chapter22 傍観3分、フローリスの決断
見たところあのクソ王女と戦っているのは、各々剣と槍を持ったLv30のスケルトン・ナイト二体と、ボロボロの僧衣をまとったLv29のスケルトン・ビショップ一体のようだった。
・NAME:スケルトン・ナイト
・JOB:《穢穴》第26層で一番強い魔物。スケルトン・ポーンの上位互換。
・Lv30
・HP:610
・MP:228
・筋力:305
・知力:22
・敏捷:106
・スキル:『自動修復(中)』『生気吸収(中)』『生体探知(中)』『剣術(中級)』『槍術(中級)』
・NAME:スケルトン・ビショップ
・JOB:《穢穴》第26層にいる特殊個体。骨の癖に闇魔法を使う。接近戦に弱いので、大抵、スケルトン・ナイトの金魚のフンをしている。
・Lv29
・HP:328
・MP:603
・筋力:194
・知力:30
・敏捷:74
・スキル:『自動修復(中)』『生気吸収(中)』『生体探知(中)』『呪い』(※相手のプラスの効果を全て打ち消し、一定時間の間HPと攻撃力を下げる)『麻痺』(※相手のステータスを一定時間減衰させる)『闇の癒し』(※味方の損傷を治して、HPを30%回復させる)
「はあああああああっ!」
意外と王女も健闘しているようだが、ナイトに集中するとビショップが離れた間合いから)『呪い』か『麻痺』で嫌らしく攻撃してくる。
それを神聖魔術で『異常回復』しつつ、さらにはナイトの攻撃を盾でさばきながら、カウンターで盾の死角から相手を攻撃するものの、剣がナマクラなのか良くて肋骨の一本を折る程度のダメージしか与えられない。
傷を受けたナイトは素早く下がって、もう一体のナイトが牽制している間に、ビショップに『闇の癒し』をかけてもらって、再び戦線に復帰する……という感じで、なんとなく戦いが千日手というか消耗戦の様相を呈してきているようだ。
で、まあ消耗戦になると当然のように数で劣る王女が不利なわけで、遠からず力尽きるとは思うけれど、盾の使い方がべらぼうに上手いので、いまのところ互角に渡り合えている……といったところだ。
「なんで、あの王女が《穢穴》にいるのかはわかんねーけど、放置しておけばそのうちくたばるな」
状況は分からんが自業自得だろう。
「ち、違うよ、ナオキっ。あの方は姫将軍ユリア第三王女! ナオキたちを異世界から召喚して、ボクらを《穢穴》に堕とした第二王女アルセリア姫の腹違いの妹姫だよ!」
と、フローリスが慌てた様子で俺の袖を引っ張って、目前の王女があのクソではなくて、アレの妹だと捲し立てた。
「……妹ォ?」
「そうだよ。ボクみたいな下っ端の宮廷魔術師見習いじゃ、到底御目通りはかなわなかったけど、何回か王宮で遠目に見たことがあるし、凱旋パレードとかでも見たことがあるよ。あの姉姫によく似た容姿と白銀の鎧は間違いなくユリア様だよ!」
「ああ、本当みたいっすね。名前が『ヘンリエッテ・ユリア・モエニア』で、職業が『元モエニア王国第三王女・姫将軍』になってるっす」
俺の肩の上にいる『預言者』が、目の上に手を当てて相手の詳細を観測して、フローリスの説明に太鼓判を捺した。
「へーっ、双子並みに似た姉妹だなー。つーか、なんでその第三王女が『元』がついて、《穢穴》なんぞにいるんだ?」
当然の俺の疑問に、フローリスが「噂だけど」と前置きをして答えてくれた。
「ナオキたちを異世界から召喚する術は禁呪なんだ。それで、ユリア様はやめるように直談判をして、その結果、『反逆者』の汚名を着せられて、部下たちと《穢穴》送りになったらしいんだ。けど、もう2カ月も前だから、とっくにお隠れになられているかと思ってた」
「ほーっ、さすがはあの姉の妹、他に生きた人間はいないみたいだから、部下を犠牲にしてひとりで助かったか。――まあ、それも風前の灯火みたいだけど」
「はあ、はあ……」
ナイトたちの連携を崩せずに、肩で息をしているユリア姫とやらを傍観しながら俺がそう言うと、
「助けなきゃ! ユリア様はいつも民衆のために戦ってくれた英雄だし、今回の召喚にだってボクたちが犠牲になるのが忍びないと、最後まで抗議してくださった立派な方だよ。ボクたちが手を貸せば3対3だ。助けてあげようよ、ナオキ」
必死に懇願するフローリスを前に、
「え? なんで???」
何の義理があってあのクソ第二王女の妹を助けないといけないんだ?
「え? いや、あの、ボクの話を聞いていたよね、ナオキ」
「聞いてたけど。俺そもそもここの国民でもないし、反対したっていっても無駄足に終わって、結局は被害に遭ったわけだから、恩義はないし」
「いや、でも、精一杯頑張って反対されたんだよ!」
「結果が出せなきゃ、ただの空回りだなぁ。つーか、考えてもみろフローリス。例えばお前が普通に歩いているところを、邪魔だからといって馬車に轢かれたとする」
自動車と言いたいところだが、この世界にはないだろうからわかりやすいたとえ話に置き換える。
「う、うん……?」
「幸い命は助かったけれど、生涯後遺症が残る怪我を負ってしまった。相手の御者は官憲に捕まって、監獄行きになり、相応の罰金を払うように言い渡された」
「うん」
「ところが加害者は捕まっても悪びれることなく、『あいつがトロトロ歩いていたのが悪い』と開き直っていると、人づてに聞かせられた」
「それは頭にくるね」
「そこへ加害者の家族がやってきて、この度は申し訳ないことをしましたと謝罪したとする。受け入れるか?」
「う~ん、まあ、家族は家族だからね。一応は受け入れると思うよ」
フローリスはいい子だな~。俺だったら「ふざけるな。てめーらの安い頭なんぞ、幾ら下げられても嬉しくもなんともねえ!」と、追い返すと思うけど。
「で、謝ったところで、『大変申し訳ないのだが、ウチの家計も大変なので、罰金を10分の1に減額していただけませんか』と言われたら、受け入れるか?」
「いやいや。そのお金がないと暮らしていけない怪我をしたんだよね? それとこれとは別だよ!」
さすがにフローリスもそこまで底抜けのお人好しではなかったか。
密かに安堵しながら、俺は続ける。
「つまりそういうことだ。加害者である第二王女が、ま~~~ったく反省してないのに、なんで俺がその妹の苦境を斟酌して助けなきゃならんのだ? という話になるだろう」
「え? え? え~~? そう……かなぁ? なんか微妙に違うような気がするんだけど。というかナオキの考え方って割とクズなような……」
何度も首をひねるフローリスだが、明確な反論の言葉は出てこないようで、「う~~っ」と可愛らしく唸っていたが、
「だ、だけど、目の前で困っている人がいたら助けないと。それに――そうだ! ほら、ナオキの大好きな巨乳の女の子が犠牲になってもいいの!?」
なにやら切り口を変えて説得してきた。
だが――。
「巨乳? どこにいるんだ??」
少なくとも俺の目の届く範囲にはいないが?
「へ? いや、あのユリア様だよ。あの胸を見てもなんとも思わないの?」
「あの胸……っつーと、あの異様に膨らんだ胸か? なんだろうな、アレ。なんかの病気か、呪いの一種かねぇ」
あんなんじゃ動きづらいし邪魔だろう。
いまいちフローリスが何を言いたいのかわからんなぁ~。
そんな俺の様子を凝視していたフローリスが、焦った様子で俺の肩にいる『預言者』に視線を移した。
「ど、どういうこと?! ナオキが変だよ!」
変なのはフローリスの方だと思うんだが。
「あーーー」肩の上の『預言者』が、ポリポリとこめかみのあたりを掻きながら、「現実と認識の乖離っすね。マスターの中では『おっぱい好き』という概念は残っているんすけど、ここ一カ月近く、周囲を貧乳に囲まれていたせいで、女の子の胸の基準値がおかしくなっていているっす。そこへもってきて、いきなり人知を超えた巨乳を目の当たりにしたせいで、アレがオッパイだと認識できなくなっているっすよ」
その説明になぜだか頭を抱えるフローリス。
「うわ~……セオさんたちがいなくてよかったよ」
それからどうにか気を取り直したらしく、続けて『預言者』も尋ねる。
「治す方法はないの?!」
「普通に社会復帰すれば、いまの環境が変だと気付くとは思うっすけど、いますぐとなると……なにかしら、オッパイに関する衝撃を与えてショック療法で治すとかしかないっすね」
「衝撃って言われても……」
唇を噛んでしばし煩悶していたフローリスだが、
「――くっ、ここまでか……」
白銀の鎧に不釣り合いな安っぽいユリア姫の盾に大きな亀裂が入ったのと、彼女の表情に諦観が混じったのを目の当たりにして、意を決した様子で、
「『炎の種子よ、踊れ』!」
『呪文短縮』(※無詠唱の下位互換)で生み出したファイアボールを、いましもユリア姫目掛けて槍を振ろうとしてしていたスケルトン・ナイトに放った。
「GYAAAAAAAAAAAAA!」
予想外の攻撃に不快な悲鳴を上げて下がる槍スケルトン・ナイト。
剣スケルトン・ナイトも警戒した様子で、数歩下がってユリア姫、フローリス、どちらにも対応できるように剣を構え直す。
一方、危機一髪を助けられたクソ姫の妹ユリアは安堵よりも、明かに呆然とした様子で、突然現れた魔法少女(♂)と、その背後で所在なげに佇む制服姿の俺をまじまじと見つめるのだった。
「人!? こんなところに?! ――それもまだ若い男女だと? いかん! 危ないぞ、すぐに逃げなさい!」
まあ、初見でフローリスの性別を間違わずに済ませられるわけないわな。
「えーと、いまはボクの性別は置いておいて、ユリア様、ボクは生贄にされた元宮廷魔術師(見習い)で、ここにいるナオキは異世界から召喚され、アルセリア姫様の不興を買って《穢穴》に堕とされた元勇者です!」
それとなく下駄を履いた自己紹介をするフローリス。
だが、それを聞いたユリア姫の全身に衝撃が走った。
大きく目を見開い後、忸怩たる表情で奥歯を噛み締め、
「くっ……やはり、禁断の外道な術を行ったのか!」
そう絞り出すように呻く。
「こっちに来てください。お助けします。――ですが、その代わりお願いがあります!」
「願い? 身分をはく奪された今の私にできることなど何もないぞ」
「いいえ、ユリア様にしかできません」
キッパリ言い切るフローリスの言葉に興味を引かれた様子で、スケルトン・ナイトの動きを牽制しながら、速足でユリア姫がこっちに向かってやってきた。
……しかし、見れば見るほどよく似た姉妹だなぁ。
フローリスはこのままなし崩しで俺まで巻き込んで戦闘をするつもりだろうけど、俺はフローリスしか守るつもりはないぞ。
「どうせ拾った命だ。私にできることならなんでもやってやろう。言ってみるがいい」
「はい。では遠慮なく言わせていただきます。――お願いします、ここにいるナオキに、ユリア様の胸を揉ませてあげてください!!」
その途端、通路の途中でユリア姫が足を滑らせて、つっ転びながら俺たちのところへ、土埃とともにヘッドスライディングでやってきた。




