chapter11 移動を開始して1時間後に戦闘開始
五人で手分けしたお陰でサクサクと準備が済んだところで、俺たちはリーフェの先導でさらに上階へ上れるスロープ目指して、ジャングルの中を歩き始めた。
「……暑いわね~」
「温度はともかく湿度がつらいな」
牛のいた階層は気温24℃くらいで、湿度も40%程度だったのに比べて、こちらは気温が35℃で湿度も95%を越えているだろう(音の反響でだいたいわかる)。
瀬尾さんともども上着を脱いで腰に巻き、腕まくりしてジャングルの中を歩く俺たち。
汗だくの瀬尾さんの背中にスポーツブラが透けて見えるけど、暑いんだったらあってもなくてもいい代物なんだし、脱いだ方が楽だと思うんだがな~。
実際、リーフェとシーラ、ついでにフローリスはノーブラなので、前屈みになったりするとチラチラと桜色のポッチが見えて、俺も前屈みにならざるを得ないのだが、三人とも気にした風もないしね。
「ねえ、上北君。このジャングルって変じゃない?」
「うむ。胸の大小に関わらず年頃の娘さんたちの胸は素晴らしいと思う」
「とりあえず、全然、私の話を聞いてないのはわかったし、なんか頭にきたから一発殴るわね」
いきなり腰の入ったストレートを放つ瀬尾さん。
「――で、話は戻るけど。普通、こういう場所だと蚊だのヒルだので悩まされるものじゃない? 一応虫はいるみたいなんだけど、不思議なほど近づいてこないわね」
「あたた……それな。さっきの安全地帯もそうだったけど、何らかの忌避作用があって、その影響力が残っているんじゃないのか?」
「ああ、それ多分当たってると思う。半日ぐらいは虫が近寄って来ないから、ワタシたちも半日で歩ける距離以上はなるべく離れないようにしてたのよね。だから、さっきの魔物の分布も、実際のところは狭い範囲で見かけただけで、ひょっとするともっと大物がいるかも知れないのよね~」
俺の推測をフローリスが補って、ついでに心温まる情報も教えてくれた。
これがフラグにならないことを祈るばかりだが……。
なお、上層へ上る出口は、ここから一時間ほど歩いたところにある滝の裏側にあるとのことだった。
で、一時間ほど獣道というか、足場の悪い腐葉土の上をステータスにモノを言わせて歩いてきた俺たちだけど、滝の音が聞こえてきたな――というところで、瀬尾さんが厳しい顔で後ろを振り返った。
「マズいわね。オーク五匹くらいが追ってきてるわ。このままだと五分で不意打ちをかけられと思う」
危険予知した瀬尾さんの注意を受けて、
「おそらく水場へ水浴びにきたオークが、ワタシたちの匂いに気付いて追ってきたのね。五分か……だとすれば、走っても逃げきれないと思う」
「え、オークって垢と糞まみれの不潔な豚だと思ってたけど、生意気に水浴びするの?」
リーフェの台詞のどうでもいい部分に反応する瀬尾さん。
「まあ、豚っていうのは、ああみえて清潔好きな動物だからな」と俺。
さて、ここでオークとは厄介この上ない。ここのオークは個体にもよるけど、Lv15の奴もいるとのこと。単体なら俺と瀬尾さんとで、問題なく狩れるとは思うけど、五匹となると厳しい。
いちおうこちらも人数は同数とはいえ、まだレベルアップしたスキルに習熟していない三人は、下手をすれば加減をわからずに自爆する可能性もある。
「ど、どうしよう、ナオキ君、ボク怖いよ」
おろおろしながら俺にぴったりと震える体を寄せるフローリス。
そんな潤んだ瞳、甘い吐息、かぐわしい香りを間近に感じると……あああ、俺の理性が超ピンチである。
ちなみにフローリスのスキル『傾国傾城』に関しては、伝説級スキルをレベルアップさせるには俺のほうの『変質者』レベルが足りないということで、手出しができなかった。
そんなフローリスに縋り付かれた俺は、
「大丈夫だ、フローリス。俺を信じてくれ。きっと守るから!」
しっかりとフローリスの肩を寄せて言い聞かせる。
「う、うん、信じているよナオキ」
キラキラとした粒子がフローリスからほとばしる。
「はいはい、いい加減に正気に戻って! フローリス、アンタもうちの主戦力を戦う前に骨抜きにしてどうするのよ!?」
無理やりフローリスから引き離され、手加減抜きで両頬に瀬尾さんのビンタを食らう俺。
「いててて、段々と遠慮がなくなってきたな、お前」
「で、どうするわけ。逃げきれないとなると戦うしかないと思うけど?」
「そうだな。オークは……ああ、50メートルってところか」
スキル『遠見』で木々の間を、ブヒブヒ言いながら向かってくるオークの姿を確認した俺の言葉に、
「向こうもこっちを視認したみたいね。扇状に広がって包囲するつもりだわ」
俺のスキルの上位互換である『鷹の目』(自分を中心にした狭い範囲ながら、アラウンドビューモニターで見るように360度確認できる)で、オークの進行状況を確認したリーフェが、弓に矢をつがえながら渋い顔で付け加える。
「となると今から小細工をしたり罠を張る隙はないか。しょうがない。とにかく滝の傍の開けた場所に出て、追いかけてきたところを距離を置いて、フローリスの魔術とリーフェの連射で牽制する。一匹でも倒せれば御の字だ」
「う、うん…‥」
「わかったわ」
「で、オークが混乱しているところへ、俺と瀬尾さんが飛び込んで乱戦に持ち込むので、三人は無理をせずに、援護に専念しておいてくれ」
「なるほど! あたしが『戦意高揚の歌(中)』でお二人の援護をすればいいんですね!?」
瞳をキラキラさせてやる気十分のシーラに見えないところで、リーフェとフローリスが蒼い顔で思いっきり首を横に振っていた。
「――よし! そうと決まれば……走れっ!」
俺の合図で滝目指して全員がダッシュした。
「あわわわっ、待ってくださ~い! あんまり全力で走ると息切れして、肝心の歌がしばらく歌えないかも……」
敏捷で一番劣るシーラの弱音を聞いて、ますます速度を上げる俺たち。
「ブヒ、ブヒ!(逃げたぞ!)」
「ブヒブヒ!!(オンナだ、オンナ!)」
「ブブ、ブヒ!(久々のメスだ!)」
「ブヒブヒ、ブヒヒヒ!(メス四匹に、オスが一匹だ。問題ねえ!)」
「ブヒ、ブブブ、ブヒンブヒ!(メスを犯している隣で、オスは食っちまおうぜ!)」
オークのほうも案外、健脚を発揮して追ってくるけど、『翻訳』のお陰で連中の言葉の内容がわかるのが、なにげに精神上よくない。
「ボクってオークから見ても女に見えるんだね……」
走りながらフローリスがガックリと肩を落とした。
途中、ヒイヒイ弱音を吐いて脱落しそうになったシーラを見捨てられなくて、
「背中に乗れっ」
「え、でも――」
「問答している暇はない! さっさとおぶされ!」
「は、はいぃ!」
俺が背負って走る一幕もあったけれど、他の女子たちからは文句の代わりにほのぼのとした眼差しを向けられただけで済んだ。
やがてジャングルが開けて、轟々と水の流れる瀑布が目に飛び込んでくる。
滝の裏まで行くにはいかにも苔で滑りやすそうな足場の悪い崖のところにある10センチほどの出っ張りを、崖に両手を付けて恐る恐る進んでいくしかルートはなさそうだ。
なら――。
「ここで迎え撃つ! 滝を背にして全員、武器を構えろ! フローリスとリーフェは先制攻撃準備!」
まさに背水の陣で、五人が各々の武器を構えて並んだところへ(シーラはゼイゼイと呼吸も荒く、あえいでいるが)、腰蓑をつけただけのオークが次々と森の中から飛び出してきた。
見たところ身長170~180㎝。体重130~150㎏といったところか。
石器らしいハンマーや石槍を持っているところを見ると、原始人並みの知能はあるようだ。
試しに手前の一匹を『鑑定』してみたところ、
・NAME:猪頭鬼
・JOB:《穢穴》24層のモンスター
・Lv14
・HP:104
・MP:13
・筋力:98
・知力:5
・敏捷:25
・スキル:『好色』『悪食』『嗅覚増幅(中)』
ほぼ予想通りの結果が出た。
「スピードと手数で対応するしかないな。瀬尾さん、フローリスたちの先制攻撃に合わせて飛び込むけど、戦ってる最中は絶対に止まらないこと。捕まったら、碌なことにならないからね」
「わかってるわ! もともと私の武器はこの足なんだし」
そう言って軽く自慢のフトモモを叩く瀬尾さん。
と――。
なぜかオークどもはそんな瀬尾さんの胸元をじっと眺めて、
「ブヒ?(メス?)」
「ブヒ?(オス?)」
「ブヒ?(メス?)」
「ブヒヒ?(あれでメス?)」
「ブヒン?(メスかな……?)」
自信なげな雰囲気で、そのまま五匹とも輪になって『審議中』という感じでブヒブヒ相談し始めた。
……う~む、オークから見ても瀬尾さんの胸部装甲の陥没具合はカルチャーショックだったらしい。
そして、俺と同様にオークの言葉がわかる瀬尾さんは、わなわなと無言で震えていたかと思うと、
「――コロス。三枚におろしてぶっ殺す!」
次の瞬間、魔牛の斧を構えた般若の形相でブチ切れ、一気にオークたちの集団に飛び込んでいったのだった。
「ああああ~~っ、まだ魔術の詠唱が終わってないのに!」
途端、フローリスの悲痛な声が響いた。
・名前:瀬尾桃華
・年齢:16歳
・Lv13
・HP:52(52)+15
・MP:49(49)+14
・筋力:65(65)+19
・知力:18(18)+0(現在、『狂乱』状態のため知力の変動はありません。ただし精神抵抗力が通常の倍に上がっています。)
・敏捷:77(77)+23
・スキル:『疾風迅雷』『立体機動』『調教』『予知(最大五分前)』『裁縫中級』『対巨乳特化(大)』『狂乱(小)』『主人公補正』(※現在、発動中)




