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chapter26 30日目、チームワークは万全だ

「シャアァァァァァーーーッ!!」

 第28層、墳墓エリアの最奥にある体育館ほどもある玄室に、この階層のフロアボスである、大蛇の下半身に女性の上半身(推定Fカップ)を持った魔物『ラミア』の威嚇の声が木霊した。


・NAME:吸精蛇女(ラミア)

・JOB:《穢穴(アビス)》第28層のフロアボス

・Lv45

・HP:2167

・MP:1455

・筋力:1013

・知力:45

・敏捷:511 

・スキル:『吸精』『範囲吸精』『物理防御(中)』『眷属召喚』『魅了』『猛毒』


 ちなみに玄室の後方には29層へ下りるスロープが常時開いていて、あと中央には、いかにもな宝箱が燦然と安置されているが、ユリア曰く『開けようと触ると、どこにいてもラミアが瞬間移動で戻って来る』とのこと。

 フロアボスであるラミア自体は、ここを(ねぐら)にして、定期的に通路を動き回っているらしいので、その目を掻い潜って29層へ下りるのは比較的容易らしいのだが、

「えーっ、せっかくだから宝箱の中身を手に入れようよー。気になるよ」

「へーっ、せったくだから巨乳蛇女(ラミア)を倒しましょう。気に入らないわ」

 というリーフェと瀬尾さんの利害と私怨が一致したことから、ラミアとの一戦になった。


 まあ、ここに来る間に、階層内部にある宝箱は、『ユニット感知』のお陰で取れるだけ取れたが――25層を越えてから宝箱を開ける難易度や床の罠、定番のミミックなどが出てきて面倒になったので、中には取りこぼしがあるが――フロアボスの塒にある宝箱とか、あからさまな優良物件を見逃すのもなんなので、他の皆も賛成をして、全員でのボス戦となったわけなのだが……。


「はああああっ、『シールド・バッシュ』!」

 上半身の女性の部分は普通の人間と変わらないサイズだが、腰から下の大蛇部分が洒落にならない。

 女性の胴体と同等の蛇とか、軽く見積もっても20メートルはあるだろう。

 軽く叩かれただけで自動車でもペシャンコになりそうな上からの一撃を、『不死鳥の盾』とスキルで相殺するユリア。


 ちなみに薄汚れて破損していた白銀の鎧と衣装は、複写したスキル『自動修復(中)』と、シーラの鍛冶スキルのお陰で新品同然になって、『姫将軍』に相応しい華美荘厳さである。


 一瞬動きが止まったところへ、俺の流し切りと瀬尾さんの『魔牛の斧+3』の渾身の一撃が完全に入ったが、どちらも固い鱗に遮られて芯まで届くダメージは与えられていないようだ。

 もっとも、俺の付けた傷がすぐに見えなくなったのに比べて、瀬尾さんの一撃はかなりザックリいって、いまだ傷が抉れたようになっているのは、スキル『対巨乳特化(中)』のお陰だろうか?


 ともあれ傷をつけた部分の鱗が松ぼっくりみたいに開いて、しばらくするとまた閉じたのを確認して、俺は瀬尾さんと相談をする。


「胴体部分はダメだな。鱗が戦車のリアクティブアーマーみたいに、衝撃を分散する構造になっているみたいだ。刃物でどうにか傷をつけられる程度で、鈍器だったらおそらくダメージゼロだろうな」

「じゃあ、どうするの? このまま持久戦で倒れるまで攻撃する? ――っと」


 そこへラミアの口から毒液(酸?)が放たれ、素早く躱した瀬尾さんのいた場所の床がボロボロに崩れる。


「つーか、見るからに上半身が弱点なんだけどな~」

 現在、その上半身は鎌首をもたげた胴体の上にあるため、少なく見積もっても7、8……下手をすれば、床から10メートルは上にあった。


「だったら空中を足場にできる『超・立体機動』で――」

「やめろって、あれって一歩分だけ空気を踏み台にできるだけだろう? 躱されたらロクに身動きのできない空中で反撃を受けるだけになるぞ」

 助走をつけてラミアの上半身目掛けて飛び掛かろうとする瀬尾さんを慌てて止める。

「うむ、短慮はいかんぞ、セオ殿。旦那様の指示に従って、冷静に対応せねば活路は見出せぬと心得よ」


 再び襲ってきた尻尾の横殴りと、同時に放たれた『範囲吸精』(※周囲5メートルの範囲内にいる敵のHPを30%吸収して自分のHPとする)と『猛毒』を、スキル『受け流し』と盾に装備されている『魔術反射(中)』で見事に押さえ込むユリア。


「「『吸精』はともかく『猛毒』って魔術に分類されるのか(のね)」」

「え˝、感心するとこ、そこ!?」


 思わず感嘆の声を上げた俺と瀬尾さんに、振り返ったユリアが不満そうな声を上げる。


 と、離れた場所で支援をしていたフローリスが、

「上半身だね。わかった、遠距離攻撃は任せてよ!」

 素早く魔術を短縮詠唱し『氷柱の砲弾(アイシクル・シェル)』を打ち出し、同時にリーフェが『疾風の弓矢』に矢を三本同時につがえてラミアの頭・首・心臓目掛けて三点バーストを行い、シーラも『紅亀のメイス』を手に、

「皆さん、私の歌を聞いて勇気と力を盛り上げてくださ~い!」

「「「「「やめろ~~~~っ!!!」」」」」

 全員が止めるのも聞かずに、戦意高揚の歌を歌い出した。

 ちなみにこれを聞くとバフとして、ステータスが一時的に20%上がるのだが、その代わり俺たちのHPと精神力がガリガリと削れる諸刃の剣である。


 フローリスとシーラの攻撃を受けて、鬱陶しそうに顔をしかめていたラミアだが、続くシーラの歌は本気で耳障りだったようで、何やら呪文を唱えた――かと思うと、玄室の天井部分から全長5メートルほどはありそうな大蛇がポタポタと、フローリスたちの周りに落ちてきた。


・NAME:吸精蛇女(ラミア)の眷属

・JOB:吸精蛇女(ラミア)の下僕

・Lv29

・HP:741

・MP:238

・筋力:352

・知力:9

・敏捷:116 

・スキル:『吸精』『蛇毒』『石化』


 辟易したラミアが召喚をしたのだろうが、なんとなくシーラの歌に()てられて、天井から落っこちてきたようにも見える。


「「「きゃーーっ、蛇っ!?!」」」

 四方から迫る蛇の群れを前にして怖気づく三人。

「なんでラミアは平気なのに、蛇はビビるんだ?」

「「丸ごと蛇だから」」

 俺の疑問に瀬尾さんとユリアの凸凹(デコボコ)……もとい、凹凸(ボコデコ)コンビが当然という口調で答えた。

 それからお互いに渋い表情になったかと思うと、

「とはいえ、後衛組(あちら)も見捨てるわけにもいかないな」

「だったら、ユリア(あんた)の出番でしょうが!」

 後衛組を心配するユリアの背中に跳び蹴りを食らわせて、一気に後衛組の輪の中に押し飛ばす瀬尾さん。


「うわっ――!?」

 さすがにこれは面食らったのか、咄嗟に盾の底部――スパイク状になった部分――で床に溝を掘りながらブレーキをかけ、どうにか後衛組の直前で止まったユリアは、即座に体の向きを入れ替えて背中で彼女たちを守る体勢になると、

「みんな、私の背中に隠れていろ!」

 盾を前面に押し立てて防御の姿勢になった。


 そこへ大蛇の分際で、毒と石化作用のある唾を吹きかけるラミアの眷属たち。

 それもスキル扱いになるのかすべて反射させるユリア。

 だが眷属は数も多い上に狡猾だった。


 正面からの突破が無理だと悟った何匹かが側面に回り込んで、三方から一斉に唾を吹きかける。

「――スキル『万象の盾(イージス)』!」

 それに対してユリアは、このたび『スキル融合』で『盾マスタリー(大)』+『絶対防御(アイギス)(劣化版)』を合わせて生まれた、ユリアの専用スキルである光り輝く『万象の盾(イージス)』を左右に展開させて、これを防ぎきった。


「――ちっ」

 なぜか残念そうに舌打ちする瀬尾さん。

 同時にラミア本体が俺たち向かって両手の爪をナイフのように尖らせて襲ってきた。

 ついでに下半身をランダムにくねらせて、同時攻撃を仕掛けてくる。


「おっ――とと」

 咄嗟に『瞬動』で躱そうと思ったが、直前にユリアの『万象の盾(イージス)』の一枚が俺の前に現れて、胴体の攻撃を代わって受け止めてくれた。


「って、なんで私の事は無視するのよ!?」

 あちらは放置されたために、空中を足場にして八艘跳びと棒高跳びの要領で、辛うじて攻撃を躱しながら瀬尾さんがユリアに文句を叫ぶ。


「すまんな。いまのところ出せる『万象の盾(イージス)』は三枚が限度なので、優先順位として後衛組と旦那様を守らざるを得ないのだ。それにセオ殿ならこの程度の攻撃を躱せぬことはないだろう――信頼しているのでな、フフフフ」

 フローリスたちと協力しながら、周囲の眷属たちを掃討しつつ、ユリアが当然という口調で言い返した。


「いや~、なかなかチームプレイが板についてきたっすね」

 俺の肩の上にいる『預言者(ウィスパード)』が、冗談とも本気ともつかぬ口調でそう感想を口にする。

「そーか? 俺はこの入り組んだ人間関係でよく前衛組が機能していると、驚異すら覚えるのだが」

 お互いに寝首を掻こうと虎視眈々と狙っている女子同士で、なぜか歯車が合ってるんだよな。


 その場に残った俺に向かって、両手の爪を繰り出すラミア。

 俺はそれを時には受け、時には流し、時には切り飛ばして対応する。


「最前線で不慮の事故に見せかけて亡き者にしたい瀬尾さんと、最前線で思いっきり攻撃を受けたいユリアと、お互いの利害が一致した結果っすねー」

「嫌なWIN=WINだな」


 粗方の爪を失くしたことで、自分の不利を悟ったのだろう、ラミアがこれ見よがしに胸を強調して投げキッスを送ってきた。

「『魅了』の攻撃っす」

「生憎だったな。ちょっと前の乳に渇望していた俺だったら、一発で転んでいたかも知れないが、その程度の胸。いまの俺には効果がないぞっ」


 そう宣言をして、慌ててまた距離を取ろうとしたラミアの胴体伝いに『瞬動』で駆け上がり、驚愕に目を剥くラミアの首を一撃で刎ね飛ばした。

 どんだけHPがあっても、急所を狙われたら致命的なのがゲームと違うところだよな。


「ふう……強敵だった。盾役がいなかったら、俺は負けていただろう」

 ユリアで耐性ができていなかったら、確実に『魅了』にかかっていたことだろう。


「どーいう意味よ!」

「――ふふん」

 ラミアの胴体の断末魔の動きを躱しながら激怒する瀬尾さんと、勝ち誇った表情で腕を組んでその巨大な胸を誇示するユリアを横目に見ながら、俺は床に着地するのだった。

・ドロップ品:『蛇肉』×5、『蛇皮』×3、『蛇の毒牙』×2、『蛇紋石』×1

なお、ここ墳墓エリアでは食料と言えば『蛇肉』くらいしかドロップしないので(ゾンビが『腐った肉』とかをドロップするが、食べると確実に腹を壊す)、ユリアは毎日これを焼いて食べていたとのこと(戦場で慣れているので、煮たり焼いたりするくらいはできる)。

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