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chapter17 ほんの刹那の息継ぎ

 瀬尾さんと示し合わせて洞窟の上まで水面を泳いで行って、滝の水飛沫を浴びながら潜る準備を始める。

 収納バッグよし。空気袋3個よし。視界は『遠見』で良好。おっ魚がいるな。針も手に入ったことだし、一本貰って釣り針に加工して釣りをするのも良さそうだ。いや、異世界なんだし誰にも文句は言われないだろうから、フローリスにファイアーボールを水中に叩き込んでもらって、爆破漁法で獲るという手も……。


 などと思いながら準備万端整ったと確信して、俺は瀬尾さんに手を振った。

「んじゃ行ってくる。戻ってきた時のフォローよろしく~」

「わかったけど、さすがに無理だと思ったら諦めてね?」

 毎回、潜水の限界に挑戦している俺の綱渡りの状況を間近に眺めているせいか、ここぞというところでしおらしい態度で、女神モードに戻った瀬尾さんが安全第一を念を押す。


「わかった。けどまあ俺と瀬尾さんはともかく、他の三人にマトモな武器がないと、この先詰むのは確実だからなぁ」


 攻撃役である俺、遊撃役である瀬尾さんの前衛組に、後衛組で狩人のリーフェと神官のシーラ、魔術師のフローリスと、一応の体裁は整っているパーティだけど、いまのところ装備不足で後衛が機能不全状態だからな~。あと、欲を言えば盾役がひとりいると、パーティの安定度が激変するのだが、それができる人材がいないのが難点といえば難点か。第一女の子を盾にするわけにもいかないし……。

 ともかく装備に関して早めになんとかできるなら、多少のリスクは承知の上で、わざわざ四階層も上がってショボい装備でチマチマレベル上げするより、この階層で装備を整えてズンドコレベルアップを図った方が効率的だろう。


 願わくばよい装備があることを期待して、俺は真っ直ぐに水中洞窟目指して潜行した。

 さすがに何度も潜れば慣れてくる。

 これまでにないタイムで水中洞窟に着いた俺は水流に乗って一気に最深部まで進んだ。


(――くっ、キツイな)

 奥のところで水流が乱れて入って来る水と、天井部分にあったいくつもの穴から、どこかへ逃げる水のせめぎ合いで、洗濯機の中に放り込まれたみたいなありさまになっている。

 ここで一本目の空気袋で酸素を取り入れた俺は、壁にあったレバーを倒して、ひと際豪奢な『ザ・宝箱』という趣きの宝箱のフックを外した。


(これで出口まで運べば――って、水中なのにやたら重いじゃねーか!)


 両手で持つしかない、やたら重くてかさばる宝箱を、両手で抱えて半分引き摺るように、水流に逆らって出口へと向かう。

 途中で二本目の空気袋を空にして、どうにかこうにか出口へ近づいたところで、三本目――最後の空気袋を取り出した瞬間、もともと穴が開いていたのか、無理やり収納バッグに押し込んだ拍子に傷でもついていたのか、空気袋こと水筒が一瞬で空気が抜けて萎んだ。


(ヤバい!!)

 急いで水面に戻らないと窒息して死ぬ! だが、この重い宝箱を抱えたまま戻るのは無理!

 だが、ここで手を放したら宝箱は水流に流されて洞窟の奥に押し流され、下手をすればバラバラに壊れて中身がこぼれて、天井の穴からどこへとも知れない場所に流れて行ってしまうだろう。


(くそっ、根性で水面まで持っていくっきゃない! もしかすると途中で『潜行』スキルとか取得するかも知れないし)


【告・『潜行』スキルを取得した場合でも、肺の中の酸素が増えるわけではないので、マスターが無事に宝箱を抱えて生還できる確率は4.23%です。】


 こんな時でも冷静な『賢者(ナビゲーター)』の分析を聞きながら、宝箱を肩で担いで必死こいて水面を目指す俺。

 だが、程なくして最後の空気が口から泡となって漏れだした。


(やっぱ、奇跡は起きなかったか……)

 諦観とともに意識が消えかけたその時、水中を一直線にこちらちに向かってくる瀬尾さんの姿が見えた気がした。

(起伏がないから動きが滑らかだなぁ……)

 今際の際に少々不謹慎なことを考えた俺の唇に、不意に柔らかいものが押し当てられた。

 続いて、肺が待ち望んでいた空気が吹き込まれる。


(――はぁ……!?!)

 瀬尾さんが水中でマウスツーマウスで空気を分けてくれていると気が付いたのは、その姿勢のまま数秒が経過したところであった。


(問・これは夢か?)

【解・現実です。】

(問・ここにいる瀬尾さんは本物か?)

【解・100%、現実の瀬尾桃華です。】

(問・俺の意識は正常か?)

【解・正常の定義にもよりますが、通常の精神状態の誤差の範囲内です。】

(問・この行為は一般的にキスと呼ばれるものではないのか?)

【解・……肯定します。】


 唇が離れる。心なしか頬を赤らめた瀬尾さんが両手を差し出したので、俺は反射的に宝箱を差し出して、重さもあってふたりで支える形で、足で水を掻いて水面へと向かうのだった。


 で、どうにかふたり揃って水面に顔を出した瞬間、河原にいた三人が、わあああっ! と歓声を上げるのをどこか夢心地に聞きながら、そっぽを向いている瀬尾さんにとりあえず、

「あー、助かったよ。マジで死ぬかと思ったから、ホント瀬尾さんの言うことを聞いて無理しなきゃよかったわ」

「…………」

 なおも無言で明後日の方を向いている瀬尾さんに、俺は決まり悪いんだろうなと思いつつ、いつものヘラヘラした調子で、

「でも瀬尾さんってだいた~ん。ビックリしたわ。まあ、単なる救命活動というか、緊急事態での処置だから、キスには入らないよな。ノーカンだなノーカン!」

 ははははははっ、と笑い飛ばした瞬間、水中とは思えない勢いで瀬尾さんに足を蹴り飛ばされた。

 そのまま宝箱を持って岸へ上がるまで、それはもう何度も何度も……。


 お陰で危うく次の『賢者(ナビゲーター)』の通知を聞き流すところだった。


【告・『打撃耐性(小)』を取得しました。】

【告・『変質者』が『変質者Ⅱ』へランクアップしました。これにより『スキル保存(上限なし)』と『スキル贋作(50%の性能で再現)』『スキル融合』が新たに追加されました。】

【告・瀬尾桃華がスキル『ツンデレ』(好意を抱いた相手の危機を察知できる。好意を抱いた相手を本気で攻撃してもギリギリ死なない状態で寸止めできる)を取得しました。】

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