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chapter16 潜水活動3分半に挑戦!

(死ぬ死ぬ~~っ!!)

 必死こいて水を掻いて、遮二無二(しゃにむ)に水面を目指す。

 最後の気泡が口からこぼれて、あわや土左衛門(どざえもん)かと思われた刹那、一気に水面に躍り出た俺は、思いっきりアルカリイオンたっぷりの空気を吸いまくった。


「まるで池の鯉ね」

 遅れて俺の近くの水面に顔を出した瀬尾さんが、手ぶらでパクパクと深呼吸するだけの俺を眺めて、不満そうな顔でコメントする。

 そういう瀬尾さんの格好も、パンツ一丁の俺と同じで動きやすいように、いま水の下はスポーツブラに縞パンだけのはずだが、空気を求めて喘いでる現在、さすがに悠長に観察するだけの余裕はなかった。


「げほぼほ……無理ゲーだぞ、あれって! 二つ目の宝箱まで、大した距離じゃないと思っていたけど、洞窟内へ向かっての水流が、ほとんど流れるプール上級者用だ」

 一個目はすぐに出口のところのあったので、洞窟内の水流はさほど気にならなかったけれど、実際に入ってみたら流れの速さが洒落にならん。

「荷物抱えて戻ろうとしたら最低限出口までは一分はかかる。つまり合計3分半はかかる計算で、確実に途中で溺死する!」


【告・現状ミッションをこなせる確率は59.78%です。】


 と、『賢者(ナビゲーター)』さんが意外と頑張ればなんとかなりそうな数字を上げて鼓舞してくれたような気がした。


「あー、じゃあ、私が洞窟の出口まで潜るから、上北君が持ってきた宝箱を渡してくれれば無事に回収できるんじゃないの?」

「俺が死ぬわ!」

 瀬尾さんの非情な提案を真っ向から否定すると、

【告・それを行わず、マスターの生存を条件にミッションをこなせる確率は0.26%です。】

賢者(ナビゲーター)』っ、お前まで俺の命を勘定に入れてなかったのか!?!


 とりあえず岸辺で筵バスタオル一丁でヤキモキしているリーフェたちの元に戻って、相談することにした。

 特にフローリスは『水属性魔術(中級)』があるので、もしかすると水中で酸素を供給する魔術とか知ってるかも知れないしね。


 そんなわけで真っ先にフローリスに尋ねたのだが、

「水中で呼吸する魔術ですか。う~~ん、ボクの知る限りないと思います。『水上歩行』とかの魔術は割と周知されてま(メジャーで)すけど、そもそも水の中に入るという発想がないので……伝説の魔法使い(ウィザード)モルセ師は、最上級魔術で海峡を真っ二つに割ったとかいう逸話もありますけど、ボクには無理です。ごめんなさい」

 悄然と項垂れるフローリスを慌てて皆で慰める。


「いやいや、普通水の中に入るとか考えないから」

「そもそも水の中で呼吸ができないって、空気が必要だったからなんですね~」

 リーフェに続くシーラの言葉で、俺はふと閃いた。


「あ、そうか。空気の補充ができればいいのか」

「って言っても酸素ボンベなんてないわよ?」

 瀬尾さんの当然の指摘に、俺は瀬尾さんに渡していまは貴重品と合わせて見える場所に置いてある『牛革の収納バッグ』を指さした。

「あの中に水筒が幾つかあっただろう。あれって基本的に動物の胃袋だか睾丸だかをなめして作った皮袋だろう? 水を抜いて空っぽにして空気を入れて膨らませれば、即席の酸素ボンベになるんじゃないのか?」


 ああ、と合点がいった顔をしてから、微妙に気が進まない顔をする瀬尾さん。

「つまり、空気を詰めた水筒をさらに詰めた『牛革の収納バッグ』を持って水に潜るわけよね?」

「まあそうだな」

「皮が水で縮まないかしら……?」


 お前は俺の命よりも皮の鞄のほうが大事なのか!?

 と、口に出して問い詰めたいけど、あっさりと「うん」と言われそうなので、俺の硝子のように繊細なハートを考慮して口に出すのは抑えた。


 で、どうにか了承をもらって手荷物にあった水筒三個をからにして、思いっきり風船みたいに膨らませて収納バッグにしまい込む。

 出入り口のとこでやや引っかかったけれど、所詮は空気の塊。押したり引っ込めたりしてどうにか通すことに成功した。

 入れる時はともかく、出すときは手を突っ込めば物品のウィンドウが開いて、クリックすれば自動で出てくるので問題ない。


「ということで、再度、チャレンジ!」

 準備を整えた俺が収納バックを紐で袈裟懸けにして、瀬尾さんとともに滝つぼへと向かう。


「んじゃ、試してみるから浮上してきたら頼む」

「りょーかーい」

 息を整え、1、2、3で潜水する俺。

 ちらりと見えた瀬尾さんの下着姿を目に焼き付けながら水中洞窟へと向かう。


 洞窟に入って、一個目の宝箱のあった場所を過ぎて、二個目の宝箱のところまでたどり着く。ここまでは水流に乗ればすぐなので手っ取り早いのだが、ここから戻る時が地獄だ。

 とりあえずレバーを倒してロックを外したところで、収納バックから取り出した水筒改め空気袋の空気を吸い込む。

 息が整えられたところで、箱の脇に彫刻が掘られてそれなりに値打ちモノに見える二個目の宝箱のロックが外れているのを確認して、抱えて水流に逆らいながら……泳ぐというより洞窟の底を手足でしがみついて歩く感じで、どうにか洞窟の出口のところまで戻ったところで、息苦しくなってきたので二個目の空気袋を取り出して、息を整えた。


 そのまま空っぽになった水筒を収納バッグに戻して、小脇に宝箱を抱えて水面目掛けて一気呵成に浮上する。

 と、途中で人魚のようにスマートな泳ぎで瀬尾さんが迎えに来たので、当初の予定通り宝箱を渡して、残った酸素を消費し尽くして俺は水面へと全力で泳ぎ出した。


「獲ったわよーっ!」

 先に水面に顔を出した瀬尾さんが、手にした宝箱を岸辺にいる三人に誇らしげに見せて、歓声が上がっているのを脇で見ながら、俺は微妙に釈然としない思いでゼイゼイと荒い息を何度も繰り返すのだった。


 さて、二個目の宝箱の中身だが――。


「やった! 木綿のシャツが10枚と下着が10枚ですね!」

 シーラが男女どちらでも着られる無地のシャツを嬉しそうに取り出した。

「下着ってやっぱり、この紐パンかー」

 微妙な口調で、すでに見慣れた感のあるパンツを手にげんなりした表情を浮かべる瀬尾さん。


 上の下着はさすがにないんだなぁ、と思ったがこの面子の誰もあえてその話題には触れようとしなかった。まあ、誰が口にしても自爆になるからなあ。


「ワタシとしては革靴が三個あったのが嬉しいわね」

 ニコニコしながらフリーサイズらしい。紐で縛ってサイズを調整するタイプの革靴を取り出して、早速自分の足に合わせようとするリーフェ。

「ああ、俺と瀬尾さんは元のスニーカーがあるからそれは三人で使ってくれ。ところで、この三角形の置物みたいのはなんだ?」

 片手で持てるほどの半透明の鉱物とも何かの装置ともとれる、謎の物体が四個ほど入っているのを見て、俺はそのうち一個を取り出して誰にともなく尋ねた。

「ああ、それは『魔物避け』だね。寝ている間とか、魔物にこちらの音とか気配とか匂いとか悟らせなくなる魔具だから、外で夜明かしする場合には必需品なんだよ!」

 よかった、これで今晩から安全地帯以外でも安心して眠れる、と安堵のため息をつくフローリス。


 他にも大型の毛布が3枚に魔具らしきランタン。下級ポーションが5個入っていた。


「最初の箱に入っていた物品と合わせて、最低限、衣食住が賄われた感じね」

 瀬尾さんの言葉に、

「住?」

 と思わず問い返すと。

「最初の箱に入っていた、ロープがあったでしょ。多分、あれで葉っぱとかでテントを作って過ごせって意味じゃないかしら。そういうのはワタシ得意だし」

 リーフェがまず間違いないという口調で断言した。


「ただ生きるだけの最低限の装備は与えられた。けど、ここは《穢穴(アビス)》の中、徒手空拳で生きられるものじゃない。となると、最後に残った宝箱の中は――」

「武器でしょうね」


 俺の台詞を引き受けて、瀬尾さんが滝つぼの方を見て推測を口にした。


「どうするの?」

 チャレンジするのか諦めるのか。問われた俺は迷いなく、

「空気袋は2個しか使わなかった。ギリ余裕はあると思う。なら、試すっきゃない!」

 幸い、まだ昼に食った焼肉パワーは残っている。体力もちょっと休めば回復するだろう。


 再び準備体操を始めた俺を、心配そうに俺を見詰める瀬尾さんを含めた四人。

 俺はあえて余裕ありげに親指を立てて笑いかけた。

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