chapter32 大ボスとの無制限勝負
『お前らそれでも血の通った人間か!? 仲間に対する慈悲の心も人としての良心もないのか、この悪鬼羅刹めが!!』
俺たち――主に瀬尾さんと『預言者』――の所業を前に、おめーら人間じゃねぇ、とばかり義憤に震える死霊王。
「はん! 友人知人をゾンビにして襲わせた張本人が、ふざけたこと言ってるんじゃないわよっ」
「そうでやんす。ゾンビにされた連中も、仲間に引導を渡してもらったことで、安心して冥府へ旅立ったってもんでやす」
女子にあるまじき中指をおったてて啖呵を切る瀬尾さんと、あかんべーしながら殊勝な口調で同意する『預言者』。
「いや、誰一人あたしらは手を出さずに、第三者であるセオとカー君がティルザたちを消滅させたんだけど……」
「なに言っているのよ、私とみんなは同じパーティの仲間。一蓮托生。たとえ生まれた時は違えども、死ぬ時は……まあ、多分それもバラバラだとは思うけど、何はともあれ家族も同然――ユリア以外は――! なら、私が手を下しても間接的に自分の手で引導を渡したも同じよ。経験値も分散されてるし。共犯者よ共犯者!」
釈然としないリーフェのボヤキに、瀬尾さんが打てば響く調子で快活に答える。
「どーでもいいが、発想が完全に犯罪集団の『死ぬまでヌケられねぇぜ』的なソレだな」
いつまにそんなヤクザな集団に加わったのだろうと、思わず俺も嘆息してしまった。
いや、いまさら自分が正義の味方とか、天に代わって悪を討つとかふざけたことを言う気はないが、常識的に真正面から非難されると、結構堪えるものがあるな。
瀬尾さんと『預言者』以外は俺と同じ思いなのか、居たたまれない表情で視線を逸らせた。
『許せん! こうなっては遊びは終わりだ、儂も本気を出すとしよう』
死霊王がログインしました。
という感じで本腰を入れて、ヒタッと俺たちを見据えながら、何やら長々とした呪文を唱えだす死霊王。
「――むっ。召喚術の一種でやんす。早く、無防備ないまのうちに攻撃するですよ! いまなら全員でかかれば、勝率は五十三%っす!」
『預言者』の助言に従って、詠唱中で無防備な空中の死霊王に向かって、一斉に攻撃を加える俺たち。
「ソニックブレードっ!!」斬撃を飛ばす俺。
「フレイム・ノヴァ!」最大の炎の魔術を放つフローリス。
「メテオ・アローッ!」威力も凄いが反動もある弓スキルを放って、危うく弾かれるところをユリアに支えてもらって事なきを得たリーフェ。
「フォース・アタック!」あまり効かないだろうとは思うが、果敢に聖魔術の遠距離攻撃をするシーラ。
ついでに『レインボーブレス』を思いっきり放射するカー君。
「はあああああああああああああああああああああああああっ!!!」
そして瀬尾さんは思いっきり壁や天井、空中を蹴って、四次元的な立体起動でバルナバス大神官の死霊王の懐へ入って、『魔牛の斧』を全力で振り回した。
躱しようのない必殺技の連撃の直撃を受け、爆炎に包まれるバルナバス大神官の姿を前に、
「「「「やった!?」」」」
フローリスとリーフェ、シーラ、ユリアが歓声をあげる。
「……だから、それはフラグだと――」
「どへえええええええええええっ?!」
俺が注意するよりも早く、ガキ~~ン! という硬いもの同士がぶつかる音とともに、瀬尾さんが相変わらず色気のない悲鳴をあげながら、床に向かって弾き飛ばされてきた。
「やべぇ!」
あの勢いじゃ受け身が取れないと判断した俺が、瀬尾さんの落下地点へ目星をつけて走り出すのと同時に、俺を遥かに凌駕する速度のナニカが、背後から俺を追い越していった。
『くくくくくっ。まさかここでワシの全力を見せる時が来るとはな……』
一方、爆炎が晴れたそこには、金ぴかの冠とけばけばしいローブ、そしてドラゴンを象った禍々しい杖を装備したバルナバス大神官が平然とした姿で立ちふさがっていた。巨大な腐敗したドラゴンの頭に仁王立ちして。
「ぎえええええっ、あれってこの〈穢穴〉のラスボスである古代龍(Lv80)の成れの果てでやす! アレを斃したんでやんすか!? どうりで元人間にしては、嫌にレベルが高いと思ったら……おまけに装備とか含めると、死霊王軽くレベル100を超えてるっす! 勝率が一気に4%にまで下がったですよ!」
慌てふためく『預言者』。
『さらについでだ。出でよ、我が〝死せる戦士団”!』
ドラゴンの杖を掲げて唱えたバルナバス大神官の声に応えて、ゾンビ、スケルトン、グール、ミイラ男、ドラウグル、ヴァンパイア、レイス、スペクターなどがうじゃうじゃと召喚される。
総数二百はいる追加の敵を前に、「あ、無理っす……」と匙を投げる『預言者』。
だが、この瞬間、俺たちの注意は完全に別なほうへと向けられていた。
「「「「「で、で、で、で……出たーーーーっ!!!!」」」」」
どこから現れたのか、まるでタキシードを着た紳士のような人間的フォルムと化した巨大ゴキブリ。皇帝魔蜚蠊の進化(?)した姿であろうソレを前に、凍り付くようなおぞけに襲われていた。
人間的なフィルムになったから親近感が湧くということは一切なく、顔がまんまゴキブリだけになおさら生理的な嫌悪感が倍増という感じである。
実際、床に叩きつけられる寸前に助けられ、ソレにお姫様抱っこをされている、あの気丈な瀬尾さんですら白目を剥いて、口から泡と魂を半分噴いていた。
と――。
皇帝魔蜚蠊の視線が迫りくる『死せる戦士団』に向けられた瞬間――
(分身無限遍在)
「「「「「喋ったっ!?!」」」」」
刹那、ゴキブリの姿が多重にブレたかと思うと、『死せる戦士団』を遥かに上回る。数千の皇帝魔蜚蠊が、この大広間に立錐の余地もないほどひしめいたのだった。
「「「「…………」」」」
当然、俺たちのすぐ傍ら――というか四方八方、三密状態で――にも現われ、一気に包囲された形になった……と、理解した瞬間、フローリスも含めて女子たちが一瞬で恐慌に襲われ、結局のところ瀬尾さん同様に白目を剥いて、口から泡と魂を噴いて気絶した。
どうにか四人を両手で抱えながら、
「どーなるんだこれ……」
思わず振り仰いだ俺の目に、天井を這い回り、翅を広げて気ままに飛び回るゴキブリの姿が入った。




