがあるのはこの世界の日本だけですので、どんな姿をしているのか見たい方は『護鬼佛理天』で検索してみてください。




