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chapter18 宝箱の中身、30分間鑑定開始

 河原に戻った俺たちを出迎えてくれたリーフェとシーラ、フローリスはすっかり全身が乾いたのか、薄汚れた麻の貫頭衣(チュニック)から、第一の宝箱から出た木綿のシャツと革製の靴に着替えていた。

 まあ基本的にはシャツの方は、いままでの貫頭衣とさほど構造は変わらず、腰の辺りを紐で縛ったチュニックワンピースには違いがないのだが、袖がある分、ちょっとした仕草でサクランボがチラリ……事例が減ったことが、俺としては血涙が流れるほど残念至極であった。


「ふふ~ん、見えなくなって残念? けどナオキが見たいなら、言ってくれればコッソリ見せてあげてもいいよ~」

 そんな俺の心境を忖度してくれたのか、リーフェが胸元を縛る紐を緩めて、前屈みになって悪戯っぽく笑う。

「うふふふ、ナオキ。いつもコッソリ見てたもんね~」


 うっ! 気が付いていたのか!? 女は男の視線に敏感だっていう噂は本当だったらしい。


「あ、あたしも胸元に視線を感じていました。物好きですね」

 シーラもちょいと胸をはだけて、自分の微かに膨らんだ胸を見下ろして首を傾げた。


「なにを言う! 胸の膨らみに大小、貴賤はない。等しく女の子の胸は尊いものだ!」

「ふ、ふ~~ん……」

 熱弁する俺を微妙に面映ゆい表情で見据えて、鼻を鳴らす瀬尾さん。

 

 ……いやぁ、でも最低限の膨らみがない胸は評価のしようがないなぁ。


「――どわっ!?!」

 思った瞬間、手斧がウルト○セブンの宇宙ブーメランみたいに回転しながら真正面から飛んできたのを、咄嗟に両手で拝み取りのように掴んで止めた。

「いきなり何しやがる!?」

「いや、なんか胸元に憐れむような視線を感じて腹立ったのと、ロクでもないこと考えてる気がしたから」


 エスパーかこの女は?!


「まあまあ、とりあえず最後の宝箱に何が入っているのか、開けて見てみようよ」

 フローリスの執り成しで、本来の目的――本日のメインイベントであるひと際豪華な宝箱を開封することになった。


(ガワ)も一番大きいけど、重さもかなりあるぞ、これ」

 軽く叩いてゴツゴツした鈍い音に俺は思わず唸り声をあげる。

 レベルアップして筋力が上がってなければ、これを地上で持ち運びするのは難しかったかも知れない。


「期待できるわね~」

 ワクワクしながら見守るリーフェを筆頭にした女性陣(フローリスも含む)に、念のために離れた場所で見守るように指示をした。


「見たところ罠はなさそうだけど、俺の『罠探知(中級)』よりも高度な罠がないとも限らないからなぁ」

 注意するには越したことはないだろう。


「……変なところで気が利くというか、フェミニストというか」

「あははは、いかにもナオキらしいね~」

 ブツブツ文句を言いながらも、満更でもない顔の瀬尾さんを筆頭に、二抱えほどもある岩の後ろに退避する女性陣。

(――うむ。こうして地道に女子の好感度を上げる作戦は上手くいっているようだな)

 マメに気の利く男をアピールしたり、ちょっとした優しさを垣間見せることで、地道に好感度を上げて機が熟したら落とす計画である。

 進捗状況に密かに満足しながら、俺は改めて宝箱と向き直った。


 全員が岩の後ろに隠れたのを確認して、俺は念のために鉄剣で宝箱を一刺ししてみた。

 特に変化はなし。

 宝箱に擬態したミミックという可能性を考えたのだが、そこまで悪辣な罠はなかったようだ。

 続いて留め具を外して、蓋と本体との間に剣の先端を入れて、梃子の原理で一気に開けると同時に、その場に伏せた。

 変化なし。


 数秒待っても何も起きないのを確認して、

「大丈夫みたいね」

 瀬尾さんの『予知(最大五分前)』にも引っかからないようなので、全員に集まってもらった。


 ということで、まず俺が真っ先に目についた、大きめの皮袋を箱の中から取り出す。

「お、重い!」

 なんか箱の重さの大半がコレのせいじゃないかと思える重さだった。

 妙にジャラジャラするそれを地面に下ろして中身を開けて見れば――。

「金貨」

「「「なーんだ」」」

 どっかのオッサンの横顔がレリーフされた金貨を一枚取り出して皆に見せれば、瀬尾さん、リーフェ、シーラが拍子抜けした顔で落胆した。


「ちょ、ちょっと待って! これって300年前のカルステン帝国の金貨だよ! 一枚あれば四人家族が五年は暮らせるほどの価値がある金貨が少なくとも数百枚とか、『なーんだ』じゃないよ!!」

 ひとりフローリスだけが興奮しているけど、

「《穢穴(ここ)》にいて使う当てがないしなー」

 俺が木で鼻を括ったような返事をすれば、瀬尾さんも、

「そもそも金貨って、日本じゃ通常貨幣としては何百年も前に使わなくなったから、いまいち有難味がないし」

「所詮は金貨なんて、人が勝手に造って勝手に値打ちを決めたものだしね~」

 森の民であるエルフらしい物言いでリーフェが肩をすくめ、

「う~ん、この重さと感触だと金の含有量は50%以上60%未満といったところですね。残りは鉛と真鍮でしょうか? 鋳つぶしても使い道のない金属ばかりですね。そもそも金って柔らか過ぎて、錆びないくらいしか取り柄がない金属ですからね~」

 俺から金貨を受け取ったシーラがためつすがめつ確認をして、ドワーフらしい質実剛健の意見で締めた。


「……あ、そう」

 ひとりでフィーバーしているのがバカらしくなったのか、白けた表情になったフローリスが宝箱の中身のチェックの続きを身振りで促す。


 そんなわけで、各自がめいめい目についた物品を取り出して、俺が鑑定した結果――。


・銘:月影丸(カタナ)

・属性:光

・物理攻撃力:17

・物理防御力:16

・魔法攻撃力:16

・魔法防御力:11

・スキル:『退魔(中)』


・銘:幸運の短剣

・属性:無

・物理攻撃力:13

・物理防御力:9

・魔法攻撃力:0

・魔法防御力:0

・スキル:『一撃死(確率50分の1)』


・銘:疾風の弓矢

・属性:風

・物理攻撃力:16

・物理防御力:15

・魔法攻撃力:17

・魔法防御力:15

・スキル:『風矢(魔力15を消費して、風を凝縮した矢を放てる)』・『無限矢筒(一時間に一本矢を自動生成する。25本が上限)』


・銘:紅亀のメイス

・属性:土

・物理攻撃力:27

・物理防御力:23

・魔法攻撃力:16

・魔法防御力:17

・スキル:『持ち手のHPを毎秒0.2回復させる』


・銘:幻惑の杖

・属性:無

・物理攻撃力:9

・物理防御力:14

・魔法攻撃力:26

・魔法防御力:27

・スキル:『6時間に1度だけ、自分を含む所定の相手をランダムテレポートできる』


・銘:不死鳥の盾

・属性:火

・物理攻撃力:19

・物理防御力:37

・魔法攻撃力:17

・魔法防御力:36

・スキル:『自動修復(中)』『ファイアーガード』


「なかなかいいものですよ~、これは。下級貴族の家宝クラスですね」

 というのがシーラの講評だった。


「まあ、弓矢は当然リーフェで、メイスはシーラ、杖はフローリスで鉄板だとして……シーラ、盾も使うかー?」

「ん~。あたしだとサイズ的に取り回しがし難いのでいいです」


 ちなみに盾は形としては逆五角形に近いカイトシールドなのだが、下手すれば女性の体がすっぽり入るタワーシールド並みに大きい。

 体の小さなシーラでは、普段から引き摺って歩くことになるだろう。

 ぶっちゃけ、今回手に入った武器の中ではぶっちぎりにステータスもスキルもいいだけに勿体ないが、使える者がいないのでは仕方がない。しばしお蔵入りだな。


「んじゃ、瀬尾さんはどうーする?」

「いらないわ。『魔牛の斧』のほうが高性能だし」

 俺の問い掛けにあっさりと自分の分を放棄する瀬尾さん。


「そうなると、カタナと短剣と盾が残るわけだけど……」

 う~~む。

「なによ、カタナ欲しがってたじゃない?」

「う~ん、ぶっちゃけ攻撃力がさほどじゃないし、何より空いているスキルスロットが四個しかないんだよねえ、コレ。いま使っている剣のスキルを強化して使ったほうがいいかもなぁ」

 せめて倍もスキルが付けられるなら、カタナ一択なんだけどな~。


【告・『変質者Ⅱ』の『スキル融合』で、スキルを掛け合わせ上位スキルにした後、『月影丸』にスキルを付けてはいかがでしょうか?】


賢者(ナビゲーター)』の助言に、そういえば『変質者Ⅱ』のスキル実験をしていないことを思いだした。


(なるほど、掛け合わせることでスキルが進化するんだな?)

 期待を込めての問い掛けに、

【解・場合によってはゴミスキルが生まれる可能性があります。融合で何ができるかはイチかバチかの賭けになります。】

 知らん、と言わんばかりの『賢者(ナビゲーター)』の他人事のような返答に、

「待てこらっ、結果がどうなるのかわからんのか!?」

 この場に『賢者(ナビゲーター)』がいたら胸倉を掴んで振り回したい気持ちで怒鳴りつける。


【解・マスターの神スキル『変質者』は過去に例のないスキルのため、どのような結果になるのか予測不能です。】


 自分が悪いんじゃない、俺が悪いと言わんばかりの『賢者(ナビゲーター)』の弁明に、俺は思わずその場で地面を何度も踏んで、怒りをやり過ごした。


「なんで地団太踏んでるわけ?」

「あいつのやることをいちいち気にしてたら負けよ」

 リーフェと瀬尾さんが、そんな俺を横目に見ながら、ため息とともに聞こえよがしの悪態をつく。

 なんということだ。せっかく上がった好感度が、一気に下落した雰囲気を感じて、俺はヤケクソでますます地面を踏みまくった。

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