chapter12 10分で五匹のオークが全滅だと!?
熱帯雨林の森を震撼させる絶叫が木霊する。
「うらああああああああああああっ!」
正義の怒りに燃えた――彼女にとっては正当な怒りなんだろうな――瀬尾さんが、スキル『主人公補正』の効果で、ただでさえ群を抜いた敏捷にブーストをかけ、敏捷100という通常のオークの4倍の速度に加えて、『疾風迅雷』のスキルで瞬間的に音速のおよそ半分近い速度を叩きだした。
「――うおっ!? なぜここでサービスシーンを?!」
瀬尾さんの肉体の動きと風圧に耐え切れず、一瞬でボロボロになる制服のワイシャツ。
上はスポーツブラ一丁、下は襤褸切れになったスカートからほぼ丸出しのブルーのストライプ柄のパンツという扇情的な姿になったのも気が付いた風もなく、
「重量最大っ!」
ガムシャラの特攻かと思いきやさにあらず、闘争本能が最適解を導き出すのか、振り回しながら瞬時に『魔牛の斧』の重量を最大値まで上げた瀬尾さんが、突撃の勢いと合わせて手近なオーク(Lv15)の首を狙って、地面と水平に振り回した。
「――ブモッ!?」
咄嗟にこれを持っていたストーンハンマーで受け止めようとするオーク。
だが、速度に重量を加えた『魔牛の斧』は、一撃でストーンハンマーを粉砕し、さらに余力を駆ってオーク(Lv15)の太い首に突き刺さって脊髄で止まった。
「プギイッィィィーー!」
これ相手のレベルが高かったからこの結果になっただけで、もう1レベル下のオークだったらギロチンみたいに一刀両断していただろう。
だが、瀬尾さんの攻撃はまだ終わらない。
斧が止まったと見るや柄の部分に即座に蹴りを入れて、追撃で一気にオーク(Lv15)の首を刎ねた。
「ア、アマゾネス……!」
格好も相まって女戦士――いや。まさに鬼神のような強さである。
「ブヒーっ!?」
「ブヒ!」
「ブヒブヒ!!」
「ブオーッ!」
仲間がやられたことで、ようやく相手が狩るべき獲物ではなく、戦うべき敵と見定めたのか、慌てて残り四匹のオークが瀬尾さんを囲んで一斉に武器を振るうも、一瞬早く、瀬尾さんは『魔牛の斧』の重量を落として持ったまま、軽やかに後方宙返りをしながら包囲を抜けるのと同時に、後方にいたオーク(Lv14)の脳天目掛けて斧を叩き落とした。
「プビイィィィィッ!?!」
頭蓋骨の硬さで貫通はしなかったものの、白目を剥いて泡を吹きながら、膝から崩れたオーク(Lv14)。
「上北君、トドメをお願い!」
突き刺さったままの斧の柄を足場にして、さらに後方宙返りでオークたちから距離を置く瀬尾さん。
で、遅れて追い付いた俺を確認して、脳天をかち割られたオークのとどめを指示した。
「はいよっ」
背後から心臓のあたりを『刺突(中)』で突き刺し、念のために軽くヒネリを加えて戻したところで、オーク二匹の体が青い燐光に包まれて融けて崩れた。
・銘:豚皮(※合成、加工、食用)
・属性:無
・物理攻撃力:0
・物理防御力:7
・魔法攻撃力:0
・魔法防御力:3
・スキル:『柔軟(小)』
・銘:豚肉(食用、普通品質)
・属性:無
・物理攻撃力:0
・物理防御力:0
・魔法攻撃力:0
・魔法防御力:0
・スキル:『鮮度保存(小)』
ちなみに豚肉は剥き出しではなく、椰子の葉っぱのようなものできちんと巻かれていた。
「ブモーッ!」
「ブヒブヒ!」
「ブーッ!!」
残った三匹のオーク(Lv13、Lv14、Lv15)が激昂して、今度は俺目掛けて石槍や棍棒、磨製石器を振るう。
「おっと」
力は強いけど技も何もない、見え見えの動きだな。
爪先で『魔牛の斧』の刃先に近い柄腹のあたりをすくい上げる形で空中へ飛ばせば、近くにあった木を蹴って、空中を舞っていた瀬尾さんがこれをキャッチ。
俺は手近な石槍オーク(Lv14)の死角から背後へ移動しつつ、わき腹の辺りを鉄剣で逆袈裟に切ってみたが、
「プギーッ!(いでぇぇぇ!)」
分厚い脂肪と筋肉に阻まれて大した傷はつけられなかった。
「ん~、やはり〝斬る”よりも〝刺す”のに特化してるな」
日本刀なら中学時代、何度か豚肉を一刀両断したことがあるんだけれど、西洋剣はどうにも切れ味が悪い。
まあ、死んだ加工用の豚を使った据物斬り(試し切り)と、生きて動き回っている豚では、勝手が違うという点が大きいけれど。
「こんなことなら日本にいる時に、生きた相手を辻斬りとかしておくんだったな」
剣術の師匠は若い頃、チンピラ相手に正当防衛という名目でさんざん斬りまくっていたとか吹聴していたが……。
「なんか物騒なこと言ってる!」
問答無用でオークの首を刎ねた物騒な女が、自分の事を棚に上げて俺を非難する。
「瀬尾さんにだけは言われたくないな~」
そう返しながら石槍オーク(Lv14)の背中から、先ほどのオークにやったように心臓を狙って突きを放つも、半身を捻って躱したオークの肩に突き刺さるだけに留まった。
「ブヒ~~っ!!」
そこへ横殴りの棍棒オーク(Lv15)が殴りかかってきたので、咄嗟に剣を抜くのをあきらめて、バックステップで二匹から距離を置いた。
その向こう側では瀬尾さんが石器オーク(Lv14)相手に、お互いに素人丸出しの武器の叩き合いをしている。
俺が武器を手放したことで勝利を確信したのか、棍棒オーク(Lv15)がニヤリと嗤った瞬間、風を切って放たれたリーフェの粗末な矢が、動きが鈍っていた石槍オーク(Lv14)の両目を射抜いて、ついでに喉元へも連続して三本ほど叩き込まれたが、さすがに威力不足で急所を貫くには至らない。
「――ちっ!」
この五本で矢が尽きたリーフェが舌打ちするのを横目に、ブヒブヒ悲鳴を上げて盲目のまま暴れる石槍オーク(Lv14)から離れようとした棍棒オーク(Lv15)の喉元目掛けて、俺は『魔牛の角』(スキル『刺突(中)』)を、手裏剣の要領で投擲した。
「グモッ!?」
こちらは確実に急所を突かれた棍棒オーク(Lv15)。思わず手にした棍棒を取り落として、反射的に喉に刺さった『魔牛の角』を両手で引き抜いた。
「ブヒ~~~~ン!」
途端、ほとばしる血しぶき。
「ナオキ、火球を放つよ! 離れてっ」
そこへフローリスの合図があったので、俺はスタコラサッサとその場を離れた。
「〝ファイアーボール”!」
呪文を終えたフローリスの持つ杖の先にバレーボールほどの火球が生まれて――作った本人が、「うわ、大きい!」と驚いたほど、凄く……大きくて立派です――そのまま、悶絶している石槍オーク(Lv14)と棍棒オーク(Lv15)目掛けて放たれる。
「プギーッ?!」
「ブマー!!」
拳銃弾並みの速さで着弾したファイアーボールによって、生きたまま丸焼きにされる二匹のオーク。
離れていても肌を焼く熱量を感じる。さすがにこれなら二匹揃ってお陀仏だろう。……俺の剣溶けてないだろうな?
最後に残った石器オーク(Lv14)は、さすがにヤバいと悟ったのか、瀬尾さんとやり合いながらも、チラチラと逃げる隙をうかがっているようだった。
さっさと瀬尾さんに加勢したほうがいいだろう。
と、思ったところで、ようやく息が整ったのか、シーラがすうぅぅぅと息を吸って、
「セオさん、いま『戦意高揚の歌(中)』を歌って助力しますね!」
そう大声で宣言した。
「「わああああああああああああああああああああああああああっ!?!」」
その隣では、リーフェとフローリスが慌ただしくドタバタしていたかと思うと、ふたり同時に武器を置いて両耳を塞ぎ、目を閉じてシーラに背中を向けて、屈伸の姿勢で座り込んだ。
「――?」
何のおまじないだ? と思う間もなく――。
「〝おおっ、そは戦いの歌! いと猛き者よ、武器を取れ、前を向け! 汝はツワモノ、汝は獅子にして鋼! いざ行こう戦いの地へ! いざ行こう勝利をもぎ取る――」
「………………」
「……………」
「…………」
「………」
「……」
「…」
ハッ――と気が付いたら地面にうつ伏せに倒れていた。
え~と、なんだろう……なんか、ドレミの区別もない平板で、まるっきりの音感ゼロの超音波すら生温い、宇宙人の地球侵略怪音波のようなものに包まれたと思ったら、意識を失っていたんだが……。
周りを見回してみれば、一節唸ったシーラは満足げな笑みを浮かべ、その足元ではいまだにリーフェとフローリスが白目を剥いてひっくり返っている。
あと、ついでに石器オーク(Lv14)も逃げようとした態勢のまま、意識を失って倒れていて、その背中目掛けて瀬尾さんが無慈悲な斧を何度も振るっていた。
【解・瀬尾桃華は現在『狂乱(小)』状態のため、精神力が通常の倍になっています。ただし正気に戻った際に反動があるでしょう。】
オークでさえイチコロのあの歌を聞いてなんともないのか、アイツは?! という俺の戦慄に、聞いてもいないのに『賢者』さんが答えてくれた。
ドロップ品
・豚皮×2
・豚肉(普通品質)×2
・豚っ鼻(マスク。※嗅覚を1000倍に引き上げる)




