chapter14 水中探索二分半
◇からは三人称視点になります。
水辺で妖精が水飛沫と戯れていた。
「眼福眼福。ありがたやありがたや」
水に浸かりながら両手を合わせて、自然と妖精さんに向かって感謝の祈りを捧げる俺がいた。
「な、なんでボクを拝むの、ナオキ」
普段の三つ編みを下ろしてストレートの髪で全裸になったフローリスが、たじろいだ様子で尋ねて寄こす。
贅肉の一片もない細い肢体に雪のような真っ白な肌、片手で折れそうなほど細い首に手首足首、そして腰回り。それでいて意外なほどむっちりと肉感的なお尻。鎖骨から胸にかけてのラインはまさに芸術といっても過言ではなかった。
胸は当然のようにないのだが、桜色のポッチが美味しそうに俺を誘う。
股間に目をやれば当然のように未成熟のバナナと椰子の実がふたつあるのだが、こちらも青い果実を剥いて欲しいと扇情的に訴えかけていた。
「可憐だ。そして、美しい……」
嘘偽りのない俺の感想に、
「あ、ありがとう……?」
微妙な疑問形で答えるフローリス。
あああっ、もう辛抱たまらん!
「でも、ボクはナオキみたいに鍛えられている体に憧れるけどね」
言われて俺も水から立ち上がってボディビルダーのようなポーズを取った。
機械的に作られた筋肉の塊ではない、普段のトレーニングで鍛えられた体はムキムキではないけれど、しっかりと体脂肪率7%以下を維持して、腹筋も割れている。
「わあっ、凄い! ちょっと触ってみてもいいかな?」
「もちろん」
許可すると、フローリスがペタペタと細くて小さく柔らかな手で、俺の胸やら二の腕やら腹やらを触る。
「すごーい、かたーい。なんかぴくぴくして格好いいね」
間近で頬を興奮で桜色に染めて、甘い吐息を漏らすフローリスを前に、
「フローリス~~~っ!!」
「わ――きゃっ!?」
発作的に抱きしめて、俺はそのまま浅瀬に小さくて華奢な体を押し倒していた。
「ちょ、ちょっと待って、ナオキ! ボ、ボク男の子だよ?!」
「当然だ。こんな可愛い子が女の子なわけがない!」
「え!? その理屈は変なんじゃ――きゃううううううううううううっ!」
異世界の真理はどうやらこの世界では浸透していないらしい。ともかくも、意外と抵抗がないのを『OKサイン』だと受け取った俺は、そのままフローリスの両足を割ってひょいと持ち上げ、すでに臨戦態勢だった俺の『完全体』の位置を調整して、素早く合体体勢になった。
潤んだ瞳で俺を見上げるフローリスには抵抗の意思はない。
準備完了――。
「お父さん、お母さん、お喜びください。俺は異世界で男になります!」
「お父様、お母様、お許しください。フローリスはこのまま女になります……」
俺の宣言とフローリスの嘆息が重なり、いざ貫通式――と腰に力を込めた瞬間、
ガギンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!
と、旧い映画のフィルムが上下に乱れるかのように、眼前の光景が激しく暗転と再開を繰り返した。
あっ! という顔で俺の背後を仰ぎ見ているフローリスの視線を追って、肩越しに振り返ってみれば、阿修羅――もとい、憤怒の形相を浮かべた瀬尾さんが、シーラあたりが作ったのだろう粗い筵のようなバスタオル一枚という格好で、両手で持った『魔牛の斧』を振り下ろした姿勢で仁王立ちしている。
その背後には、同じ筵バスタオルを巻いたリーフェとシーラも困ったような顔で佇んでいた。
状況からして、もうちょっとで合体完了というところで、瀬尾さんが俺の頭に『魔牛の斧』を、フライパンを叩き落とす要領で力任せに振り下ろしたというところだろう。
さすがに刃のある方向で殴ったりはしなかったようだけれど、下手すれば死んでたぞ、コレ。
つーか、状況から見て――。
「……お前な、人に釘を刺しておいて、自分が覗きをしていたっていうのは、どう――」
◇
アドレナリンが切れたところで叩かれた痛みが届いたのだろう。
不満たらたらで文句を言っていた途中で白目を剥いて、前のめりに倒れてプカプカ水面に浮きながら、そのまま水流に従って滝つぼの方に流れていく直輝。
そちらには目もくれず、桃華は心底フローリスを案じた表情で駆け寄って行った。
「大丈夫、フローリス?! あのバカの餌食になってない!? 貞操は無事!?」
矢継ぎ早に聞かれて、フローリスは半分勢いで、
「ええ、まあ大丈夫ですけど……」
頷きながらも、ドンブラコと滝つぼに流れていく直輝を目で追う。
「あのォ……ボクを心配してくれたのは、ありがた迷わ……いえ、ありがたいのですが、やり過ぎではないでしょうか?」
フローリスの視線を追って桃華が振り返って見れば、意識のないまま直輝が轟々と流れ落ちる滝に、グルグル回転しながら吸い込まれていくところであった。
「ふん! レイプ魔には相応しい罰よっ」
(いや、いや! めっちゃ合意の上でやってたわ、アレ!)
(フローリスも覚悟完了してたしね~)
鼻息荒く言い捨てる桃華に対して、リーフェとシーラが内心でツッコミを入れる。
そうしているうちに滝に呑まれた直輝の姿が水圧に押されて水中へと沈んで見えなくなった。
「わ~~~っ! ナオキが死んじゃう!!」
「死ねばいいのよ、あんな淫獣」
慌てるフローリスに対して、桃華はどこまでも冷淡であった。性犯罪には厳しい。潔癖なお年頃なのである。
「いやいや、さすがにヤバいって、トーカ! 死ぬわよ、ナオキ!」
「す、すぐに助けないと!」
と言いつつ水際でオロオロしているだけのリーフェとシーラの様子を見て、桃華は小首を傾げた。
「――もしかして、ふたりとも泳げないの?」
「漁師でもなければ、普通は泳げないよ!」
泣きそうなフローリスの抗議の叫びに、
「……ああ、なんか三人ともやたら大袈裟に騒いでると思ったら、こっちに世界の人間って普通に泳げないからなのね」
合点がいった様子でポンと手を叩く桃華。
日本では小中高と水泳の授業があるので、泳げるのが普通という認識であるが、これは世界的に見てもかなり稀有な例である。
「そういうことなら大丈夫よ。アイツ高校のプールで25メートルプールを息継ぎなしで一往復半(75メートル)してたし」
肩をすくめて桃華が自信満々に言い放ったと同時に、滝つぼからやや離れた水面に直輝が顔を出して、
「――ぶはっ!」
と、大きく息継ぎをした。
「ね?」
心配するだけ損ってものよ。と続ける桃華の向こう側では、呼吸を整えた直輝がもう一度大きく息を吸って、再び水の中へと戻って行く。
「ん?」
しばしそのまま待つこと二分半。
また水面に顔を出した直輝がゲホゲホと息を吐いて、またまた呼吸を整えて、大きく息を吸って三度目の潜水を行った。
「ほらぁ! ナオキがおかしくなってるよ!」
慌てふためくフローリス(全裸)に咎められて、桃華は首をひねる。
「……打ちどころが悪かったのかしらね?」
そうして四人がヤキモキしながら待つこと二分半――。
水面に呼吸の泡が立ってきたと思ったところで、直輝が一抱え程もある宝箱を両手で抱えて水面に躍り上がった。
「おーい、凄いぞ! 滝つぼの底に洞窟があって、手前から宝箱が幾つも設置されているぞ!」
直前の記憶がすっかりリセットされたらしい。晴れやかな顔で、宝箱を抱えながら四人の方へ泳いで近づいてくる直輝。
そんな彼の様子に、四人が四人とも悲喜こもごものため息を漏らし、
「どうでもいいから先にパンツ穿きなさいよ!」
続いて我に返った桃華が、全裸で近づいてきた直輝を手にした斧で牽制するのだった。




